第147話 蛙釣り
「カイト様びっくりしましたよ、気を付けて下さい!」
シャーラに叱られたが、確かに危なかった。
グリンが牽制してくれなかったら死んでたかも。
「シャーラさっきグリンのストーンランスが当たったのに、何故奴はピンピンしていたの」
「真ん中でなく、身体から少しずれていましたから弾かれたんだと思います」
あんなに素早く動かれたら正確に撃つのは難しい、皮膚に直角に当てるのは難儀しそうだ。
《カイト、怪我してない》
《グリン有難う、警告してくれなかったら危なかったよ》
《ん、カイトはグリンが守る》
《有難う、でも無理はしないでね》
シャーラが、テイルドラゴンの頭を撃ち抜いた時の状態を、再現するのが一番手っ取り早い。
アースドラゴンのコモドオオトカゲはゴールデンベアを二口で食べたとセラミが言ってたな。
あれ程でかいのは口に合わないだろうけど、人なら楽に丸呑みするから、それ以上の大きさの餌を多数用意する必要がある。
ウォータードラゴンやアースドラゴンを餌なしで手に入れたからすっかり忘れていた。
釣りをするには餌は大事だ。
オルド達の所で一晩宴会をして息抜きをする。
「カイト達が此処に来るって事は、難航しているのかい」
「目処が付いたから気分転換だよ」
「カイトさん、テイルドラゴン見つけたの?」
「居場所は分ったから、後は準備をするだけさ」
シャーラもセラミとキャイキャイして楽しそうだ。
翌日からテイルドラゴン用の餌取りに周辺を回り、ウルフやファングモンキーにちょっと小型のブラックベア等10頭を、マジックポーチに保存して準備完了。
前回と同じ巨木の上の枝から奴の居た場所を見る、姿が見えない・・・奴は何処ぞ。
なーんて洒落込んでいたら、ちっこいのがウロチョロしているが小さ過ぎてパス。
と思ったら居るいる大小様々、ご一族様ですかと問いかけたい衝動にかられる。
まいったね、餌を置いたら食い放題のレストラン状態になるのは目に見えている。
何か今回は予想外の事が続く、適当な奴の頭に一撃入れて帰りたいのにシャーラも憮然とした顔で見ている。
「シャーラ小さい奴の目の前に、壊れる程度のバレットを撃ち込んで脅してやれ」
射程90メートルのところ迄近づき、バレットを連続して打ち込んでいる。
〈ドーン〉
〈ドーン〉
鼻先で爆発するように砕けるストーンバレットに驚き、比較的小さなテイルドラゴンが逃げ惑う。
3匹程そこそこ大きい奴が残っているので、そいつ等を誘き寄せる事にした。
《グリン、危なくなったら教えてね》
《ん、いいよ》
「シャーラ、誘き寄せるから上から頼むぞ」
そう告げて地上に跳ぶ。
先ずシャーラの立つ枝の真下に、ブラックベアをドンと置く。
秘技を使って40メートル前にもう一つブラックベアをドンと放り投げる。
ブラックベアの陰にジャンプして又ウルフを200メートル程先へポイと投げる。
テイルドラゴンの見える所に餌のファングモンキーをドン、もう一つドンと転移を使って投げる。
後も見ずに、シャーラの隣に文字通り跳んで帰ってきた。
投げた餌の確認、動かない餌に気がついて無いようだった。
仕方がない危険だがやるぞ!
俺はやるぞ! 俺はやるぞ! 俺はやるぞ!
気合を入れて再び一番遠い餌のファングモンキーの陰に跳ぶ。
2体のうちの一つをテイルドラゴンの近くに遠隔魔法で放り投げる。
オッ気づいて向きを変えた所で再度遠隔魔法の本領発揮、チョイチョイとシャーラの方に、餌のファングモンキー跳ばして引き寄せる。
子供の頃にエノコログサ、通称猫じゃらしを使って遊んだが蛙釣りを思い出す。
テイルドラゴンの前に餌を置き2,3度に一度は食べさせる。
《カイト、面白そう♪》
《グリン、後でやらせてあげるから今はよく周りを見ていてね》
《ん、後でやらせてね》
気楽だよねー、妖精って。
再度シャーラの隣に戻り、転がっている餌を目の前に落してチョイチョイと移動させる。
「カイト様、ドラゴンと遊ぶなんて凄いですぅ」
おまっ、これでも真剣なんだぞ。
まあ元が日本の子供の遊び、蛙釣りの要領だからドラゴン釣りも遊びに見えなくもないか。
「シャーラ、外すなよ」
「はい、任せて下さい」
俺達の下に引き寄せられて来たので、ブラックベア2頭とウルフを振舞ってやる。
陽は高いけど最後の晩餐だゆっくり食べろ。
2頭目のブラックベアに噛み付いた時、テイルドラゴンの頭にストーンランスの角が生えた。
お腹がパンパンに膨れていますが、満足して死んだかな。
頭を撃ち抜かれたテイルドラゴンの、死の痙攣ピクピクタイムも終わった様なのでストーンランスを消して貰う。
「シャーラ移動するから援護を頼むぞ」
此処でゆっくりマジックポーチに仕舞う訳にはいかないのでドラゴンちゃんとお手々繋いでジャンプだ。
テイルドラゴンの隣に降り立つとお手々繋いで即座にジャンプ。
4度繰り返して周囲の安全を確認してマジックポーチに仕舞う準備を始める。
長ーい尻尾にロープを括り頭の方に引き寄せて縛る。
最新のランク14のマジックポーチ、有り難く使わせて貰いますよナガラン宰相閣下。
結構手間取ったが終わり良ければ全て良し。
オルド達の待つキャンプハウスに跳ぶ。
* * * * * * * *
帰りは気楽に血塗れの牙の為の獲物を少々狩り、シャーラの見つけた香り茸を全員でチマチマと掘り出す。
こんな小さな芋の様な茸が金貨に化けると知り目の色を変える面々だが、目の前に有っても見つけられずガックリしていた。
俺だって、シャーラの指示が無ければ掘り出すことすら出来ないから笑えない。
森を出て草原の先にエグドラの街が見えたとき、セラミちゃんが二度と俺達には付いて行かないと言っていた。
森の一族と生活した事のあるナジルですら、真剣に頷いている。
一度森に入れば二月三月は当たり前、今回は5ヶ月近くも森の中での生活だったから疲れた様だ。
エグドラの冒険者ギルドに寄り、オルド達の獲物を売り払い香り茸を小さな壺一つを渡す。
掌サイズの壺一つで、金貨18枚も貰ってビックリしている。
シルバーフィッシュとレインボーシュリンプを各100匹、血塗れの牙名で買い取りに出す。
ゴールデンベアやバークベア,フォレストシープ,ビッグホーンシープの代金と合わせて貰えば、当分楽できるよと言って別れた。
2,3日休んだら王都に向けて出発だ。
テイルドラゴンを渡せば、王国はダルク草原に関し如何なる口出しも出来なくなるので一安心。
* * * * * * * *
カイトの訪問を受けて、国王陛下のお供でナガラン宰相はいそいそと応接室に向かった。
「随分長くなったな。カイト達の腕前なら2,3ヶ月で帰って来ると思っていたが」
「ちょっと遊んでいましたので、それと書物に記載されているテイルドラゴンの生態と違っていたので、探すのに難儀しましたから」
「探すのに難儀したということは、倒すのは簡単だったのか」
「仮にもドラゴンですから、結構面倒ですよ。近づけないし」
「見せて貰えるか、予もテイルドラゴンを見るのは初めてだ。最もアースドラゴンも、もっと小さい奴しか見た事が無かったからな」
近衛騎士達の訓練場に行き、テイルドラゴンのお披露目となる。
「これがテイルドラゴンか、書物にある通り尾が異様に長いな。体の倍以上有るな」
テイルドラゴンの周囲を歩き回りながらフンフンと頷いている。
マジックポーチ持ちにテイルドラゴンを仕舞わせると、応接室に戻る。
「ウォータードラゴンを思い出すぞ。あれも尻尾を曲げて持ってきていたな」
「魔力高40にすっかり騙されましたよ」
「宰相も予もまさかと思い、疑いもしなかったからな」
「所でお肉の半分の権利は有るんでしょうね」
「勿論だ。テイルドラゴン討伐を依頼したからには、依頼金も支払うぞ」
「それは不要です。肉は以前の約束が在りますが、テイルドラゴン自体はダルク草原の要求に対する交換条件ですから」
「そういう訳にもいかんだろう。これを有難うと貰ったら、王国の沽券に関わるからな」
「ではテイルドラゴンはお約束どおり、ダルク草原に対する要求の交換条件として渡します。先々の必要になると思われますので、これを買い上げて下さい。これだけ有れば、戦にでもならない限り薬草が必要にはならないでしょう」
シャーラがダルクに願って集めてきた、薬草類の数々、前回の2倍の量がある。
テーブルの上に並べると、陛下も宰相も口を半開きにして固まってしまった。
「陛下,宰相閣下鑑定使いを呼んで頂けますか」
フリーズしていた宰相が、慌てて近衛騎士の一人に命じて鑑定使いを呼びに行かせる。
陛下はさっきから唸ってばかりで、背後の近衛騎士達も腰が引け気味だ。
呼ばれてやって来た鑑定使いと薬師の二人は、目の前の薬草や毒草の数々に硬直気味だ。
一年もしないうちに再び同じ物を目にするとは思わなかったよな。
そこへ陛下が追い打ちをかける。
「テイルドラゴンも手に入ったから、エリクサーを作ってもらうぞ」
そう言われて、薬師が完全にフリーズしてしまった。
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