第18話 魔法大会
魔法大会の3日前、ハマワール子爵様から魔法大会の招待状が届いた。
と言っても、フィエーンが息抜きに抜け出して直接届けて呉れたのだ。
お茶を飲みながら大会の様子を聞くと、一般と冒険者部門の参加資格は30メートルの標的に対し、10発撃って5発以上の命中率だそうだ。
出場者は名前,年齢,授かった魔法と魔力高の紹介の後、標的射撃をする。
審査基準は距離と威力と数で、速さはあまり変わらないので対象外全員詠唱しているのでそうなっている。
大会の内容は一般市民の部と冒険者の部、王国魔法師団の各部隊の魔法誇示に、貴族の部と別れているのだそうだ。
面白いのは一般の部と冒険者の部だそうで、時に抜きん出た能力の持ち主が現れ、貴族が競って召し抱えるそうだ。
優勝賞金は金貨100枚と中々のもので、立身を望む者は皆出場するそうだ。
優勝出来なくても優秀と認められた魔法使いは、引く手数多なので魔法を授かった若者達の登竜門的な催しである。
25才前後迄に芽が出なければ諦めて、家業を継ぐか冒険者になる様だけど。
貴族のお抱えになりたくない者は、魔法大会に参加しないので本当の実力者は在野に有りと言われているそうだ。
そう言ってチロリと俺を見る、知らないよ興味無いし。
つまらないのが貴族の部である。
魔力高60以下の貴族や子弟は名前と魔力高の発表と大会辞退を告げられる。
それ以上の者は強制参加で病気や怪我以外は不参加を認められない、魔力高61などの人は晒し者である。
ヒャルダやフィエーンが嫌がる筈だ。
「それで相談があるの、て言うか教えて欲しいの」
「魔法の事なら問題ないと思うけど」
「そうじゃなくて能力を隠しておきたいの、上位になったりしたら後が大変なのよ」
目で問い掛けると溜息混じりに話してくれた。
「高い能力の未婚女性には縁談が殺到するのよ。今でも断るのに苦労しているのに」
「フィエーン綺麗だもんね、縁談も殺到するさ」
「他人事ね。私を見下す貴族を見返したくて魔法を習ったけれど、こんなに上達するとは思っていなかったの」
「簡単だよ手を抜けば良いだけさ。ヒャルダもフィエーンも貴族のプライドで手を抜くなんて考えていないだろう、今なら残り魔力量はある程度解るよね。大会当日屋敷を出る前に倒れない程度に魔力を絞りだしてから会場に行けば良いのさ。すこしは回復するけど誤差の範囲内だと思うよ。それと炎は砕ける事を忘れないでね」
「そうだった、うっかり炎で的を撃ち抜いたら大変な事になるわ」
「ではこうしなよ、炎を安定させない小さいのとか突如大きくして消えてしまうのを幾つか混ぜる。スピードは石を投げた程度で的まで40~50メートルしか飛ばさない、的を外れる届かないを織り交ぜ15~20発撃ち、最後の2~3発はヘロヘロで消滅させれば良いのさ。それで魔力切れを装えば完璧です!」
「随分酷い筋書きね」
「では結婚の申し込み殺到で」
「遣るはしょぼい炎と遅いスピード、文字通りの的外れで最後は魔力切れね。ヒャルダにも教えておくわ」
「ヒャルダなら、結婚の申し込みが殺到すれば、より取り見取りで良いんじゃないの」
「そうでもないのが貴族の嫌らしさよ。有り難う頼りになるのはカイトよね」
溌剌として帰って行ったよ、フィエーン。
* * * * * * * *
魔法大会当日子爵家差し回しの馬車に乗り、大会会場の王都守備軍訓練場へ行く。
子爵様の招待状を見せて観客席に案内され、子爵様と合流した。
1日,2日は市民と冒険者の部で、団栗か茸の背くらべの中に時々筍が混じっている感じなので、催し物としてはそれなりに面白いものだった。
3日目は貴族部門の最後に、魔法部隊のデモンストレーションで終る予定だった。
だったんのだが、貴族部門が終わり魔法部隊が準備している最中に事件が起きた。
国王陛下御臨席の王家や公爵家の席に向かって、会場の向かい側から魔法が撃ち込まれた。
そりゃーもう、大騒ぎになった。
大騒ぎだが俺にとっては他人の喧嘩対岸の火事、テレビの向こうの戦場と同じ高みの見物。
そうもいかなかったのが子爵様達。
ヒャルダに国王陛下を守護せよと命じ、ヒャルダは国王陛下の盾となるために貴賓席に向かう。
幸いしたのが襲撃者の魔法の腕が悪かった、威力はそこそこ有るのだが命中しない。
10数発も撃っているのに、出入り口や柵に警備の兵士を吹き飛ばしただけ。
ヒャルダは陛下の側に駆け寄り、護衛の騎士が抜刀し切りかかって来るのに背を向け、氷の壁を造る。
縦横4メートルの頑強な氷の壁は、魔法を受け止め弾き返す。
ヒャルダの額から血が滴り落ちる。
騎士は氷の壁を見て切るのを止めたが、間に合わずにヒャルダの頭を傷つけた。
滴り落ちる血を気にもせず、陛下や他の者に壁の後ろに隠れる様に指示をする。
壁を幅6メートルに広げて維持しているが、魔法攻撃に対しびくともしていない。
それを見て魔力を込めるのを止めた。
これ以上自分の能力を見せる必要は無い、カイトの言葉通り手の内は見せるなだとほくそ笑む。
ヒャルダが飛び出し防御が間に合ったのを見たフィエーンが、反撃しようとしたのを見て止めた。
「国王陛下と犯人の中間に行き、そこから反撃しなよ、威力スピードを落としてね。犯人の攻撃を妨害すればそれで良し、殺す必要は無いよ」と教えて送り出す。
子爵様は心配そうだが、大丈夫だと教える。
フィエーンに攻撃されて反撃すれば、犯人の目的は達成出来ないからフィエーンは反撃されないと告げる。
犯人は逃げるしかない状態になっているので、騒ぎも直ぐに終ると告げて周囲を観察する。
子爵様も俺の行動を見て意味を理解し、周辺を睨み回す。
「ヒャルダ、左だ!」
子爵様の声は騒ぎに呑まれて届かない、見れば一人の男が国王に向かって立ち上がり魔法の詠唱をしている。
仕方がない15センチ程の土の玉を造り、威力を落として男に撃ち込む。
背中に当たり土煙をあげて男が倒れ、それに気づいたヒャルダが氷の壁を張り巡らせる。
子爵様が駆け寄り、頭を蹴り飛ばし腕を捩って制圧、子爵さま乱暴だねぇ。
フィエーンを見ると魔法攻撃を止め、犯人の居る方を見ている。
そこには警備の兵士が殺到している。
戦場に一人佇む乙女一人、絵になるねぇ。
子爵様の所にも警備兵が駆け寄り犯人を縛りあげている。
髪の乱れを直しながら戻ってきたフィエーンを、訓練場から観客席へ引き上げ子爵様と合流する。
「子爵様、俺は消えた方が良いのではないですか」
「今会場から出たら尋問責めに合うぞ、知り合いの子供で通せば良かろう」
「上手く隠せたかしら」
「多分ね、適当に散らして撃っていたけど間隔が短かかったからそこがちょっとね。まぁ聞かれたら、必死でしたとでも言って誤魔化せばよいよ」
ヒャルダが陛下の前で跪いて何事か答えているようだ、ばれたものは仕方がない諦めろ!
と他人事なので切り捨てる。
近衛騎士が駆けて来て、子爵様とお嬢様を陛下がお呼びですと伝える。
「カイト、お前は先に帰っておれ」
「はい、子爵様」
子爵家の席に同席しているが、身内で無いと三文芝居でとっとと退散しますか。
騒動も収まり子爵家の身分証を見せると、あっさり通されて混雑する会場を後にした。
ホテルに向かおうとする御者に、子爵邸に戻るよう伝える。
奥様に報告しておく必要が在る。
御者は俺を知っているので、何の躊躇いもなく正面玄関に馬車を横付けする。
あちゃーと思ったが、執事と思われる男が扉を開け不信気に俺を見つめる。
「カイトと申します。魔法大会会場で事件が有り、奥様にお伝えしたい事が在ります」
「カイト様ですね、伺っております。奥様の所にご案内します」
執事の案内で、奥様に御目通りする事になっちゃったよ。
フィリーン・ハマワール様に、会場での事件の概要を伝え直ぐには帰れないと伝えて辞去する。
執事が馬車で帰れる様に手配してくれたので、礼を言って甘える事にした。
* * * * * * * *
「その方見事な氷魔法で在る、助かったぞ」
素早く振り返り、陛下の前に跪き頭を下げるヒャルダ。
「名は何と申す」
「はっシャルダ・ハマワール子爵が嫡男ヒャルダ・ハマワールと申します」
そこへハマワール子爵とフィエーンが到着し陛下の前に跪く。
「陛下、ご無事で何よりです」
「ハマワール子爵そなたの嫡男とな、見事な氷魔法で在ったぞ。反撃の狼煙を揚げた娘よ、名は」
「シャルダ・ハマワール子爵の娘フィエーンと申します」
「何と、嫡男は盾となり娘は反撃の狼煙を揚げ、当主は賊を取り押さえたか。予はハマワール家に命を救われたか。追って皆に礼を致すぞ」
そう言い残すと、護衛の騎士達に守られて国王陛下が魔法大会会場から去って行った。
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