第22話 奥義と秘技

 二日休んで再び草原に出る、考えていた魔法の最終確認の為だ。

 キャンプハウスを出して設置すると距離計算用の糸を取り出し、10,15,20~50と5メートル間隔で横にずらしながら目印の杭を立てる。

 40メートル迄の杭には標的を付ける

 

 お茶を飲んだら標的射撃の練習と実験なので、約80発撃てるストーンアローを使う。

 的は左から少しずつ右にずらしているので、全ての的が見える配置になっていて、20メートルの的に当てるのに25メートルや30メートルの的を撃つ。

 撃ちだされた矢は当然隣の的に向かって飛ぶが、カーブして目標の的に当たる。

 右に左に曲げながら狙った的に当てるのはかなり神経を使う、時には的より上に撃ち下に曲げたり地面スレスレから浮き上がらせる。

 自在に撃ち曲げる事が出来る様になるのに丸三日掛かった、結果に満足してその日は眠りに就く。

 

 次は遠距離発動だが結果はある程度予想がつく、然し遣ってみなくちゃ分からない。

 結果40メートル以上の距離では無理! 

 それより手前なら可能でイメージ通りに使えたが、ストーンランスを撃った程度の消耗になる。

 以前似たような事をしているので出来るが、むやみに使って魔力切れになったら洒落に成らないので確認しておく必要があった。

 

 40メートル未満なら任意の場所に穴を開けて蓋をする、地面からストーンランスを突き上げる、等々自在に出来るので満足。

 後は薬草採取とホーンラビットを捕ったりして過ごし、10日振りにギルドに顔を出し薬草とホーンラビットを売る。

 ホーンラビット銀貨3枚と銅貨6枚、薬草は銀貨2枚と鉄貨8枚だ。

 10日分の稼ぎ36,800ダーラを硬貨用財布のマジックポーチに入れ、ランク2のマジックポーチにぽいしてホテルに向かう。

 

 受付でヒャルダからの手紙を受けとる、曲げてみたいので教えてだって。

 ホテルで待ってるので、都合の良い時に来てくれと認めた文を侯爵邸に届けて貰いのんびりする。

 2日後に明日の朝ホテルに行くと連絡を貰い、朝食後冒険者の格好で食堂の隅に座りお茶を飲みながら待つ。


 「カイト、待たせたかな」

 

 「お早う御座います、ヒャルダ子爵閣下」

 

 「絶対にからかってるだろ、カイト」

 

 「ヒャルダ様、子爵位授爵おめでとう御座います」

 

 「ああ有り難う。だが今迄通りの扱いで頼むよ。うんざりしているんだ」

 

 「兄さんが家を継ぐ前に子爵になり、父は侯爵に陞爵したからねぇ」

 

 「祝いに来て娘や姪、果ては知り合いの綺麗どころを押し付けてくるから、逃げるのに大変だよ」

 

 「今まで見向きもしなかった伯爵家や、同じ子爵家の魔法自慢や魔力高自慢の所が特に酷いのよ」

 

 「大変だねー、子爵様って」

 

 「兄だけじゃ無くて、侯爵家と繋ぎを持ちたい貴族達の結婚申し込みで嫌になるわ。魔力高70の娘がお望みですかって、やり返しているけどね。カイトは冒険者登録をしたの」

 

 「したよ、いきなりブロンズの二級にされちゃったよ」

 

 カードを見せろと言われて差し出す。

 

 〈へー、ホー〉とか言いながら繁々と眺めている。

 

 「カイトってドワーフとエルフの血が入ってるのに魔力高少ないのね。不思議ね」

 

 「多分人族にドワーフ族にエルフだろ、あまり血が混ざると時に魔力に影響するらしいよ。聞きかじりだけどね」

 

 「でも出会ってから、身長が伸びた様子は無いよね。初めに作った服が小さくなった様子もないし」

 

 「確かに15~6才ならもっと伸びるけどなぁ」

 

 「カイト、ご両親は?」

 

 「母は14になる前に病死したよ。何も聞いてないし親父は飲んだくれていて、聞くだけ無駄だろうな」

 

 「エルフやドワーフの血が出たのなら、カイトは長生きするよ。その分成長は遅いけどね」

 

 「ドワーフで160から200年エルフなら300年以上は生きるぞ」

 

 「はぁ~なんてこったい、当分小僧のままかな」

 

 「それより行くよ、以前の場所にする?」

 

 「そこまで行かなくても人目が無ければ何処でも良いよ。キャンプハウスを出せば事足りるからね」

 

 結局以前訓練した場所に行き、護衛達は地下室で休憩という名の軟禁状態にして的撃ちの練習。

 40メートル地点に、横並びで3枚の的を5メートル間隔で設置する。

 

 「中央の的に当てるから見ててね」

 

 見易い様にバスケットボール大の球だが魔力は込めずに撃つ、右の的に向かって飛ぶが左にカーブを描いて中央の的に当たって砕ける。

 左の的に撃つが、右に曲がって中央の的当たって砕ける。

 中央の的の上に撃って、急激に落ちて的に当たる。

 

 「やってみて、イメージとしては撃ってからも魔力を弾にのせて曲げるんだよ。普通バレットを撃つときは的から目を離さず撃って終わりだが、これは撃ってからもイメージを弾にのせ、的に向かわせるんだ。撃ちっぱなしと違い連射は無理だし、魔力も余計に使うね」

 

 キャンプ地の見張り台から一発一発慎重に撃つが、当てたい的と違う方向に撃つのが第一の難関だった様で、ヒャルダもフィエーンもてこずっている。

 解るよ、当てたい的を見ていて、違う方向に撃つイメージが出来ないんだろう。

 交代で撃ち、二人であれこれ意見を交わして又撃ち込む、疲れが顔に出ているので止めさせる。

 

 食後のお茶を飲みながらの談笑の時フィエーンがぼやく。

 

 「こんなに難しいとは思わなかったわ、カイトは簡単に曲げているのにね」

 

 押しても駄目なら引いてみな、30メートルと40メートルの的を直線に並べて設置し、30メートルの的を撃って見本を見せる。

 撃ち出した球は30メートルの的に向かって飛ぶが、段々と的を反れていく三度やってみせて交代。

 三日練習して的の中心から外す程度にはなったが、撃ちだしてからも魔力をのせるのが難しいらしい。

 

 翌日は気晴らしの為に、草原でホーンラビットを動標的にしてアイスアローとフレイムアローで狩りをする。

 護衛達は周辺の警戒で俺達を見てないので気楽にやる。

 気配察知で見つけると方角だけ教え、ストーンバレットで追い出すのを二人が交互に撃つ。

 最初は飛びだしを狙って撃っていたが、動きが複雑な為に必死で狙う。

 撃ってからもホーンラビットの動きを目で追い、後少しでと残念がってるが気付いて無いみたい。

 

 一日中ホーンラビット狙って狩りをしたが、俺が撃つと当たる。

 ストーンアローの速さもあるが、標的を追って曲げているんだよね。

 翌日もホーンラビットを追わせる、撃っても矢を見ず標的のホーンラビットを見て当たれと祈る。

 昼過ぎには二人とも当たる様になり、無意識に曲げる事を覚えてめきめきと腕を上げた。

 夕食時に指摘すると、気付いてなかったのでビックリしてた。

 

 その気になった二人にせがまれ、次の日もホーンラビットを追って草原を彷徨う。

 ホーンラビットを撃つ逃げる目で追いかけ、当たれと念ずると面白い様に当たる。

 交代で撃ち、相手の弾筋を観察して曲がっているのを確認して教え合ってる。

 ホーンラビットの在庫が50匹近くなってるよ、どうするのさこれ。

 

 「後一つ教える事が有るけどどうする、一度屋敷に帰る」

 

 「曲げるより難しいの」

 

 「そうでもない、始めた頃に似たような事をしているので数日で出来ると思うよ。ただし絶対の秘密だよ。曲げる事が奥義なら秘技、秘密の技だね。簡単だが使い方に依っては極めて危険な技で、誰から攻撃されたのか誰が攻撃したのかも知られる事のない方法だよ」

 

 「ヒャルダは以前雷撃を見て欲しいって言ってたよね、序でに見てみるよ」

 

 朝食後三人で見張り台の外に並び標的を見て貰う。

 

 「えっ・・・何をしたの」

 

 「標的を崩したのさ、標的が崩れるイメージに魔力をのせただけだよ」

 

 「でもあんなに遠くの物が」

 

 「フィエーンだって以前に同じ事をしているよ。炎を作れず俺が頭の大きさの炎をイメージしろと言った時、離れていた俺の横に炎を作ったろ。イメージは手元からでなくても魔法として魔力をのせれば、離れていても発現出来るのさ。俺は40メートルが限界だけど、二人は70迄行けるはずさ」

 

 50メートルの標的に炎が点る。

 

 「もっと熱いイメージが出来ればあれを溶かす事も出来るよ。力を抜いてイメージだけで良いのは知ってるでしょう」

 

 「ヒャルダは60メートルの的を凍りつかせてよ」

 

 標的が真っ白になると氷の柱になった。

 

 「あの柱の地面を凍らせてよ」

 

 言われるままに地面が白くなり氷が盛り上がっていく。

 

 「簡単でしょ、氷の柱の上に雷撃を出現させてみて」

 

 瞬間光と轟音で氷の柱が吹き飛んだ。

 

 「雷撃の何処を見るの」

 

 「簡単に言うね、言われて遣って見たら出来ちゃった様だよ」

 

 「魔法は手元から標的に向かうものじゃなく、イメージした場所に発現させるものだって解っただろう。応用すれば色々な事が出来るよ。ただし二人は70メートルが限界だと思うけどね。俺も色々試して魔力高と同じ40メートルが限界だったので、間違い無いと思う。実際使ってみてこれが秘技と言った意味が判るでしょ」


 もう魔法で教える事は無いと二人に伝え、街に帰る事にした。

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