第111話 ヘラルスの魔法

 シャーラが侯爵様に差し出したのは、ゴールド2籠、ビッグビーンズ紛い10個、紅宝玉8房、房の実6房と芳香花6本、それと香り茸の壺2つを差し出す。

 

 「こんなに良いのか」

 

 「大丈夫です、沢山採れましたから。カイト様だって、これはお宝だと喜んでいましたから」

 

 バッカ野郎ー、シャーラ口が軽すぎ!

 侯爵様の目がキラリンって、いかんばれたかな。

 

 「ほっほーカイトもお宝を持っているのか。それはそれはたのしみだなー」

 

 「侯爵様、口調が棒読みになっていますよ」

 

 「カイトのお宝か、楽しみだね」

 

 「シャーラ口が軽すぎるぞ」

 

 「エヘッ」

 

 ヒャルに褒められ、頭を撫でられて目を細めるシャーラをこれ以上は怒れない。

 口止めしておくべきだった、後悔先に立たずか。

 

 エフォルに、水差しを持ってきてもらい、3年物を取り出す。

 水差しの水を残り半分になった3年物のボトルに移し、蓋をしてゆっくりと回し混ぜる。

 

 侯爵様とヒャルの、期待に満ちた目が怖い。

 グラスを4つ並べると、ヒャルがすかさず氷を入れていく。

 こんな時だけは手際の良いヒャルに呆れながら、三年物をグラスに注いでいく。

 グラスから芳しい香りがサロンに広がっていく。

 

 「どうぞお試し下さい」

 

 侯爵様とヒャルにグラスを差し出し、もう一つをエフォルに渡す。

 

 「一度は味わってみるのも悪くないと思うよ」

 

 最後のグラスを掲げグラスを揺らす、澄んだ音が響く。

 侯爵様フリーズ、ヒャルは天井を見てソファーにもたれかかり、エフォルはグラスを持つ手が少し震えている。

 

 「旦那様のお計らいで、天上の酒を試飲させてもらいました。皆様その名に相応しい逸品だと、口々に申されましたし、私もそう思いました。されど・・・これをなんと評してよいか」

 

 「侯爵様、先に言っておきますが後1本有ります。然し世に出すつもりはありません」

 

 「当然だな、天上の酒であの騒ぎだ」

 

 グラスを掲げ、笑っているが目が怖い。

 残りの1本を2本のボトルに分けて、1本を侯爵様に差し出す。

 

 「良いのか」

 

 肩を竦めてすませる。

 

 呼ばれたのは、フィが王家から魔法指南を頼まれ困っているので、良い知恵を授けてやってくれとの事だった。

 教える相手はヘラルス殿下、現在21才になる。

 生活魔法すら使わない王家に在って、異例の存在だ。

 

  聞けば最後に会った後、国王陛下に願い出て生活魔法が使える事を確かめ、教会に出向いて授けの儀に臨まれたそうだ。

 授かったのは雷撃魔法、魔力高は60と魔法使いとしては見込薄。

 然し魔法師団の師団長や、各部隊の長に指南を頼み、2年余り訓練を重ねて来たが芳しい結果を得られない。

 

 ヒャルが魔力高70なのを思いだし、ヒャルに頼もうとしたが領地に帰っている。

 妹のフィエーン・ハマワール子爵も同じ魔力高ながら、火魔法で訓練場の硬い的を打ち抜いたと聞いた。

 ヘラルス王子は国王陛下に願い出て、フィに魔法の手ほどきを頼んで来たそうだ。

 

 フィはカイトとの約束もあり、ただひたすら魔力切れまで的を打ち練習しただけだと、濁しているがどうしようと泣き付いてきたそうだ。

 

 「判りました、フィの所に行ってみます。ヘラルス殿下の事は道中で何か考えます」

 

 シャーラがお姉ちゃんに会えるので、ニコニコ顔になっている。

 侯爵様がヒャルに、シャーラから貰った御土産の半分を、王家に献上するので侯爵代理として行けと命じている。

 

 その夜エフォルに呼ばれて行くと、何時もの仕立て屋が居て二人とも採寸された。

 エフォル曰く、王都に行けばヒャルダや侯爵様のご用もあるので、それなりの衣装は必要だとさ。

 

 冒険者の衣服は新調したが、小金持ちの伜の服が無いことに気づいたので、当分はそれで凌ぐことにする。

 王都に着いたら一番に、商家の者に見える衣装を誂えねばな。

 

 用意出来た衣装は子爵用2種類と侯爵用で、各2着ありため息が出るよ。

 ヒャルは〔ゴールド10個入り2籠、ビッグビーンズ紛い5個、紅宝玉4房、房の実4房と芳香花4本、香り茸の壺1つ〕をマジックポーチに納め二輪馬車に乗る。

 今回も冒険者用の服に身を固めて満足気である。

 

 王都への旅はグリンが先行し、野獣達の鼻面に魔法を打ち込み追い払うのでヒャルの出番は無し。

 森を歩く時もそうだが妖精達って、俺達と行動する時には結構魔法を使っている。

 俺達の安全のためだけど、クインと会った時も蜥蜴を水魔法で食い止めていたし、グリン達が攻撃的になれば誰も勝てないだろうな。

 

 * * * * * * * *

 

 ヒャルを侯爵邸に送り届けて、フィの所に向かう。

 

 「アイサ様お久しぶりです。フィ様は居ますか」

 

 「シャーラ元気でしたか。フィエーンお嬢様はサロンに居ますよ。もう少し静かに話しなさい」

 

 「ハーイ」

 

 高らかに返事をすると、サロンに駆け出すシャーラ。

 

 「カイト様、お久しぶりで御座います」

 

 「ああ、厄介事だってな」

 

 「国王陛下の頼みとあれば、お嬢様も断る訳にはまいりません。お嬢様の手助け、宜しくお願いします」

 

 「ヘラルスを扱いてやるよ。音を上げたらそれまでだし、やる気があるならなんとかなるだろう」

 

 道中考えた、軽く扱いて鍛えてやる。

 

 * * * * * * * *

 

 フィエーン・ハマワール子爵より、魔法の師匠が王都に到着したので、王城に同道しても良いかとの連絡をもらいヘラルス王子は快諾した。

 

 フィエーンと共に王城に出向く、フィは魔法指南のために作務衣紛いの冒険者スタイルだが、何度も来ているし、王家治癒魔法師なので何も言われない。

 俺はハマワール侯爵様縁の者を示す衣装で、後に従う。

 行き交う人々には少し変な顔をされるが無視する。

 案内係について行くと、見覚えが在る気がする。

 

 「フィ、まさか魔法訓練場じゃ無いよな」

 

 「えっ、そこしか王城で魔法を打てる所は無いのよ」

 

 「ちょっと扱きづらいな」

 

 「あなた、王太子殿下を扱くつもりなの」

 

 先導する案内係が、びっくりして振り返るが無視だ無視。

 

 訓練場には何故か大勢が屯していて、嫌な予感がするってか目付きの悪いのが大勢居る。

 

 「ヘラルス殿下、お待たせして申し訳ありません」

 

 頭を下げるフィの後ろで、会釈して素知らぬ顔。

 

 「あれっカイト、カイトがハマワール子爵の魔法の師匠なのかい」

 

 「貴様、ヘラルス王太子殿下である。跪け!」

 

 「ヘラルス殿下、これは何事ですか」

 

 「貴様、聞こえぬか!」

 

 「殿下、そこで喚いている間抜けに、黙る様に言ってもらえませんか」

 

 「なっなな何を、小僧が無礼な! 私はテグルス伯爵が嫡男オーロスだ」

 

 「で・ん・か、聞こえてますか」

 

 笑ってないで何とかしろ! 声には出さないけど冷たい目で見つめる。

 

 「あっ御免ねカイト。カイトが冒険者ギルドで、猛者を相手にしているところを想像してしまったよ。オーロス静かにする様に、煩いよ」

 

 「でで、殿下」

 

 「ヘラルス殿下、魔法指南をお望みなら、お付きの方々を全て遠ざけて下さい。御無理でしたら魔法指南はお断り致します」

 

 壁の染みが騒めいているが知らねえよ、お前達が居たらヘラルスを扱けないだろうが。

 

 「ハマワール子爵殿、この無礼な男は何者ですか。王太子殿下に対し余りな態度」

 

 「カイト身分証持ってるでしょう。皆に見せてあげてよ」

 

 「殿下、余計な事は」

 

 「言わない方が賢く見えるでしょう。でも、ここは見せた方が話が早いと思うんだけど」

 

 あからさまな敵意の視線に、フィも居心地悪そうだから見せて黙らせるか。

 収納から王家の身分証を出して皆に見せる。

 

 「そんな・・・馬鹿な」

 「どうして・・・こんな小僧が」

 「殿下、あれは本物ですか?」

 

 「あれっ王城に勤めていて、これが偽物に見えるって・・・殿下この人達大丈夫ですか」

 

 〈プーッ〉って吹き出してないで何とかしろよ!

 

 「あー貴方達、あれを持つ彼には、国王陛下と宰相しか命令出来ないのを知っているよね。それと無礼な態度や命令はしないでね。身の安全を保障出来ないから、余計な事を言わずに下がってくれるかな」

 

 文句を言いながら渋々少し下がる面々。

 

 「これって、案外効き目が無いね」

 

 「酷い言われようだ」

 

 「でも実際この身分証を見ても尚、文句を言ったり睨みつけてきたりと、王家に対して何の敬意も見られないよ」

 

 そこでピタリと愚痴っていた面々が黙り込んだ。

 

 「殿下これが最後です。そこにいる方々を見えない所まで下がらせて下さい。出来ないのなら私は帰らせて頂きます」

 

 後ろに控える者達が、側を離れる訳にはいかないとグズグズしている。

 

 「ヘラルス殿下。フィエーン・ハマワール子爵様と私に対する、魔法指南の要請はお断りします。以後この話を蒸し返すのなら、国王陛下と直接話をさせて頂きます」

 

 上手く断る口実が出来てやれやれである。

 さっさと帰るかと、ヘラルス殿下に一礼して振り返る。

 そこへナガラン宰相がやってきたので、又面倒の種がきたと思わず顔を顰てしまった。

 

 「君が来ていると連絡を受けてね」

 

 「今正式にお断りをしたところです。何かご用ですか」

 

 「そう嫌な顔をするな。エルフの長老達が、謝罪をして和解したいと言ってきているのだ。今日の事も含めて、話がしたいのだよ」

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