第135話 迷いの森
シャーラにストップをかける、ニャンコは際限無く俺に木の実を保存させるつもりの様だ。
俺は魔力高40で空間収納は縦横高さ各4メートルのサイズしかないのを忘れている。
感覚的にニャンコの餌とデザートだけで4分の1は占めていると思う。
俺の酒の置き場所と備蓄食料の保管場所の侵略は許されん!
いざって時のために3分の1は開けておきたいので、果実狩りを強制終了させる。
3年物をボトルで5本2年物は大徳利に11本確保して大満足。
森の恵はクインの所で大徳利に20本程仕入れているので、来年に期待して残していく。
2,3日に一度厩から馬を引出し、運動のために森の周囲を散歩させる。
シャーラと一緒だと、馬も俺の指示に素直に従うので楽だ。
ダルクの子等とグリンが頭上を飛び、シャーラと俺はのんびり散歩と眠たくなる様な時間だ。
時々薬草採取の冒険者に出会うが2,3人のパーティーが殆んどで、薬草採取に大人数はいらないか。
森から出てきた見覚えのある3人組のパーティー、男が腕を押さえている。
「カイトさん達も薬草採取・・・には見えないな」
「馬の散歩さ、腕をどうした」
「ドジでねー、痺れ棘を避けそこねたんですよ」
「余り奥には行かない方が身のためだぞ。毒を持つ棘もあるからな」
「そうらしいですね。迷いの森って小さい森に見えるのに、中に入ると迷路の様で、直ぐに自分の居場所も解らなくなります。カイトさん達は詳しいんですか」
「いや、俺達は此処に来たのは3度目だからな。中には殆んど入った事がないな」
中に"入ったのは"3度だな、言わないけど。
3人と別れて散歩を続ける、初冬の筈が落ち葉が殆ど無い。
木々は濃い緑の葉に覆われ、シンと静まり返っていて時折鳥の声が聞こえる程度だ。
半月程のんびりと過ごしたので帰る事にする。
《ダルク、そろそろ帰るな》
《ダルク様、また来ますね♪》
《カイトもシャーラもいつでも歓迎するよ》
ダルクの子等に送られて森を後にする。
迷いの森とは、また洒落た名が付けられているな。
* * * * * * * *
王都のシャーラの家に落ち着いて、2年物と3年物の瓶詰めをする。
ニヤニヤが止まらないね。
森の恵、4リットル入り大徳利に30本、ボトルにして150本
2年物、天上の酒、これも大徳利に25本、ボトルで125本
そして待望の3年物、ボトル12本薄めなければ飲めないので実質約20本だ。
酒を詰め終わるのを待って居たシャーラにせがまれて、フィの所に行く。
出せと言われて出すが、知らない果実が大分有る。
「シャーラこれって、見たこともない果実だけど大丈夫か」
「はい大丈夫です。全部味見しましたから♪」
思わずずっこけたね、こいつは口の回りベトベトにして見知らぬ木の実を貪ってたのか。
クインの子達に聞いて安全だとはいえ、よくやるよ。
フィに秘密の場所からの収穫なので、王家には渡さないし侯爵様にも味見程度しか渡さない、と伝えて5,6個づつ渡す。
不満顔のシャーラに、侯爵様に渡して王家に献上すれば又金貨の袋が、と言ったら嫌な顔をして頷いた。
無くなったら時々フィに渡す事で納得させる。
シャーラをフィの所に置いて侯爵邸に向かう、ヒャルが満面の笑みで迎えてくれた。
アガベに合う前に収穫した物から、森の恵と天上の酒を大徳利一本づつ渡しておいたからね。
侯爵様は又居ない、王城に呼ばれて行っていると顔が曇る。
「カイト、エルフ達と何か諍いを起こしたか?」
「何を聞いた」
「カイトが此処に寄ってホイシー侯爵領に旅立った後に、エルフの長老達がきたらしい。エルフの三つの里の長老達を、カイトが殺したから引き渡せと言ってる様なんだ」
「陛下や宰相は、カイトは冒険者で臣下ではないのでお門違いと相手にしていない。然しエルフ側は上級と最上級ポーションを、王国に売るのを止めると言い出しているらしい」
「詳しい事は言えないのだが、エルフの長老達が俺とシャーラの処分を決めて配下の里に命令を出したんだ。攻撃してきたので反撃しているだけだよ」
「父上が帰ってきたら、その話になると思うよ」
クインやダルクの所で採取した薬草を、王家に渡すつもりは無かったが、案外早く渡す事になるかもだな。
となると蜥蜴を捕りに行かなきゃならないのかな、面倒だね。
* * * * * * * *
王城から帰ってきた侯爵様はお疲れのご様子、気付けに3年物を差し出す。
ヒャルが、即座にグラスと氷を用意する。
口に含んで思い出した、ワゴンを用意してもらいウォータードラゴンのお肉を一塊出してステーキを注文する。
侯爵様もヒャルも完全に呆れているが、旨い酒には美味い料理だよね。
落ち着いたら執務室に移動し、侯爵様と二人だけで話し合いだ。
「そうですよ。ヨルム,ムース,エムナの長老達護衛と、俺達の処分のために集められた戦闘員には死んでもらいました」
「エムナの里では、その・・・長老達の居た建物がバラバラになり吹き飛んだと聞いた。しかも多数の負傷者も出たと君を責めているが」
「それは仕方がないですね、長老達は配下に俺を処分しろと命じた。つまりエルフ全体が敵に回ったんですから。例え女子供が相手だろうと容赦しませんよ。必要ならエルフの里の一つや2つ、消しさります」
「止める気はないと」
「長老達、7つの里の長老会に属する長老全員の死を確認するまでやります。俺とシャーラの処分、つまり殺せと命じた奴を見逃す気はありません。殺らなきゃこっちが殺られますからね」
「暫く此処に居てくれんか。ダルク草原で死んだエルフの長老達が、長老会に対して相当事実を曲げて伝えた様なのだ。彼等の言い分と、我々の知る事との差が酷くて話し合いが難航している。ある程度の目処が付いたら、君も立ち会って欲しい」
「然し君がテイルドラゴンを横取りしようとしたと、彼等が言ったときには吹き出しそうになったよ。横取りする必要すらないのにな、君なら欲しければ自分で獲ってくる、と言ってやりたかったよ」
「そのているドラゴンのお肉、どうしたんでしょうね?」
「オークションにテイルドラゴンの肉なんて出てないから、自分達で食べたんじゃないのか」
思い出して、思わず顔が歪んでしまった。
「どうかしたのか」
「俺が見たときには、テイルドラゴンと闘い倒れていた者が7人、一応闘っていたのが9人です。で、見ている間に一人喰われて死にました。残りの8人は完全に腰が引けて、闘う気力がありませんでしたね。テイルドラゴンは悠々と、倒れている奴を食い始めたんです。シャーラが、頭にストーンランスを打ち込む迄に3人。テイルドラゴンの腹は大分膨らんでいましたよ。後で聞いたら、総勢20人で討伐に来たと言ってました」
「つまりテイルドラゴンは最低4人を食べていて、ひょっとするとあと8人・・・」
侯爵様も想像して顔が引き攣ってますね。
ハマンの野郎、解体して持ち帰ったが腹の中の仲間をどうしたのかな。
人を喰ったドラゴンの肉など食う気にならないので、素直に譲ってやったんだけどなぁ。
里に持って帰って宴会でもしたのかな、食わされた奴は災難だが俺の知ったことじゃない。
知らぬが仏、見ぬもの清しって言うからな。
美味しく食べて、仲間もテイルドラゴンも成仏したんだろう。
侯爵様が頻繁に王城に行き、話し合いが行われているようだ。
時々事実確認に来るが、主にダルク草原の事だ。
* * * * * * * *
王城での話し合いに応じ、侯爵様共々会談場所に出向く。
長テーブルの奥、上座にナガラン宰相、一段上がった奥にナガヤール国王。
テーブル右側には、仏頂面のエルフの長老が4人と背後に護衛が4人。
左側が俺の席ね、椅子が1脚しか無いや。
シャーラが背後に立つ。
国王陛下の背後の壁に近衛騎士が8名、俺とエルフ達の背後の壁際にも8名ずつの騎士が控える。
室内に入る前に、話し合い以外の行動に出たら安全は保証しないと釘を刺されたのは此の事か。
ナガラン宰相がエルフ側の抗議を俺に伝える、何故無差別に攻撃するのか理由を聞きたいと。
鼻で笑ってしまったね。
「お前達長老会が俺とシャーラの処分を決めたからさ、殺られる前に殺れ! は世間の常識だが知らないのか」
口をパクパクさせてる、酸素不足かな。
「処分と言っても殺せとは行って無い。勝手な解釈で多くの長老とエルフが殺された」
「オーロンってヨルムの里のエルフがいたが、ハマンの腰巾着のフルーザと名乗る男に、仲間のクイガとナミル共々殺された。その時のフルーザのセリフは処分と言っていたぞ。3人を30人以上で囲み至近距離から弓で射殺した。ご丁寧にフルーザはオーロンに斬り掛かっていたしな。俺はすぐ近くで見ていたんだよ。だから即座にフルーザ達を捕らえオーロンを射殺した奴らを殺したのさ。その時のフルーザのセリフに俺達も処分すると聞いてね」
「たったそれだけか、それを聞いたから、無差別に我々を攻撃するのか」
「お前達もエドルナやサラヘン,カナル達の言葉を信じて、俺達を詐欺師扱いし処分を命じてるじゃないか、何処が違うのだ?」
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