第76話 でか耳嫌い!

 「カイト様、大丈夫ですか」

 

 「あー痛ててて、シャーラ誰だ」

 

 「エドラと逃げた、2人が襲って来たの」

 

 「ん、エドラは」

 

 「居ないよ」

 

 「シャーラ」

 

 「ん、なに?」

 

 「背中が痛いんだが」

 

 「あっロングソードで思いっ切り切り付けられたから、痛いよね」

 

 「おまっ、人事だと思って、防刃も打撃防御も魔法付与されてるけど痛いよ」

 

 〈なぉーれっ〉シャーラの声と共に痛みが引き安堵する。

 よくぞ治癒魔法を授かったものだ。

 立ち上がるとショットガンに撃ち抜かれた男と、片腕を切り飛ばされ瀕死の男の2人が転がっている。

 

 「接近戦や刀を振り回すのは駄目だわ。シャーラが居なきゃあっさり死にそう」

 

 「カイト様は、わたしが守ります」

 

 鼻息荒くおっしゃいますが、矢で射られ刀で切り付けられてますがなシャーラちゃん。

 やっぱり俺は、奇襲攻撃や一撃必殺即逃走が向いてるな。

 チンタラお話するのは、相手を拘束してからにしよう。

 

 グリンの怒りの感情が流れ込んでくる。

 

 《グリン落ち着いて、俺は大丈夫だよ》

 

 《カイト、でか耳嫌いだ》

 

 《まあね、聞いていたエルフと違いすぎて俺も嫌いだね》

 

 「ところでシャーラ、さっきの2人は何処から来たんだ。いきなりの殺気と攻撃されていたぞ」

 

 「私も気づいた時には、切りかかる所が見えたのです」

 

 「転移魔法かな、敵に回すと厄介だね」

 

 爺さん達全員を拘束し尋問開始、シャーラには周辺警戒を頼む。

 1人は首輪を付けて死んでいるので、残り6人に首輪をプレゼントしてやる。

 

 「煩いのは嫌いなんだ、喚いたらその首輪を締め上げるぞ」

 

 そう告げて足枷の片方の足だけを締めつける。

 締めつけた足の色が変わっていき、赤紫色に変色したものがどす黒くなる。

 もう片方の足も締めつけ色が変わり始めると、1人が泣きながら喋った。

 

 「エドラは、そこに居るエガートの後ろの壁の中だ。階段になっていて地下室になっている。悪かった、謝るからこれを止めてくれ」

 

 壁にストーンバレットをランダムに撃ち込み、開いた穴からエドラを呼び出す

 

 「エドラ、出てこないのなら生き埋めにするぞ」

 

 返事が無いので、地下室に向けてストーンバレットを数発撃ち込む。

 

 「待ってくれ出ていく、出ていくから止めてくれ」

 

 出てきたエドラは、仲間2人の死体と長老達の様子を見て抜き打って来た。

 シャーラに剣を弾き飛ばされ腕を押さえて座り込んだ、そのエドラの腹に、ストーンアローを続け様に撃ち込む。

 エガートが喚き出したので、首輪を締め上げて黙らせ残り5人も同じ様に始末して集会所を出る。

 

 「終わったのか」

 

 「邪魔したな」

 

 「カイト殿、里長のヘンザと申す。表の者達の戒めを解いて貰えないだろうか」

 

 「駄目だ、俺を殺しに来た奴を見逃す気は無い。野獣の餌になるかお前達が楽に死なせてやるかは好きにしろ」

 

 「だが既に30人以上死んでいる。これ以上死なせたくは無いのだ」

 

 「それがどうした、俺は攻撃されたら必ずやり返す。お前達は、他人を攻撃すれば反撃される事さえ判らないのか。死なせたくなければ、里長のお前がしっかり抑えていればよかったんだ。阿呆をのさばらせるからこんな事になるんだよ。シャーラ帰ろう」

 

 ヘンザもオーロンも何も言えず、黙って見送るしかなかった。

 

 「残念だ、あれ程精霊の影を宿す者を敵に回したとは」

 

 オーロンの呟きに、ヘンザは稀にいる精霊に好まれる者の言い伝えを思い出していた。

 

 * * * * * * * *

 

 無駄な時間を過ごしてしまい、森は急速に寒くなって来たので急ぎ街に向かう。

 こんな所で冬籠もりは勘弁願いたい。

 途中出会う野獣達はストーンバレットのバスケットボール大をぶつける。

 名付けてシャーラ方式、殺さず逃げ出す程度に威力は落としている。

  シャーラの様に、一発当たれば2転3転して気絶する程の威力は止めておく。


 オークションは俺もシャーラもうんざりしているからな。

 俺達が食べる分だけの果実が収穫出来れば満足だ。

 今回は欲を出してエルフ達の集めた物を欲しがり、余計な事になってしまったので反省。

 

 帰りながら俺は必死に〈グエッ〉てならずに上空にジャンプして、無事に着地する方法を考える。

 シャーラに、可哀相な子を見る様な目で見られるのは耐えられない。

 必ず、尊敬の眼差しに変えて見せる!

 

 後数日で森を抜けるとシャーラに言われたので、思いつきを試す事にした。

 開けた所で2メートルの台を作り飛び降りる。

 シャーラには5メートル程前に立ってもらい、飛び出した瞬間シャーラの隣に立つイメージで魔力を纏う。

 〈ドテッ〉と尻餅をついたが、何とかシャーラの前に着いた。


 少し自信がついたので、シャーラの隣10センチの高さに立つイメージで再挑戦。

 

 我成功せり! 鼻がピクピクするのは許して欲しい。

 シャーラがホヘッって顔で俺を見ている。

 台を3メートルの高さに変え、ジャンプで跳び乗る。

 再度飛びだしシャーラの隣10センチを意識してジャンプ。

 ウンウン、この調子だよシャーラ君、君の尊敬の眼差しは快感だね。

 

 阿呆な事を考えながら高さを上げていく、10メートルの台から飛び降り元の台に立つ。

 固定した足場から地上や屋根に跳ぶのと、空中から地上に跳ぶのでは感覚がまるで違う。

 然し着地点を明確にする事と、到着地点の高度を指定すれば何とかなるのが解った。

 

 最後に最大高度400メートルにジャンプして再ジャンプに挑戦する。

 失敗すれば死ぬので、推定200メートル付近で上空に再ジャンプする。

 おんもしれー♪

 俺が落ちて来る途中で姿が消えると、また上空から落ちて来るのを繰り返すものだから、シャーラのお口が開いたままだ。

 最後にシャーラの隣に立つ。

 

 「カイト様面白そう、教えて下さい。シャーラもやりたいです!」

 

 お前は人が必死で実験をしているのに、面白そうとは許せん!

 まぁ最後は楽しかったけどね。

 

 「シャーラお前の転移魔法で最大900メートルを、最低10回は楽に跳べる様になったら教えてやるよ」

 

 最後に上空へ最大ジャンプして、落ちる途中で元の場所に戻る練習をし結果に満足して終わりにする。

 シャーラに練習させる時には、この方法を教えれば死ぬ心配がグッと減るってもんだ。

 地上に叩きつけられた、猫の開きや煎餅は見たくもないからな。

 

 * * * * * * * *

 

 森を出て草原を抜け街道に出る。

 途中ゴブリンは瞬殺(シャーラが)エルクやブラックベア,ブッシュホーンって牛の小さいのは、家でのお食事用に数頭確保。

 マジックポーチに保管してエグドラに向かう。

 

 街道を歩くのはかったるが馬車は合っても馬がいないのが辛い。

 その不満に合わせる様に、街道脇からのそのそと湧いて出る万年ブロンズらしき奴等。

 ジロジロと俺とシャーラを見てニヤニヤ笑っている。

 見知らぬ奴だから流れの冒険者だろう。

 エグドラ周辺で俺とシャーラに絡む馬鹿はいない、ある意味有名だから。

 

 素知らぬ顔で歩くシャーラの横に並び、嫌な目つきで舐め回す様に見ている。

 左右と後ろ、シャーラと俺の間に割り込んで来る。

 手慣れてますねぇ。

 

 シャーラの後ろの奴がお尻に手を回した瞬間〈グェッ〉て呻いてくの字になりへたり込む。

 シャーラに股間を蹴り上げられ、前を押さえて座り込む男を蹴ってしまった。

 そいつを蹴り上げたのは不可抗力です、だって俺の直ぐ前でしゃがみ込むんだもの。

 

 「嬢ちゃん、洒落た真似をするじゃねぇか」

 

 「あー、止めといた方が身のためですよ」

 

 「小僧も、気安く仲間を蹴り飛ばしてくれたな」

 

 「聞いてます。止めといた方が身のためと教えてあげているんですけど」

 

 「少しばかり融通してくれれば通してやったのに、身ぐるみ剥いで売り飛ばすぞ」

 

 「あれっ本気で言ってます。エグドラでそんな事言ったら犯罪奴隷確実ですよ」

 

 又、横からむさいのが湧いて出た。

 

 「お前等何をチンタラしていやがる。さっさと引きずり込め!」

 

 「シャーラお願いだから、殺さないでね」

 

 〈ウェ〉〈ギャー〉〈バシーン〉〈ドガ〉色々擬音が聞こえるが、近接戦闘でシャーラに勝つには相当な腕がいるからな。

 

 「カイト様、終わりました」

 

 「ほいよ」

 

 首枷に両手首を固定しロープで数珠繋ぎにする。

 

 「あー君達慣れていそうだが、お仲間はいないの。面倒事は一度で済ませたいので正直に言ってね」

 

 全部で9人ね、盗賊にしては数が少ないが、取り合えずエグドラの衛兵に引き渡そう。

 街に近付くと顔見知りの冒険者達と合流する。

 

 「よおカイト、面白そうな事をしているな」

 

 「これね。シャーラのお尻を触って、身ぐるみ剥いで売り飛ばすってさ」

 

 「なにー、シャーラちゃんのお尻を触っただと」

 

 〈ゴン〉って近くの奴の頭をいきなり殴ってるよ。

 〈羨ましい〉って聞こえたのは見逃そう。

 三々五々稼ぎから帰って来る冒険者達に取り囲まれ、小突き回されて半泣きの奴等。

 街の入口で列に並ぶ冒険者達と別れ衛兵の所に行く。

 

 「身ぐるみ剥いで売り飛ばすとか、さっさと引きずり込めとか手慣れていましたので、取り合えず連れて来ましたので宜しく」

 

 「はっ、お任せ下さい」

 

 衛兵の俺に対する態度を見て、顔色を変えている馬鹿共。

 

 「素直に喋れば、痛い思いをしなくて済むからね」

 

 親切にアドバイスをしてあげる優しい俺。

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