第134話 一時撤退

 エムナで建物を吹き飛ばしたら、さっさとおさらばして次の目標の里サハバに向かう。

 シャーラが、しきりに何をすればあんな事になるのか知りたがり、教えろと煩い。

 遊び好きのニャンコに教えたら、どんな被害が出るか知れたものでないので絶対に教えない。

 魔法を遊び道具と勘違いしている奴だからな、ニャンコは。

 

 概略図ではエムナからサハバ迄7日だが8日半掛かって到着、警戒厳重で里の遙か手前に見張りを置いていた。

 グリンと小さきもの達が教えてくれたので、転移魔法で後ろを取り捕らえると後は何時も通り地下に潜って尋問する。

 

 エムナの集会場が消失し、長老や護衛達と俺達を処分するために集められた部隊が、全滅したと聞き出した。

 生き残りの者が周辺の里に連絡し、ヨルム,ムースに続く長老達の死に、俺達が関係しているとみて警戒していたのだと喋った。

 

 警戒厳重な中に、ノコノコ出掛けて行く趣味は無い。

 残り4つの里は暫く放置し、警戒が緩むのを待つことにした。

 

 エグドラに帰る途中ホルム村に寄り七つの里に付いて色々尋ねたが、アガベ達も余り詳しい事は知らなかった。

 七つの里の連中はプライドが高くて、結構排他的だそうだ。

 定住地を持たなかったアガベ達は、随分見下されていたと苦笑交じりに話してくれた。


 ウォータードラゴンがオークションで高値で売れたと、礼と共にマジックポーチを返された。

 持っていればと言ったが、売れた金でランク12のマジックポーチを買ったと言われた。

 今では狩りに出かける者達は、グループ毎にランク5か6のマジックポーチを持っているそうだ。

 そういえばホルム村の建物も随分立派な物が多くなっている

 

 エグドラに帰るなら、今年こそはダルク様の所に行きたいとシャーラが言い出した。

 確かに3年近くダルクの所へ行って無いので、冬になる前に会いに行くことにした。

 

 * * * * * * * *

 

 エグドラで馬車の用意をし、備蓄食料をへミールに頼む。

 ヘイミーやヤミーラ達が大きく成長していて、何か他人の家に居る様な感じで居心地が悪い。

 俺達は滅多に家には居ないからな。

 

 旅の用意が出来るまでの間に、冒険者ギルドに寄りノーマンさんに森の恵を徳利1本と天上の酒ボトル2本を渡す。

 笑み崩れてますよノーマンさん。

 ヒャルと侯爵様は王都なので、王都に立ち寄った時に渡す事にするがダルクの森へ急ぐ。

 シャーラがウズウズしている。

 

 王都で一泊して即座にホイシー侯爵領へ、領都ハーベイでホイシー侯爵邸に挨拶に寄る。

 ダルクの森はホイシー侯爵領に在るので、挨拶は欠かせない。

 

 「カイト殿、何か問題でも起きましたかな」

 

 「いえそうでは在りません。久し振りにダルク草原を見てみようと思い、立ち寄らせて頂きました。様子はどうですか」

 

 「冒険者達の噂になり結構人が入る様になっています。良質な薬草が取れるらしいです。ハーベイの冒険者ギルドが草原入り口の村に薬草主体の買い取り出張所を設置する程です。勿論野獣も居ますから、被害も出ていますが冒険者の責任のうちです」

 

 「エルフ達は来ますか」

 

 「時々ですが、数名から10名程度で姿を見せますが問題を起こす事はありません」

 

 軽く話を聞いてダルクの森に向かう。

 確かにダルク草原入り口の村には、冒険者ギルドの出張所が出来ていて冒険者の姿もチラホラ見える。

 看板にはフーニー村出張所と書かれている。

 ダルクの森に向かう道は、煩雑に通る人の足に踏まれて立派な道になっている。

 

 結構な数の人がダルクの森に集まって居ると思われるが、人が増えれば厄介事も増えるんだよな。

 余計な事を考えてフラグを立てない様、無心にダルク草原を進むというより後ろで景色を眺めている。

 時々数名の冒険者達とすれ違い又追い越して行くが、ダルク草原に馬車は珍しいので驚かれる。

 

 「カイト様あれ」

 

 呼ばれて振り向くと、前方で何やら揉めている、

 近づくと女性を含む3人組にむさい顔付きの5人の男が絡んでいるようだ。

 近づく馬車とシャーラを見て、標的を俺達に変更した様だが、3人組も逃さない構えだ。

 避けようとする馬車の前に二人が回り込み馬の轡をとる。

 

 「姉さんいいところに来てくれた。怪我をしててね、ちょっと乗せてくれねえか」

 

 下から舐め回す様にシャーラを見上げ、足に手を伸ばす。

 阿呆だ、シャーラに手を出して無事な奴はいないが、それを教えてやるほど俺は親切じゃない。


 〈ゴン〉って鈍い音がして、足に手を伸ばした男が頭を抱えて蹲る。

 

 「おーぉ姉さんやってくれるよな」

 「無体な姉さんだな、いきなり殴るなんてよ」

 「治療代をたっぷり貰わないとなぁ」

 

 目付きから女が目的、ついでに金も欲しいって強欲タイプだな。

 

 「お兄さん達、止めといた方が良いよ。彼女凶暴だから」

 

 「あーん、ガキは黙ってろ!」

 

 これも黄金のパターンだよな、いらん事を考えてフラグを立てたかな。

 一人が見せつける様にゆっくりと剣を抜くと、ニヤニヤ笑いながら近づいてくる。

 

 シャーラに剣を突きつけようとして、逆に剣を取り上げられ慌てている。

 

 「洒落た真似をするじゃねえか」

 

 面倒になので、残り3人に柔らかバレットを顔面に打ち込み黙らせる。

 剣を取り上げられてアタフタしている男に命じ、頭を抱えている男を倒れた3人の隣に並べ手足を固定。

 どうしようか考えていて、一人の男がお財布ポーチを持っているのに気づいた。

 

 「おいお前、腰のポーチの使用者登録を外せ」 

 

 「この糞野郎、てめぇは盗賊か」

 

 「笑っちゃうね、さっきのお前達が盗賊に見えたんだがな。黙って使用者登録を外すか、痛い思いをしてから従うか好きにしな」

 

 睨みつけてくるのでシャーラに合図り

 

 〈ビシッ〉って音がして顔面を押さえて呻いている。

 〈ビシッ〉・・・〈ビシッ〉と間隔を開けて鞭が打ち付けられる音が響く。


 シャーラが振るう鞭の威力で服がボロボロになっていく。

 十数度殴られてやっと従う気になったらしい。

 

 「待ってくれ、外す登録を外すから止めてくれ」

 

 震えてながらお財布ポーチを外し登録を解除し差し出す。

 逆さにして中身をぶちまける。テントや寝袋着替等と共に複数の剣と似合わぬ袋。

 剣はそれぞれが腰に下げているし、転がっている剣は大きさがバラバラだ。

 袋の中にはお財布の革袋複数、ネックレス指輪ブレスレット等多数。

 

 「随分稼いでいた様だな、有罪確定! 兄さん達、迷惑料だこいつ等の金目の物を全てやるよ」

 

 懐疑的な目で俺とシャーラを見て首を振る。

 

 「いや要らねぇよ。助けてくれたのは有り難いが、盗賊の真似事はしたくない」

 

 「それなら心配無い。此処の領主ホイシー侯爵様の身分証を預かっていて、処分は任されているから」

 

 ホイシー侯爵様の身分証を見せる。

 今回挨拶に寄った時に、領内では警備の者や代官達を自由に使ってくれと言われ、渡された身分証だ。

 特にダルク草原での、問題解決に必要な処置の自由裁量を許されている。

 それを話してマジックポーチに革袋の中身を入れ、残りの空の革袋や装身具に剣は穴の中に放り込み埋めてしまう。

 

 「何か聞かれたら、カイトとシャーラの二人組に貰ったと言えば通じるよ」

 

 そう言って女に渡し先に行かせる。

 5人はマジックポーチの中身から有罪確定なので、埋めて居なかった事にする。

 3人組を追い越した時に礼を言われたが、軽く手を上げて応えるだけにして先を急ぐ。

 

 何とまぁテント村が出来ているではないか。

 森も少し広がっている様だ、以前エルフ達の動向を監視する為に立てた塔の先端が遠くに見える。

 森の周囲を一回りしていると、ダルクの子等が集まって来る。

 

 〈カイトが来た〉

 〈シャーラもいる〉

 〈グリン遊ぼう〉

 〈ダルク様に報せた〉

 

 ダルクに問いかけたが、遠すぎる様で陽が落ちる迄に森の周囲を一回りできなかった。

 相当広がっている様だが、草原の広さから比べたら微々たるもの何処まで広げるのか聞いておこう。

 ダルクの所に行くのに便利だった転移拠点なのに、又延々と歩くのは嫌だ。

 

 陽が昇る前にキャンプハウスを仕舞い厩だけを置いて森に入る。

 ダルクの子等が先導してくれたが、ジャンプ拠点の6番に到着するのに1時間以上掛かった。

 

 《ダルク遠いよ》

 

 《ゴメンね、人族達が沢山来て煩いから少し広げたの》

 

 そりゃそうか、テント村が出来ていたからな。

 

 《ダルク様、木の実有りますか》

 

 《大丈夫だよシャーラ未だ沢山残っているよ》

 

 《行きます!》

 

 まーたグリンを使って直行しやがったので、俺は壁の上に立ちお散歩がてら魔力を流して歩く。

 ちゃーんと上を見て森の恵を探すのを忘れない、結構残っているから楽しみだ。

 

 一回りして異常なし、最も頑丈に造ったからおいそれと壊れるとは思えない。

 壁を抜けるとジャンプしてダルクの下に行く。

 

 《アレッ余り大きくなってないね》

 

 《周囲の森を大きくしているからね》

 

 《何処まで大きくするのかな》

 

 《茨の木の先から森の入り口迄と同じくらい伸ばすの。余り近くに来て欲しくないから。時々木を切ったり火を点けるからね》

 

 そりゃー嫌だわな。

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