第51話 強襲
室内に動揺が広がっているので、当たった様だ。
今を逃せば逃げられるか、警備が一段と厳しくなって遣り辛くなる。
此処は強敵を倒した様だし、強襲有るのみと覚悟を決める。
窓際に駆けより室内で騒ぐ男達に、ストーンアローを続けざまに撃ち込み、行けっ! と自分に気合いを入れる。
右の壁とドアの左右の男を倒したのでドアの所にジャンプし、壁越しに撃った男を見る。
倒れた男の傍らに冒険者風の男が呆けた顔でそれを見ているので、そいつにストーンアローを撃ち込む。
左の壁際に居た二人の行動は早かったが、ショットガンに切り替えて3連射の流し撃ち。
後ろに吹き飛び、信じられない様な顔をして倒れる男達。
息の有る護衛に止めを刺し、後は糞野郎だけだがこいつは楽には死なせない。
酒のグラスを持ったままフリーズしているが、両手両足を土魔法で固定し猿轡をする。
騒ぎに気づいたのか、館の中が騒がしくなってきたので一先ず糞野郎を連れて外へジャンプし、館の植え込みの陰に転がす。
即座に取って返し、ストーンアローやストーンランスを砂に変え、柱や梁の石材も砂に変えるとジャンプして植え込みの影に潜む。
見える範囲の柱を次々と砂に変え、ゆっくりとだが確実に建物を崩壊させる。
護衛達の居た部屋が綺麗に潰れたのを確認してから、アバヨだ。
植え込みの陰に転がした糞野郎を、一度ホテルの部屋に連れ込む。
転移を14,5回繰り返したし、ストーンランスに壁崩しと連続して魔力を使ったので魔力が残り少ない。
無理をすれば魔力切れになるので、魔力の回復を待つ。
「シャーラ、そいつが騒いだら殺してもよいぞ。少し寝るから後は頼む」
頷くシャーラに後を託し、ベッドに横になる。
目覚めた時には外が少し明るくなり始めていた、暗いうちに奴を街の外に出したかったがマズッものは仕方がない。
仕方が無いのでもう一日ホテルに泊まる事にし、シャーラと交代で朝食をとる。
日暮れまでの長い一日が終わり暗くなると、フルカンを連れて目星を付けていた場所までジャンプを繰り返す。
街の外に出ると穴を掘り、奴を放り込んで一度ホテルに帰る。
勿論死なない様にきちんと空気穴は開けている。
翌日は市場をぶらぶらして、美味しい物を探しは買い込んでいく。
午後も遅くなり街を出る為に門に向かうと、道の脇に見知った顔を見つけた。
チラリと俺達を見て、知らぬ顔で他の通行人に目を移す、不味いなぁ王家にモロバレだよ。
殺す訳にもいかないし、此処は素知らぬ顔で街を出るしか手が無い。
捕まえようとするのなら死んで貰う事になるが、手強そうだよな。
冒険者カードを見ただけで、何の誰何も受けず通された。
街を出て門衛の姿が見えなくなると、街道を外れて灌木の密集した影に馬車を乗り入れて様子を伺う。
あの男がのんびりと歩いて来る。
「シャーラ身を隠せ、いざとなったら逃げろ」
何の躊躇いも無く、俺の潜む場所にやって来る。
「何か用かな」
「いや見事な手並みだと思ってね。どうやったのか教えて欲しくて」
「残念だな、俺は冒険者なんで手の内は晒さないんだ。知りたいのなら命を賭けて貰う事になるぞ」
「そんな指示は受けていないので、止めとくよ」
「帰って伝えてくれ。嗅ぎ回るのは止めろ。って」
「そうするよ」
気障な仕種で軽く敬礼をすると、背を向けて悠然と立ち去った。
陽が暮れるまで交代で眠り、夜の帳が下りると埋めた男を引き摺りだす。
大小便に塗れて震えている男を、クリーンで綺麗にして馬車に乗せる。
街から離れる事2時間、夜は野獣の天国かと思えるほど湧いて出る。
シャーラのマジックポーチから厩を出して馬を入れ、替わりに馬車を仕舞う、俺達はドームを造って中に入る。
「エメード・フルカン、お前を殺すと言った事を実行しに来たんだ」
小刻みに震える男を立たせて衣服を切り取る。
マジックポーチ発見、使用者登録しているので解除させる。
すこーし嫌がったので、得意の赤い鼻を作って差しあげながら夜の草原に放り出すぞと脅したら、素直に協力してくれた。
「御協力感謝。これくらい素直なら、死ぬ事にならずに済んだのにね」
「助けて下さい。申し訳ありませんでした」
「いやいや手遅れだよ。ヒャル、ハマワール子爵が止めろと言った時に、止めておくべきだったな。お前は、王家にも見捨てられているのが判らない様だ。どのみちフルカン伯爵家は取り潰されることになる、他の三人も似たような事になるさ」
ロープで手を縛り街道まで連れ出し、街と反対方向を指差し帰り道だと教えてやる。
「街まで2時間の距離だ、死にたくなかったら走れ! 戦え! 此処に止まれば、野獣に襲われて確実に死ぬ事になる。お前が俺を殺せと命令したお返しだ、自分で戦え」
縋り付く男の顔を蹴りつけてドームの中にジャンプする、軽く酒を呑みながら夜明けまでの長い時間を過ごす。
暫くは奴の気配が在ったが遠ざかっていき、野獣の気配がしたがそれも消えた。
呑んでいて切り取った奴の目障りな服を、穴に埋めようとしてマジックポーチが目についた。
使用者登録を解除していたんだよな、ランク12の最高級品だよ。
確かお値段金貨1,500枚って聞いたような、シャーラにいるかと聞いたら嫌な顔をして断られた。
少し中を確かめると宝石で飾られたロングソード、あららら剣くらい持たせてやればよかったかな。
手遅れだろうなぁ、悪いフルカン許せよ。
然し趣味の悪い剣にショートソードも宝石塗れでゴテゴテだよ。
後は酒と宝石に革袋多数か、興味無いが捨てる訳にもいかないので収納に入れて忘れる事にした。
陽が登り始めたので、旅人や冒険者と出会う前にもう少し街から離れる事にする。
これといって目的地が無いのでシャーラに何処に行きたいか聞くと、去年行った森に行きたいと言うのでエグドラに向かう事にした。
* * * * * * * *
「陛下、手の者が戻りました」
宰相に伴われた男が、国王の前で跪く。
「首尾は」
「多分・・・死んでいるかと」
「多分とは」
「エメード・フルカンは、館に8人の護衛と共に一室に篭っていましたが、館の一角が崩れ落ちて護衛共々死んだと思われます。エメード・フルカンの部屋を中心に、館が崩れていて生存者は居ない模様です。カイトと申します少年が、領都エバンに到着して3日目の事です。館が崩れて2日後に街を出て行きましたが、その間領主の館近くまで行ったのは一度きりで何もしていません」
手の者を下がらせ、宰相と目を合わせお互いの考えを探る。
「使えると・・・思うか」
「報告に間違いがなければ無理でしょう。魔力高40で魔法が多少使えるだけでも奇跡的です。魔法師団の師団長に聞けば、魔力高50でも何とか使えるが、すぐに魔力切れになり役に立たないと言ってます」
「だがすぐに魔力切れを起こすだろうが、現に土魔法は使えている」
「教会を調査した者からの報告に、間違いは無いと思われます。土魔法,空間収納,転移魔法に魔力高40です。冒険者ギルドの魔力高測定も40と変わりません」
「以前、シャルダ・ハマワール侯爵の護衛として現れ、魔法の一端を披露した時の事を覚えているか」
「はい、魔法師団長が驚いていました。フィエーン・ハマワール子爵の護衛に現れた時は、実戦方式でも最低限の力で騎士達を倒していました」
「それよ、少ない魔力高を有効に使っている様だ。魔法師団長が驚いていたがエルフとドワーフの血を引いての、魔力高40は少な過ぎると。だがエルフやドワーフの血を引いていて、魔法の使い方が他者より上手いのかもしれんな」
「それはそうと、エメード・フルカンは如何致しましょうか」
「呼び出せ、出頭出来ないだろうが来なければ潰せ! 他の三人も順次降格し後進に道を譲らせた後転封で良かろう」
* * * * * * * *
途中寄り道しながらの旅で、エグドラに着いた時には8月も終わろうとしていた。
立ち寄る街の冒険者ギルドで、シャーラが倒した野獣を売り払い、その街の市場で珍しい物を探して食べたり買い込んでいたからだ。
エグドラで持っている野獣を全て処分し代金147万ダーラ、金貨14枚銀貨7枚を貰って市場に行く。
受け取った金は全てシャーラのお財布ポーチ行きだ、シャーラが腕試しで討伐しているからシャーラに渡している。
シャーラが半分こだと拗ねるが、フルカン伯爵から取り上げたマジックポーチの中の事を思うと、受けとる気にならない。
それに俺自身は薬草採取が仕事だと思っており、野獣の討伐での収入に興味が無かった。
馬を預けて、俺達が達が森に向かったのは9月の初日だった。
* * * * * * * *
「父上、カイトが冒険者ギルドに現れたそうです。然し手持ちの獲物を売り払うと市場で食料を買い込み、シャーラと二人で森に向かったそうです」
「エメード・フルカンの事で王家は沈黙を守っているが、フルカン伯爵家は取り潰された。エイメン子爵テンサキ伯爵ガルハン男爵の三人も、降格転封になり家名を落とした恥晒しと館の一角で寂しい余生を送っているらしいな」
「噂では、フルカン邸は何の前触れも無くフルカンの部屋を中心に崩れ落ち、護衛も含めて全員死亡したそうです」
ハマワール親子は顔を見合わせ、苦い思い出と共にカイトの事を思っていた。
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