第48話 薬草大全

 秋に森に行くのなら、シャーラの知らない薬草の知識が欲しい。

 冒険者ギルドに行き、ノーマンさんに聞いてみたが大した資料は無いと言われた。

 薬師ギルドに行けと優しいお言葉と共に、ギルドから放り出された。

 冒険者ギルドで買い取りする薬草は、初心者が草原や森の浅いところから採取する物でありきたりな物だけ、お前の方が良く知っていると言われた。

 

 やって来ました薬師ギルド、ジロリと睨む目付きの悪いお姉さん。

 事情を話すと、子供が何を寝言を言っているのかと不信気な顔つき、冒険者カードを見せると少し態度が変わったね。

 銀貨1枚を払い、買い取り薬草一覧の資料を見せて貰ったが駄目だ、現物と照らし合わせて説明を読まなければ採取は無理。

 本格的な薬草大全の様な本は、王都の本屋か王都の王立図書館に置いてあると言われてしまった。

 

 なら行くさ!

 馬車を引取り馬を借りて出発となったが、一応侯爵様に王都に用は無いかと尋ねる。

 王都に行くのなら俺も行きたいと、ヒャルも同道することになり三人でお出掛け。

 ヒャルも冒険者スタイルが身についてきたが、どことなく育ちの良さが出ている。

 今回は二頭立てにしてみたが、シャーラは軽々と馬を操り俺との腕の差を見せつける。

 

 ヒャルはシャーラが見つけた野獣を、嬉々としてアイスランスの餌食にしている。

 腕を上げたね、ほぼ百発百中なので俺の出番は無し、やる気も無いけど。

 ファングボア2頭エルク3頭ゴブリンはシャーラが蹴散らして進む。

 

 「カイト様、ビッグホーンシープが居ますがどうします」

 

 「ん、あー・・・シープって」

 

 居眠りをしてたら、シャーラが何か言っている。

 

 「欲しいな、あれの肉は中々味わいがあるので人気何だ」

 

 「ビッグホーンシープって、こんな所に出てくるのか」

 

 「たまに人の作る作物を好んで食べる奴がいるから、それだろう」

 

 「シャーラ、何処に居るんだ」

 

 「進行方向右側です」

 

 馬車のスピードを徐々に落とさせ、一番近づいた所で止めさせた。

 

 「ヒャル届くかな」

 

 慎重に狙って一発、弾かれた様に躯を浮かせ倒れる。

 俺もビッグホーンシープは初めてなので見に行ったがブロンズ色の見事な巻角の巨体が横たわっていた。

 

 「カイト、ギルドに渡すときお肉は全部引取ね」

 

 ヒャルが嬉しそうだね、そんなに美味いのなら半分とは言わないが、少々頂こう。

 

 今回は二頭立てという事もあり7日目の昼前には王都の門に到着、侯爵様の身分証でさっさと抜けて冒険者ギルドに直行する。

 買い取りカウンターの爺さん元気そうだな。

 

 「査定をお願いします」

 

 「おっお前か、今度は何だ」

 

 「ビッグホーンシープとファングボア2頭とエルク3頭です」

 

 「分かった裏に行くぞ」

 

 ビッグホーンシープのお肉は全て引き取りで、残りは売ると告げて代金は俺のカードに振り込んでおいてとお願いする。

 肉は明日の昼過ぎには用意しておくと言われてギルドを後にする。

 

 「今回はあっさりしたもんだね」

 

 「いや何時もあんなもんだよ、アーマーバッファローの時の様な事は余り無いよ。お肉は半分貰うよ」

 

 「えっ半分もかよ、シャーラと二人だろう足一本にしてよ。俺達は4人なんだから」

 

 「仕方がない、足一本で我慢するか」

 

 侯爵邸にヒャルを送り届けると、門衛が冒険者スタイルのヒャルにびっくりしていた。


 * * * * * * * *

 

 冒険者ギルドにお肉を引取に行くと、ギルマスが出てきた。

 

 「ファングボアもエルクもビッグホーンシープも一撃の見事な腕だ、お前シルバーの2級だったな」

 

 「あのーザクセンさん、褒めてくれている所を申し訳在りませんが、それを仕留めたのはハマワール子爵様です」

 

 「なにー子爵だと、そんな奴居たか」

 

 「昨日一緒に居た方は、冒険者の格好をしていましたがヒャルダ・ハマワール子爵様です」

 

 「だがお前は以前、アーマーバッファローを倒していたよな」

 

 「俺は魔力高40しか無いので、あれは死に物狂いの一撃ですよ。子爵様は魔法が上手くて、旅の途中に出て来る野獣を一人で倒してますよ。捕った獲物は全て俺が貰ってますけど」

 

 「それじゃー、ゴールドランク昇級は無しだな。肉の用意は出来てるから持って行け」

 

 ゴールドランクなんて冗談じゃーねぇぞ、おれはブロンズで満足なのにあのギルマスのお陰でシルバーになっちまったんだからな。

 お肉を貰ったら、さっさとヒャルの所にいこーっと。

 お肉の大きな塊7個をマジックポーチに仕舞い、ハマワール侯爵邸に向かう。


 フィリーン奥様とフィ,ヒャル,シャーラに俺の夕食はビッグホーンシープのステーキがメインで、ヒャルがお肉を欲しがったのが良く解った。

 食後のデザートに女性陣は房の実を、俺とヒャルは酒でまったりとする。

 明日はヒャルの案内で本屋に行く事になり、シャーラはフィの館にお泊りすることになった。


 * * * * * * * *

 

 ヒャルの案内で本屋に向かうが、王都には書店が2件在り貴族や豪商達のサロンの様になっているらしい。

 高価な書物を読んだり買えるのは、財力と知識を有する者達の特権扱いだそうだ。

 確かに本屋の周辺に豪華な馬車が数台停まっている。

 建物は周辺に溶け込んでいるが扉は頑丈さと優美さを過不足なく示し、普通の人間は扉の前には立たないだろうと推測される。

 

 ヒャルは躊躇いもなくドアを押して中に入る。

 中は庶民には無縁の装飾が施された部屋で、奥に続く扉の横にテーブルと傍らに控える執事風の男が一人。

 

 「ヒャルダ・ハマワールだ、彼は父が懇意にするカイトだ」

 

 「ヒャルダ・ハマワール子爵様ですね。カイト様と侯爵様とはどの様なお付き合いでしょうか」

 

 チラリと素早い目付きの中に人を品定めする光がある。

 

 「懇意と言ったが、不服かな」

 

 「申し訳御座いません。私共は良く存じ上げていないものですから」

 

 ヒャルに促されて王家の紋章入りの身分証を見せると、深々と頭を下げてドアを開け招き入れてくれる。

 中は侯爵邸のサロンの倍程度の広さの部屋で、周囲の壁は書物で埋められていた。

 ソファーやテーブルが疎らに置かれ、凝った仕切で隔てられている。

 談笑している者書物に没頭している者それぞれだが、部屋に入ってきた俺達にさりげなく視線を向けてくる。

 

 ヒャルに続いて空いているソファーに腰を下ろすと、お茶が運ばれて来る。

 傍らに四つ折にされたナプキンの様な物が置かれるとヒャルが金貨2枚をそこに置く。

 一礼して受け取るとどのような書籍が必要か問い掛けてきた。

 ヒャルが目線で促すので、植物に関する物で特に薬草全般を網羅しているものが見たいと告げる。

 

 一礼して下がっていく従者風の身なりの男を見送りどうなっているのか聞いてみた。

 

 「此処は一人金貨一枚で書籍の閲覧と飲み物が自由になるんだ」

 

 「つまり、貧乏人や市井の者は排除する仕組みになっているんだね」

 

 肩を竦める得意のポーズで肯定する。

 日本のぼったくりバーとかわらないな、銀貨1枚ならまだしも一人金貨1枚って平民なら一月楽に食っていける額だ。

 

 「書物は高価だから無理もないんだよ。一冊の写本に数ヶ月、長いものだと数年掛かるからそうなるのさ。特に図の入ったものは」

 

 ワゴンに乗せられて十数冊の本が運ばれてきた。

 一冊を手に取り軽くページをめくりながら内容を確認するが貴族の道楽対象である花木一覧だった。

 次々にページをめくり内容を確認しては新たな本に手を伸ばすが、目的の物が無い。


 ヒャルが軽く手を上げると先程の男が現れたので、薬草全般の図入りの本を要求したが持ってきた物が植物に関する全てだと言われた。

 では動物(野獣)に関する物を持って来るようにとつたえたが、これも外れ。

 

 次の書店に向かう。

 此処も先程の書店と同じシステムで、金貨2枚を支払って薬草に関する書物を持ってきて貰う。

 ワゴンに乗せられているのは8冊、植物図入り薬草に関する書物が5冊じっくりと見比べ3冊の購入希望を伝える。

 薬草香木図鑑、金貨140枚

 薬草全図、金貨220枚

 香辛料図鑑、金貨125枚

 合計金貨485枚、高いねぇ、オール手書きの図入りだから無理は無いけど。

 

 書店員の最敬礼に見送られて馬車に乗る。

 後は王立図書館だが翌日にした、森の薬草の事ならシャーラも連れて行った方が良いと思ったので。

 

 その夜はシャーラに買ってきた三冊の本を見せ知っている物がどれくらいあるか聞いてみた。

 シャーラの母親が採取していた薬草類は、森の一族が薬師ギルドに売っていた物ばかりで、割と高額だが森の奥に行けば簡単に手に入る物が多いとわかった。

 それだけで母子二人の生活は賄えたって事で、無理して貴重な薬草を探す必要は無かったって事だ。

 

 普通の冒険者は森の奥に危険を冒してまで薬草採取には行かないから当然か。

 俺も森の奥に行く序でに、知らない薬草を採取してみたいと思っているが無理をしてまで探す気は無い。

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