第83話 アガベの希望

 アガベ達一行は、シャーラの示した方角に足早に進み続けた。

 採取や狩猟ではないので、カイト達と別れてから25日程でエグドラの街に到着した。

 

 エグドラの街では8人の森の一族は目立ったが、冒険者ギルドの場所を聞き真っ直ぐに向かう。

 買い取りカウンターの男に声をかける。

 

 「ヤーハン殿か」

 

 「そうだが、あんたは?」

 

 「カイト殿に聞いてきた、ギルマスのノーマン殿に直接売りたいものがある」

 

 小声で告げられた意味を理解したヤーハンが、頷き奥に下がる。

 奥から現れたのは狼人のギルマスノーマンだが、鋭い目付きでアガベを見る。

 

 「此処では何だ、奥に来てくれ」

 

 アガベ達全員を引き連れカウンター奥の階段を上がり、会議室に招き入れると椅子を進めて向かい合う。

 

 「それでカイトとは何処で会って、何を聞いて来たんだ」

 

 「用件は二つ、一つはシルバーフイッシュとレインボーシュリンプを売りたい。あんたに言えば、身元を知られずに売り払えると聞いて来た。もう一つはこれを預かって来た」

 

 アガベが2本の大振りな徳利を差し出し、別に4本を置く。

 

 「その2本は、ギルマスのノーマン殿に渡す様に頼まれた。この4本はハマワール殿に渡すのだが、あなたに繋ぎを頼めと言われた」

 

 2本の徳利をしげしげと見るノーマンに、アガベが告げる。

 

 「右手に持つ首に紐のある物が森の雫左手にあるのが森の恵と呼ばれる物だ。因みに森の雫はカイト殿が名付けた」

 

 目で問い掛けるノーマンに、アガベが頷く。

 ノーマンが二つの詮を抜くと、立ちのぼる香りに頬が緩む。

 黙ってグラスを二つ用意し、森の恵と森の雫を注ぐ。

 森の恵を口に含み暫く味わってから、満面の笑みで飲み干す。

 

 「相変わらずとんでもない物を寄越して来るな」

 

 ニヤリと笑ったアガベがもう一つを勧める。

 香りが格段に良い、香っていたのはこれかと納得して口に含んだが森の恵みより数段上だ。

 口の中の酒が蕩ける様だった、固まるノーマンにアガベが告げる。

 

 「我々でも滅多に手に出来ない物だ」

 

 口の中で舌に纏わり付く酒を、飲み干すのが惜しかった。

 喉を滑り落ち焼ける様な感触と吹き上がって来る香り、超がつく極上の酒だ。

 オークションに出せば、とんでもない値がつくだろう。

 森の恵でも相当な値がつくのは間違いないが、森の雫は王侯貴族や豪商達にしか手が出ないだろう。

 

 「アガベ殿それを持ってついてきてくれ。皆は食堂で好きな物を飲み食いして待っていてくれ、ギルドが全て持つ。ただし森の奥の事とカイトの事は誰にも喋るなよ」

 

 夕暮れ迄には帰ると伝えてギルドの馬車でノーマンとアガベが出て行った。

 馬車の中でカイトの話になるが、アガベにはカイトがエグドラの街でどのような立場にあるのか判らない。

 ギルマスや買い取りのヤーハンの様子から、一目置かれる存在であるのは判る。

 たった二人で森の奥まで来て、薬草採取と惚けるカイトの底が知れなかった。

 

 馬車は立派な門を潜り、車寄せに回り込み止まる。

 馬車のドアを開けたのは従者の身なりの者で正面に執事が立っている。

 

 「ノーマン様、お急ぎでしょうか」

 

 「ああカイトから託された物を持って、客人がきた」

 

 「カイト様からですか、それはそれは。早速侯爵様にお知らせして参ります。ホールにて暫しお待ち下さい」

 

 「侯爵だと」

 

 「あー気さくな方だから固くなる必要はない。でなきゃ、カイトはとっくに逃げ出しているさ」

 

 執事に案内されて侯爵閣下の執務室に入る。

 跪こうとするアガベに、制止の声が掛かる。

 

 「カイトが託した相手を跪かせては申し訳ない、かけてくれ」

 

 傍らのソファーをすすめられると、ギルマスがさっさと座り込む。

 正面に座った侯爵閣下が、カイトから託された物とはの問いに、大振りな4本の徳利を出す。

 目で問いかけてくるのに、ギルマスがニヤリと笑う。

 

 「首に紐が巻付けてあるのが森の雫です。紐の無いのが森の恵です。森の恵からお試し下さい」

 

 「ハマワール侯爵はグラスを手に取り、しげしげと見つめている。」

 

 反応はギルマスとそっくりだが、歯を剥き出して唸るギルマスよりは上品だ。

 

 「カイトは相変わらずか。何処で出会ったのかな」

 

 森の奥での出会いと、レインボーシュリンプやシルバーフイッシュ漁の話をする。

 侯爵に聞かれて、レインボーシュリンプ200匹とシルバーフイッシュ100匹を持っていると伝えた。

 即座にシルバーフイッシュを金貨400枚レインボーシュリンプは金貨600枚での買上げを約束してくれた。

 

 「ギルマス、ギルドの取り分は金貨100枚でいいかな」

 

 笑って頷くギルマスのノーマン、カイトは数が多いと安くなると言ったが、金貨1,000枚の商談が簡単についた。

 エラード冒険者ギルドに売るよりシルバーフイッシュで倍、レインボーシュリンプは倍以上になる。

 

 そのうえギルドで飲み食いしている仲間を、全員侯爵邸に連れてこいと言われた。

 ギルドや街で、森の話をされるのは不味いのだと説明を受けた。

 カイトが森の奥に行っている事は、ギルマスや侯爵以下少数の者しか知らない秘密なんだそうな。

 

 その訳を聞いて仰天した、1頭は14メートルを超えるウォータードラゴン2頭に、5メートルを超えるゴールデンベア討伐とオークションの話し。

 その次には胴体の太さ1メートルの、フォレストスネイク(ギルド命名)討伐とは信じられなかった。

 お肉が食べたいからと前半分を、11メートル二つに切り分けて持ち帰ったが、出し忘れていたことを聞いて笑い出してしまった。

 

 決めた、次の村の場所はエグドラに近い森にしよう。

 

 「侯爵様、我々ホルムの村が移動の時期を迎えています。お許し頂ければエグドラに近い場所に移りたいと思います。エグドラから15~20日程度の森の中ですが」

 

 「森の中は森に住まう者の自由にすれば良い。出来ればこれからも取引したいものだな」

 

 「はい私も真っ当な取引相手は望む所です。然し私達が大量に持ち込んでカイト殿の迷惑にはなりませんか」

 

 「それは心配ない。森の収穫物は自分達で食べる分や、我々に分けてくれる量だけを採りに行っているのだよ。私が買上げなくてもギルドが高く買上げてくれるさ」

 

 「任せて下さい。出所を秘密にして高値で売り捌くのは得意ですから」

 

 森で採取できる珍しい果実や、シルバーフイッシュとレインボーシュリンプを、年に1度はギルドを通して侯爵様に売る事を約束した。

 それ以外はエグドラ冒険者ギルドにギルマスを通して売る事になった。

 勿論普通の野獣等は買い取りカウンターを通す事になる。

 

 3日程侯爵邸に滞在し辞去するとき、侯爵様よりランク8のマジックポーチを渡された。

 小さなマジックポーチだと不便だろうし、持って来る量も少ないと稼ぎになるまいと言われた。

 代金は不要と言われて2度びっくりした。

 ランク8のマジックポーチは金貨700~800枚は必要だ、それをポンと渡し代金不要とは・・・

 これ程大容量のマジックポーチが有れば、村を移動しなくてもすむ。

 少人数で遠出しても大量の収穫物や獲物の運搬が出来るので皆も喜ぶだろう。

 

 侯爵邸からギルドに向かいギルマスに挨拶を済ますと、市場で大量に香辛料や、日用品等を買い求めて街を出た。

 

 * * * * * * * *


 ホーリー達と別れた俺ととシャーラは、エグドラに向かいながらのんびりと森の散策を楽しみながら果実を探す。

 

 グリンには収納から、房の実や紅宝玉,ウールサ,ホグの実を見せて探して貰う。

 紅宝玉は半分以上食べた残りで、食べ残しの葡萄の様でちょっと恥ずかしかった。

 ゴールドの実は外せないと意気込むシャーラ。

 パープル,クルップ,プルサの実は見本が無いのでシャーラが探す事になる。

 梨に似た果実はホムス、グリンピース似た大きな豆の様なものはビッグビーンズって、「何じゃそりゃー」って思わず声が出た。

 教えてくれたホーリーが、ちょっと引いていた。

 

 探していた物は全て見つけて多少なりとも収穫出来たが、ゴールドは流石に無理だった。

 5年に一度程しか実をつけないとなれば、無理は言えない。

 在庫も残り少ないので、特別な日のためのおやつだな。

 

 ホウホウ鳥23羽と卵18個は、シャーラが見つけた瞬間狩りモードに突入してニコニコで持ってきた。

 フォレストシープの巨体に出くわした時にはビックリしたが、シャーラの美味しいの一言が彼の運命を決めた、南無。

 何せ木化けって言葉通り、すぐ側にいたのに森に紛れて気がつかなかった。

 ただ獣の臭いは隠せないので気づいたけど、冷や汗をたっぷり流した。

 気配察知の未熟さを思い知り、精進しようと誓った。


 今回の大収穫は森の雫32本と森の恵87本だ。

 それとホルム村のアガベとの出会いかな。

 

 シャーラがストーンジャベリンを36発、転移魔法で900メートルを10回こなせる様になった。

 お楽しみの、セルフバンジージャンプを教えろと煩いので、エグドラに帰って落ち着いたらと宥めておく。

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