第80話 好きだが嫌いなもの

 ナガラン宰相から話を聞く事が出来たが、ヘイル・ドーマン伯爵は捕らえた時点で壊れていた様だ。

 取り調べには難儀したが、護衛の冒険者達から情報を引き出せたと笑っていた。

 

 現時点ではヘイル・ドーマン伯爵を処分出来ないので、降格のうえ幽閉し後を子供に継がせる事になりそうだと聞かされた。

 もう興味の対象外なのでどうでもよかった

 

 * * * * * * * *

 

 シャーラは今日も快調です、人が湯舟でのんびりしているのに妹分を引き連れて突撃してくる。

 〈ドボーン〉〈トポーン〉〈トポン〉とそれぞれの音と共に湯舟に入ってきて 〈フアーァァァ×3〉の合唱となる。

 俺は男として見られていないらしい。

 

 侯爵様から、春になればエグドラに帰るのでと護衛を頼まれる。

 魔法大会も貴族部門が無いので、無理に王都に来なくても良くなり気楽らしい。

 

 王都出立までの間は、シャーラの魔法訓練と俺は魔力循環と放出を繰り返す。

 のんびりとしているのはグリンだけだ。

 シャーラはストーンジャベリン19発,ストーンランス,57発撃てる様になっていた。

 転移魔法に至っては、200メートルで18回跳べるではないか。

 900メートルで4回跳べる計算になる。

 

 聞けば、俺が落ちては消え落ちては消えをしているのを見て、楽しそうだったので私もやりたいと頑張ったそうだ。

 そうだね、シャーラちゃんはそういうニャンコだったわ。

 面白そうなもの美味しそうなものには、即座に食いつくニャンコ。

 

 まぁそれで魔法の腕が上がるなら、それも良しだな。

 魔法の使用回数が上がるって事は魔力量が増えているって事なので、増えた魔力を浴びて御満悦のグリンだった。

 街に帰り王都出立の準備を始める。

 シャーラはフィの所に入り浸ってお姉ちゃんに甘え、オルラン隊長と近接戦闘の模擬戦を楽しんでいた。

 模擬戦を楽しむ心境が、俺には理解出来ない。

 

 * * * * * * * *

 

 王都出発は5月になってからとなった、捕らえた裏家業の関連でハイヤル地方ハマワール領の情報も結構有った様だ。

 

 何時もの様に侯爵様の馬車には侯爵様とヒャルに俺とシャーラが乗り込む。

 使用人の馬車に護衛の騎士20名護衛の冒険者20と編成も変わらずだ。

 

 フィがたまにはエグドラに帰りたいとぼやいていたが、陛下の許可がなければ王都を出られないからね。

 そんなフィには、シャーラが今度森に行ったら珍しい果実を探して持って来ると約束していた。

 そう言えば芳香華がもう枯れたと言っていたので、空間収納に有った1鉢を渡したら喜んでいた。

 

 旅は順調だが、通り過ぎる領地の当主に挨拶をして泊まるので遅々として進まない。

 二輪馬車の旅が恋しい。

 ヒャルもウンザリ顔だが貴族の柵を無視できない、不満解消に野獣を見つけると喜々として魔法で撃ち倒している。

 

 グリンは俺達が馬車旅をする時は森に近い所を飛んだり、御者台に座るシャーラの肩に乗ってお喋りしている。

 

 《何か来るよ》

 

 グリンの警告の声、シャーラが御者と護衛に警戒の合図を送る。

 馬車の速度が半分以下になりヒャルも、やる気満々で何時でも飛び出せる体制になる。

 

 《長い奴だよ》

 

 〈ウェッ〉って変な声はシャーラだな、蛇は嫌いなんだよね。

 お肉は大好きなのに。

 

 「ヒャル様子がおかしいので出るのは待って。シャーラ変わるぞ」

 

 青い顔のシャーラと代わり御者台に座り、気配の方を見ると右手の叢が微かに揺れている。

 

 「馬車を止めろ! 蛇の様だから馬車の周囲に固まれ!」


 長いのが嫌いな、冒険者や騎士達が顔色を変えている。

 これだけの目が有るところで奥義も秘技も使えない、ショットガンの大で対処するしかない。

 御者台に立ち揺れる叢の先を狙いショットガン大の5連続射撃を撃ち込む。

 一気に叢が大きく揺れると、蛇の胴体がうねり灌木や草を薙ぎ払う。

 

 以前の蛇程大きくはない、3割減といったところかな。

 首より後ろ3メートル辺りに、5,6個の穴が空いているのか血が垂れている。

 ヒャルが横に来て〈マジかよ〉なんて台詞、その日本語何処で覚えたんだよ。

 

 「ヒャル頭を狙ってショットガン大を撃ち込んで」

 

 ヒャルがショットガン大を撃ち込むが、のたうち回る蛇の頭に中々当たらない。

 

 「ヒャル、連射の稽古不足だね」

 

 「駄目だ! カイト代わって、今度練習に付き合ってよ」

 

 ヒャルに代わり、頭を狙ってショットガンの5連射を撃ち込む。

 5連射して当たったのは1発の半分くらいだけ、これ程動きが激しいと当てるのが難しい。

 馬車の中のシャーラに声を掛ける。

 

 「シャーラ、これも美味しいかも知れないよ」

 

 「やります!」

 

 現金な奴、護衛を掻き分け街道に立つと水平に頭を狙ってショットガンの連射。

 お前何発撃つんだよ! 首がちぎれかかっているじゃないか。

 

 「シャーラ、止め! やめー、もう死んでるよ」

 

 「未だ動いてまーす、死んでませーん!」

 

 「シャーラ、怖いからってバラバラにしたら食べるところが無くなるぞ」

 

 その一言で撃つのを止める。

 馬車の中から大きな笑い声が聞こえてくる。

 

 「あーシャーラ、蛇は死んでも暫くはああやってのたうつからな」

 

 15分くらいして漸く動きが止まる。

 近寄ってみると濃い灰色に濃緑の斑模様で胴体が60,70センチの太さの蛇だった。

 長さは20メートルは楽に越えるだろう、冒険者に食えるか聞いてみたら、呆れた顔をされたよ。

 冒険者曰く、ブッシュスネイクと呼ばれる森の灌木の中にいる奴で、こんなに大きいのは聞いた事が無いと言っていた。

 

 味は良いそうで高値で取引されるんだと、ニコニコ顔で言われた。

 そうだった護衛中の獲物は、冒険者の取り分だった。

 それを聞いたシャーラの落胆振りたるや、この世の終わりみたいな顔になっている。

 

 侯爵様が馬車から降りてきてシャーラの頭を撫で、冒険者と交渉して一人頭金貨10枚でお買い上げ。

 シャーラにウインクして、帰ったら蛇のお肉をたらふく食わせてやると約束している。

 シャーラ復活!

 

 俺は取り合えずちぎれかけた首を切り離しマジックポーチに仕舞う。

 胴体をギロチンで切り離したいが、それをやるとオークションの件がばれる畏れがある。

 冒険者達と難儀しながら3つに切り分ける。

 何とか切り分けマジックポーチに仕舞うと、今夜の街に向かう。

 

 「いやー流石にブッシュスネイクを見たら、腰が引けるよ」

 

 「まぁね、蛇はあんまり見たくない相手だよ」


 「然し、良く気づいたな」

 

 「以前のフォレストスネイクの時と同じ悪寒がしましたので多分蛇だと、シャーラも怖がっていましたし」

 

 グリンに教えて貰ったなんて言えない。

 

 《グリン有り難う》

 

 《ん》

 

 エグドラに帰り着いたときには7月になっていて、21才になったが成長している様子が無い。

 シャーラはすくすくと育っているのに、不公平だ!

 俺の悲しみも知らず、シャーラは侯爵様に蛇のお肉をたらふく御馳走になり、満足そうなこと。

 

 暗殺者捕獲と護衛依頼の料金として、それぞれ金貨1袋づつ貰って我が家に帰った。

 居間で寛ぐ俺に、今年は何時から森に行くのか聞いてくる。

 秋にならなくても夏には夏の果実があるし、少し早めに森に行ってもよいかな。

 グリンも森の中の方が嬉しそうだし。

 

 へミールに空間収納に保存する料理を、大量に作って貰う事にする。

 最低4ヶ月分と聞いて慌てていたが、スープを各種大きめな寸胴に作れば、そのまま保存するからと伝える。

 パンは薬草袋の大きいのに入れればよし、サラダは大きめな容器に各種作ってそのまま保存だ。

 お肉はステーキにしての保管と、塊でその都度料理するものとに分ける。

 大量に出来た物が目の前で消えていくので、へミールが目を丸くしていた。

 

 シャーラと連れ立って市場に行き、それぞれのお気に入りを買い込んで仕舞っていく。

 たっぷりと食料を保存出来たので、森に行くことにする。

 侯爵様には少し早いが森に行くと伝え、ザルムに11月の終わり頃には帰ると告げて家を出る。

 前回同様シャーラとグリンに、最初に湖のシルバーフイッシュとレインボーシュリンプを捕り、それからのんびり帰ろうと話す。

 

 森に入って5日目に、グリンがお酒の実が有るよと教えてくれた。

 シャーラと顔を見合わす、こんな近い所に有るなんて思いもしなかった。

 早速シャーラが登って採取して来るが、降りてきた時に不思議そうな顔をしている。

 籠から出した森の恵だが以前の物より軽かった、蔕(ヘタ)を取って貰って香を嗅ぎ、思わず顔が綻ぶ

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