第170話 森の野獣

 何時もの様に箱詰めだが、予定の20箱を過ぎても自分で箱を作りシルバーフィッシュを詰めるシャーラ。


 「シャーラ、これ以上は無理だぞ」


 「大丈夫です、マジックポーチに仕舞えば2,3ヶ月は持ちます。暫くはマジックポーチの方を食べます」


 シルバーフィッシュの欠食期間が長かったので、少しでも多く備蓄したいのは判るけど困ったね。


 《シャーラ、それ預かってあげようか》


 誰も居ない森の奥なので姿を現しているグリンが、シャーラの目の前にふんわり浮かび呟く。


 《へっ・・・グリンが?》


 《そっ、カイトとシャーラの魔力で同じ魔法が使えるから、沢山仕舞えるよ》


 それを忘れていた・・・て、待てよ俺とシャーラの魔力にグリンの元々の魔力が合わさっているのなら、グリンの魔力高っていったい幾らなんだろう。


 《わたしも出来るよー、沢山預かってあげるよ》


 がぜん興味が湧いたので作業を中断し、グリンとピンクの魔力高測定を始めてしまった。

 シャーラが少しむくれているが、二人が空間収納を使えれば倍以上保管出来ると教えたら、とたんに機嫌が良くなる現金な奴。


 柵の上に立ち上流に向かってストーンバレットを打つ、威力が落ちた場所が約40メートル。

 グリンとピンクに交互にストーンバレットを打って貰うと、俺の倍以上飛んでいる。

 シャーラと並んで打たせると同程度飛んでいるので、シャーラと同じ魔力高90は有ることになる。


 ちょっと疑問に思い、グリン自身の魔力だけで打てるのかと聞いてみた、魔力が混ざっていて無理らしい。

 それでもシャーラと同じ魔力高90とはね、魔力高90が三人いる事になる。

 転移魔法使えるのが4人、土魔法を使えるのも4人、風魔法使いが3人に治癒魔法使いが3人,空間収納持ちが3人。

 その内二人は姿を消せるし自由に飛び回れる、無敵の魔法集団じゃね。

 ちょっと中二病に感染しそうな気がする。


 二人の空間収納を調べてみたら5メートルの棒を十字に組み合わせた物を楽に仕舞えたから多分空間収納も9×9×9の729立方って、それが二人もいる。


 「シャーラ、好きなだけ箱づめしても良いぞ」


 なんか力が抜けるよな。

 調子に乗ったシャーラが60箱もつくり、翌日もシルバーフィッシュの箱づめ作業で地獄を見ることになった。

 お陰で次の日は腰痛のため、一日ごろごろして過ごすことになった。

 イクラは作れなかったが雌も大量に捕れたので、その時々で卵を採取して作ることにする。


 一日休みをとったら次はレインボウシュリンプだ、たっぷり収納できるからと安心していた俺が間抜けでした。

 箱づめ作業は俺とシャーラしか出来ない、後の二人は収納のみなのを忘れていた。

 だが頑張ったよ、酒の肴に焼きレインボーシュリンプの身をほぐしたのは欠かせない。

 シルバーフィッシュの皮のパリパリ焼きと、甲乙付けがたい珍味だからな。


 50匹入り20箱1,000匹、ひたすらレインボウシュリンプの頭を土魔法で作ったトマホークで叩く作業に疲れた。

 途中からグリンやピンクに、ストーンバレットでレインボウシュリンプの頭を叩き、成仏させるのを手伝って貰った。

 その夜は三年物で乾杯、シャーラはお魚丸齧りでご満悦。

 グリンとピンクも、シャーラの魔力に浮かんでほんわかしている。


 * * * * * * * *


 クインの森・・・茨の森がズタズタになっている。


 《クイン、これはどうしたの》


 《カイト、良く来ましたね。シャーラも来たのね》


 《クイン様これは何ですか? 酷いことになってますよ》


 《ドラゴンが増えすぎて、茨の森にも入って来るようになってしまったのです。時々有る事だから、いずれ収まります》


 《時々有るって、森の野獣達が増えすぎた事かな》


 《そうです、長い日々の中には時々変化の時が訪れます。しかしいずれそれも収まり、何時もの日々に戻ります》


 クインに時間的な事を聞いても無駄だから聞かないけど、時々有る事でも人の生きる時間からは天変地異に等しい出来事なんだよな。

 ぼんやりと考えながら茨の森を見ていて腹が立ってきた。

 蜥蜴の野郎に荒らされて木々が倒れ、隙間だらけなので所々壁まで見えている。


 《クイン、壁は無事なんだね》


 《それは大丈夫、カイトとシャーラが魔力を込めているからね。それに壁を越えようとしても、魔力の障壁が有るので蜥蜴には越えられないでしょう》


 クインに断って蜥蜴が森に入れないように杭を立てる事にした。

 先ず茨の森の外側ギリギリに杭を立てていくことにした。

 杭と杭の間は約1メートル、二つの杭を底辺として正三角形の頂点部分にもう1本杭を立てる。

 人や小型の動物は通れるが大型のドラゴンは通れないようにする。

 日本の公園なんかの入り口にある、自転車進入防止柵のようなものだ。


 グリンとピンクには茨の森の中にいるアースドラゴを追い出してもらう。

 ストーンランスは効かないが、ストーンバレットを蜥蜴の鼻の頭や目を狙った撃てと言っておく。

 昼は杭を立てて回り夜は壁を越えて中に入り、クインの森の中でキャンプハウスを出して一人宴会だ。

 シャーラはクインの所で果物を手に入れ、グリンに預けたのを取り出してどれを食べるか真剣に悩んでいる。


 茨の森からアースドラゴンを追い払い、グリンとピンクにも杭を立てる手伝いをして貰って、進入不可能なように杭を立て終わった。

 クインの森を中心に周辺の調査を始めたが、アースドラゴンもテイルドラゴンも数は多いが、小さいものが中心で大物は少なかった。

 

目に付く奴を片っ端から穴に落として埋めていく。

 これならストーンランスやストーンジャベリンが通用しなくても問題ない。

 最もこの手が通用するのは精々7,8メートルクラスまででそれ以上の大物は足を埋めて下から突き上げる方式で倒す。

 この落とし穴方式はピンクがことのほかお気に入りで、以前テイルドラゴン討伐に使った手口、蛙釣りに繋がるものがあるしい。


 クインの森周辺は粗方片付けたので、エグドラに帰る前に三年物二年物の収穫に励む。

 大満足、お肉用にアースドラゴンとテイルドラゴンの大きいのを獲ったが、頭と尻尾を切り落として小さくした。

 グリンとピンクに預かって貰っているが、タイミングを見計らってノーマンさんに解体をお願いするつもりだ。


 * * * * * * * *


 クインに別れを告げ、再びアガベの居るホルム村に向かが、出会う野獣は手当たり次第に仕留め埋める。

 これほど数が多いと、間引かなければ街の方に溢れて来るのは目にみえている。

 ホルム村近くで獲れた野獣はマジックポーチに入れて、村人達のお土産にする。


 * * * * * * * *


 「随分長く奥地に居たんだな」


 「どんな具合か見て回っていたからな。アースドラゴンとテイルドラゴンが大繁殖していたよ。それに他の野獣も結構増えているな」


 「それは我々も気づいているが、数が多すぎて討伐も大変だよ。土産に貰ったものもよく肥えていて良質な肉が取れるので助かるよ」


 お肉が取れるで思い出しアガベにアースドラゴンとテイルドラゴンの解体を依頼する。

 報酬はお肉半分とシルバーフイッシュにレインボーシュリンプだ、勿論快諾してくれたね。

 エグドラで解体して貰うと何かと気を遣うが、ここなら安心して頼める。

 解体して貰ったお肉はマジックポーチに入れるが、その夜のうちにグリントピンクの収納に納まった。

 

 近いうちにエグドラに行くと言うアガベに別れを告げ、再び森に入る。

 エグドラに帰るのだが、エグドラ周辺の野獣狩りをしながらなので結構時間がかかった。

 ギルマスのノーマンさんに見せる為の野獣は、一通りマジックポーチに収めたので街に帰る。


 * * * * * * * *


 「随分長かったな、どうだったアガベ達は無事だったか」


 「ホルム村周辺も、随分野獣の数が増えていましたよ。一応森の奥とホルム村周辺からエグドラ周辺までの野獣を、一匹づつ確保していますから後で出しますね。それはそうと、随分人が増えてませんか」


 「うむ、侯爵殿が野獣討伐に賞金を掛けて、各地の冒険者を呼び寄せたからな。もう応援依頼なんかでは間に合わなくなる恐れがあると言ってな」


 「確かに腕の良い冒険者を多く集めておけば安心でしょうしね」


 見せて貰おうかの声で解体場に向かう。


 「カイト殿、お帰りか」


 「セレゾさんワーグさん、お久し振りです」


 「森の奥に行ってたんだってな。どんな様子だった」


 「今から解体場で見せますから来て下さい」


 話を聞いていた冒険者達がゾロゾロとやってくる。

 解体場を空けてもらいマジックポーチから次々と並べていく。

 熊さん4種類、狼さん4種類、猿さん2種類、牛さん2種類、猪さん2種類、羊さん・・・


 「ちょっと待て、幾つ持っているんだ」


 「えーと、後は鹿と蛇かな」


 〈おい凄えな、初めて見る奴も多いわ〉

 〈はー、これを二人で森の奥へ行って狩って来たのかよ〉

 〈俺には無理だぜ〉

 〈まぁゴブリンに苦戦しているから、森にも入れないよな〉

 〈煩せーよ、ホーンラビットにすら馬鹿にされてる奴に言われたくないな〉

 〈おい見ろよ、全て一撃だぞ〉


 「あーもういい、これ以上出しても皆の参考にはならん」

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