第168話 街道沿いの闘い
プラチナランクのセレゾが指揮を執り、シルバーランク以上の総勢30数名が街道沿いを捜索する事になった。
「済まんが、カイトとシャーラは別の事を頼みたい」
「おいおいギルマスさんよ。そいつ等を特別扱いかよ」
懲りない男だね、トレントは。
「止めとけ今日一緒に森を歩いたが、二人の索敵能力は抜群だぞ。俺達じゃ足下にも及ばないな。それにブラウンベアをストーンランスの一撃で仕留める腕だ。ゴールドのお前より遙かに腕はいい、絡む前に少しは精進しろ」
〈ケッ〉って、本当にケッなんて言う奴がいるんだと感心した。
「それなら尚更のこと一緒に街道沿いを探索して欲しいな、無駄な労力は極力減らしたいから。頼めるかなカイト殿」
ギルマスの思惑も判るがここは協力すべきだろうと思い、セレゾの提案を了承する。
ギルマスは多分森の奥を調べて欲しいのだろうと思う。
捜索範囲を絞っての警戒と捜索が続くが一向にゴールデンベアの姿が現れない。
居るのは判っているがちょっと遠い。
俺達があそこに居るとは言えないし、グリンやピンクに任せたいがそうもいかないのではがゆい。
魔法攻撃を受けて勝手に死んでいたのでは都合が悪い。
「カイト様、グリンとピンクにこちらに追い出して貰えばどうですか」
シャーラの言葉で、猪や鹿猟で勢子を使って追い出す狩猟方法があった事を思い出した。
次の日シャーラの提案を実行に移すべくグリンとピンクにお願いする。
《カイト見付けたら教えればいいの》
《ピンクが見付けるよ》
《ピンク見付けても殺しちゃ駄目よ》
《んーわかった、シャーラ》
朝の打ち合わせが終わり配置につく前に、小さきもの達がピンクに野獣が居る事を伝えてきたようだ。
《カイト居るって》
《グリンとピンクはストーンバレットで、俺達の方に追い出してね》
《あーん違う、そっちじゃないったら》
《カイト駄目だよ、勝手にうろうろするからそっちに行かないよ》
ピンクのぼやきとグリンが思い通りにいかないゴールデンベアに、苛立つ声が聞こえてくる。
《グリンもピンクも適当でいいよ、街道の方に方に来たらそれでいいから》
《ん、判った》
俺達が網を張るその中に来ればそれで上等なので気にしなくてもいいのに、妖精って生真面目なところがあるからな。
グリン達に追い立てられたゴールデンベアが、街道に向かっているのは判っているが、それを他人に教えても信じて貰えないので黙ってみている。
俺達の配置は最先端、街から一番遠い位置にいる。
その俺達の位置より大分街よりに、ゴールデンベアが向かっているのが判るが誰も気づいていない。
やきもきするがこればっかりはどうにもならない。
騒ぎになれば駆けつける事も出来るが、今は我慢のしどころだ。
ゴールデンベア発見の合図の笛の音が聞こえてきたが遠い。
相当進路がそれたようだ。
だんだんと笛の音が近くからも聞こえてきたので、そちらに向かって駆け出すがピンクが何か言ってきた。
《ねえカイト、トカゲもいるよ》
〈ヘッ〉って間抜けな声が出たのは勘弁して欲しい、予定外だよ。
《何処にいるの》
《んー熊の後ろから歩いてるよ。未だ森の中だよ》
未だ森の中とはいえ、ゴールデンベアと冒険者達の闘いの最中に来られたら目もあてられない事になる。
もうゴールデンベア討伐は始まっている、今更ドラゴンも居ると言えばパニックになって被害が増すだけだ。
仕方がない担当部署は放棄し、ドラゴンの相手をするか。
シャーラに合図してドラゴンのいる方向に向かう。
面倒なテイルドラゴンでなくアースドラゴンであることを祈る。
《ピンクの案内で森の中でジャンプする》
居たのはアースドラゴン、シャーラが木の上に待機する。
俺も進路上の木の枝を探しジャンプ、体長8~9メートルのお手頃サイズだが硬さは一級品。
シャーラがストーンランスを撃ち込むが弾かれた。
《ピンク、シャーラにストーンジャベリンでいけって伝えて》
《わかった、ジャベリンね》
そう言っている間にアースドラゴン地球名コモドドラゴンが走り始めた。
俺の真下からずれている構わずストーンジャベリンを撃ち込むが、垂直でないので弾かれた。
逃がしてゴールデンベア討伐現場に行かれたら大惨事だ、アースドラゴンの前方にジャンプして待ち伏せ。
お手頃サイズとはいえ迫力満点のドラゴンの疾走、狙い澄まして足下に穴を開ける。
コモドドラゴンの足の長さなら落とし穴向きで落としがいがある。
前足2本をきっちり落として、頭から地面に突っ込んだ所を首根っこを押さえる。
「シャーラ横から頭を撃ち抜け!」
ジタバタするアースドラゴンの横に回り、狙い澄ましてストーンジャベリンを撃ち込む。
流石に首を押さえての狙い撃ちだ、一発で仕留める。
急いでマジックポーチに仕舞うと、ゴールデンベア討伐現場に向かう。
体長約4メートル体高3メートルちかくある、ゴールデンベアが咆哮し暴れるのを討ち取るのは、ゴールドランクやプラチナランクでも手子摺る様で皆傷だらけで闘っている。
「遅いぞ! 大口を叩く実力を見せろ!」
へいへい、模擬戦で負けたのを未だに根に持ってるね。
尻尾を巻いて逃げ出さなかったのは褒めてやるが、腰が引けてるよ。
シャーラと左右に分かれ隙を伺う、乱戦状態ではストーンジャベリンやストーンランスは危険だ。
指で鼻を叩く合図をすると、意味を察したシャーラが頷きゴールデンベアの正面に回る。
お仕置き用のストーンバレットをゴールデンベアの鼻面に叩き込むと、怒りで立ち上がった所を狙ってストーンランスを胸に撃ち込む。
胸に突き立つストーンランスに動きが止まるゴールデンベア、すかさず槍を持つ冒険者が腹に突きを入れる。
次々に槍で突かれ切り刻まれて倒れると歓声が上がる。
死者3名怪我人多数、瀕死の重傷者もちらほら見えるのでシャーラが困った顔で俺を見つめるが、何とも言えない。
折角ここまで隠してきたのに、応援の冒険者達が元の街に戻ったら噂が広まるのは避けられない。
野獣討伐の為に生活を共にしてきた仲間達だ、見殺しにしろとも言えないので肩を竦めて好きにさせる。
無体をする奴が出たら相応の対応をさせて貰うことになるが、成るようにしかならない。
重傷者の傍らに跪くと〈なーぉれっ〉と呟き次の重傷者のもとに行き〈なーぉれっ〉と呟く。
怪我をした冒険者だけでなく皆が注目しているが、瀕死の者から重傷者まで次々に〈なーぉれっ〉の一言で治す。
「皆何を呆けている! こいつを持って凱旋だ胸を張れ!」
セレゾの声に、止まっていた現場に活気が戻る。
セレゾがマジックポーチにゴールデンベアを仕舞うと、皆意気揚々とエグドラの街に帰る。
冒険者達にシャーラの治癒魔法を口止めしたいが、ゴールドランクのトレントにそれをお願いすると逆に吹聴される気がする。
馬が合わない奴は何処にでもいるので、放置しておくのが無難なようだ。
冒険者ギルドに帰りセレゾが代表して報告をしている。
「おい報告より大事な事がある。カイトお前合図の笛が鳴ってから来るのが随分遅かったな、俺達が苦戦しているのを判っていてゆっくり来たんじゃないよな。その女があっさりゴールデンベアにストーンランスを撃ち込んだが、それが出来るのに何故来るのが遅かったんだ。お陰で3人死んでいる、怪我人を治したからって言い訳にさせねえぞ!」
周囲の俺達を見る目が厳しくなると、現場到着が遅れた責任追及に言葉を荒げる。
此処でアースドラゴンを出してもいいが、余り実力を見せたくない。
「どうした、釈明も出来ないのか」
「カイト殿訳を聞かせて貰えないか、現場から一番遠くに居たとはいえトレントの言い分も無視できない。他の討伐参加者にも説明してやってくれないか」
「判ったよ、解体場に行こうか。現物を見れば納得すると思うから」
ぞろぞろと皆で解体場に入り、先ずゴールデンベアを出して貰う。
片隅に死者3名を安置する。
解体場の中央を開けて貰いアースドラゴンを出す。
〈ウォー〉
〈ド,ド,ドラゴン〉
〈ウギャー〉
・・・〈初めて見たぜ〉
〈凄えなぁー〉
〈何処で捕ってきたんだ〉
「まさかな、あの時アースドラゴンも居たのか」
「ああ、ゴールデンベアの後を追って森から出て来るのを見付けた。ゴールデンベア討伐の最中に、此奴が現れたらどうなると思う」
「トレント、文句は無いよな」
「それがゴールデンベアを追いかけ、森から出てきたってのはお前の言い訳だろう。誰も見ていないから、どうとでも言えるさ」
「討伐現場に行けば判るさ。明日あの場所に行き、ゴールデンベアの足跡を逆にたどってみろよ。途中からアースドラゴンの足跡も残っているからな。俺が小細工をすると思うのなら、今夜現場に行き見張ってろ」
歯ぎしりして黙り込んだトレント。
「お前は俺が言い出さなければ黙っていて、アースドラゴンを売った金を懐に入れるつもりだったんじゃねえのか」
「とことん屑だな! よくゴールドランクになれたな」
「お前、俺を馬鹿にする気か」
「馬鹿にする気じゃなくて馬鹿にしているんだよ、屑が! なんなら今度は一対一で本気の模擬戦をやるかい。怖けりゃ逃げてもいいぞ」
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