第82話 呆れる

 アガベ達は土魔法で容器を作って入れる発想が無かった。

 大きな籠に入れてそれをランク4~5くらいのマジックポーチに入れていた。

 大量に捕れた事が無かったので収納の容器が無い、その場で籠を作り始めたので土魔法で箱を作り渡す。

 結局レインボーシュリンプを200匹以上捕り、明日はシルバーフイッシュを捕る事になった様だ。

 

 彼等がどのようにシルバーフイッシュを捕獲するのか、興味があったので付き合う事にした。

 最もシルバーフイッシュを捕った後で、軽く周辺を案内してもらう事になったからでもある。

 

 明日の再会を約して別れたが待ち合わせ場所は、キャンプハウスを指定する。

 キャンプハウスを見て呆れていたけどね。

 見せて置かないと、明日の朝彼等が来ても何処に居るのか分からないと不味いから。

 

 彼等が帰った後、グリンが姿を現して三人でのんびりと過ごす。

 明日彼等が来たら、グリンには少し離れていて貰う事にした。

 

 * * * * * * * *

 

 アガベ達の漁は棒に糸を付け粗末な釣り針に餌を付けて投げ込むだけだった。

 後は原始的な追い込み漁だ、浅瀬に居るシルバーフイッシュを大勢で水面を騒がせ追いやるのだ。

 待ち受けていた者が、浅瀬でうごめく魚に掴み掛かって捕獲する。

 こりゃー確かに、籠程度の運搬容器しか必要ない。

 

 シャーラと顔を見合わせ、相談の結果俺達の漁に干渉しない彼等に俺達のやり方を教える事にした。

 

 「アガベ、俺達がやっている簡単にシルバーフイッシュを捕る方法を教えるよ」

 

 「それは有り難いが、良いのか」

 

 「ああ俺達が此処で漁をする邪魔さえしなければ問題ない」

 

 「それは約束するよ。森は能力の有る者が利益を得る場所だからな。他人を害して生きる場所じゃない」

 

 「あんた達のやり方と大差ないが、土魔法が使えないと無理だから覚えて、土魔法使いに伝えてくれればよいよ」

 

 先ず浅瀬を頑丈な柵で囲み、その前の少し深い場所を円く杭を立てる。

 最後に円の一カ所開いた場所から、魚を誘導するV字型の柵を立てる。

 

 アガベに皆を集めて貰う。

 

 「皆一番頑丈な浅瀬の柵の中に入ってくれ。これから大量に魚をこの場所に追い込むが、野獣も魚を狙って集まって来る。柵の外には出ない様にしてくれ」

 

 皆を柵に沿って静かに立っている様に指示する。

 アガベと少数を連れてシャーラと共に追い込みの実演だ。

 

 「シャーラ、いいか」

 

 「はーいカイト様、任せて下さい」

 

 「あーシャーラ、魔力切れだけは気をつけろよ。よーし始め!」

 

 「キャッホー♪」

 

 シャーラの雄叫びとともに水面が爆発したように水しぶきを上げる。

 逃げ惑うシルバーフイッシュが誘導柵に沿って円い柵の中に雪崩込む、シャーラがすかさず開いていた場所を塞ぐ。

 ニンマリ笑ったシャーラが水面に飛び込み、訓練用の木剣を取りだして水面に叩きつける。

 満面の笑みで水面を叩きまくると、浅瀬の柵の中にシルバーフイッシュが群れをなして逃げ込む。

 

 アガベが、ポカンとして見ている。

 

 「アガベ柵の中に入ってくれ、此方の柵を閉じるぞ」

 

 見物のアガベ達を浅瀬の柵の中に入れると浅瀬の出入り口を封鎖する。

 柵の中に立っていた面々は足下でうごめくシルバーフイッシュに恐れをなしている。

 

 「アガベ箱を出して魚を放り込め」

 

 追加で幾つか箱を作って各自に渡す。

 皆満面の笑みで魚を掴み箱に入れているが、騒ぎに気づいた野獣達がおこぼれに預かろうと三々五々やって来る。

 

 「シャーラ、向かって来る奴だけ叩き返せ」

 

 「はーい」

 

 びしょ濡れで笑顔のシャーラが、気楽な返事をする。

 笑顔で魚を箱詰していた面々も、集まる野獣の数に顔色が変わる。

 気にした様子もなく足場を高くしたシャーラが向かって来るブラウンベアにバスケットボール大のバレットを打ち込む。

 ウォータードラゴンには口の中に打ち込む優しさだ、笑ったけど。

 

 俺は捕獲場所の浅瀬以外の柵を低くして野獣達がそちらに向かう様に誘導する。

 シルバーフイッシュ以外の餌を求める奴には、シャーラのきついお仕置きが待っている。

 

 「あんた達、無茶苦茶だな」

 

 「えー効率良くお魚を捕るのなら、これが一番でしょう」

 

 「はいはい、そうだね」

 

 脱力した顔でアガベが返事する。

 

 「ところでアガベ達森の一族は、シルバーフイッシュやレインボーシュリンプを、何処の冒険者ギルドに売りに行っているんだ」

 

 「エラードの街だシルバーフイッシュで金貨2枚レインボーシュリンプで金貨1枚と銀貨3枚で買い上げてくれるんだ」

 

 「エッ・・・何でそんなに安いんだ」

 

 「安い・・・周辺のギルドで一番高く買ってくれるぞ」

 

 「エラードって、ナガヤール王国の隣のセーレン王国だよな」

 

 「そうだカイトの住むエグドラまで、馬車で街道を行けば30~35日くらいの所だ」

 

 「なぁアガベ、一度エグドラの冒険者ギルドにシルバーフイッシュやレインボーシュリンプを売りに来てみろ。少なくても、エラードの2倍や3倍の値で買い取って貰えるぞ」

 

 「嘘だろう、何でそんなに高いんだ!」

 

 「何でって、俺は一応収納持ちで痛まないからな。シルバーフイッシュを金貨5枚で売ったし、レインボーシュリンプも金貨7枚だったよ。俺が大量に売った時は流石に安くなって、金貨2,3枚になったけどな。ゴールドの実も、数が少なければ金貨4~5枚は最低でもする。セーレン王国ってそんなにホイホイ、シルバーフイッシュやレインボーシュリンプが市場に出回っているのか」

 

 「いや滅多に出回らない。俺達がたまに持って来るので高く買っていると言ってたが。カイトの話が本当なら・・・いや疑っている訳ではない」

 

 「一度エグドラの冒険者ギルドに行き、買い取りのヤーハンさんにカイトから聞いてきたと伝えて、ギルマスを呼んでもらいなよ。内緒で魚とエビを持ってきたと話せばいいよ。ただし、俺達の事は公には口にしないでね。俺達二人が森の奥に来ている事は、ギルマスと領主様くらいしか知らないからね」

 

 「おぅ、それは判る。森の奥へ行ける者には、何かと余計な注文を付けて来る輩が多いからな」

 

 アガベが一人の男を呼び出した。

 

 「こいつはホーリー、俺の息子の一人だ。俺はエグドラに行ってこようと思う、二手に別れるが周辺の事はこいつに聞いてくれ」

 

 そうして俺との話の内容を伝え、エグドラに行ってギルマスに会い、条件が良ければ次の村の場所を定めると伝えていた。

 

 アガベがエグドラに向かうのなら、ギルマスと侯爵様に森の恵と森の雫を托す事にした。

 ギルマスには森の恵と森の雫各1本を、侯爵様には各2本を渡す様に頼む。

 

 シャーラを呼んでエグドラへの方角を教えると、7人を名指しで呼びだし彼等と共にアガベは旅だった。

 

 「はぁー、気の早いおっさんだな」

 

 「まぁな次の村を定めるのに、条件の良い場所は大事だからな」

 

 「そりゃそうだ」

 

 「この辺りにはよく来るのか」

 

 「今回で3度目だよ。シルバーフイッシュとレインボーシュリンプを捕ったら、エグドラに向かいながら果実を探していたんだ。今回は余裕があるから湖の周辺も回ってみたいと思ってな。珍しくて美味しい果実や花なんかを探そうと、考えていたんだよ」

 

 ホーリー達とは10日程周辺を散策したが、大した収穫は無し。

 美味しい果実は森の中で探すのが良さそうだ。

 その間食料確保のために狩りをするのだが壮観だね。

 一騎当千の猛者達が、ハイオークやレッドベア等を十数人で取り囲み滅多切りにして倒している。

 シャーラも参加したが、シャーラの持つ直刀に興味を示していた。

 

 何せ日本刀の様な片刃の直刀は珍しい様だ。

 一度ホーリーと模擬戦をしたが、対人戦闘訓練を受けているシャーラが勝ってしまった。

 ホーリー達は野獣相手の戦闘が主体だから剣を振り回しての戦いに不慣れな様だった。

 不慣れと言っても並の冒険者や騎士では、到底太刀打ち出来ないレベルの話だと思う。

 

 何せ振り回す木剣が〈ヒュンヒュン〉と聞こえたまに木剣がぶつかり合う音がするのだ。

 シャーラには大きな収穫があった、ホーリー達の中に風魔法使いがいたのだ。

 ただラノベの様な風の刃なんてのは無理だが旋風を起こして切る事はできる様になった。

 思うに風の渦の中を真空にして切っていると思われるが、試す気にはならない。

 

 お礼にビッグホーンシープや小さなウォータードラゴンを仕留めて渡しておいた。

 シャーラは練習がてら高い木の枝先等を切り落としている。

 グリンが見つけシャーラが風魔法で切り落とせば、もっと簡単に果実が採れると喜んでいたが、誰が受け止めるんだよ!

 〔森の恵〕の様な重いものはゴメンこうむるぞ。

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