第54話 精霊

 俺の魔力が気に入ったのか、魔力を欲しがっているような感じだ。

 

 俺の魔力が少なくなってきたのでシャーラに応援させる。

 シャーラは上下から掌の魔力を循環させ、俺は水平にシャーラの掌の魔力と交差するように魔力を循環させる。

 〈ウッワー、凄ーいぃ〉シャーラの小さな声が聞こえたが、シャーラは魔力切れでパタンキューのお休みモードに突入してしまった。

 そんなに魔力を吸収しているような感じには思え無いので、俺に比べシャーラの魔力量が少ないのが原因だろう。

 

 光の大きさは変わらず、俺も魔力切れが近いので横になり残りの魔力を放出して眠りに就いた。

 目覚めると光の点は見えなかったが、魔力の放出を始めるとフィッといった感じで現れる。

 魔力を放出している掌の間で、気持ちが良いのかふんわりといった感じで浮かんでいる。

 

 朝食を食べている時もあの気配を感じるが光は見えない、試しに一瞬だけ魔力を出して見たが現れない。

 

 「私一人でやっても現れないし、少しじゃ気に入らないのかな。精霊様って案外大食いなのかな」

 

 あやうく朝飯を吹き出すところだった。

 シャーラ、お前はシルバーフィッシュをたらふく食べた後でお菓子を食べ、その後で房の実は別腹だと言って食べているよな。

 言わないけど朝から腹筋が鍛えられる。

 

 エグドラに向かって歩きながら果実を探すが、シャーラは気に入らないのか見向きもしない物ばかりだ。

 代わりに茸を採取したり薬草を採取して、昼食や夕食に焼いたりスープに入れて美味しく食べさせてくれる。

 備蓄の料理は美味しいが、日々似たような物を食べていると飽きるので、少し目先が変わるだけでも美味しい。

 

 5日間魔力を浴び続けた精霊、今ではそう呼んでいるが日中も姿を消す事なく纏わり付くようになった。

 大きさもビー玉より大きいと思える、思えるってのはビー玉の様に型がはっきりしていない。

 例えるならば、光の毛玉ってのが一番解りやすい。

 透き通った淡い若葉色は変わらないが、時々透明になって姿が見えなくなるが存在はある。

 9割方俺の周囲・・・頭の上とか肩や背後に浮かび、1割くらいはシャーラの側に居て手遊びの相手をさせられている。

 

 今年は美味しい果実が無いと歎くシャーラを宥めながら、日々エグドラに向かって(シャーラナビの誘導で)歩いている。

 ふと立ち止まり木の枝を切り取ると、しゃがみこんで何やら地面を掘り始めた。

 丸い芋の様な物を掘り出すと薬草袋の中に入れ、又別の場所を掘り始める。

 

 「シャーラ何を掘り出しているんだい」

 

 「香り茸です。料理にほんの少し削って入れると、香りと味が格段に良くなります。高価なので一族の大事な収入源です」

 

 シャーラに指示された所を掘ると、拳の半分くらいの茸が姿を現す。

 俺にはさっぱり判らないが、シャーラは的確に掘る場所を支持してくる。

 小さい物はそのまま埋め戻す、育つのに何年もかかるらしい。

 小さな薬草袋いっぱいに収穫して満足そうにマジックポーチに仕舞う。

 

 歩き出すと精霊が目の前に来てクルクル回ると、すーっと離れて行く。

 今までとは違った動きに、何かあると思いついていく。

 意思の疎通は出来ないが、何か教え様としていると思ってついて行くと、甘い香りが風に乗って匂う。

 

 「信じられない!」

 

 高さ5mくらいの木に、杏の様な実が枝先に4、5個ずつ実っている。

 見た目杏なのに大きさが白桃並で皮は艶やかな赤紫色、いそいそと籠を取り出すと薬草袋を敷き丁寧に詰め込んでいく。

 木が小さいので3籠目は半分で熟れている物は取り尽くした、完熟していない物には手をつけていない。

 

 「これって5年に一度くらいしか実をつけないんです。私も一度だけ見たことが有りますが、実の殆どは収穫された後でその時は3個だけ取れました。ゴールドって呼ばれてます。冒険者ギルドに持って行けば一つで金貨5枚はします」

 

 「それなら、熟れる寸前の物も取って行けばどうなの」

 

 「駄目です。熟れてない物を木から取っても、美味しくなりません」

 

 シャーラが一つを手に取り、ナイフで半分に切り分ける。

 ゴールドか値段もそうだが、差し出された黄金色の果肉の実を口に運ぶ。

 口いっぱいに広がる香りと、なんとも言えない甘さと美味さに思わず笑みがもれる。

 

 「美味い! こりゃーたまらんねー、病み付きになりそうな味だわ。絶品だな。金貨5枚も頷けるな」

 

 「有り難う精霊様」

 

 「うん有り難うな」

 

 収穫して2週間くらいは持つらしいが、俺の収納に仕舞う。

 マジックポーチに入れても2,3ヶ月は大丈夫だろうが勿体ない。

 足取りも軽く歩き出すシャーラと、後に続く俺の目の前を精霊がふんわりと浮かんでいる。

 

 キャンプハウスで寝る前に、シャーラと二人で精霊に魔力を与えるのが日課になった。

 だがシャーラ一人の魔力には興味を示さないのが悲しいらしい。

 シャーラは寝る前の魔力放出の時には、必ず俺の前に座り込んで手を差し出して催促する。

 

 魔力の循環を始めるといそいそといった感じで、魔力を浴びにやって来る精霊さん。

 今ではビー玉の大きい方くらいになっていて、何処まで大きくなるのか興味がある。

 色は相変わらず透き通った若葉色だし、輪郭がはっきりしないのも変わらず。

 

 その精霊さんが激しく反応して、俺の周りを激しく飛び回ったり目の前で明滅したりする。

 シャーラと顔を見合わせて、動きが何時もと違い過ぎるので砦に篭って暫く様子をみる事にした。

 砦に篭っると精霊さんが落ち着いた様なので、どうしたのだろうねと話していた時に、ゾワリとした感覚に襲われた。

 シャーラの毛が逆立っていて、嫌な気配がする方を覗いて見るが何も見えない。

 

 「スネイクが居ると思う」

 

 「蛇だって。確かに背筋がゾワリとした感覚は、今までに味わった事の無い感じだな」

 

 覗き穴から幾ら目を凝らしても蛇は見えない。

 他の方向も見て見るが、見通しの悪い森の中なので判らない。

 感覚を澄ませて、一番怖いと思う方向を木の葉一枚も見のがさない様に見ていく。

 倒木にしては枝も節も無い綺麗なのものを見つけて、こいつが蛇かって思う前にズルリと動いた。

 動いた先を見ると金色の光が二つ、木漏れ日を受けてキラキラと光っている。

 

 蛇に睨まれた蛙ってのを、我が身で体験するとは思わなかった。

 あの目に見詰められたら、身動きすれば死ぬと本能が教えてくれる。

 俺は恐怖心から足下に穴を開け、落ちると同時に蓋をした。

 シャーラの悲鳴が聞こえたが、砦の中に居ても恐いので逃げる事だけを考えた結果だ。

 穴の中で折り重なってじっとしていると、シャーラが震えている事に気がつき、同時に自分も震えている事に気がついた。

 

 「怖いねー」

 

 「此処・・・何処ですか」

 

 「ん、砦の下に穴を開けて落ち込んだだけだよ。蓋をしているから蛇が砦を壊しても俺達は大丈夫だよ」

 

 言ってる側から空気穴から〈ピシッ、ビシッ〉とか聞こえてくる、締め上げているのかな。

 砦が一瞬でも持ち堪えたら逃げる間はあるけど、次からはもう少し頑丈に造る様にしよう。

 〈バッシーン、ガラガラ〉って音が聞こえて砦が壊された事が判った。

 

 「壊れちゃいましたよ。砦」

 

 「次からはもっと頑丈なのを造るよ。アーマーバッファローの突撃にも堪えられるくらいのやつを」

 

 「これ飲み込まれないかなぁ」

 

 「地面に埋まっているから大丈夫だろう。飲み込んだら刺をいっぱい生やして、腹の中から突き破ってやるよ」

 

 精霊さんを忘れて穴に落ちたけど、傍に居るのに気付いて少し気分が落ち着いた。

 

 「有り難うな精霊さん」

 

 ポンポン跳ねる様に目の前で動く精霊さんに礼を言っておく。

 

 「取り合えずお茶にしよう。鳥肌がたって寒いや」

 

 お茶の前に一杯やってから、熱いお茶を飲んで落ち着いた。

 シャーラのお茶にも少し酒を入れてやったので、顔がほんのり赤くなり落ち着いた様だ。

 

 ん、息苦しいと思ったら空気穴が塞がっているではないか、確認の為に穴を広げたら鱗の様な模様の一部が見える。

 一難去って又一難ってか、蛇の野郎俺達の上に居座っていやがる。

 

 流さ5mの鋭いロングソードをイメージして下から思いっ切り突き上げる様に魔力を込めた。

 悲鳴は聞こえ無いが微かに地面が揺れていて、空気穴から樹々の梢が見える。

 

 「つくづく迷惑な奴だよな」

 

 「私帰ったら教会に行って、エルマート様に土魔法と転移魔法に治癒魔法を真剣にお願いしてみます」

 

 「土魔法は便利だけど、転移魔法は使いどころを選ぶぞ。こんな時に逃げるのには便利だが、迂闊に跳ぶと跳んだ先に何が有るか判らないからなぁ」

 

 一人なら上空にジャンプして、落ちる途中で次の場所を見てから跳べば良いが、二人だと無理そう。

 

 地面を少し持ち上げて周囲を観察すると、蛇さんは痛かったのかのたうち回っているので、お詫びに太い首輪をプレゼントする。

 ギュッと締めてあげると、喜んでクネクネしている。

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