第8話 魔法指南
「一つ教えて欲しい事が在るのだが、君の魔力高は40だと聞いる。その魔力で何故あれ程の攻撃が出来るのか、それが不思議なんだが」
「魔力が少ないので、普段は防御に徹しています。今回は生死が掛かってましたので、攻撃に全てを賭けただけです。お陰で2度魔力切れを起こし、危うく3度目の魔力切れを起こすところでした」
「しかし、オルランから魔力が切れる寸前まで把握していて、攻撃や防御に振り分けていたと聞いたが」
「それは自分の魔力を理解して、常に魔法を使ったらどれだけの魔力を使ったのかを知ることです。攻撃に何回使えるか、体調に依る魔力の残量把握を心掛けるしか無いですね」
「16才になれば冒険者になるんだって」
「はい、そのつもりです」
「冒険者になるつもりなら、依頼は請けるだろう」
「あのー、俺は薬草採取で生きていくつもりです。魔法はあくまでも生き残る為の防御用です。今回の様な非常事態は御免被ります」
「あっ、討伐依頼では無いよ。魔法の使い方を指南して欲しいのだ。依頼料はたっぷり払うつもりだよ。冒険者なら、楽して稼げる話は断らないだろう」
「お抱えの魔法使いの方に教えるのですか。教えると言っても独学ですし、御期待に沿えるかどうか」
「教えて欲しいのは、私と妹のフィエーンの2人にだ」
「えっ、お二人とも魔法が使えるのですか?」
「私は雷撃と氷で、フィエーンは火と治癒だ。二人とも魔力高は70だが、魔法を思う様に使えないのだ。魔法師団の指南役に聞いても、ひたすら魔法を放ち魔力を練ると言うだけなんだ。彼にも、具体的な事は判らないらしい」
「俺も大して違わないと思いますよ」
「それでも君は、今までの魔法使いとは明らかに違う威力の魔法を使っているね。冒険者は手の内を明かさないと聞いている。君に教わった事知り得た事を、他には漏らさないと約束するよ」
「私からもお願い出来ますか。試しで10日程度教えて頂き、無理なら断って下さって結構です」
「カイト君私からも頼む。配下の者達には、一切口出しをさせない事を約束しよう」
「何時教えるのを止めても良いのでしたら、10日間だけ教えましょ」
「有り難う。部屋はメイド長のアイサに用意させるよ」
「えっ・・・此処に泊まるのですか」
「君は家を出ていると娘から聞いているが、ホテルから通うと何かと不便だぞ。それに、疑問が出ても直ぐに聞けないだろう」
「はぁー」
何度目の溜息だろう。
「ところでカイト君、答えたくなければ答える必要はないが、授かったのは土魔法と空間収納と転移魔法なんだろう。他の二つは使える様になったのかね」
「確かに答え辛い質問ですね。収納魔法は少量なら出来ますが、容量は冒険者が持つ背負い袋くらいですね。転移は無理です。一度出来ましたけれど、数m転移して魔力切れで倒れました。死にたくないので転移は使いません」
嘘も方便って言葉があるので、ぬけぬけと言って惚けておく。
なにせ、転移魔法は俺の切り札だからな。
「では訓練所で私とフィエーンの魔法を見て貰い、アドバイスを頼む」
魔法の訓練所に向かうと子爵様も付いてきて、一度君の魔法の威力を見てみたいんだと言う。
訓練所で先ず二人の魔法を見せて貰うが、ぶつぶつと詠唱を唱え掛け声と共に発動させる。
ヒャルダ様の氷魔法と雷撃魔法は、発現が遅く威力スピード共に遅いというかしょぼい。
フィエーン様の火魔法も、口内で詠唱を唱えるとゆるゆると炎が立ち上がり、掛け声と共に打ち出される。
子爵様が、ブラックウルフを倒した魔法を見たいと言ったので、頑丈な的に向かいストーンアローを5本連続で撃つ。
次にストーンランスを単発で2発撃った後連続して3発撃つと、遠くで見ていた魔法使いと思しき人物が駆け寄って来る。
〈今のは何だ〉と騒ぎ出したが、子爵様が「私の客人だ」と言って下がらせた。
「済まない、君に関わるなと改めて伝えておくよ。然し、話に聞いていたよりも遥かに威力が有るな。魔法も早いが詠唱はしてないのか」
「していません。と言うか必要無いのです。ヒャルダ様、掌の上に氷を出して貰えますか」
〈冬の冷気に晒されし、水の凍りて我が掌の上に現れん〉
掌を睨みながら、魔力を込めているのが分かる。
「フィエーン様、掌の上30cmの所に、ファイアーボールを出して下さい」
〈我願う、猛き炎の精霊を集いて、我が手の上に〉
掌の上に小さな炎が揺らめき、詠唱と共に大きくなり丸くなっていく。
「お二人とも、詠唱は必要無いのです。不必要と言った方が正しいでしょう。何故詠唱しているのか解りますか」
「詠唱は発現させる魔法のイメージを固め、発現した魔法の大きさや威力を決めていると教わったのだが」
「見ていて下さい」
掌を上に向けると、いきなりテニスボール大の玉が現れる。
次の瞬間倍に膨らみ、星型になりナイフに変わった後で崩れて砂となり、掌から零れ落ちた。
「お二人が詠唱している事と同じ事を、頭の中で考え魔力を送り込んだだけです」
三人ともポカンと口を開け、俺の掌を見つめている。
おまけで地面から棒を伸ばし、伸びた先を捻って結ぶと砂に戻した。
「ヒャルダ様の言った事は間違いでは在りません。魔法を授かった初心者に、解りやすく魔法の発現を促す為のものでしょう。慣れれば必要無いどころか、魔法の発現に時間が掛かって邪魔です。仰られたイメージの形や威力速度などは、頭の中で考え魔力を送り込んだ方が遥かに早く魔法が使えます」
「私達は、初心者のやり方をずっとしていたのか」
「魔法のイメージを固めると言いましたよね。詠唱しながら頭の中で同じ事をしているのです。詠唱を無くしても同じ事が出来ます。さっき私がした事は、イメージを土魔法で実現させただけです」
「では炎で花を作ったり、ダンスを踊らせたりも出来るのですか」
地面を指差し、幼児程度の大きさの土人形を作る。
胸に手を当てお辞儀をして歩き出し、躓いて倒れて砂に還る。
次に棒が伸びて葉が付き、上部に歪つながらも花が出来ると崩れて砂になる。
「拙いイメージですが、ファイアーボールやアイスバレットなら、それ程難しいイメージは必要在りません。形と大きさと速度だけです」
「ヒャルダ様は、暇な時や寝る前に拳大の氷の固まりを作って下さい。大きな氷を押し縮めて硬くした氷です。フィエーン様は拳大のファイアーボールですが、5倍の大きさのファイアーボールを押し縮めて拳大にして下さい。撃つ必要は在りません、魔力を抜けば消えます」
「何とまあ、世の常識を疑う必要があるな。然しカイトは良くそんな事を知っているな」
「亡くなった母親が生活魔法を教えてくれました。その時の教えを参考に考えたものです。それから寝る前に、魔力を身体の隅々まで巡らせる様にして下さい。魔力を練るって意味は解りませんが、同じ事だと思います」
部屋に帰りお茶を飲みながら、俺は自分がやっている土魔法の基礎的な鍛練方法を教えた。
その際、メイドには部屋から出てもらった。
理由は簡単で、自分の身を委ねられる相手以外に教えれば、気を失っている間に襲われたら防ぎ様が無いからだ。
そして魔力高と量の違いの考察も教えなかった。
「すると君は、自分の寝場所を森の近くや草原に作り、そこで暮らしているのか。そして幾度となく意識を失い、自分の魔力の限界や魔法の使用回数を確かめたと」
「そうです。魔力高40で魔法を使うという事は、常に死と隣り合わせと言っても過言では在りません。今回の様に他人の前で魔法を使うと、自分の限界と能力を晒してしまいます。だから一人で行動しているのです」
「でも、今回は何度も意識を失っているわよね」
「一人ならドームを作って引き篭ってます、何日でもね。あの時は、意識を手放しても殺される恐れはありませんでした。私を殺せば、自分達が助かる確率が低くなりますからね」
「そうね、あの時ブラックウルフを相手に闘い、防ぐ事が出来たのは貴方だけですものね」
「土魔法を授かったのは幸運でした。他の攻撃魔法でしたら多少の攻撃は出来ますが、威力は小さいし魔力が減った時に身を守れません。土魔法なら全てを捨てて、自分一人だけなら身を守れます」
「生き残る為に仲間を募って強くなるより、他人を助ける必要の無い一人の方が安全か」
「そう言う事です。薬草採取も何年か続けていれば、自分一人の生活費は稼げます。ましてや土魔法なら、ホテル代もいりませんので生活は楽です。少量ですが空間収納のお陰で、荷物を持たずに行動出来ますからね」
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