第19話 国王陛下の怒り
「やっちゃいましたねー」
「まぁ非常事態だ、仕方が在るまい」
「お兄様も、あの後膝の一つもついて魔力切れを装えばよかったのよ」
「其処迄は考えが及ばなかったな」
「その点、カイトは冷静よね。私に本気は出すな、会場の真ん中迄行ってから手加減して賊の攻撃を邪魔すれば良いと助言してくれたわ。おまけに、私が反撃される恐れは先ず無いとの保障付きよ」
「あの騒ぎの中で、カイトは何をしていたと思う。混乱する会場を見回し、第二の攻撃が起きないかと見張っていたぞ。見つけると土魔法で攻撃したが、当たったら玉が壊れる程軽く魔法を使っている抜け目なさだ。あの混乱の中では、カイトの魔法攻撃を見た者は先ずいないだろう」
「ところで、ヒャルダの傷を治してやらないのか」
「ピンピンしているから馬車の中で試しますわ。治癒魔法って使う機会が無いので、上手く行くかどうか自信が無いのよ」
「優しい妹で俺は嬉しいよ」
取り合えず馬車に乗り、外から見えなくしてからフィエーンがヒャルダの頭に手を乗せて〈なーぉれっ♪〉と軽~く一言言って治してしまった。
「あらっ、本当に治っちゃったわー、凄ーいね」
ずっこけるヒャルダと子爵様を乗せて、馬車は無事屋敷に帰り着いた。
「これは他人には言えないなー」
「でもお父様、傷は軽かったからでしょ」
「いやいや軽い傷でも、そんなに気楽に治せる者はそうはいないと思うがな」
「どんなイメージで遣ったんだ」
「えー(綺麗に治れっ)て思いながら軽く魔力を流しただけよ」
「カイトが常にイメージと言うが、魔法の発現も威力もスピードも、挙げ句治癒も軽いイメージだけで成し遂げる。今までの魔法の常識を根底から覆すが、広めると反動が怖いな。お前達がもし全ての能力を知られても、カイトに習った内容は漏らすなよ。練習の成果とか、血の滲む訓練の結果だと言っておけ。後は、創造神様の加護を授かったのだとでも言っていればよい」
「そうねぇ、知られて結婚の申し込み殺到なんて事になったら、と思うとぞっとするわ」
「その点は同意するな、俺の場合は陛下を守って氷の壁を造ったからなぁ。これで雷撃魔法もそれなりに使えると分かれば、王城や魔法師団が黙ってないだろうな」
「カイトに助言されて、しょぼい火魔法を撃ってよかったわ。練習でも、護衛達にすら見せなかったカイトに感謝するわ」
「だな、これでアイスランスとかフレイムランスやショットガンなんて使ってみろ、どんな事になるやら検討もつかん。然し王都への道中馬車の中から魔法で標的遊びしいてたから、護衛達とエグドラの冒険者達はある程度知ってるぞ」
「王都で、ペラペラ私達の事を喋って回る冒険者はいないと思うわ」
「近い内に陛下から呼び出しが有ると思う。魔法の事もそうだが、聞かれてもカイトの存在と魔法を切り離して話せよ。もっと大事な事はヒャルダは以前から魔法が使えた、然し万が一の為に手の内を晒さず魔法が碌に使えない風を装っていたと言え。そうすれば追求されても、カイトの事も雷撃魔法や治癒魔法の事も隠せる確率が高くなる」
「そうします」
「分かりました」
「これから魔法の練習は何処でしようかしら。治癒魔法の腕も上げておきたいし」
「そりゃー、カイトに相談するのが一番だろう。曲がる魔法も習得したいからな」
* * * * * * * *
三日後、ハマワール家の三人は王城に呼び出された。
従者に案内され、王城の奥い深い場所の部屋に入り暫し待たされる。
ノックの音と共に従者が部屋に入り、ドアを押さえて〈国王陛下です〉と静かに告げる。
一斉に立ち上がり跪く三人、陛下の後ろにはナガラン宰相が控えている。
「良い座ってくれ。公式な報奨は改めて授けるが、取り合えずヒャルダ・ハマワールに金貨1,000枚、フィエーン・ハマワール嬢に金貨1,000枚、シャルダ・ハマワール子爵に金貨1,000枚を報奨金として贈る。公式の場ではハマワール子爵を伯爵に陞爵するが。ヒャルダ・ハマワールには伯爵家を継ぐ迄の間、子爵を名乗る事を許し年金貨1,200枚を与える。フィエーン・ハマワール嬢は何か望みが有るか」
「お許し頂けるのなら、魔法大会の貴族部門を止めて貰えれば」
「訳を聞こう」
「兄の魔法をご覧になられましたでしょう、兄の魔力高は70しか有りません。父の教えで、魔法が使えてもいざと言う時の為に使えない振りをする様にしています。庶民や冒険者なら魔法を誇れば良いのです。毎年魔法大会で貴族が否応なく手の内を晒す事は、今回の様な事が起きた時に危険です。守る者を見れば、何時攻撃すれば良いか相手に教える事になります。それと魔力高が少なく魔法が使えない貴族を侮辱したり嘲笑の対象にすれば、いずれ侮辱嘲笑を受けた者からの忠誠は望めなくなります」
「分かったよくぞ諌言してくれた。貴族部門は大会から外す事にする」
「有り難う御座います」
「ヒャルダが王都に滞在している時には、予が今回の様な場に出るときに護衛を頼みたい」
「はっ、喜んで微力を尽くします」
「うむ氷の盾とはな、大会では芳しくない成績であったが攻撃はどうか」
「はっアイスバレットにアイスアローが多少使えますが、魔力高70ですのでそう長くは使えません。今回も後少し攻撃が続けば、魔力切れで防壁が崩れていました。フィエーンが敵の攻撃を反らしてくれて助かりました」
王城から下がり、館にて家族のみで内祝いがささやかに行われた。
「フィエーンは褒美は良かったのか」
「貴族の魔法大会が無くなれば、無理に王都に来なくても良くなります。厭味や陰口を聞かなくて済みますから。でもお兄様も上手く、魔力高に絡めて誤魔化しましたね」
「臨時とは言え陛下の護衛を頼まれては断れないからな、それなりに逃げ道を作っておかないと」
「ヒャルダは陛下の護衛と言っても、氷の防壁を期待されてだろう。陛下のお側に控える事になる。攻撃魔法を披露するときは、大会より少し強めくらいにしておけ」
「そうします」
* * * * * * * *
魔法大会の為に多数の貴族が王都に居る間にと、5日後謁見の間にて魔法大会襲撃事件の功労者3名に対する、表彰と陞爵及び授爵の儀が執り行われた。
国王陛下が綺羅びやかな宝石で飾られた宝剣を手に、シャルダ・ハマワール子爵の前に立ち、跪く子爵の肩に刀身を当て厳かに告げる。
「汝、シャルダ・ハマワール子爵を、伯爵に陞爵する」
「有り難き幸せ、ナガヤール王国と国王陛下の為に改めて忠誠を誓います」
「汝、ヒャルダ・ハマワールを、伯爵家を継ぐ迄の間子爵を名乗る事を許す。その間年金貨1,200枚を与える」
「有り難き幸せ、ナガヤール王国と国王陛下の為に改めて忠誠を誓います」
「フィエーン・ハマワール、そなたの勇敢なる行いに対し褒美を遣わす」
「有り難う御座います陛下」
「尚フィエーン嬢の望みにより、以後魔法大会の貴族部門を廃止する」
「陛下、襲撃事件に対する功労者と謂えども、あまりに褒美が過ぎるのでは」
「そう思うか、ナガヤール公爵」
「はい陛下、ハマワール子爵は息子と娘を戦いの場に赴かせ、自信は観覧席にて傍観していました。一味の一人が、たまたま倒れた所を取り押さえただけです。伯爵に任ずるなど余りに贔屓が過ぎます」
陛下の額に青筋が浮かんだ。
「では聞くが、ジャクセン・ナガヤール公爵、予を襲った一味の一人が予を狙って魔法攻撃をしていた時に、そなたは何をしていた。予の椅子の後ろに隠れて震えていたであろう、恥ずかしくは無いのか! 若い娘が身を隠す場所すら無い訓練場の中央で、身を晒して予を守る為に戦っていた。ハマワール子爵は、あの状態で嫡男が予に近付けば切り捨てられるのを承知で、予を守れと送りだした。勇者ヒャルダ・ハマワールは、近衛騎士に頭を切り付けられても予を守ったぞ。嫡男を予に差出し、娘を危険に晒して何もせずにいたと思ったのか? 混乱の最中周囲を監視して新たな敵に備え、見事一味の一人を取り押さえたであろう。功の第一はシャルダ・ハマワール子爵に有る! 予の椅子の陰で震えていたお前は、予を盾にして我が身を守った見事な腰抜けよ。ナガヤールの名が泣くわ!」
「国王陛下と謂えども余りな言葉、取り消して貰いたい。公爵たる我を腰抜けとは、如何な国王陛下謂えども我慢ならん!」
「そうか、腰抜けにも公爵としてのプライドは在るのか。腰抜けにプライドなど必要在るまい。騎士団長、この王を盾にして我が身を守る不敬な男を取り押さえよ」
騎士団長自ら公爵を床に叩きつけて取り押さえ、呆然と見つめる近衛騎士を叱咤して拘束させた。
「騎士団長、この男の控えの間に居る護衛達を拘束し、王都の屋敷を鎮圧せよ。抵抗すれば容赦するな!」
静まりかえる謁見の間に、国王陛下の怒りの声が響く。
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