第47話 オークション
王都冒険者ギルド主催の、2ヶ月に一度の定例オークションにウォータードラゴンの出品が報じられると、王国中が沸き返った。
尚、ウォータードラゴンは2頭有有るが、1頭はオークション価格の10%上乗せで王家が引き取る事が決まっているとの異例の内容だった。
定例オークションは2月15日開催なので後り1ヶ月しか猶予が無いが、噂は一瞬で国内外に広まった。
我も我もと貴族や豪商達が続々と王都ヘリセンに集まって来た。
エグドラホテルにも貴族や豪商達の姿が増えたが、食堂の片隅でのんびり食事をする二人の子供が、討伐者だとは夢にも思われず見向きもされなかった。
それは支配人も同じで、ハマワール侯爵が王都に来る時に連れて来る、目をかけている冒険者としか認識がなかった。
カイト達二人と、ウォータードラゴンを結び付ける事はなかった。
一日侯爵様に呼ばれて、シルバーフィッシュとレインボーシュリンプを渡しに行く。
シャーラが、減っていくシルバーフィッシュとレインボーシュリンプを悲しそうに見ているので、苦笑している侯爵様。
「シャーラ客に出すのはシルバーフィッシュの切り身だけだ、皮はちゃんとお前の為に取ってあるから心配するな」
侯爵様、シャーラは身も好きなんですよ、とは言えなかった。
なので秋にはシルバーフィッシュとレインボーシュリンプを取りに、森に行こうと約束した。
シャーラも、のべつ幕なしにシルバーフィッシュやレインボーシュリンプを食べている訳ではない。
少なくなるのが悲しいって、子供だねぇ。
侯爵様又には、秋に森に行くのなら私にもと頼まれてしまった。
オークションの為にヘリセンにやって来た、懇意な貴族の饗しに使い多いに面目を保っているとホクホクだ。
帰りにフィの所に寄ると、こちらも友人達を招きサロンで話に花が咲き、氷漬けにした房の実等が好評だとにっこり笑っている。
魚卵も皆は初めて食べるの物なので名前を聞かれ、安直にイクラと答えておいた。
朝食に出すと最初は恐々食べるのだが、直ぐに気に入り無くなりそうだと悲鳴をあげている。
アーマーバッファローのお肉を一つ、厨房に渡してからホテルに帰る。
* * * * * * * *
オークションは大盛況で、ウォータードラゴンは最後に出すために一応確認出来る様に展示しているのだが、一目見ようと人波が途切れることなく続いた。
一般の通常オークションは恙無く終わり、お待ちかねのウォータードラゴンのオークションが始まる。
参加資格は、金貨2,000枚以上を即金で支払えると証明出来る者だけが参加を許された。
無料の見物席は超満員で、中に入れない者が入口で揉めて警備の兵士に連行される者多数とてんやわんや。
「これより、ウォータードラゴンのオークションを開始致します。当ウォータードラゴンは過去3番目の大きさですが、80年以上前に出品されて以来の事です。当時のドラゴンはこれより3メートルほど小さい物でした。当ドラゴンは、鼻先から尻尾の先までの大きさが14.8メートル御座いますます。クラス12のマジックポーチには収まらないので、尻尾をロープで引き寄せて持ち帰った物です。又傷は4ヶ所打ち抜かれているだけで、それ以外の傷は御座いません」
司会者の紹介で始まったウォータードラゴンのオークションは、開始値金貨2,000枚があっという間に3,000枚3,500枚4,000枚となり観客を驚かせた。
前回のオークションに出されたウォータードラゴンの落札価格は、金貨3,780枚だった。
これを参考に競り落とす気満々で参加した人々も、大きさと傷の少なさでどんどん値が釣り上がるのを見て、続々と脱落していった。
大物貴族や豪商達以外は流石に手が出なくなり、それでも諦め切れず粘った者達も一人二人と脱落していく。
金貨5,000枚からは競り値も100枚200枚の我慢比べとなって一人又一人と抜けていったがそれでもジリジリと値が吊り上がっていく。
結局5人の貴族と豪商の意地の張り合いとなったが、金貨7,000枚で主催者が競りを止めた。
このままオークションを続けれは、面子を潰された貴族が何をやるか分からないと判断した為だ。
コイントスで表裏を当てさせ、遺恨の残らぬ様に完全な運任せにした。
各自目の前に金貨を一枚表裏を決めて置かせ主、催者が金貨を弾き上げ落ちた金貨を見て二人が抜ける。
二度目に一人抜け豪商と貴族の一騎打ちと為ったが、最終的に貴族が権利を手に入れてオークションは終わった。
負けた者も5人で争い、最終的に運任せとなっては文句も言えず、諦め切れない表情ながらもオークションに最後まで残った誇りを持って帰って行った。
オークション主催の王都冒険者ギルド側も、冷や汗が滝の如く流れる開催であった。
「陛下、オークションの結果が出ました金貨7,000枚です」
「意外と安いな」
「いえ主催者側が、5人の競り合いになり金貨7,000枚ななった時に競りを止め、遺恨を残さぬ様にコイントスの表裏で落札者を決めました。貴族と豪商達の、意地の張り合いになった様です」
「ではエグドラの冒険者ギルドに、対価を支払っておいてくれ」
「総額7,700枚ですゴールデンベアと含めて金貨9,700枚のお買い物ですね。他国の王家も、我が国に凄腕の冒険者か居ると知れば一目置くでしょう」
* * * * * * * *
「カイト、ウォータードラゴンが金貨7,000枚と決まったぞ」
「決まったって・・・オークションでしょう、落札じゃないんですか」
「大貴族と豪商5人の意地の張り合いになったので、ギルドが競りを止めてコイントスで落札者を決めたそうだ。王家は金貨7,700枚をギルドに支払い10%引いた6,930枚が二人の取り分だな」
「だってさシャーラ又金貨6,930枚増えるぞ、それとオークションの20%引いた残り5,600枚」
シャーラがイヤイヤをしているが、諦めろ!
俺なんて数えて無いけど、金貨7,000枚近くは有るはずだし数えるどころか見る気もしない。
オークションと王家買い取り分を合わせた、金貨12,530枚の半分6,265枚がシャーラの取り分と聞いて、完全にフリーズしちゃったな。
王家の支払い分とオークションの代金は、エグドラに帰ってから侯爵様の館で受け取る事になった。
げんなりしている俺の顔を見て、侯爵様が笑ってる。
俺は、薬草採取の冒険者を辞める気は無いからね。
次に湖へ行った時には、シルバーフィッシュを横取りされても討伐はしないと心に誓った。
落ち込むシャーラに、今夜はシルバーフィッシュとレインボーシュリンプの食べ放題だと耳打ちしたら、即座に復活した。
* * * * * * * *
5月半ばエグドラの街に帰ってきた、冒険者ギルドで護衛の冒険者達と別れてホテルを通りすぎ・・・
「侯爵様、ホテル」
「あぁギルマスが待ちくたびれているんだ、明日例の物の代金を持って来るから受け取ってくれ。それからホテルに送るよ」
鼻歌交じりにフンフン言っていたシャーラが、フリーズしたのは忘れていた様だ。
俺の経験からだけど、諦めてマジックポーチの肥やしにしろって言っておく。
頭をポンポンして耳元で〈シルバーフィッシュ食べ放題〉と囁くと復活しました。
ヒャルと侯爵様が吹き出している。
* * * * * * * *
侯爵様の執務室で、ギルマスがマジックポーチから金貨の袋を取り出すのを眺めている。
125袋と端数の30枚、机には置けないので絨毯の上に10袋づつ12山と5袋と端数の30枚だ。
「確認してくれ」
顔を見ると頷くギルマス、数えるのは袋の数と端数だけざっと見て終わり。
「ギルマス信用してます。と言うか数える気になりません」
ギルマスは帰って行ったが、持って帰ってはくれないんだよね。
「シャーラ、諦めてマジックポーチに半分入れろ」
62袋をシャーラに押し付け、1袋と30枚もきっちり65枚づつに分けて渡す。
マジックポーチに仕舞うのも一苦労って何だよ、シャーラは無表情で黙々と手を動かしている。
「今年の秋も森に行くのか」
「行きますけど、絶対に討伐はしないで食べる分だけ取ってきます」
「私達の分くらいは頼むよ」
「侯爵様が饗しに使う分くらいは収納に納まるので持って帰りますが、使い道の無い金貨を幾ら貰っても有り難みが無いですね」
「私も、こんなにお金どうしよう」
「シャーラが結婚する時の蓄えに持っていな。老後まで使い切れないほど有るから、後はのんびり出来るぞ」
「私は冒険者になって、カイト様の行くところについていきます」
「森ではシャーラが居なきゃどうにもならないから、頼りにしてるよ」
にっこり笑って頷くシャーラに、侯爵様が〈当分、美味いものが食べられるな〉と呟いているのが聞こえた。
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