第55話 仇討ち
静かになったので覗いて見ると、蛇さん身動きもせずにじっとしている。
秘技遠隔ツンツンをしてみるが、動かないので死んだのを確認してから外に出る。
見に行くとシャーラが付いて来るが、俺の腕を掴んで放さないし完全に腰が引けている。
「どうやって倒したんですか」
「ん、砦を壊し空気穴を塞いだから避けてもらおうと、下からおっきなロングソードで突き上げたのさ。ジタバタしている様なので覗いて見ると、痛そうだったのでお詫びに首輪をプレゼントしてギュッーッと絞めてあげたの」
俺の話を聞き、シャーラの顔が段々胡散臭い人間を見る目付きになっていく。
「蛇さんも、カイト様に関われば何だか可哀相に思えます」
さっきまであんなに震えていた癖に、死んだら同情するって本当に気まぐれな猫さんだ。
もう一度顔色を変えさせてやるか。
「これってどうやって持って帰ろうか。シャーラのマジックポーチに入れてくれるかな」
そーら、みるみるシャーラの顔が青ざめて、心底嫌そうな顔になってますやん。
冗談抜きでお肉の味を試してみたいのと、この大きさなら魔石は捨て置けないよな。
胴体の直径が1メートルはありそうだから、頭から11メートルの所で輪切りにする。
土魔法でギロチンを造って〈ズドーン〉と刃を落として切り離した、南無。
頭の方と胴体の二つを俺のマジックポーチに入れ、残り半分は捨て置く事にした。
尻尾の方まで入れると後二つ入れなければならないから面倒になった。
片付けを済ませたら、とっとと此処を離れる事にした。
エグドラに向かうが、何故か野獣に行く手を阻まれ無駄に日が過ぎていく。
シャーラに聞いても、此処がどの辺りになるのかは判らない。
エグドラの方角は分かるけど距離は判らないって、当然だな地図なんて無い人跡未踏って感じの所を歩いているのだから。
キャンプハウスの中で寝る前に魔力の放出を始めると、精霊さんは遊んでいるのか魔力の中で小船の様にたゆたっている。
姿はますますはっきりしてきて、街に着いたら騒ぎになりそうな予感がする・・・確実に騒ぎになるよな。
姿を隠してくれる様に頼んで見ると、フッと消えてしまった。
言葉は通じている様なので、街に着いたら俺とシャーラの前以外では姿を消してもらおうと思う。
人里が近くなった、というか人の痕跡が有るので冒険者達が来る所まで戻って来た様だ。
数日後、シャーラが一つのキャンプ跡地を通り過ぎる時に立ち止まり、難しい顔をして周囲を丹念に調べ始めた。
少し寄り道になるがよいかと俺に聞く、ただならぬ様子に黙って頷く。
一段と足取りは慎重になり周囲を注意深く観察し、時には追いつくのがやっとといった速度で歩く。
夜キャンプハウスの中で訳を話してくれた、シャーラと母親を襲った冒険者達の匂いがすると。
顔色からも見逃す気は無いようだ、俺も人を売り買いする様な奴を見逃すつもりは無い。
「8人を相手にやれるか」
「やります! あの時は母さんが病気をして弱っていたのと、私が子供過ぎたから負けただけです」
「判った出来るだけ自分でやれ! 俺も少しは手助けしてやる。女子供を拐かし奴隷にする様な奴は嫌いだから」
「有り難う御座います。必ず追いついてみせます」
陽が上るとともに追跡を始め、確実な足取りで森を進み野営跡も見つけた、確実に追いついている。
時々は俺にも分かる人の痕跡が増えてきた、その夜、シャーラはただ一つの形見のオダモッコの彫り物を手に眠りに就いた。
夜が明けると朝食もそこそこに追跡が始まり、昼過ぎには気配が感じられらる所まで近づいた。
「シャーラまて、急ぎ過ぎれば失敗して逃げられる」
「でも、今を逃がして街に入られたら」
「それは無い。足止めが得意なのを知っているだろう。先ず相手の人数と魔法使いが居るか確認だ、勝手に一人でやるなよ」
納得させてから斥候に出し、相手の人数と構成を調べさせた。
全部で15人3人は縛られていて、魔法使いが誰かは判らないと苦い顔で報告する。
着かず離れずに後をつけ、野営地で火を囲んで居る奴から足止めのために穴を開け足を固定していく。
〈何だこれは〉〈エッおい〉〈放せ〉それぞれが騒ぎだし、見張りも何事かと寄って来た所を足下に穴を開けて落とし固定する。
縛られている者達も、取り合えず固定しておく。
全員の足を固定したので、シャーラを反対側に潜ませ俺の姿を見せる。
「これを遣ったのはてめえか!」
「舐めた真似をしてくれるな、兄ちゃん」
「小僧が、多少魔法が使える様だが覚悟は出来ているんだろうな」
それぞれ勝手な事を喚き、2人程ぶつくさ言っている奴がいるので魔法使いだと思い、ストーンアローを両肩に撃ち込んで黙らせる。
「お前達、武器を後ろに投げ捨てろ。出来ない奴は痛い目に合うがそのつもりでな」
弓を構えた奴の両肩にストーンアローを撃ち込み、剣を抜いた奴には持ち手の肩にストーンアローを撃つ。
全員ストーンアローを喰らって呻いているが、根性有るねぇ。
縛られているのは男二人女一人、全員冒険者の服装だ。
「あんた達はどうして縛られているんだ」
「そいつ等に昨日襲われたのさ。仲間二人を殺され、そいつが捕まって抵抗出来なくなってだ」
小柄な男が女に顎をしゃくって答える。
「解いてくれないか、そいつ等にはたっぷりお礼をしたいんだが」
「駄目だな、こいつ等には聞きたい事があるので勝手な事をやられると困るんだ。もう暫くそのままで居てもらう。シャーラ出てきて良いぞ」
強張った顔のシャーラは一人の男を睨みつけ、腹を蹴りあげてから腰のお財布ポーチを取り上げた。
お財布ポーチを抱え、泣き出すシャーラを男達が黙って見ている。
沈黙の中シャーラの啜り泣きだけが聞こえていたがそれも静かになり、黙って落ちている剣を手に取った。
「待て、シャーラ! 此奴等から聞きたい事が有る。それにそのポーチの登録を外させないのか」
お財布ポーチを見詰め考えていたが俺の所に来て差し出す。
直径5メートル程のドームを造り縛り上げた賊と3人の冒険者を中に入れる。
賊の13人を壁に背中を預けさせ、首や手足を拘束し張り付け状態にして尋問だ。
「お前これを何処で手に入れた」
唾を吐きかけてきたので、腹に柔らかストーンバレットを撃ち込む。
呻いているが喋りたくなるようにしてやるさ、壁の一部を開けストーブを造る。
ロングソードは沢山落ちているので、それらをストーブに突っ込んでじっくりと炙る。
唾を吐いた男の顔に剥ぎ取った服を被せ、焼けた剣を太股にゆっくりと突き立てる。
〈ウォーオォォ〉汚い声で喚くが気にしない、他人の痛みは百年耐えられるって言葉も有るしね。
「何処で手に入れたか喋る気になったら頷け、使用者登録も外して貰うぞ」
5度目に焼けた剣を突き立てた時に止めてくれと懇願したが、喋るのが先だと続ける。
両足の太股と両肩に両耳をそぎ落とし、目に突き入れ様としたら喋りだしたが、シャーラに聞いた通りの話だった。
使用者登録を外させシャーラに渡す。
受け取ったお財布ポーチを逆さにして中の物をぶちまける、幾つかの物を拾いあげマジックポーチに仕舞うと俺に頭を下げる。
「シャーラ、お前達を襲った残りの奴はどいつ等だ」
シャーラの指差す奴等の太股に焼けた剣を突き立てていくが、7人で1人足りない。
「お前達数が合わないんだが、何処に居る」
〈いい気になるなよ小僧が、必ずこの礼はするからな〉
「あっ気にしないで、礼には及ば無いよ。でも興味が有るねぇ、自信満々に仕返しするって言うのなら、どうやってやるのか教えてもらえるかな」
そいつの両耳を焼けた剣でそぎ落とし、目に突き立てた時に喋りだした。
エグドラや他の街に警備隊や衛兵として潜り込ませた仲間が居て、捕まっても隙を見て逃げられる様にしてくれるそうだ。
シャーラと二人外に出て相談をする。
「シャーラ悪い、ますます殺す訳にはいかなくなったよ」
「大丈夫です。侯爵様にお知らせしなければ」
「だな、奴隷狩りの組織と協力者に奴隷商人だ。そいつ等を野放しには出来ないからな」
ドームに戻り3人の拘束を解き取り上げられた物を回収させる。
賊の持ち物を取り上げ金目の物を全て彼等に渡す。
自分達のお財布ポーチを取り返し、蹴りつけているが殺すなよと言って放置。
金目の物を剥ぎ取った後は、素っ裸にして剥ぎ取った要らない物を穴に埋める。
両手両足に土枷を嵌めてから、ドームを小さくして閉じ込めておく。
捕まっていた3人にはエグドラの街に向かうが、俺達の事と見聞きした事は口外禁止で付き合って貰うと言い含める。
痛め付けた奴等には癪だが、上級,中級ポーションを飲ませて死なない様にしてから放置し、エグドラに向かう。
捕まっていた3人はセレンとガイドンにオルクル、隣町の冒険者達で〔森の鼠〕って名のパーティーを組んでいる。
殺された二人を含む5人組だと名乗った。
精霊さんは気を使ってか、言い付けを守って姿を現さない。
然し存在ははっきりと分かるので、付いて来ているのが判る。
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