第95話 茨の森

 10日が過ぎ諦めてエグドラに帰る相談をしている時にグリンが帰ってきた。

 グリンの気配を感じて喜びの声を上げるシャーラ、グリンにいきなり助けて欲しいと言われた。


 《母様の地に、大きな蜥蜴が侵入し大地が荒されているの。カイトやシャーラから貰った魔力を使って戦ったが勝てないの》

 

 グリンの悲痛な声を聞き、自分達が必要ならと頷く。

 グリンを道案内に、グリンの母様である精霊樹の所に向かうが人の足では如何ともし難い。


 見通しの良い所ではシャーラと腕を組み、遠くのグリンを目指してジャンプする。

 シャーラの魔力高は90、転移魔法では最大900メートルのジャンプが可能だが目印が無い。

 グリンが見通しの良い所に出ると、俺の指示に従って遠くの目印の所に飛び羽を煌めかせる。

 それを目標に、シャーラと交互にジャンプを繰り返して先を急ぐ。

 

 3日目の昼前には精霊樹の手前に到着したが、魔力切れ寸前なのでキャンプハウスを出して魔力が回復するまで待機する。

 シャーラは、グリンにこの先に母様の樹が有ると言われて目を真ん丸にしている。

 〈茨の森〉そう呟くのが聞こえたが、訳は後で聞くことにして魔力回復のために眠る。

 

 1時間半程で魔力が回復して目覚める、シャーラはまだ寝ているが3時間少々で目覚めるので待つ。

 先ず精霊樹の所に行かねば、状況をグリンに聞いても俺達と行動を共にしていたのでよく判っていない。

 小さきものたちに呼ばれて精霊樹のもとへ帰り、蜥蜴と戦っていたそうだ。

 

 話しがお伽話じみてきたが、この世界って日本から見れば魔法有りのお伽話の世界だったのを忘れていた。

 ラノベには、この手の話は沢山あったよな。

 

 シャーラが目覚めたので〔茨の森〕って何だと聞いてみた。

 

 「村を追われた母様が冒険者になり、森を彷徨っていた時に見た覚えがあります。母様は茨の森だと教えてくれた。茨の森の先には精霊達の住まう所があり、人が立ち入ってはいけないと教えられました」

 

 「今は助けを求められているからな、一度上空に跳んで着地点を探そう、無ければ此処に戻る、いいな」

 

 推定400メートル上空から見た茨の森の奥は、遠く中央付近に一際大きな樹が見える。

 然し周囲の樹々が薙ぎ倒され無惨な有様だ。

 再ジャンプして無事な樹の側に着地したが、周囲から獣の気配が溢れ咆哮が聞こえる。

 

 《グリン、中央にある樹が精霊樹か?》

 

 《そう、あれが母様なの》

 

 《シャーラに、あの樹の側で会おうと伝えて》

 

 《ん》

 

 今度は目的の樹の方向に45度の傾斜をつけてジャンプし、すぐさま下を確認して着地点を探し再ジャンプ。

 5度目のジャンプで目的の樹の側に降りた。

 茨の森の内側から概算1,000メートルか、結構広いがどうやればこれ程荒れ地に出来るんだ。


 シャーラを待っていると、突然話しかけられた。

 グリンと同じく、頭に直接響いてくる声。

 

 《人の子よ、小さきものに魔力を与え、グリンと名付けた者か》

 

 《そうだが、あんたは》

 

 《お前の側にいるものだ》

 

 《精霊樹って、喋れるんだ》

 

 《不思議か、お前達獣も喋るだろう》

 

 シャーラがやって来て、マジマジと精霊樹を見ている。

 シャーラの後方に動く物・・・確かに蜥蜴だ。

 コモドオオトカゲ、又はコモドドラゴンの巨大版じゃーないですか。

 ウォータードラゴンが鰐の巨大化した奴だったが、今度は蜥蜴が巨大化した奴とはね。

 これもドラゴンって呼ばれているのかな。

 この地の神様って、地球から密輸でもしているんじゃないかと疑いたくなる。

 

 この蜥蜴は頭上に1本の角、顎には上下に一対の牙が見える。

 コモドドラゴンより少し手足は長く首も長めなのに、どう見てもコモドドラゴンだよな。

 見ていると、樹に背中を擦りつけているが樹皮は剥がれ落ち樹が傾いている。

 

 「カイト様、どうやってあれを倒すのですか? さっきストーンランスを撃ち込みましたが弾かれました」

 

 《あんたの側にあいつが来ないのは何故だ》

 

 《周囲に泉があります。子供達が水を操り防いでいるのです》

 

 確かに水面が見える、何かが跳ね陽の光を反射してキラリと光る。

 

 《カイト、あれを倒して! 沢山いて倒せないの》

 

 《沢山いるって?》

 

 「シャーラ、近距離ジャンプで周囲にどれくらいいるか見てきてくれ」

 

 左右に別れて偵察したが見える範囲で8頭の蜥蜴、大きい奴だと大型トラックの1.5倍は楽にある。

 試しに前足を穴に落として固めてみた、地面ごと持ち上げやがった。

 慌てて後ろ足も穴に落としてガチガチに固めたら、動けなくなった様だ。

 

 精霊樹の所に戻りシャーラと作戦会議、秘技遠隔魔法を教える事にする。

 ストーンジャベリンなら倒せると思うが、死骸の片付けるを考えると取り合えず足止めだな。

 基礎は出来ているので直ぐに習得した。

 魔力切れに気をつけて足止め作戦開始、動いている奴を片っ端から前後の足を穴に落として固める。

 

 取り合えず13頭を動けなくし、魔力切れ寸前で精霊樹の下に帰る。

 シャーラは10頭足止めしたが、魔力切れになりそうだからと引き返してきた。

 キャンプハウスに避難して魔力回復まで一眠りする。

 

 《グリン、未だ動いている奴の場所を調べておいてね。魔力切れだから暫く寝るわ》

 

 《ん、任せて》

 

 目覚めて魔力の回復を確かめ、隣で眠るシャーラを置いて表に出る。

 

 《グリン未だ動いている奴の所を教えて》

 

 《ん、こっち》

 

 俺に見える様にグリンが飛び、羽を煌めかせる。

 そこを目標にジャンプ、2度目のジャンプで茨の中に頭を突っ込んでいる奴を見つけ拘束する。

 茨の森も蜥蜴には効き目がなさそうだ、シャーラのストーンランスを弾いたっていうから相当固いのだろう。

 大型トラック以上の大きさで固いとくれば、茨の森の刺なんて気にもならないだろうな。

 

 結局4頭の足を固めて、侵入してきた蜥蜴全てを押さえ込んだ。

 別に傷だらけで死んでいる5頭と瀕死の4頭が居た。

 合計36頭の蜥蜴ってどうなってんのよ。

 キャンプハウスに戻るとシャーラがお茶を入れてくれる。

 グリンが戻って来てテーブルの上に降りるが、数が増えている。

 

 《カイト有り難う。みんな捕まえたね》

 

 《グリン、他の者達もお前の母様の子達か》

 

 《ん、そう、挨拶にきた》

 

 《有り難うカイト。私達は森の外の者達が妖精と呼ぶものだ。母様から生まれ母様と共に生きるものだよ》

 

 《俺達人族は、小さきものたちを精霊グリンや君の様な存在を妖精と呼んでいる。母様と呼ばれものは精霊樹と呼んでいるよ》

 

 《私からも御礼を言わせて貰うが、あれ達をどうするのか。出来ればこの地から出して欲しいのだが》

 

 《少し待ってくれないか、運び出す方法を考えているから。それより何故こんなに多くの蜥蜴が居るんだい》

 

 グリンが皆に聞いた事を教えてくれた。

 茨の森の外で、蜥蜴の群れ同士の闘いが始まったんだが、闘いの最中に別の群れが横から突っ込んで来たんだと。

 それで三つ巴の闘いになり、負けた一群が逃げ出した方向が茨の森だった。

 逃げる集団が闇雲に茨の森に突っ込んだため、森の中に有る柵が突き破られた。

 逃げ出した一群を追ってきた二つの集団と、中で又乱戦になったのだそうだ。

 

 なんて迷惑な喧嘩だよ。

 

 手足を拘束した奴は捨て置く事にする。

 死んでいる蜥蜴をマジックポーチに収まる大きさに切り分け、運び出すのが最良だが切れるかな。

 結論、無理でした。

 腹側は何とか切れるが背中の皮が硬くて切り離せない。

 ギロチンで切り離そうとしたが、荷物を満載した大型トラックより太くて硬い胴体を切り離すのには、巨大なギロチンがいる。

 

 この地に埋める案は精霊樹が嫌がった。

 思案の末に、死んだ蜥蜴を掴んでジャンプしてみた、大きさ関係なく手荷物としてジャンプ可能と判明。

 次に捨てる場所探しだが、谷というか地面の亀裂を見つけたのでそこに投棄する事にした。

 

 先ずシャーラに茨の森の内部にある蜥蜴の死骸を一カ所に集めて貰う。

 その間に俺は足を固定している蜥蜴達の頭を地面から槍を突き上げ息の根を止めていく。

 

 36頭の死骸を一気に集めて運ぶのは到底無理!

 往復72回のジャンプ等出来る筈もないし、それを何十回もは無理。

 茨の森から1,2回のジャンプでバラバラの場所に埋める事になった。

 これも結構面倒で、一度埋める場所を確かめてからでないとジャンプ出来ない。

 

 一度行って場所の確認をして、帰って死骸を持ってジャンプ、穴を掘り穴の中にジャンプ死骸を置いたら戻り埋めて帰る。

 これだけで九日経っていたが前後を入れると15日、グリンを待っていた10日を入れると25日が過ぎていた。

 終わったからバイバイとはいかない、壊れた柵を修理しておかないとまた同じ事が起きかねない。

 

 茨の森の密集地帯の中に初めて入ったが、茨の木の根本は人が楽に通れるほど広い。

 だが垂れ下がる枝には鋭く硬い刺が有る。

 又その枝が柳の枝の様に数百数千本垂れ下がり、地を這い絡みあっている。

 それも地面に近いほど緻密に絡み合い、如何なるものも通さない雰囲気は凄い。

 その茨の木が無数に生え、枝を絡ませていて先が見えない。

 

 グリンや他の妖精達と共にその茨の森の中に入って行くと、絡まりあった枝がゆっくりと解けて、人一人通れる通路が出来る。

 超スローモーションってところかな、シャーラは声もなく俺の腕をしっかり掴んで後をついてくる。

 柵は高さ5メートル程度の土塀といった感じで、風化してボロボロになっている。

 

 あー、メンテナンスしてないな。

 日本人の意識が目覚め、心の中でそんな突っ込みを入れてしまう。

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