第46話 シャーラは泣きそう

 成長したシャーラの為にフィが服を誂えてくれたが、冒険者用の服も少し寸足らずになりかけているので新調することにした。

 王都の商業ギルドで、冒険者用の衣服の生地を扱っている店を紹介して貰い出向く。

 フィが以前買った、蜘蛛の糸で織られた生地を手に入れたので、縫製はフィが仕立てて貰った所に頼み付与魔法は別途頼む事にした。

 

 武器屋に寄ってシャーラのショートソードを物色するが両刃の剣は幅が広いのが難点、両刃の性質上強度を保つには仕方がない。

 日本刀の直刃の様なショートソードを打って貰う事にした、長さはシャーラに合わせ要らなければ俺が使う事にする。

 

 概略図を見せると鍛治師が興味を示した、鎬ってのはこちらの世界には無い概念だからだ。

 シャーラも興味をしめした、片刃の剣は珍しいからだろう。

 扱いは難しいが、打ち合う時に峯や鎬で受けると刃こぼれしないのが俺の好みだが、振り回す自信は無い。

 

 俺は柄の長さが肩口迄で槍先40センチ片刃の短槍を作る事にした。

 森に行く前に買った物は使い勝手が今一なのだ、下草払いから枝打ち握り拳より大きな蜘蛛を切り捨てたり使用頻度が以外と多い。

 峯で叩き付けても、刃こぼれの心配の要らない片刃は殴りつけるのに最適だ。

 魚やエビを扱う時に便利な手鈎も忘れずに注文する。


 後は網が欲しいが網と言っても首を捻るだけで、通じないのは内陸部で大河も無いからかな。

 蜘蛛の糸から手作りする事にする。

 一辺が3メートル程度の四つ手網だから、素人作業でもエビを掬うだけならいけると思う。

 

 シャーラが沢山貰ったから支払いは自分ですると言って、お財布ポーチから皮袋を取り出した。

 王家の紋章炎の輪の中に、交差する剣と吠えるファングウルフの物に店員が驚いている。

 子爵家縁を示す、目立たぬ様に入れられた紋章入りの衣服、片や侯爵家縁の紋章入りの衣服を着た成人前後の二人が持つには、不似合いな物だから。

 

 ホテルに帰る前に、以前立ち寄った店でお茶を楽しみ、店売りの茶葉と菓子を沢山買って帰る。

 菓子と房の実やシルバーフィッシュのパリパリした皮は別腹だと、成長期のシャーラに言われると何気に凹む。

 

 * * * * * * * *

 

 1月上旬を過ぎた頃に、侯爵様から館に来て欲しいとの連絡を貰ったので、シャーラと二人ホテルの馬車で侯爵邸に向かう。

 通された侯爵様の執務室には、エグドラ冒険者ギルドのギルマス,ノーマンさんが居た。

 ヒャルとシャーラを交えた五人の話し合いで、ゴールデンベアとウォータードラゴンは、ギルマスのノーマンさんに直接話が持ち込まれた事で合意した。

 

 冒険者の素性を明かさない条件として、エグドラ冒険者ギルドが売買の権利を持つとの筋書きが出来上がる。

 王家との取引価格の10%を冒険者ギルドの手数料と決める。

 ウォータードラゴンの一頭はエグドラ冒険者ギルドの扱いとなり、オークションには匿名冒険者の代理人としての権利を有する。

 冒険者ギルドが代理人として、オークションの手数料込みの価格20%をエグドラ冒険者ギルドが受け取る。

 全ての話が決まり、騎士の訓練場でゴールデンベアとウォータードラゴンを、ノーマンさんのマジックポーチに移し替える。

 

 フィには何も知らない事にして、果実や花シルバーフィッシュ等は侯爵様から頂いたと惚けて貰う事に決定。

 

 準備が全て整ったので、宰相閣下にエグドラ冒険者ギルドから問題の物が到着したと連絡を入れた。

 翌日午前中に王城に来られたしと、即座に返事がきて侯爵様は苦笑い。

 その夜はノーマンさんを交えての夕食となり、シルバーフィッシュとレインボーシュリンプの楽しい夕食となったが、ノーマンさんは唸りっぱなしだった。

 

 「然し、カイトがあれらを討伐したとなると、シルバーランクには置いて置けないな」

 

 「いやそれは止めて欲しいです。それをやると誰が討伐したのか、直ぐに判ってしまいますから。俺一人では近場の森ですら迷ってしまうので、ランクを上げられても困ります。シャーラが居なきゃ、あんな所には決して行けませんよ」

 

 「シャーラは冒険者にはならないのか」

 

 「14才になったばかりで、後2年しないと登録出来ないのですよ」

 

 「14だって! 流石は森の一族と呼ばれる猫人族の一人だな」

 

 「16才になったら冒険者登録します。カイト様のお供をして何処にでも行きます」

 

 * * * * * * * *

 

 侯爵様とギルドマスターのノーマンさんが王城に向かったので、俺達はフィの館に移動して、シルバーフィッシュをより分けて卵を取るのに忙しかった。

 シルバーフィッシュの卵はイクラと粒がよく似ている、試しに食べてみるとねっとりとした美味さは完璧にイクラじゃねえか♪

 醤油が欲しいが無い物ねだりは諦めて、薄い塩味にして貯蔵している。

 といっても収納は時間経過が無いので、食べる前に早めに出して塩水の浸透圧での味付けする事になる。

 

 フィもヒャルも、パンにのせて食べさせると一発で嵌まったね。

 壺に薄い塩水を作り魚卵を漬けるが、イクラのオレンジ色と違いサンドカラーの魚卵は見た目が今一だ。

 フィに1壺と、ヒャルには侯爵様奥様の分を含めて3壺を渡しておく。

 

 その頃王城では、陛下と宰相が侯爵様と共にやって来た、ギルマスが持参したゴールデンベアとウォータードラゴンの検分をしていた。


 ほう、ランク12のマジックポーチに収まりきらぬと聞いて居たが中々の物だな」

 

 「調べますに体長5メートルを超えるゴールデンベアは過去に何頭か討伐されています。頭を一撃とは・・・過去の物は相当な闘いだったそうで、冒険者獲物双方が傷だらけだったと文献に残っています」

 

 「傷を見るに、得物は槍程度の大きさだな」

 

 「然し、頭を撃ち抜いていますから魔法攻撃ではないかと」

 

 「ギルドマスター殿、どの様な使い手かな」

 

 「申し訳有りませんが、ギルドは冒険者にその様な事は聞きません。冒険者も言いませんので解りませんとしか答えられません。これらを持ち込んだ冒険者は、ギルドの買い取りにすら話さずに私に直接持っている事を伝えてきたので、秘密裏に確認した次第です。買い取れそうな方は侯爵様か、無理ならオークションとなりますので、先ずは侯爵様に声を掛けさせて頂きました」

 

 「過去のオークションでは、ゴールデンベアが金貨1,700枚ですがこれ程綺麗だと」

 

 「ではギルドマスター、ゴールデンベアを金貨2,000枚でどうだ」

 

 「結構です。ウォータードラゴンも一頭欲しいとの仰せですが、どちらを選ばれますか」

 

 「大きい方をほしいのだが、良いのか? これ程状態の良いものを差し出しても」

 

 「冒険者の要求は、身元を詮索しない事と適正価格です。王家に引き渡す物は、オークション価格の10%上乗せで如何でしょうか」

 

 「それで良い」

 

 「何しろ尻尾を伸ばせば14メートルを超えますので、過去の価格は参考になりません。オークションに掛ける際には王家に一頭渡していて、オークション価格に10%上乗せした代金を王家が支払う事を発表させて頂きます」

 

 「それで冒険達は納得するのか」

 

 「一任されております。オークション価格を知れば、自ずと王家に渡した獲物の価格も分かる事になります」

 

 「ではゴールデンベアの代金を先に渡しておこう。ウォータードラゴンの代金は、オークション終了後にエグドラ冒険者ギルドに振り込む事で良いかな」

 

 「有り難う御座います」

 

 ギルマスは金貨2,000枚を受け取ると、ハマワール侯爵と共に王城を後にした。


 * * * * * * * *

 

 「想像以上に見事な物ですね。どちらも一撃ですし」

 

 「これを見るとアーマーバッファローを思い出すが、フィエーン・ハマワール子爵は王都に居るし、ヒャルダ・ハマワール子爵も侯爵と共に領地に居る。カイトとか申す冒険者が手練れとは言え薬草採取が本業だ、魔力高40では森の奥に行けば死ぬだろう。冒険者にこれ程の手練れが居るのか、世は広いのう」

 

 「王国に迎えたいものですが、その気はなさそうですね」

 

 「三頭も仕留めるのだ、何人のパーティーか知らぬが結束は固そうだな」

 

 「これでは、エグドラに送った者からの報告は期待出来ませんね」

 

 「噂にすらなってないだろうからな」


 * * * * * * * *

 

 館に帰ってきた侯爵様とギルマスに呼ばれて執務室に行き、ソファーに座り侯爵様とギルマスに向かい合う俺とシャーラ。

 

 「ゴールデンベアは過去のオークション価格が金貨1,700枚だが、綺麗な獲物なので金貨2,000枚で引き取られた。異論は無いな」

 

 「有りません、ギルマスにお任せした事です」

 

 「では手数料10%を引いた、残り金貨1,800枚だ。確認してくれ」

 

 革袋18個数えて了承する。

 

 「王家買い取りのウォータードラゴンは、オークション価格に10%上乗せした金額がエグドラ冒険者ギルドに振り込まれるが、受け取りはどうする」

 

 「侯爵様が宜しければ、受け取っておいて貰えませんか」

 

 侯爵様の了解を受けて、ギルマスは帰って行った。

 18個の革袋のうち9個をシャーラに渡すと〈えっ〉と言ったままフリーズした。

 

 「言っただろう稼ぎは折半だとな。ウォータードラゴンの分はもっと多いぞ」

 

 シャーラが泣きそうな顔をしているが、俺に付いて来ると言った事を後悔しやがれ!

 侯爵様は泣きそうなシャーラを見て、苦笑いをしているだけ。

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