第5話 不幸は続く
陽が昇るのを待ち、埋めた奴等の所に行く。
「よぅギル、元気か?」
「てめぇ、覚悟は出来ているんだろうな」
「覚悟はそっちの方だよ。そこで喚いているって事は、出られなかったんだろう。俺が出して遣らなきゃ、死ぬまでその穴の中だぞ」
それだけ告げて次に行く。
「おはようヨド、ご機嫌如何がかな。ギルドでは偉そうに言っていたよな」
いきなりファイアーボールが飛んできた。
「ヨド、その穴から出られるとでも思っているのか。俺を殺せば、飢え死に確実だぞ」
「煩せえ、出しやがれ糞ガキ」
意気がる馬鹿は放置。
「ナイヤご機嫌はどうだ。甚振っていた相手が、魔法を使える様になると考えた事も無かったろ」
「なぁカイト、悪かった謝るから出してくれねえか」
「お前も阿呆だねぇ。俺が集めた薬草を散々巻き上げ、殴る蹴るをした相手に、悪かった謝るの一言で済むと思ってるの」
御免で済めば、警察は要らないんだよ!
あっと、この世界に警察っていなかったわ。(てへペロ)
「今までの礼はきっちり返すから、ゆっくり死ね!」と言い捨てて空気穴を小さくしてその場を離れる。
俺は気配探知を最大限に活用して周囲を探り、野獣が現れたら引き籠りの生活を続ける。
5日目に奴等を見て回ると、ヨドが一番弱っていてひたすら謝罪の言葉を繰り返していた。
他の2人も似た様な状況だが、まだ少し元気が残っていた。
8日目にヨドが泣きながら、なんでもするから助けて下さいと懇願してきたので、装備の全てとパンツ以外の服を差し出させて解放した。
帰れないと泣いていたが、野獣に襲われて死ぬかパンツ一枚で街に戻るかを選べと言って突き放した。
残るギルとナイヤの2人のうち、ナイヤはヨドと同じく全てを剥ぎ取りパンツ一枚で追放した。
追放する前に、パンツ1枚のナイヤの姿をギルに見せてから放り出した。
ギルは10日目に俺の本気を悟って詫びを入れてきたが、装備の全てを差し出せと言ったら、抜き打ち攻撃してきたので放置。
13日目にギルが詫びてきたが、装備を差し出すのが先だと告げて放置。
14日目に装備の全てを差し出したギルを、素っ裸にして解放した。
よろよろと立ち去るギルだが、街まで辿り付けないだろうと思う。
何故なら、近くにゴブリンの群れが居るからだ。
ギルの向こうにゴブリンの群れが居る位置に立ち、ゴブリンに向かって石を投げる。
2度3度石を投げると、ゴブリンの集団が向かって来るのが見えるが、最初に出会うのは素っ裸のギルだ。
南無、合掌。
* * * * * * *
後日、ヨドは街に着く前に冒険者達と出会ったが、助けを求めたヨドは日頃の恨みから冒険者達に切り刻まれて殺された。
殺した冒険者達は、身体中切り傷だらけのヨドを見たと報告したが、遺体の回収を拒否してギルドの食堂で楽しそうに乾杯をしていたそうだ。
ナイヤはもっと悲惨だったらしい。
ナイヤを見つけた冒険者達は、ナイヤを後ろ手に縛り足も縛って森の中に放置した様で、その後彼を見た者はいない。
* * * * * * *
俺は3人の始末をつけると、翌日には本来のキャンプ地に戻った。
13日間奴等の為に遊んでいた訳では無い、周辺から薬草を採取したり魔力の増強に勤めたりしていた。
空間収納は直径2mにまで拡大したし、ストーンアローは40mの距離なら65発前後撃てる様になった。
転移魔法では最大150mを3回、50mなら9回跳べるし10mなら45回は跳べる。
今では転移魔法で出入りしているので、ドームの出入口は無い。
だが逃げるのなら今の数倍の距離は楽にジャンプしたいし、回数も気にせずに跳びたい。
実戦で50mを5回飛べば魔力半減なので、戦うにも逃げるにも心許ない。
見知らぬ場所で最大距離を飛ぶのは無理があるし、知らない場所には跳べない。
瞬間的に逃げるのなら上で、上空には障害物はまず無いと思って良い。
運が悪ければ鳥とごっつんこだが、結果がどうなるか試す気にならない。
先ず上に跳び周囲を見て次のジャンプに移る。
これで2回のジャンプだ、上空に上がっても地上に落ちるまで時間が無いだろうし、せめて100mは上がりたい。
今の最大150mのジャンプ3回では、非常時にとても逃げきれるとは思えない。
もっと魔力を!
快適なドームに戻り一休み、食料はたっぷり有るし薪もヨド達を相手にしている時に集めたのでそこそこ有る。
収納の容量制限があるので無差別に溜め込む訳にはいかないが、薪は優先順位が低いのでそこそこ有ればよし。
此処は随分手を入れたので快適空間になっていて、我が家って雰囲気だ。
地下の寝室はカプセルホテルの様な造りにして、六畳一間の居間に小さな暖炉と薪置場を造っている。
地上に出ている岩の中、見張り場所にもベッドが有るが魔力切れの時の為だ。
またストーンアローの練習と、転移魔法のジャンプの練習に明け暮れる日々が始まった。
魔力が少なくなると時間を確認してから、一気に使い切りパタンキューとなる。
いやー寝付きが早いこと早いこと、5時間程で魔力が回復して目覚めるが時に10時間くらい寝ている。
若いので幾らでも寝られるんだ、と自分に言い訳をしている。
ぼちぼち御領主様のお屋敷に出向く日が近いので、街に向かう事にした。
現在空間収納は2,4mちょいのボールが納まる様になった。
転移のジャンプが180mで5回可能、60mなら15回ジャンプできる。
20mなら45回は楽々だが数えるのが面倒臭い、5~10mなら50回ジャンプしても魔力が半分も減らなかった。
今ではゴブリンに出会うと、ジャンプで後ろに回り土槍でプスリと刺して倒している。
そのお陰で、森の浅い所まで薬草採取に行ける様になった。
嬉しいのは魔力が増えるのと同じくして、気配察知の能力が上がった様で以前ほど野獣を恐れる必要が無くなった。
勿論戦えば負けて死ぬのは確実なので、逃げたり地面に穴を空けて立て籠もる時間的余裕が出来たってことだ。
* * * * * * *
ゆっくりと起き、陽も高くなってきたのでエグドラに向けて出発する。
街道をエグドラの街に向かって歩いていると、後ろが騒がしい。
振り向くと、鞭を振り回した暴走族が突っ込んで来る。
慌てて路側に避けるが、十数m手前で片方の車輪が馬車とバイバイして俺に向かって来る。
アクション映画かよっと突っ込みながら、必死で道から飛びだして伏せる側を、〈ドーンガリガリガリバッシーン〉と倒れた馬車が派手な音を発てて俺の近くを通過して止まった。
何処の世界にも馬鹿はいるが、怪我をしたらどうしてくれるんだ。
無制限の事故保険に入っているのかと問いたい。
ぶつくさ言いながら立ち上がると、直ぐそばに横転した馬車が有り御者の姿が見えない。
馬も横転した時に、轅(ナガエ)のロープが外れた様で姿が見えない。
飛ばされたな、シートベルトをしてないからだと日本の常識が頭をよぎる。
この嫌な感触は・・・
出たー、慌てて砦を造り立て籠もる。
一難去って又一難、ブラックウルフの群れで、これに襲われて逃げて来たのか。
立て籠もってのんびりやり過ごす訳にもいかないので、穴から覗きながらストーンアローを狼さんに撃ち込む。
〈キャン〉と鳴いて逃げ出すが倒せていないので、少し逃げて未だウロウロしている。
矢が小さ過ぎたので長さ1,5m太さ5センチのストーンランスに変えて再度撃ち込む。
〈ギャン〉って悲鳴は同じだが、倒れてピクピクしているので効き目有り。
周囲の狼に連続して撃ち込むと、9頭倒したところで逃げ出した。
周囲の安全を確かめてから砦から出る。
さて御者のおっちゃんは何処かな、馬車が右に倒れているので右側に放り出された筈だが。
倒れた馬車の手前の叢で見つけたが、首が変な方向に曲がり頭も陥没している。
ヘルメットもシートベルトも無いからなぁ、南無南無。
馬車の中はと近付くと馬蹄の響きが聞こえて来る、揃いの鎧と服装の6人の騎士達だった。
「小僧何をしている。下がれ!」
「止せ!助けられたのが解らんのか」
血走った目で怒鳴り付けて来た男を、制止する髭面の男。
「お前達はお嬢様の安否確認をしろ!」
馬から降りると、周囲に倒れている狼を見て頷いている。
嫌な予感がするが、逃げ出す訳にもいかないので黙っていよう。
「お嬢様は御無事です。ですがメイド達が怪我をしております」
「坊主、此処から街までどのくらいの距離だ」
「此処からだと、歩いて2時間ってところです」
騎士二人を街に向かわせ、迎えの護衛と馬車を持ってこいと命じている。
ポーションが無いので、ポーションだけは先に持ってこいと言って送り出した。
見れば皆それなりの怪我をしているが、ポーションを使い切ってしまったようだ。
「すまんが、此処で我等と馬車の護衛を手伝ってくれ」
断る訳にはいかない場面なので、黙って頷いておく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます