第103話 威力抜群
「人を受け入れないが、人を害する事も無いと保証出来るのか」
「そんなものを求めても無理ですよ。野原の岩山に同じ事を求めますか、岩山から落ちて死んだら登った奴のせいですよ」
少し考えさせてくれと言い、宰相と二人部屋を出て行った。
収納からグラスを取りだし、気付けに天上の酒を並々と注ぎ侯爵様に差し出す。
俺も軽く一杯やることにした、全くエルフの糞野郎共め。
ラノベじゃエルフ族は争いを好まない森の住人とか、綺麗な姉ちゃんや美形の宝庫の様に書かれているが、大違いだ。
聞くと見るとでは大違いって言葉の、見本のようだな。
シャーラが露店で買った串焼きを食べているので、ちょっと噛じらせてもらう。
侯爵様が呆れているがしらねぇよ。
「彼等と言葉は通じるのかね」
「大丈夫ですよ。シャーラと遊ぶ程度には通じますから」
「森から帰ってそれを持って来たとき、妖精達も居たのか」
「居ましたよ、彼等は基本的に人には姿を見せません。小さきもの達もね」
「小さきもの達とは、あの煌めく様な小さなものの事か」
* * * * * * * *
結構待たされたが帰って来た陛下は王国の詳細な地図(俺的には多少はましな)を持ってきた。
各地の貴族にはカイトとシャーラの二人の要請には全面的に協力するように手配すると約束してくれた。
「陛下お心使いは有り難いのですが、目立ちたくないので必要ありません。平原や草原の場所さえ判れば適当にやります。それより王家の手の者を下げて下さい」
「判っている、全ての者を引き上げさせる。地図には平原や草原の詳しい場所は書き込まれていない。各領地の詳しい地図は後ほどハマワール邸に届けさせよう」
* * * * * * * *
カイト達が礼を言って帰っていくと、宰相と二人してソファーにどっかりと座り、侍従に酒を持ってこさせた。
「ハマワール侯爵も中々の男だな。カイトを見出だして自由にさせ、それなりの尊敬も得ている様だ」
「はい貴族と冒険者の立場を上手く利用しながら、お互いに干渉しないのでしょう。以前ハマワール侯爵がカイトを評し、『地位と立場を振りかざす者や立場に敏感な者には近寄らない』と言っていました。その点ハマワール侯爵やヒャルダとフィエーン兄妹の二人は、ざっくばらんな付き合いの様です」
「魔力高40にはすっかり騙されたわ。確かに魔力高は40なんだろうがエルフとドワーフの血のなせる事かな」
「こうなるとウォータードラゴンやフォレットスネイクの討伐も彼かもしませんね。森の一族の少女に、手の者が手玉に取られたと言っていましたが、強ち誇張ではなかった様です」
「それにハマワール侯爵には最近森の一族の集団との付き合いも出来た様で中々の戦力だ、彼に権力欲が無いのが幸だな」
「カイトがその気になりエルフの長老に見せた力を使えば、我々は幾万の兵に守られていても赤子同然です」
「精霊の話は幼少の頃に聞いた覚えがある。この歳になって目にするとは思いもしなかったぞ。然も妖精とはな、あの数の妖精が二人を守り付き従うか。二人がこのナガヤール王国から他国に移らぬよう、出来る限りの事はしておこう」
「はい、あの戦力が他国に利用されたらとんでもない事になります。利用は無理でしょうが」
* * * * * * * *
侯爵様の館に滞在して2日後、各貴族の一覧と領地や平原と草原の詳細が送られてきた。
「カイト王家の通行証を出してくれ」
言われて渡すと変わりの物を渡され、魔力を流す様に言われた。
魔力を流すと、金色に輝き真紅の線描で炎の輪の中に交差する剣と吠えるファングウルフの、王家の紋章が浮かび上がる。
又懐かしい物が出てきたよ。
シャーラにもカードが渡され、魔力を流すと俺が持っていた物と同じ薄紫色に王家の紋章が浮かび上がる。
〈フェーッ〉って変な声が聞こえるぞ。
「自由に使ってくれと陛下のお言葉だ。ナガヤール王国に刃向かわない限り、返却の必要は無いそうだ。それと地図と貴族の一覧の扱いは慎重に頼む」
王都のシャーラの家に行きハーミラに備蓄食料を大量に作ってもらう。
その間に市場へ行き色々と仕入れるが、今日はニーナとルーナも居て姦しい。
3人であれこれ言いながら色々買い込んでは、マジックポーチに放り込んでいく。
賑やかな若い女3人とガキ1人って目立つからチンピラが吸い寄せられて来る。
「お嬢さん達あちらにも良いものが有りますよ」
「いらない」
「そう言わずに是非見ていって下さいよ」
変な婆さんまで出てくる、チンピラと婆さんの二人は明らかに仲間だ。
見え透いた手口だが人込みの中、親切そうに擦り寄って来て離れない。
ニーナとルーナがシャーラの後ろで困惑している。
「いらないって言ってるの聞こえないの」
シャーラの冷たい声にチンピラが一瞬怯むが、婆さんは強かだ。
「なんだい人が親切に教えてやっているんじゃないか、それを偉そうに何様だと思ってる」
鴨を見つけたと思い、仲間を配置して強気の婆さん。
残念だがそのお姉ちゃんは強いぞ、と思っていたらシャーラが俺の顔を見てどうしようって目つきだよ。
戦闘なら自信があるが、口でこられると未だ太刀打ち出来ない様だ。
周囲も嫌な奴らが来たとばかりに離れていってるいので、常連さんの様だ。
「婆さん見え透いた手口だよ。チンピラを引き連れて若い娘に絡むなよ」
「おう兄ちゃん、横から意気がって口を出すな」
あららら、古典的口上でチンピラ其の2登場だよ。
「お仲間ですか、俺達は鴨じゃないですよ」
お前達が狙った娘は、鴨じゃなくて猛獣だぞって教えてやりたい。
「何だか数が増えてますね、本性を隠す気が無いってところかな。市場のダニがお日様の下に出てくるなよ」
〈このーっ〉殴り掛かって来た其の2さんの腕を、シャーラが掴んで石畳に叩き付ける。
〈ギャーッ〉て声と共に、叩きつけられた奴が寝転んだまま反り返って呻いている。
そんなところで寝ていると風邪ひくぞって思ったが、所詮赤の他人だ。
あっという間に囲まれて、ニーナとルーナが震えている。
「二人ともこっちにおいで、後はお姉ちゃんに任せときな。シャーラ殺さない程度にな」
シャーラの前に立った男が殴り掛かった瞬間周囲のチンピラも殺到する。
阿呆だねシャーラ相手に最悪の戦法だよ。
殴り掛かってきた相手の肩に手を掛けて飛び越えると同時に顔面に膝が食い込んでいる。
その男の後ろに降り立ち衿を掴んで振り回し、シャーラの居た場所に殺到した奴等を叩き潰している。
俺の所にも二人来たが土魔法で如意棒を作り、腹に〈ドン〉もう一人の顔に〈ドン〉と伸ばして終わり。
如意棒って便利だよね、練習しておいて良かったよ。
不味と思ったのか婆さんとチンピラふたりが逃げだそうとした所をシャーラが後ろから蹴り飛ばす。
合計11人、大漁だね。
遠巻きに見ていた者達から〈オー〉〈強ェー〉〈何だあれ>とか聞こえる。
野次馬を掻き分けて警備隊の登場だよ。
「何事だ、お前達がやったのか!」
「シャーラ侯爵様から貰ったあれを、警備隊だけに見える様に出せ」
怒鳴り付けて来た警備隊の男に、シャーラがチラリと通行証を見せた瞬間直立不動になったよ。
やっぱりね、俺の赤いのを出さなくて正解だよ。
「あー・・・責任者は誰かな?」
直立不動の男が、ですます口調で私ですと答える。
「急ぐので他の警備隊の者も呼んでくれ」
笛を取りだし〈ピーピー〉吹き出したら続々と集まって来る警備隊の面々。
これからスプラッターショーが始まるので、ニーナとルーナは見せられない。
シャーラと俺は用事が出来たのでと諭し、警備隊に家まで送らせる。
警備隊の態度で安心したのか素直に頷いて帰っていった。
警備隊の面々を捕まえたチンピラの周囲に配置し、周りから見えなくする。
「お前達手慣れていたな、後何人仲間が居るかのか喋って貰うぞ」
「糞ガキが、いきなり殴り掛かって来て何をぬかす!」
「お前警備隊の俺達に対する態度を見て、そんな言い訳が通用すると本気で思っているのか」
意気がって文句を言った奴を押さえ付けさせ、口にボロ切れを突っ込むと手首を切り落とす。
警備隊の男に手首を縛って血止めさせると次の男に向かう。
「お前は素直に喋るよな」
3人目の男が震えながら頷き尋問開始、ボスも含めて後5人、アジトにしている民家に居るとペラペラ喋った。
目を付けた女子供を拐かして身代金を取ったり、裕福な者達に難癖をつけ揺すり集りをしていると、素直に喋ってくれた。
最初に怒鳴り付けてきた警備隊の男に、アジトを急襲して全員を捕縛しろと命じる。
手首を切り落とされて呻いている男達の下にいき、シャーラに頼んで手首を繋いでもらう。
心優しい俺は繋ぐだけでよいからとシャーラにアドバイス、シャーラの〈ちょっとだけなーぉれっ〉て言葉に吹き出しかけた。
当分痛い思いをしてもらう
後は警備隊に任せて帰る事にした。
帰って怖い思いをした、ニーナとルーナを慰めてやらねばならない。
それと王家の通行証の威力に驚いているシャーラに、貴族や王国の騎士とか警備隊以外にはあまり見せるなと言っておかねば。
普段は今まで通り、侯爵様から頂いた通行証を使う様にな。
俺だって以前侯爵様から見せろと言われ、見せた結果に驚いたんだから、お前も驚かせたかったんだ許せよ。
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