第58話 陛下の絶叫

 穴掘りに出掛け様としたら、ヒャルとギルマスの訪問を受けた。

 

 「ギルマス、埋めるって言いましたよね」

 

 「分かっているよ。あの後侯爵殿と話し合ったんだがな、あれを埋めて無かった事にするのは余りにも勿体ない。お前は、自分が目を付けられるのが嫌なんだろ。お前の名前が王家や貴族達にばれないのなら、肉が欲しいんだよな」

 

 「何を考えてます」

 

 「以前の匿名の冒険者達〔森の覇者〕が、今度は蛇を持ち込んできたって事にするのさ」

 

 「〔森の覇者〕ですか、何とも恥ずかしい名前ですね」

 

 「俺が勝手にそう呼んでいるのさ、識別のためにな。考えてもみろよ、お前が、森の奥に行っていたのを知る者は侯爵殿とヒャルダ子爵殿くらいだろう。お前に目が向けられても、その子を連れて冒険者に成るための訓練をしているって事になる。まさかやっと授けの儀を迎えたばかりの子供と、シルバーランクとは言え魔力高40の土魔法使いが討伐者とは、誰も思わないぞ」

 

 「カイトその事は私達もそれとなく周囲に匂わせておくよ。お肉が食べたいんだろう、俺も味見をしてみたいよ。それにシャーラの授かった魔法の練習をしていれば、疑いの目を逸らすにも好都合だし」

 

 「王家に頭を渡し残りをオークションに掛け、売上は侯爵殿からお前に渡せば金の流れも秘密になる」

 

 「シャーラどうする、俺はお肉を食べてみたいだけだから」

 

 「カイト様に任せます。もし売ってもお金は要りません。この家のために使って下さい」

 

 考えたが確かに家を維持するため、これからも金が必要だ。俺の事がばれなければ良いか。

 

 「判りました、筋書きはそちらで考えて下さい。俺達は、街の周辺でうろちょろしているだけですからね。シルバーランクも落としたいくらいです。ギルマスもその辺はお願いしますよ」

 

 「分かった、シルバーランク以上には上げない事を約束をしよう。まっお前が、ゴールドやプラチナになりたくなったら言え。即座に昇格させてやるからな」

 

 侯爵邸に出向き侯爵様立ち会いの下、冒険者ギルドに蛇を引き渡す。

 その際11メートルの物を1メートル切り取り10メートルにして渡す。

 布を被せて見えなくし、1メートルの輪切り肉を鑑定して貰い無毒と言われ安心した。

 1メートルの輪切り肉2個は俺の収納に、此処で初めて気がついた輪切りにして置けば良かったって。

 然し魔石が欲しかったんだから仕方がない、小さい輪切り肉二つは、頑張ってお肉を取りだすとするか。

 

 侯爵様は、即座に王家に急報を送った。。

 ギルマスも2月のオークションに間に合わせる為に、王都の冒険者ギルドへ早馬を走らせる。

 

 「去年に続き、今年も準備期間の短い忙しないオークションになりそうだ」

 

 「カイト又護衛を頼む、私も王都に向かう事にする」

 

 「判りました。シャーラ暫く魔法の訓練は・・・馬車の中でもできるか」

 

 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 王都への出発準備と、護衛の冒険者の手配等でエグドラを出発したのは3日後になった。

 急ぐためにホテルには泊まらず、全て野営となる。

 俺のキャンプハウスとヒャルの宿泊用のハウスを使い、侯爵様とヒャルは俺のハウスに泊まる。

 冒険者達は、ヒャルのハウスに付けられたオーニングの下で寝る。

 

 侯爵様は俺のキャンプハウスに呆れていたが、最初の夜に見せた収穫物に唸っていた。

 

 「カイト、今回の森での収穫はどうだった」

 

 シャーラと目を見交わしてニヤリとする。

 

 「期待が持てそうだな」

 

 「シャーラのお勧めは、紅宝玉とゴールドです。それと去年猿に喰われて採れなかったプルサです、房の実も去年より多く採れましたね」

 

 紅宝玉はテーブルの上に、ゴールド,房の実,プルサの実は、籠のままテーブルの横に並べる。

 紅宝玉は一房80センチ以上ある化け物葡萄だ、狭いキャンプハウスの中は紅宝玉の香りに溢れかえる。

 

 「侯爵様もヒャルも後10房有りますから、味見をして下さい。ゴールドも絶品ですよ」

 

 二人とも紅宝玉の実を食べ、唸り声を上げ後は黙って無心に食べている。

 その横でシャーラはゴールドを半分に切り、一口頬張ると足をジタバタさせて頬を押さえている。

 残り半分を俺に差し出すので俺も頬張る、絶品・・・こればっかり言っている気がするが旨すぎる。

 

 何とか紅宝玉とゴールドにプルサの味見を済ませ、落ち着いた侯爵様とヒャル。

 

 「相変わらず、カイトは度肝を抜く物を持ち込むな」

 「はぁーカイトと居ると、人生で出会う筈の無いものに次々出会うな」

 

 「いやいやシャーラが居なけりゃ、森の入口で迷ってあの世行きですよ。果物なんて絶対に見つけられませんし、見付けても収穫する手段が有りません」

 

 「カイト様が助けてくれなければ、今の私はありません。カイト様が守ってくれるから、森の奥に行けるのです」

 

 「有り難う。でももうすぐ、シャーラは一人で自由に森を歩ける様になるぞ」

 

 「そうなっても、カイト様について行くと決めてますから」

 

 「まっ、それは又先の話しだな」

 

 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 ハマワール侯爵の急報を受けた国王と宰相は、書状を読んでも意味が理解出来なかった。

 濃い緑色の巨大な蛇の前半分2分割、10メートルが2個で前半分だけで残りは放棄した。

 誰も知らない噂にすら聞いたことが無い、巨大な蛇を討伐したらしい事。

 大き過ぎて半分しか持ち帰れ無かった事を理解したとき、絶対に他国には渡さ無いと決めた。

 

 ハマワール侯爵からの書状では、ギルマスが馬にて先行しており、王家が招待すれば確認のために見せて貰えるとあった。

 宰相の手の者が王都冒険者ギルドに出向き、エグドラ冒険者ギルドのギルマスが到着したら王城にお出で願いたいと伝えた。

 

 王都に到着したギルマスは伝言を受け、その足で王城に出向き国王と宰相の3人で話し合った。

 蛇を正面から見た国王陛下や近衛騎士達の腰が引けた、宰相は足が震えてやっとの思いで立っていた。

 

 「これで前半分か恐ろしいものだな」

 

 「いえ陛下少々短くなっております」

 

 「ん? どういう意味かな」

 

 「討伐した冒険者達が味見のために少々切り取ったのですよ」

 

 言われた事が理解出来なかった、いや言葉は分かるが意味が理解出来なかったのだ。

 巨大な蛇の頭部を見ながら、段々言葉の意味が理解出来た時〈味見のために切り取っただとぉぉぉ〉国王陛下の絶叫が王城に響き渡った。

 

 この後、爆笑に変わったのは御愛敬。

 興味を示した国王陛下の問いに〔味はねっとりと舌に絡み、濃厚な旨さは絶品と謂わざるを得ない〕と聞いております。

 カイトが切り取り、鑑定を済ませた肉を皆で試食したのだからよーく解っている。


 シャーラなんぞは、あれ程嫌そうにしていたのが一口食べてから「お肉はだーい好き♪です」と蕩けそうな顔で宣うのだった。

 「お前、エビの時も似たような事を言っていたよな」とカイトに突っ込まれて首を竦めていた。

 

 サービス精神(高く売り付けるために)を発揮し、王家買い取り分の頭部を避けて肉を少々切り取り、試食と相成った。

 試食した国王陛下は前回と同じく、オークション価格の10%上乗せで引き取る事を確約した。

 頭部はそのまま王都冒険者ギルドに運ばれオークション後解体される事に、肉は空間収納持ちが引き取る手筈になった。

 残りは剥製にして王国の武威を示すため、大いに利用される事になる。

 

 ハマワール侯爵一行は王都迄20日掛かる行程を15日で到着した。

 王都到着報告をしたハマワール侯爵は、すぐに王城に呼び出された。

 

 「ハマワール見事なものだな、頭部を買い取る事にした」

 

 「お知らせした甲斐がありました」

 

 「そなたも試食した様だな」

 

 「はい絶品でした。あれ程の物を食した経験は御座いません」

 

 「礼に肉の一部をそなたに下げ渡すぞ。待っておれ」

 

 「有り難き幸せ、感謝致します」

 

 「ところで、その冒険者達は他に持ち帰った物は無いか」

 

 「陛下に献上のため、買上げて持参致しております」

 

 ワゴンを用意して貰い紅宝玉2房にゴールドをバスケット2つ40個を差し出した。

 プルサは二つを食べた後だと味が一段落ちる感じなので今回は献上しない。。

 

 「何と紅宝玉にゴールドではないか」

 

 「はいギルドを通して紅宝玉4房とゴールドをバスケット4つ80個を購入出来ました。半数を献上致したいと思い持参しました」

 

 実は侯爵一家紅宝玉を一人一房と、ゴールドを4籠100個近い数をシャーラから貰っている。

 試食の残りとカイトとシャーラが1房づつ持ち、残り2房はギルドがオークションに掛ける事になっている。

 勿論ゴールドもバスケット2つ40個もオークション行きだ。

 侯爵家が抱え込んで、饗しに使っていると思われない煙幕用でカイトの入れ知恵である。

 シルバーフィッシュとレインボーシュリンプは今回出さない事にした。

 収納持ちが居るので未だ暫くは王家も備蓄が有るだろうとの計算の上でだ。

 

 今は試食の残りが、夕食後のデザートに使われている。

 王都の侯爵邸に着いた時に、シャーラはお役御免になった。

 早速フィの所に紅宝玉とゴールドや房の実,プルサ,レインボーシュリンプ,シルバーフィッシュ等を、ごっそり持って行ったのは言うまでもない。

 後で渡しそびれたと、香り茸を持ってうろうろしていたのには笑った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る