第184話 外伝・ドラゴンスレイヤー・6 ・

 どう少なく見ても30メートル以上は有る大きさだし、あの金色の目に見つめられたら恐怖で身動き出来ない。

 女性や長物が嫌いな人からすれば、恐怖の対象でしかない存在だ。

 俺だって初めてフォレストスネイクと遭遇した時は、完全にビビったもんだ。


 「どうします、殿下がやりますか。其れとも俺かシャーラがやるのを見ていますか」


 「遣ります! 遣らせて下さい」


 シャーラに殿下の背後を守らせ、俺は殿下の横で見ている事にする。

 蛇が獲物、殿下に飛びかかったときに土の盾で防ぐ為だ。

 いざとなったら砦を造り、周囲を囲ったら以前の様に穴に落とせとシャーラに指示する。

 ヒャルとフィは地面に穴を掘り、中から見物だ。

 フォレストスネイクが見える位置に上部をドーム状にして覗き穴を開け見学してもらう。


 ヘラルスが深呼吸した後、俺を見て深く頷くと隠れていた藪から出る。

 蛇の頭がゆっくりと俺達の方に向き、赤く長い舌がシュルシュル蠢く。

 背筋がゾワリとし、冷や汗が流れる。

 何時もなら安全地帯から攻撃するのだが,今回はヘラルスの度胸試しと魔法の最終試験だ。

 恐怖に打ち勝ち、落ち着いて魔法を獲物に叩き込めるかどうか。


 チラリとヘラルスを見ると総毛立っているのが判る。

 背中を平手で一発叩き〈殺れ!〉と命じる。

 蛇がずるりと木の枝から滑り降りて来るのを見て詠唱を始めた。

 二日程前から始めた短縮詠唱だ。


 〈雷よ・其れに・落ちよ!〉

 〈パリパリパリドーン〉


 地面に降り、鎌首を上げようとしたところへ頭に雷撃が落ちる。

 上げかけた頭が地面に落ちたが、再び頭を上げると身体を縮め始めた。

 身体がつづら折れ状態になったら、前方にジャンプして突っ込んで来るのが蛇の攻撃だ。


 「殿下、蛇の舌に雷撃を撃ち込みなさい!」


 〈雷よ・其の舌を・撃ち抜け!〉

 〈パリパリパリドーン〉


 頭が後方に吹き飛んだ様に見えたが、弾かれただけで死んではいない。

 然し相当なダメージを与えた様で、のたうっている。


 「砦!」


 〈ドッカーン〉


 間一髪、のたうつ蛇の胴体に弾き飛ばされるところだった。

 こうなったら長いんだよなー、くねくねとのたうち団子状になり辺りの灌木を薙ぎ払うフォレストスネイク。

 一瞬の隙を狙って首を押さえ込み、苦し紛れに口を開いたところで殿下に止めをささせる。


 〈雷よ・其の口に・撃ち込め!〉

 〈パリパリパリドーン〉


 のたうっていたフォレストスネイクが口内への一撃で身体を丸めて蠢き痙攣を始めた。


 「おーし終わった終わった。殿下ご苦労さん、休憩しましょう」


 魔力切れ寸前の殿下をヒャル達の穴に入れ、お茶の時間にする。


 「カイト、あれで死んでるの」


 「フィ、蛇は死んでも直ぐに大人しくならないよ。当分ああやって動くから、お茶でも飲んで待っていれば静かになるよ」


 極上のお肉が手に入る前祝いに、三年物を提供して乾杯だ。

 殿下に気付けの酒を渡し、四人で乾杯。


 「然しフォレストスネイクかぁ、凄い威圧感だね」

 「本当ね、よくあんな恐い物の前に立つわね」

 「あれはドラゴンの前に立つより恐いな。覗き穴から見ていても、身の毛がよだつって言葉を体験できるよ」


 「まあね、何時もなら絶対に姿を見せずにやるんだけどな」


 チラリとヘラルスを見ると、ヒャルとフィが微笑んでいる。


 「で、どうなの」


 「もう教える事は無いよ。後は此奴を解体してもらってお肉を頂くよ」


 「えっ・・・全部持って行くの。カイトせめて一塊は私に貰えないか」

 「兄さん、一人だけ貰うつもりなの」

 「カイト、フォレストスネイクのお肉を見逃したら、父上に廃嫡されるよ」


 「均等に4等分するよ」


 「あっ、護衛の冒険者達の取り分は」


 「此処に冒険者達は来ていないよ。それと道中と約束しているからね」


 「まさかお肉の為に、冒険者達を森の入り口に置いてきたの」


 「それはないよ、大勢で来たら移動だけでも大変だからね。この人数なら、グリンとピンクに手伝って貰もらえば移動が楽だろう。姿を現しても噂になる心配もないしね」


 一晩ゆっくり休み、帰りは歩いて待ち合わせ場所に行く。

 行きはジャンプを多用し、広範囲に森の獣を狩るのが忙しかったが、歩いて森の大変さと広さを実感して貰う。

 約束の10日目には護衛達と合流してエグドラの街に戻った。


 * * * * * * * *


 「おう、帰って来たか。で、森の状況はどうだ」


 「まあ以前よりは良くなってますが、もう暫くはこの状態が続くんじゃないですか」


 「ドラゴンはいたか」


 「2頭ばかりいました。出しますので解体場に行きましょう」


 1頭は11メートル程で、角と口内が焦げたアースドラゴン。


 「此奴は殿下が一人で?」


 「そうです、でこっちが俺とシャーラで倒した奴ね」


 ヒャルとフィに俺達の現在の力が見たいと言われ、俺が首をシャーラが頭をストーンランスで撃ち抜いた、

 以前なら弾かれていたが、俺達二人も相応に魔力を増やし威力を上げている事を示した。

 アースドラゴンを一撃で撃ち抜いたのを見て、ヒャルもフィも何時か追いついて見せると鼻息が荒い。


 アースドラゴンの後は熊,狼,エルク,ボア等々ゾロゾロ出て来るのでノーマンさんに呆れられた。

 護衛の騎士や冒険者達も、10日程の間に何でこんなに討伐出来るのかと首を捻っている。

 ヘラルスが冒険者達に向かい、道中ではないがアースドラゴンと蛇以外は君達にあげるよ伝えて大喜びされている。


 ノーマンさんの目が光る。


 「おいカイト、蛇って?」


 「緑色の奴、お肉以外は全部売るよ」


 がっちり首を固められ、ノーマンさんが低音で囁く。


 「判っているだろうな。逃がさねえぞ」


 「明日お肉を取りに来ますから、ハマワール侯爵様の所でステーキ食べ放題をしましょう」


 「喉を潤すあれは?」


 「当然有りますからご心配なく」


 ヘラルス殿下が一人で倒したアースドラゴンは、王都に持ち帰る事になった。

 陛下に見せた後は、内臓をエリクサー用に取り、肉は王家初のドラゴンスレイヤー誕生を祝う晩餐会に使用する事になった。

 俺達の分はハマワール一族三人と俺達で夫々分ける事になった。


 翌日フォレストスネイクとアースドラゴンのお肉を受け取り、ギルマスのノーマンさん共々侯爵邸でフォレストスネイクのステーキで晩餐会を開く。

 王都から付き従った王家の護衛10名と、ハマワール伯爵の護衛40名は別室でアースドラゴンのお肉が振る舞われる。


 またヘラルス殿下より、王家とハマワール家の護衛達50名に一人金貨10枚が渡される事を伝えられた。

 冒険者達がアースドラゴンや野獣の売り上げを、丸々貰って大儲けしているのを羨ましげに見ていた護衛達も、殿下の配慮に大喜びしていた。

 もっとも殿下にそんな配慮をする気配りは出来ないので、ヒャルがそっと耳打ちしていた。


 侯爵様の晩餐でフォレストスネイクのお肉が供されると、初めて食べるミューラとファーラはもとより、久々に食べる面々も黙々と食べる静かな食事となった。

 ギルマスのノーマンさんは、流石に侯爵様の晩餐だから唸り声は上げなかった。

 然しお肉と天上の酒を交互に口に運び、食事に没頭してステーキ3枚を食べて満足していた。

 食後サロンに移動し、三年物のグラスが配られお肉の余韻に浸りながらの歓談となった。


 * * * * * * * *


 俺達は3日間ハマワール侯爵邸に滞在したが、ヘラルス殿下が王都に帰還する為エグドラを離る時に、彼等と別れて森の奥に向かう事にした。

 前日の夜サロンで、役目は終わったので森に向かうと告げると、今度は何時来るのかと問い詰められる。

 お土産だけ置いてさっさと消えず、数日は滞在しろとフィとヒャルに詰め寄られ承知する事になった。

 その為侯爵様に馬車と馬を預け、森から帰ったら王都の屋敷にも寄る事を約束して二人で森に向かった。


 * * * * * * * *


 「父上只今戻りました」


 「ふむ・・・なかなか過酷な体験だった様だな」


 苦笑いするヘラルスの顔を見て、国王はその顔の表情から甘さが消えていると満足した。


 「今回のエグドラ行きの成果はどうだ」


 「はい、アースドラゴンを1人で倒す事が出来、フォレストスネイクは止めを刺す為、カイトに手伝ってもらいましたが仕留めました。エグドラ冒険者ギルドのギルマスより、1人でドラゴンを倒せるとの言葉も頂きました」


 「ほう、アースドラゴンを1人でか」


 「もっともカイトとシャーラが護衛についてです。フィエーン子爵とハマワール伯爵が立ち会っています。ご覧になりますか」


 頷く父王とナガラン宰相と共に魔法訓練場に行き、アースドラゴンを取り出す。

 体長約11メートル、雷帝と呼ばれるハマワール伯爵のドラゴンよりは小さいが立派なアースドラゴンである。

 フォレストスネイクはカイトがお肉がいると言い、ハマワール一族とカイト達とで分け合ったので、皮と肉の1/3を貰ってきていると告げると大喜びされた。


 * * * * * * * *


 一週間後王城の大広間で、ドラゴンスレイヤー誕生の祝賀晩餐会が開かれ、フォレストスネイクの肉がメインの料理は絶賛された。


 晩餐会に参加した貴族や招かれた他国の高官達は、大広間に入る前に通路の外に置かれたアースドラゴンを見る事になった。

 ドラゴンの傍らに控える説明者は、ヘラルス殿下が雷撃魔法で倒したもので、ハマワール伯爵とフィエーン子爵様が見届け人だと告げた。

 ヘラルス殿下の雷撃魔法も良く知られていたので、横たわるアースドラゴンの角と口内が雷撃により黒く焦げているのを見て納得した。


 晩餐会の始まる前に、国王陛下がアースドラゴンはハマワール伯爵とフィエーン子爵の見守る中ヘラルス殿下が1人で倒したが、今晩の晩餐で振る舞う肉はフォレストスネイクだ。

 フォレストスネイクもヘラルス殿下が倒したのだが1人では叶わず、土魔法使いの手助けで倒したと話した。


 新たなドラゴンスレイヤー、王家初のドラゴンスレイヤー誕生を祝して乾杯の後晩餐会が始まった。


 ** ドラゴンスレイヤー完 ** 


 漸く魔力の足りない冒険者が終わりました。

 この半分で終わらせるつもりでしたが、結構長引きご迷惑をお掛けしました。


 22/06/14日 20:00現在

 全 184話、文字数 650,244文字

 総PV数 9.889,127 ・・・これ最終的に1,000万PVに届きそうです。

 follower数 18,274

 ☆数 11.663

 ♡数 164,868


 作者の自己申告ですが、確認画像を近況ノートに添付していますのでご覧下さい。

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魔力の足りない冒険者 暇野無学 @mnmssg1951

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