第156話 厄介な奴

 10日後に西の拠点に出向くと、警備隊の隊長が気まずい雰囲気で話しかけてきた。

 シャーラを探しているのは隣国ケルーザン王国の貴族の使いらしく、事情も聞けなかったと詫びられた。

 

 貴族の使いって面倒事の予感しか無い。

 

 「判った、これから俺達は姿を隠すので、見掛けても声を掛けるなよ」

 

 そう告げると、隊長さんニヤリと笑って敬礼して出ていった。

 さっさと拠点から出ていこうとしたら、門の前で立ち塞がる輩がいる。

 

 「おい、お前がシャーラか」

 

 偉そうに問い掛けて来る男の背後に、冒険者というよりゴロツキって感じの男達が8人控えている。

 

 「シャーラって、俺は男ですよ。変な名前で呼ばないで下さい。行こうぜヘイミー」

 

 「はーい」

 

 横をすり抜けてさっさと拠点から遠ざかる。

 

 〈馬鹿! 人違いじゃねぇか、しっかり確認しろ!〉

 〈可怪しいなぁ、2人組で女は猫人族で男はガキで合ってますよ〉

 〈ヘイミーって全然名前が違うだろうが、猫人族なんて幾らでも居るぞ〉

 

 〈グルサス様、そいつ等がシャーラとガキのカイトですよ〉

 

 「逃げるぞシャーラ」

 

 全力疾走だ、最近草原でウロウロしているので体力には自信が有る。

 灌木を抜け叢を突き抜けて走る。

 

 《カイト、何しているの》

 

 《グリン、後ろから追いかけて来る奴等の足に、蔓を引っ掛けて転がしてくれ》

 

 《ん、任せて》

 《ピンクもやるー》

 

 〈ウッワー〉

 〈イッテェ〉

 〈痛たたた〉

 〈何じゃこりゃー〉

 

 「はぁー、何で俺達が逃げなきゃならんのだよ」

 

 森の隠れ家から外に出るには、周囲を取り巻く防御林を転移魔法で跳び越す必要がある。

 そのため防御林の外には、東西南北に転移座標の岩を設置している。

 勿論中は空洞で、覗き穴から周囲に人影の無いのを確認してから、岩壁の外にジャンプして出る。

 

 グルサスって野郎から逃げて、暫らくは平和だったが最近転移座標の岩周辺に奴と奴の護衛達の姿が目に付く様になった。

 目障り極まりないので、現れるのを待ち話しを聞いてみる事にした。

 

 〈昨日もこの辺で彷徨いているのを見たって〉   

 〈へい、あっしも遠目ですが確かに〉

 〈へっ・・・あのーグルサス様そこに〉

 

 「なんだはっきり言え」

 

 「そこにシャーラって女とガキが居ますが」

 

 「逃がすな!」

 

 俺達を獲物と勘違いしている屑がいるな。

 

 「いったい何事なんだ、シャーラだガキだと好き勝手言いやがって」

 

 「お前が逃げるからだ」 

 

 「そりゃー厄介事の匂いがプンプンしているからさ」

 

 「あっお前に用は無いから消えても良いぞ。シャーラは付いて来い」

 

 典型的な権力構造の中の、中間管理職的思考回路の持ち主の様だ。

 シャーラと顔を見合わせ、思わず肩をすくめてしまった。

 シャーラも同じ仕草で返す。

 

 「なんだ不服そうだな。構わん女を連れて行くぞ」

 

 なんとまぁ、この間の5人組の馬鹿と同じ台詞を吐いている。

 それなら遠慮は要らないな。

 

 「シャーラ聞きたい事があるから適当にな」

 

 今回の奴等は少し違った様だ。

 護衛の8人以外に7人の冒険者が居るが、全員で俺達を取り囲んだ。

 ゾクリとした感触に思わず砦を造ったら〈ガキーン〉と音が聞こえた。

 

 「何をする!」

 

 シャーラの怒りの声が聞こえた瞬間〈ウォー〉って悲鳴、俺に抜き打ちを放った奴が斬られたな。

 

 〈やりゃがったな、殺せ!〉

 〈待て! 誰が殺せとと命じた! 生け捕りにしろ〉

 

 ありゃ、俺の事は無視ですかい、ちょっと覗き穴からから見学して見る。

 

 〈取り囲んで打ちのめせ!〉

 〈ギャー〉

 〈強いぞ、油断するな〉

 〈話しと違うじゃねぇか〉

 〈こな糞っ〉

 

 グルサスって野郎は、後ろで命令するだけか。

 〈ウワッ〉

 ちょっと深めの穴に落として差し上げた。

 周囲の護衛4人もポンとしてギュと、次々と落とし穴の中に閉じ込める。

 シャーラを取り囲む冒険者達と護衛のうち、6人が倒れている。

 残り5人は腰が引けていて、誰一人斬り込もうとしない。

 じっとしているなら都合が良い、5人共穴に落として砦から出る。

 

 「乱暴な奴等だねー」

 

 「どうしますかカイト様」

 

 俺に抜き打ちを放った奴が片腕を斬り落とされて倒れている。

 そいつを近くの穴の中に落とす。

 

 〈ウォー、人殺しー〉

 

 「お前馬鹿なの、さっきまで俺とシャーラを殺す気だったのに。人殺しはお前達だろうが」

 

 「いや俺達はシャーラを探してくれと言われ、探していただけだ」

 

 「じゃーなぜ剣を抜いて闘っていたんだ」

 

 面倒なので、冒険者7人と瀕死の護衛はそのまま埋めてしまう。

 グルサスを尋問だが、護衛が躊躇いもなく俺に斬りかかったのが気にいらない。

 穴の中の護衛を先に問い詰める。

 

 「よぉ中々出来たお方の護衛だな。奴は何者なんだ」

 

 「お前か、これをやったのは」

 

 「聞いているのは俺なんだけど」

 

 柔らかストーンバレットを顔面めがけて3発ほど打ち込む。

 何度聞いても答えないので、生き埋め確定。

 次の奴も生き埋め、中間管理職の護衛にしては忠誠心高いねー、感心かんしん。

 3人目には穴の壁から土槍を突き出し、腹に穴を開けて聞いてみた。

 

 ふーんグルサスって、ケルーザン王国のヘディサ伯爵様の使いなの。

 で、俺は斬り捨ててもよいってか。

 目的はシャーラだけの様だから護衛は放置、グルサス本人からじっくり聞くことにする。

 穴の蓋を開けると、まぁ煩いうるさい。

 

 「開けろー、出せー、儂を誰だと思っている! こんな事をしてただでは済まさんぞ!」

 

 ストーンバレットも面倒なので、生活魔法のウォーターを頭から浴びせる。

 軽く木桶3杯分くらいを掛けてやると静かになった。

 

 「ただでは済まさないのは俺の方だ。シャーラを掻っ攫ってどうする気だ。俺はいらないので、グダグダ言ったら斬り捨てろって簡単に言ってくれるよな」

 

 「お前、護衛達はどうした。ヘディサ伯爵様に逆らえばどうなっても知らんぞ」

 

 「どうなってもこうなっても、お前は俺を斬り捨ててもよいって言ってるんだろ。これ以上どうなるんだ。それよりヘディサ伯爵ってのが、シャーラに何の用だ」

 

 中々喋らないので地上に戻し、両手足を埋めてワンワンスタイルにする。

 

 「何をする、放せ! 儂は」

 

 「はいはいヘディサ伯爵のお使いか代理人様かな」

 

 鼻を5度ほど蹴り上げたら大人しく質問に答える様になった。

 ヘディサ伯爵とはケルーザン王国グルタム地方の隣ゲラント地方の領主様だとさ。

 シャーラが治癒魔法を使えると聞き、連れてこいと命令されたって。

 

 誰に聞いたのか問い詰めたら、以前俺達に絡んできた無類の阿呆・・・無頼の剣って、万年ブロンズパーティの1人から聞いたって。

 レッドホーンディアの焼肉パーティの時の話しなので随分前の事だ。

 

 伯爵様が冒険者パーティからそんな話しを聞いて、ホイホイ攫ってこいとは話しが可怪しい。

 色々質問して判ったのは、無類の阿呆の1人が伯爵様の5男坊だった。

 

 放埒が過ぎて勘当って、やっぱり阿呆なのね。

 冒険者に身を持ち崩し腐っていたが、稼げると聞いて仲間と流てきた。

 ダルク草原で俺達に絡み、シャーラに叩き伏せられたが、怪我を治す条件で放り出された。

 然し、迷いの森があるダルク草原から追い出されたが、ただでは転ばなかった。

 

 手首の骨が砕けあらぬ方向に曲がっていた腕を、シャーラがいとも簡単に治してしまった。

 弾かれた剣を胸に食い込ませた男も、他の4人の骨折も軽く治して何ともない。

 勘当を解いてもらうため優秀な治癒魔法使いの情報を手土産に、父親のヘディサ伯爵の下に向かったのだ。

 

 半信半疑ながらその話しの確認のために、ヘディサ伯爵に命じられてシャーラを連れに来たって。

 迷惑な話しだがこんな形でシャーラの治癒魔法が貴族に知られるとは、それも他国の貴族ときた。

 

 ナガヤール王国内なら押さえが効くが他国の貴族となると面倒だ。

 グルサスは俺を斬り捨てろと命じているので埋めてしい、後は出たとこ任せでいくしかない。

 ダルクの森の周辺整備が完了すれば、数年程度隠れ家でのんびりするかクインの所に逃げ込んでも良かろう。


 * * * * * * * *

 

 ヘディサ伯爵は、シャーラを連れて来るようにと命じて送り出したグルサスから、まったく連絡が無いので苛立っていた。

 ダルク草原の森に着いた、迷いの森と呼ばれている、それらしき2人を見つけたが逃げられた、森を捜索している。

 埒もない連絡は来るが、シャーラという治癒魔法使いの居場所すら碌に把握していない様だった。

 

 勘当したホーキンが帰ってきて、凄腕の治癒魔法使いを見つけたと言ってきたときには、勘当を解いて欲しくて出任せを言っていると疑った。

 然し冒険者仲間だと連れて来た連中は、礼儀を知らぬ薄汚い奴等だったが皆一様に怪我の跡があった。


 1人は胸に剣が突き刺さった跡だと言われる大きな傷跡だが、ピンク色に盛り上がった肉の具合から最近の傷だとしれた。

 ホーキンの腕の傷もそうだが完治はしていない。

 聞けば治癒魔法を使うのに『ちょっとだけなーぉれっ』とふざけた詠唱で治したと全員が口を揃えた。

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