第57話 忘れ物
シャーラに、以前連れて行ったキャンプ地に行く様に指示する。
「シャーラ、創造神エルマート様にお願いをして叶った事は黙っていろよ。変な誤解や嫉みを招くから」
真剣な顔で頷くが、顔と態度が一致しない。
「これから教える事は、、絶対に他人には話すな教えるな。知っているのはヒャルとフィだけだからな。大事な事だから絶対に忘れるな。」
「判りました、カイト様。魔法ってどうやるのですか♪」
完全に浮かれてるなぁ、今度は馬車から落ちるぞ。
キャンプ地に着くと厩を出して馬を入れ、馬車をマジックポーチに仕舞う。
ワクテカ顔のシャーラだが、最初に覚えるのは砦だ。
シャーラを側に立たせると、ゆっくりと周囲の土を円筒状に持ち上げて最後に捻って空気穴を残す。
「今のを忘れるなよ。魔法ってのはイメージ、想像力だ」
「あのう、あれはやらないんですか? あのぶつぶつ言っているやつ」
「大地の力を借りて、我が身を守る為に盾を築かん。なーんてやつか」
「それ、それです。いつも黙ってするから」
「あれは要らないよ、他の人は言ってるけど不要なの。シャーラだって生活魔法使うのに黙って使ってるだろう」
「えっ、フレイムとかライトとか小さく言ってますけど」
「言わなくても使えるよ。魔法ってのはな、何をどうするかをイメージするんだよ。まっ砦より先に玉を造って貰おうか。拳大の土の玉を想像してご覧、それに魔力操作の時の魔力を想像して、玉にそっと流すのさ」
目を閉じ、寝る前の魔力放出の体制になった。
まずい! シャーラを後ろに引き寄せる。
ビックリして目を開けたシャーラの前に、バスケットボールより大きな土の玉が出来ていた。
ビックリして魔力を止めた為に〈ドスン〉と鈍い音がして土の玉が地面に落ちてきた。
「エッ、えっえぇー これっ私がやったの」
「初めての魔法だけど大きさを忘れただろう。目を閉じたから出来ている玉の大きさが解らなかった結果だよ」
シャーラの目の前にソフトボール大の玉を造って見せ、同じ大きさの玉を隣に造る様にさせる。
「さっき寝る前の魔力放出と同じ様に、魔力を想像し玉に流しただろう。循環させている魔力の、ほんの少しだけ想像したものに流すんだぞ」
俺の造った玉の隣を真剣に見つめ、魔力循環の様に腕で輪を造り突き出す。
少し大きめの玉が浮かんでいる。
魔力を抜かせて玉を落とさせ、再び同じ物を造らせる。
「シャーラ、腕の輪を作らなくても出来るからやってご覧」
その日はひたすらソフトボール大の玉を造る事をやらせた。
「カイト様飽きた。もっとこう格好良く、エイッてのは無いの」
こいつは戦隊ヒーローものでも見ていたのか、小学生じゃあるまいし変なポーズとったら張り倒すぞ。
「シャーラ嫌なら止めても良いぞ。魔法を使うってのは、一つ間違えばお前が死ぬか隣に居る奴が死ぬんだ。俺はお前の隣に居て死にたくは無いからな。ヒャルやフィが簡単に魔法を使っている様に見えるが、散々お前が今やっている練習をしたからだ」
「御免なさい。言い付け通りやります」
それからは、黙々と俺が造った見本と同じ大きさの玉を造る事に専念した。
「シャーラ止めろ。疲れたと思わないか」
「えーと少し怠いです」
「それが魔力切れの前兆だ、魔力放出では解らないがそうなったら魔力切れ寸前って覚えておけよ。食事を取って休憩だ」
魔力切れ寸前まで遣らせてその感覚を覚えさせ、同じ大きさの玉を造る事を覚えてからは早かった。
ストーンランスの小型全長50センチ太さ3センチの物が、自在に造れる様になったのは3日目の事だった。
それから砦を瞬時に造る練習に変えた。
「シャーラ帰るぞ。侯爵様が、使用人を世話してくれる事になっているからな。それが終ったら、本格的な標的射撃の練習をするぞ」
まぁーシャーラの嬉しそうな顔、俺は厳しいぞ覚悟しておけ。
街に帰り侯爵様の館で、使用人となる人を紹介して貰った。
予想に反して4人家族で、夫婦と娘が二人、ザルム,へミール,長女ヘイミー,次女ヤミーラだ。
ザルムは執事見習いの経験もある、妻のヘミールは料理が得意でメイドと兼業、長女はメイド歴3年の経験がある。
次女ヤミーラは将来のメイド候補だと言われた。
厩番は通いの男をザルムに探させれば良いと言われて了承する。
給金はザルム金貨5枚500,000ダーラ、ヘミールが金貨3枚と銀貨5枚35 0,000ダーラ、ヘイミーが金貨3枚の300,000ダーラ、三人で金貨11枚と銀貨5枚になると言われて了承する。
ザルム一家を新しい家に案内し、屋根裏部屋14室のうち6室を自由に使わせる。
荷物は明日運んで来ると聞き鍵を預ける。
エフォルに尋ね給金の支払いは商業ギルドを利用し、毎月ザルムの口座に一括で支払う事にした。
「カイト家具はどうした」
「適当に必要な物からボチボチ買い揃えます」
「では家具は私が祝いに贈ろう」
「侯爵様、この館に有る様な立派な家具なら要りませんよ」
「あー心配するな小金持ちの商人程度の物にするから。どうせシャーラの訓練で暫く家を空けるんだろう」
お礼を言って侯爵邸を辞去する。
元ホーエン商会の店に行き、ランク2のお財布ポーチを3個買い家に帰った。
出来上がった部屋には家具が無いので、今日もキャンプ紛いの生活だ。
夕食後精霊さんに魔力を与えて、静かな夜を迎える。
お引越は昼過ぎに終ったので、ザルムを連れ商業ギルドに出向く。
冒険者ギルドと商業ギルドの口座は融通が効くので、冒険者ギルドに預けている金額を確認してビックリ金貨150枚以上有るよ。
商業ギルドに金貨4,000枚を預け、ザルムの口座に500枚を移す。
報告は月に1度、足りなくなったら報告する様にさせる。
俺とシャーラの部屋に居間と食堂、来客用サロンの場所を決めたら後はザルムに丸投げだ。
「後は頼むよ暫く帰らないから。侯爵様が家具をプレゼントしてくれるから適当に配置していてね」
「旦那様はどちらへお出掛けですか」
「あーザルム旦那様は無しだ、カイトと呼んでくれ。カイトとシャーラだ。俺はただの冒険者だから旦那様呼ばわりは気恥ずかしくてな」
「判りましたカイト様」
「カイト様あれどうします。長いの」
「ん、長いの・・・あー、忘れていた」
「余り長く入れて置くと、腐るんでしょ」
「いかんザルムもう暫く居る事になるわ。ちょっと侯爵様の所に行ってくる。シャーラ馬車を頼む」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「どうした、カイト」
「あー、あのーですね侯爵様、蛇いりませんか」
「蛇って」
「濃い緑色で太くて長い奴なんですが、前半分を二つに切って持って帰っていたのを忘れていました」
侯爵様は飽きれ顔だし、ヒャルは興味津々って顔になる。
「忙しくて忘れていたが、森の奥に行っていたんだな」
「討伐する気は無かったのですが、成り行きで殺しちゃって。それで魔石だけでもと思ったのですが、大きすぎて取り出せ無かったんです」
ちょっと見せろって言われ、騎士達の訓練場で出す事になった。
11メートルに切り分けた、蛇の前半分二つをドン。
切り口は未だ傷んでいないので良しとする。
侯爵様もヒャルも呆れているが、魔石も取らず捨てるのもね。
ヒャルは冒険者ギルドへお使いに出されちゃった。
ギルマスを内緒で呼んで来いってさ。
「これをどうする気だ」
「魔石を取りたくて、お肉も美味しいのなら欲しいなと思って」
侯爵様が、深い深い溜息と共に椅子に深々と座っちゃったよ。
ヒャルがギルマスを連れて帰って来たが、ギルマスも難しい顔をして横たわる蛇の頭部と胴体部分を睨み、暫く唸っていた。
「これの残りはどうした」
「いやー魔石が欲しくて、でも解体出来ないから前半分だけ持って帰って来ました(キリッ)お肉も食べてみたいなぁーって」
「これで半分かよ。言っとくがスネイクに魔石は無いぞ」
「へっ・・・無いの? これっ無かった事にします。森の奥に捨てて来ますから」
「お肉は欲しく無いのか」
地の底から響く様な、侯爵様の声に止められて一瞬躊躇ったが、断腸の思いだが諦めよう。
「諦めます。これが知られたら又面倒な事になりそうですから、森の奥に捨てて知らん顔します」
「埋めちゃえば」
「シャーラ、偉い! そうだな草原に深い穴を掘って埋めちゃえば早いよな」
「惜しいなぁ、聞いたことも無い種類のスネイクだぞ。オークションに掛ければ金貨10,000枚は固いのに」
「ギルマス駄目です。埋めます決めましたから」
さっさと仕舞って頭を下げ、侯爵邸を逃げ出す。
「シャーラ、明日は穴掘りだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます