第81話 ホルム村のアガベ

 何時も飲む天上の酒よりも格段に香りが良くて、期待がもてる。

 早速2個開封し薬草袋で不純物を取り除くと、大人の特権を行使する。

 上質なブランディーに似た味わい、木の実の発酵酒なのに蒸留酒の様だ。

 去年の森の恵より軽かったのは、天使の分け前ってやつだな。

 結構、天使の残り物がこんなに旨いのなら文句は無い!


 普通実が出来て完熟すれば蔕(ヘタ)からの栄養は止まりやがて実は落ちる。

 蔕から落ちずに残り熟成して森の恵になる。

 もう1年耐えた物が森の雫で、実が出来て3年目に採れる天使の分け前の残り物とはロマンがあるねえ。


 森の恵は1個で容器1本半、約6リットル取れたが、森の雫は1個で1本約4リットルしか取れなかった。

 シャーラに推測を話すと、再び樹に登って行き枝先で幾つも採取している。

 降りて来た時には7個の実を採取していた。

 少し軽い森の雫が2個で森の恵が5個有った。

 

 「侯爵様やヒャル様が喜びますね」

 

 シャーラちゃん、一番嬉しいのは俺だぞ!

 まったくグリンが高みを飛んで簡単に見つけるから、マジックポーチに森の恵と森の雫がどんどん貯まる。

 

 途中例に依ってシャーラが鼻を上に向け、真剣に匂いを嗅いでいると思ったら、猪突猛進・・・猫まっしぐらが始まった。

 香り茸だ、シャーラの指示に従ってせっせと地面を掘り返す。

 スープの入っている大きめの寸胴サイズの容器に、たっぷり2つ採れた。

 前回の時より随分多い、まぁ香り茸の集落が3ヶ所もあったからな。

 

 梨に似た果実とグリンピース似た大きな豆? 中は緑の果肉が豆の様に納まっていて美味い。

 名前を聞いたら、小さい頃に食べたけど知らないって言われて撃沈。

 買っておいた植物図鑑にも記載無しと来て、お手上げ。

 王立図書館に再度行って隅々まで調べてやるかな、嫌がられるのは確実だけど学術に貢献してやるよ。

 美味しく食べられる植物や果実の知識は大切だから。

 

 途中色々な野獣に出会うが、ソフトボール大のストーンバレットかショットガンで追い返す。

 ときにバスケットボール大のストーンバレットを使わなければ撃退出来ないタフな奴も居たが、シャーラがノックアウトする。

 

 帰った時のお肉用にエルクとフォレストバッファローを、各1頭にビッグホーンシープを2頭だけ捕った。

 美味しいお肉は大切ですから。

 

 湖に到着してシルバーフイッシュ漁も、3度目ともなると手慣れたものだ。

 シャーラも土魔法で追い込みの柵を、鼻歌混じりでホイホイ造っている。

 収穫場所の柵も安全を考えて頑丈に造り、最後は上流に向かって誘導用のV字型に柵を造れば完成。

 ワクテカのシャーラが、今年は私が追い込むと張りきっている。

 

 足場を高くして水面に石を落とし易く準備が出来たら〈ヒャッホー〉の掛け声と共に、爆撃かってほどに石を水面に打ち込む。

 で、今年も高くした足場から水面に落下してます。

 張り切って水面に石を打ち込み過ぎて魔力切れとは、柵を作って魔力を相当使っているのを忘れている、馬鹿なニャンコ。

 

 幸せそうに寝ているニャンコを岸に引き上げて、キャンプハウスに放り込む。

 シルバーフイッシュを捕獲用の柵に追い込んだら、今年は魚卵を採取してイクラを沢山作るのだ。

 魚卵を30センチ程の筒型の壺に入れ塩を振り蓋をして、マジックポーチに入れる。

 収納に入れると時間停止で塩が効かないのでゆっくりだが時間が流れるマジックポーチにした。

 

 周囲ではウルフ2種類、赤黒金色の熊さんが無心にシルバーフイッシュを食べている。

 勿論ウォータードラゴンも参加していて、ときにシルバーフイッシュ以外にも食指を伸ばして騒動になっている。

 純白のお狐様が得意のジャンプで柵を越え様としたので、足を固定してお仕置きにストーンバレットでお尻ペンペンして解放する。

 

 油断禁物だが、一応俺の居る場所は頑丈な柵に囲まれた安全地帯なので、柵の外の騒動は無視して魚卵採取に忙しい。

 

 壺にして30壺以上採取し、腹を裂いた魚は21匹づつ箱に入れて収納に仕舞う。

 

 《カイト、シャーラが起きたよ》

 

 《あーグリン、柵の中にジャンプして来るように言ってあげて》

 

 《ん》

 

 「カイト様、お手伝いします」

 

 「イクラは30壺程取れたから箱詰を宜しくね」

 

 シルバーフイッシュ21匹入りの箱を30箱も作るが、もはや義務で箱詰している様なものだった。

 総数630匹、これだけ有ればシャーラの食い扶持と侯爵様に譲っても当分大丈夫だろう。

 全ての柵を崩し野獣が来ないようにして、今夜はお魚パーティーだ。

 最高の酒森の雫に、シルバーフイッシュの食べ放題(主にシャーラ)と皮のパリパリ焼きを楽しもう。

 

 キャンプハウスの中は安全地帯だし、呑む前にグリンに魔力を浴びさせる。

 シャーラは大きなフライパンに、塩を馴染ませた切り身を入れ香り茸の粉末を振る。

 蕩けそうな顔でマジックコンロに魔力を流し、フライパンを乗せる、

 まぁ美味そうに食べるねー、シャーラが好物を口にするときの幸せそうな顔ったら。

 戦闘モードの時の顔が思い出せないよ。

 

 朝もゆっくりと起き遅い朝食を食べる、今日はお休みモードだ。

 せかせかする必要も無いし、レインボーシュリンプを捕ったら森に戻るか周辺探索に向かうか考えている。

 

 一日のんびりした後レインボーシュリンプを掬いに行く、前回の場所はまだ使えたので、キャンプハウスを出して箱も用意し準備万端。

 試しに掬うと今回のは大物ってか成長著しい奴で、胴体だけで60センチは楽にあるし全長90センチオーバー。

 いざ網を下ろして掬い上げハンマーで頭を叩いていると、グリンが人の接近を教えてくれた。

 敵意はなさそうだが、シャーラと頷きあって一応戦闘準備だけは怠らない。

 網を上げているとのんびりした声が頭上から降ってきた。

 

 「ほう、中々手際が良さそうだな」

 

 頭髪が灰色に斑の男が、少し高い岩の上から覗いている。

 森の一族の一人だ。

 

 「その娘は森の一族の者だろ、何故人族とこんな所に居るんだ」

 

 「あんたは?」

 

 「いや失礼した。こんな奥地に人の気配がするものだから気になってな。それに、この辺りは何故か精霊の気配が濃いのだ」

 

 こいつもかよ、森に棲む人達は精霊に敏感だね。

 それにグリンに接近を教えられていて尚、すぐ近くで声を掛けられるまで気配を感じさせないとはね。

 流石はシャーラの同族だわ。

 

 「俺はホルム村のアガベ、長をしている」

 

 「エグドラの街のカイトだ。この娘はシャーラ、二人で薬草採取等をしているしがない冒険者だ」

 

 「しがない薬草採取の冒険者が此処まで来て、レインボーシュリンプを捕っているのか」

 

 笑い出したよ、おっさん。

 性格が出るのか柔和な顔には微塵も敵意が無い。

 

 「あんたは何故此処に」

 

 「シルバーフイッシュを捕りにね。レインボーシュリンプは澱みに潜っていて、中々捕れないのだが良い方法だな。出来れば教えて貰えないか」

 

 「良ければ一緒に捕るかい。道具の作り方も教えるよ」

 

 「いいのか商売敵になるんだぞ」

 

 「自分達の食い扶持と、少し知人に分ける分を捕っているだけなんだ。気にしないさ」

 

 「有り難い、皆降りてこい」

 

 青年から壮年の男女40人程が現れる。

 

 「なぁアガベさん村長って言ったよな。あんた達はこんなに大人数で狩りをしているのか」

 

 「いやいや次の拠点を探す序でに、シルバーフイッシュを捕りにきたのさ」

 

 「次の拠点?」

 

 「あぁ人族は知らないだろう。俺達は一カ所に数年しか住まないんだ。獲物や採取する薬草等が少なくなったら移動するんだよ。ホルムの村ってのは、初代村長の名を村の名前に使っているだけだよ」

 

 彼等が興味深そうに見つめる中、網を下ろし引き上げるのは何か気恥ずかしい。

 下ろした網を上げる途中で一旦止め、数を減らしてから引き上げ頭を叩いて箱の中に並べていく。

 1箱50匹を20箱作って収納に仕舞う。

 アガベが呆れていたが、冒険者ギルドには卸さないから心配するなと伝えておく。

 

 見ていた村の若者達に網を下ろし、引き上げるタイミングと捕れすぎると網が壊れるので、注意する事を教えてやらせる。

 捕れたレインボーシュリンプの頭を取り省き、胴体の殻を剥き焼いている。

 

 シャーラが殻ごと焼き頭を外して鍋に入れ、スープを作って周囲の者に飲ませる。

 懐疑的な顔でスープを受け取り、慎重に口をつける。

 クワッと音がする程目を見開く者、硬直する者マジマジとスープを見ている者と様々だ。

 皆を呼び飲ませ、捨てた頭を拾って焼き鍋に入れている。

 

 「驚いたな、頭がこんなに美味いとは知らなかったよ。それに殻ごと焼くと身がしっとりして、ホクホクになり旨さが増すな」

 

 「ああ焼くなら殻ごとだな、茹でても美味いが焼いたやつには敵わないね。特に今年のレインボーシュリンプはでかいから、余計美味いよ」

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