第141話 情報撹乱

 《身体の調子が良くなったでしょう》

 

 言われて気づいた、普段の身体の調子というかさっきまでとは体調が違う。

 さっき食べた時に気力が漲ると感じたが、気力体力が回復している気がする。

 

 《なぁダルク、この実の名前は何だ》

 

 《ん、回復の実とか魔力の実ってさ》

 

 てさ、てさって何だよ!

 回復の実、魔力の実って名前からして、ヤバイ感全開じゃねえか!

  

 《初めて作るから、結構手間取ったよ》

 

 《まて、ダルク・・・初めて作ったって聞こえたが》

 

 《そうだよ、クインの記憶から作ったんだから、初めてだよ》

 

 《なぁダルク、これって回復したからもう終わりだよな》

 

 《んー回復だけだったと思うけど、ちょっと待ってね・・・・・》

 

 クインの記憶、クインのデータから情報を拾い出してるな。

 

 《あのね傷ついたり不調になっても、直ぐに治る様になるんだって》

 

 誰にも言えない事決定、シャーラにも口止めしておかなきゃ。

 

 《長く生きる・・・ってのもあるな》

 

 ボソリと言ったその言葉にガックリきた。

 それでなくてもエルフとドワーフの血が入ってるから、成長が遅くて長生き確定なのに。

 エリクサー以上の効き目ってか、エリクサーってこっちが本家じゃないのかね。

 

 こうなったら毒食らわば皿までもの覚悟で、今夜実験だ。

 

 夕食後ナイフで腕に傷を付けようとしたが、俺って腰抜けでした。

 いやー自傷行為って怖いね、散々悩んで小指の先にナイフをチョンと刺した。

 みるみる血の粒が膨らむが直ぐに止まった。

 痛み無し、血の粒を拭き取ると傷跡無し。

 すっげーなーと感心していると、冷たい視線を感じる。

 シャーラが、冷たい目付きで俺を見下ろしている。

 

 「シャーラは度胸が有りそうだから、ちょっと腕を切ってみて」

 

 鼻で笑ってナイフを受け取り、あっさり腕に突き刺したよ。

 こいつ凄い度胸だと感心していたら〈カイト様痛〜いですぅ〉って涙目になっていやがる。

 完全な馬鹿だ、馬鹿猫の腕の血を拭き取ると傷跡すら無い。

 

 〈ホェー ・・・ ニャント〉

 ギャグ言ってる場合かよ。

 

 「シャーラ、絶対に回復の実とか魔力の実の事は人には言うなよ。傷付いても直ぐに治る身体って知れたら、確かめようと追い回されるぞ。捕まったら、ナイフでプスリって試されるからな」

 

 「痛いの嫌です、捕まえにきたら返り討ちにしてやります」

 

 お前は強いから良いよ、俺って近接戦闘弱いからなぁ。

 それより下手すりゃ日本の物語の「人魚伝説」とかなんとか、人魚のお肉は不老不死の薬、なんてのがあったな。

 生きたままお肉を切り取られて喰われるって、怖いから逃げる練習に励もう。

 

 「でもカイト様、食べちゃたんだから仕方無いですよ」

 

 確かにな、何にも考えずに食いついた奴に言われたくないが手遅れだよな。

 仕方がないと諦めるが、すぐに身体が治ったからと帰るの訳にもいかないのでのんびり過ごすか。

 日々ダルクの森や、壁と茨の森の境界をウロウロして過ごした。

 

 回復の実は解ったが、魔力の実と呼ばれる意味が解らない。

 魔力量が増えたわけでも無さそうだ、これは幾ら考えても解らなかった。

 ピンク色のダルクの子は、ダルクが実に魔力を込める時に、実から溢れる魔力を抑えていたら、ピンク色になったって落ちだった。

 然し他の子達より相当魔力が多いらしい。

 

 そんなこんなで秋も深まりダルクの森を離れる時がきた。

 シャーラは満足するまで食べたが果実の収穫は最低限に抑えた。

 〈美味しいです〜ぅ。珍しいからフィ様に〉と持ってくるのを際限なく受け入れたら俺の空間収納はパンクするわ!

 

 * * * * * * * *

 

 迷いの森を離れ、フーニー村経由でハーベイには6日目に到着した。

 ハーベイで馬を調達し徒歩から馬車旅に変更、早いねー馬車って。

 ハマワール侯爵様に直接帰還報告、シャーラがお土産を出せと煩い。

 フィ様だけでなく、侯爵夫人のフィリーン様にもちゃんとお土産は有るんだと胸を張る。

 

 問題はその後だ、二人だけになった時にお土産を出して空いた場所に此れをといって出したのが薬草類だ。

 王家に渡した物とそっくりな薬草が、20本づゝの束になっている。

 毒草も水晶ガラスの筒に入れる念の入れように呆れていたら、若葉と花びらまで持っている。

 

 「お前此れをどうして」

 

 「グリンに聞いてダルク様にお願いしました。又頼まれて取りに行くのって面倒でしょう。持っていれば何時でも出せます」

 

 そんな問題じゃないんだが、それをシャーラに言っても始まらないか

 

 雪が降る前に確かめたい事があるのだが間に合いそうも無い。

 ヒャルが調べた、王都で活動していたエルフの冒険者達、〔森の支配者〕達の事だ。

 

 森の支配者リーダー、ヘラル(緑の髪と赤い目)

 斥候のヒザト(グレーの髪にグレーの目)

 火魔法使いのケルタ(灰色の髪と金色の目)

 水魔法使いのヨーラ(水色の髪に緑の目)

 弓の名手クース(銀色の髪に紫の目)

 それに(赤っぽい紫の髪に緑の目)のハムルだ。

 

 ハムルと名乗っているが十中八九、勇者ハマンだろう。

 フルマでの戦いから生き延びたとは考え難い、別命を受けてフルマを離れていたとみるのが妥当なところか。

 それか勇者ハマンの事だから、戦いに参加せず近くで見物していたか・・・それなら単独で俺を殺しには来ないな。

 

 別命を受けたとしたら、テイルドラゴンのお肉が原因かな、相当憎まれたはずだしな。

 それともエムナの里で殺した、長老代表ヒューヘンの身内と聞いたが仇討かな。

 

 森の支配者達が王都から姿を消したのなら、王都に居てもハマンと思しき奴に会う事は無いだろう。

 エグドラに帰って春を待ち、エムナの里とフルマの里の門番を捕まえて、話しを聞いた方が早そうだ

 

 侯爵様に推測を伝えエグドラに帰る事にしたが、その前にどうしても調べておく事が在った。

 

 又ヒャルに頼み王立図書館に出向く羽目になったが、求める情報は無かった。

 ヒャルに、これ以上なら王家の蔵書しか無いと言われ頭を悩ます。

 王立学院もそこそこの蔵書量を誇るが、内容的には王立図書館に劣るそうだ。

 

 侯爵様を通じてナガラン宰相に、王家の蔵書を閲覧させて貰えないか打診してもらった。

 快い返事を頂きシャーラと二人で王城に出向き、ナガラン宰相と面会する。

 ナガラン宰相は既に王家の図書係の司書を待機させていて、直ぐに図書室に案内された。

 

 大広間とは言わないが、ちょっとした謁見の間くらいの広さの部屋の中は、扉と窓以外は床から天井まで壁一面に書物が並んでいる

 

 「どの様な書籍をお望みでしょうか」

 

 「エルフとドワーフ,森の一族の伝承の類い、精霊樹と精霊に関するものを取り敢えず頼むよ」

 

 俺達がソファーに座ると、何処からともなく侍女が現れ御茶を用意して下がる。

 ワゴンに載せられて希望の書籍が運ばれて来たが、ワゴン3台ざっと60冊以上の本の山。

 この中から「回復の実,魔力の実」の二つの言葉を探し出すって、溜め息が出るよ。

 シャーラがブツブツ言いながら文字をなぞる。

 

 「シャーラ口に出てるぞ」

 

 「カイト様これって拷問ですよ。本当に書いているんですか」

 

 「それを探しているんだよ。それと俺達が何をしているのか、しっかり見張られているのを忘れるなよ」 

 

 半日でシャーラは投げ出し、お菓子を取出して食べ昼寝を楽しんでいる。

 俺は用意の紙片を似たような言葉の所に挟み、返却用に積まれた書物の上に置くとき、再度確認し紙片を抜き取る。

 時々紙片を抜き忘れる事もあるが、それは紙片が見えない場所に入り込んでいたときだけだ。

 故意にやっているんだけどね。

 

 どうせ司書を通じて、俺の閲覧している書籍や内容を調べているのは、双方暗黙の了解だからな。

 重要情報の偽装隠蔽撹乱等は情報戦の基礎だよ、ナガラン君。

 時に熱心に読んでいると、完璧に気配を殺し音を立てず静かに侍女がやってきて、御茶のお代わりや菓子皿を置いていく。

 

 君たちの接近はグリンが教えて暮れるからね、ページを飛ばしたり本を閉じてお礼を言ってお茶を飲む。

 

 精霊樹の実についての記述には、回復の実や魔力の実の事について、一切記録が無かった。

 精霊樹の実は100年に一度結実し、神の祝福を受けて黄金色に輝くとあり、思わず吹き出しそうになった。

 勿論紙片を挟みまくって撹乱しておいたけど。

 あながち嘘では無い、真実の中にちょっぴりの嘘を・・・又は何も無い所に真実が有るように装うのだよ。

 回復の実の記録は幻想植物録に、食すれば即座に病気や怪我が治ると在るのみ。

 魔力の実の記述は、魔法大全の魔力の回復法の中に伝説として、森の奥深くに魔力の実の生る木があるとあったが、木に関する詳しい記述は無し。

 

 10日以上の掛かって判った事は、ほぼ伝説か眉唾ものとしての記述しか無いって事だ、それも貴重な本に一行若しくは2行が精々といったところ。

 ナガラン宰相に礼を言って、王家の蔵書漁りを止めた。

 

 ハマワール候爵様にエグドラに帰る事を告げる。

 

 「判った、此方で手配の者達が見つかれば連絡しよう。無理はするなよ」

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