第118話 隣国からの依頼

 ヒャルとフィに別れを告げて、森に行こうとしたらナガラン宰相から何やら頼みがあると連絡がきた。

 それもフィエーン・ハマワール子爵と共に、王城に来て欲しいとの事だった。

 

 あまり良い予感はしないが、フィ共々ってのが気になり行くことにした。

 シャーラは留守番のはずが、カイト様が行くのなら私はカイト様の護衛ですと付いてくる。

 

 宰相閣下の執務室に通されると、そのままナガラン宰相に連れられて城の奥に向かう。

 豪華な部屋に通され暫し待たされ、現れた国王陛下からフィは隣国ブルデン王国へ治療に行く事を命じられる。

 俺とシャーラにはフィの護衛依頼だ。

 

 「おかしな話ですね。王国が派遣する人材に、何故わざわざ護衛が必要なんですか」

 

 「一つはブルデン王国への道中に、極めて危険な場所を通らねばならんのだ。通り抜けるのに馬車で7日、途中に国境の小さな町がある以外は野営になる不便な場所だ」

 

 「冒険者の護衛は」

 

 「勿論付ける。もう一つは治療が終わって後の事だな、ブルデン王国には未婚の王子が2人に公爵家にも1人居る。加えて彼の国には優秀な治癒魔法使いがいない、我が国に依頼せねばならぬ程だからどういった現状か解るだろう。先のエルフ達の様子からもエリクサーや高級ポーションは品薄か在庫が無いと思える」

 

 「中々大変そうですね。誰の治療をするのか知りませんが、一人治療してすんなり帰してもらえそうもないですね」

 

 「約束は王女の治療のみだ、滞在期間は到着日を含めて3日だ。3日目の朝には出立する事になっている。他国との付き合いもあり断る訳にはいかんのだ、違約した場合の対応は全て任せる。責任は王国が負うことになる」

 

 「解りました、ブルデン王国の王女様の治療依頼、お引き受け致します」

 

 「いいのかフィ」

 

 「カイトとシャーラが居れば、何とかなるでしょう」

 

 出発準備のために5日間の猶予をもらい、急ぎ準備を始めた。

 

 * * * * * * * *

 

 出発当日王家御用の馬車に乗り込む、フィエーン・ハマワール子爵の衣装は、何時もの作務衣紛いの服だが豪華な刺繍が施されている。

 胸にはナガヤール王国の紋章が付いていて、ナガヤール王家差し回しの治癒魔法使いとして、王家に準ずる扱いである。

 従うカイトとシャーラも同じ衣装だが、刺繍は簡素で胸の刺繍も、王家の紋章ながら目立たぬものになっている。

 

 フィエーンの馬車に従うのは、ザラバン大使補佐のクリヤル・エイメン男爵、ブルデン王国内での案内係を勤める。

 それに続き事務手続き等相手方の折衝と、派遣大使にナガヤール王国からの指示を伝える役目を負う文官の者達だ。

 

 ハマワール子爵の馬車には王国警備軍の騎士20名と、シルバーランク及びゴールドランクの冒険者30名。

 エイメン男爵の馬車には騎士6名と冒険者10名が護衛に付き、ナガラン宰相達に見送られて粛々とナガヤールの王城を出発した。

 

 「国境のテルンまで35日って遠いね」

 

 「国境からブルデン王国の王都まで30日を忘れてるぞ」

 

 この世界何が不便って移動が馬か馬車、又は徒歩とやたらと時間が掛かる事だ。

 テレビもラジオもスマホも無い、雑誌も小説も無いので退屈極まりない。

 

 体が鈍らぬ様に、時々出発前の練習の成果を試す。

 シャーラは馬車の中から上空にジャンプし、バンジージャンプを楽しんだ後、又馬車の中に帰ってくる。

 夜になると転移魔法でジャンプしホテルの屋根に上がり、屋根伝いにジャンプを繰り返して街の外に出て息抜きだ。

 

 この長旅はグリンも退屈なのか、ちょくちょく周辺の森や草原に出掛けている。

 国境の手前危険地帯が近づくと、シャーラは御者台に座る。

 フィもシャーラも俺も服装は作務衣紛いの冒険者スタイルに変更、エイメン男爵や文官達が驚いていたが素知らぬ顔である。

 王都で雇われた冒険者達は、時々ハマワール家に雇われていてなれているので笑っている。

 

 国境の町の前後は危険地帯と聞ていたが、確かに野獣の数が多い。

 多いが60頭以上の騎馬と馬車に、襲い掛かる程の野獣はいなかったのでサクサク進む。

 国境の町? まあ町と名乗っているのだから町か。

 

 このテルンの町でブルデン王国差し回しの護衛達と合流するはずが、一人もいない。

 2日待っても現れる気配すらない。

 本来ならとうに来て待っているのが常識だが、いないものは仕方がない。

 無為に過ごすのも阿呆らしいので出発する。

 

 テルンの町を過ぎて2日目危険地帯も終わろうって時に、先頭を行く冒険者の騎馬列に魔法が打ち込まれた。

 乱れる隊列をまとめ円陣を組む冒険者達、その後ろに警備軍の騎士が馬車を守る位置に付く。

 

 「カイト様囲まれています」

 

 「シャーラ馬車に戻れ」

 

 魔法攻撃の主力のシャーラが馬車に戻ってフィも降りて来ない、冒険者達が不思議な顔で見ているが予定通りの防御体制を維持している。

 

 《カイト手伝おうか、蜥蜴でないので倒せるよ》

 

 《大丈夫だよグリン》

 

 グリンには、出来るだけ人族達の争いには巻き込みたくない。

 戦えば、一番強いのはグリンだろうけど。

 

 《どれくらい居るかな》

 

 《んー、沢山だよ周りにいっぱい居るよ》

 

 さいですか、沢山ね。

 馬車の側に砦を造りフィとシャーラを入れると12,3メートルの高さに持ち上げる。

 これで下からは見えない、フィは砦の中から周囲を監視し、近づく敵を安全に攻撃出来る事になる。

 

 「カイト殿何故反撃なさらない!」

 

 「エイメン男爵殿、そう言う前に此処はブルデン王国の領地ではなかったかな」

 

 「ですが現に今襲撃されています」

 

 「おかしいな、お国のザラバン大使はブルデンの領地内での安全は保障します、と大見得を切ってましたよ。貴方も横で笑って頷いていましたよね」

 

 「貴方が先陣を切って賊を蹴散らしてこそ、我々も援護出来るというもの」

 

 ブルデン王国の大使補佐をからかいながら、時間稼ぎでシャーラの行動を隠す。

 シャーラは砦の中から上空へジャンプ、スカイダイビングの要領で空気抵抗を利用し、落下しながら観察して一番密集している賊の後ろに再ジャンプで着地する。

 

 後ろには何の注意も払っていない賊の後ろから、ストーンバレットの連続射撃で撃ち倒していく。

 射つのではない、撃ち込むのだ、柔らかバレットでも砲弾をイメージした速度で撃てば、一撃で殺せる。

 当たったバレットは砕け散り、土魔法と分かってもどの程度の能力か多少は隠せる。

 

 一連射終わると再度上空へジャンプ、次の密集地の後ろに着地し攻撃開始。

 後ろから攻撃されていると知った賊の集団が前に出ると、フィのフレイムランスが飛んでくる。

 集団の賊を片付けたころには、残りは逃げ出していた。

 攻撃は終わった、砦から降りてくるシャーラの頭を撫でて褒めてやる。

 フィも砦から出て、シャーラをよしよししている。

 

 「エイメン男爵殿、賊をどうしますか。此処はブルデン王国内ですので、賊の扱いはお任せしますよ」

 

 あたふたするエイメン男爵に、追い討ちを掛けておく。

 

 「まさか自国内の出来事を他国の人間に任せて、後片付けまで押し付ける気ではないでしょうね。それと迎えの護衛の姿が未だに見えませんが、どうなっています」

 

 「いえ、あの、その・・・」

 

 「我々は少し先でキャンプを張りますから、片付けをお願いします」

 

 手前ぇの所の不始末くらいチャッチャと片付けろ!!! 口には出さないけど態度で示しますよ。

 

 冒険者達と王国警備軍の面々は、カイトとシャーラにハマワール子爵がいれば、何とかなると思っているふしがある。

 

 「然し、しょぼいファイアーボールだったね」

 

 「氷魔法も兄様に比べたら情けなくて笑いそうになりましたよ。師匠のお陰で威力のある連続攻撃が可能だから安心でしたし」

 

 「はい、カイト様に魔法を習って楽しいです」

 

 ニャンコは、バンジージャンプができれば楽しいの一言で済ますつもりの様だ。

 

 「でねカイト様、襲ってきた奴等の剣やブーツがお揃いでしたよ」

 

 フィと顔を見合わせたが、知らない振りをしておこう。

 面倒事はブルデン側に全て押し付けるに限る。

 

 30分程離れた所にキャンプの適地を見つけ、フィに俺のキャンプハウス、シャーラの厩にヒャルから借りたキャンプハウスを四角形型に並べ隙間に柵を造る。

 上空から見れば少し歪な八角形に見えるだろう、何せ俺達の護衛だけで総勢50名だ。

 フィは急遽ヒャルと同じ三段ベッドのキャンプハウスを造り、このために12クラスのマジックポーチを買った。

 

 その八角形の中に馬と馬車を入れ野営地にする。

 馬50頭に冒険者50名の野営地を防御するのは、面倒だから簡単にしたかったからな。

 キャンプハウスの中で寝ていたら、グリンに警告された。

 

 《カイト何か来るよ》

 

 寝ぼけ頭で気配を探る・・・何だろう知っている様な。

 陽が上る直前の時間、見張りの冒険者が警戒の声をあげた。

 瞬時に反応し所定の位置に着く冒険者と騎士達、俺とシャーラは二手に分かれ細長い筒状の足場を高くして攻撃準備。

 フィはシャーラと行動する手筈だ。

 高さ14,5メートルの土管の中と思えば間違いない、安全第一防御しながら攻撃出来る優れものと、自画自賛している。

 

 ラッシュウルフの群れだ、えらい奴が出てきたものだ。

 文字通り突撃あるのみって奴で、大きな群れは滅多に無いと言われている。

 然しどう見ても30頭以上いるように見える。


 「フィ,シャーラ、近づけるな!」

 

 怒鳴りあげ、近づいてくるラッシュウルフに、久しぶりにショットガンを撃ち込む。

 突撃が始まる前に少しでも頭数を減らしておきたい。

 冒険者達も、キャンプハウスの上や柵の後ろで攻撃に備えている。

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