第12話 初めての獲物
「カイト、何をしている」
「いやーこのオッサン、大丈夫か?」
「オッ・・・オルラン隊長お知り合い・・・で」
「知っているが、何が在った」
「はっ・・いぇ・・・あのーそれが」
「何をモソモソ言っとる、おいお前何が在った。あーいいカイトに聞くわ、カイト話せ」
「そいつ等に絡まれ金を出せとさ。面倒だから拘束して警備の者に引き渡そうとしたんだが、俺に脅されたとそいつ等が言い出してねぇ。そこまではまだ良いが、このオッサン人の話をまるで聞かない。一人で喚きちらした挙げ句に、俺を叩き潰して連行しろとさ。子爵様の身分証って、役に立たないね」
オルランさんは苦笑いをしてるが、面倒事って嫌なのよね。
「ふむ、遠くからお前の怒鳴り声が聞こえていたが、カイトの言った事に間違いないか」
「そのオッサンの隣の兵士が、身分証を見てオッサンに教えていたよ。信用せずに喚き散らしていたから、人の上に立つってか警備の仕事に向いてないね」
「お前、カイトの言った事に間違い無いか」
「はぁ、あのですね、そのー」
「あー解った。お前は隊舎に戻って謹慎していろ。副隊長はいるか」
「はっ私で在ります」
「お前が指揮をとれ。部隊長には俺から連絡しておく。そいつ等は連行してぶち込んで置け」
「帰っていい?」
掌をヒラヒラさせているので、ホテルに帰ることにした、やれやれである。
夕食を食べていると、ヒャルダさんから明日の朝迎えに行くと言伝があり、待っていると伝えてもらう。
* * * * * * * *
朝食後食堂でのんびりお茶を楽しんでいると、迎えの馬車が来た。
10人程の護衛が付いているが、少なくね。
「オルランさん、お早う御座います。護衛が少なくないですか」
「お前さんが居るので大丈夫だろってな。まぁお二人の魔法が格段に上達したから、それ程護衛は必要あるまいとな。乗って呉れ」
「お早う御座います」
「お早う、何処に行く?」
「門を出たら左に行って下さい。馬車だと2時間前後ですよ」
途中で街道から外れ、平原をゆるゆると進み程なくして到着。
「何も無い所ね」
「殺風景だね。カイトの寝泊まりしている所は何処だい」
「すぐ横に在りますよ」
そう言って、岩に偽装した扉を開け出入口を見せる。
「どうぞ、狭いですから気を付けて下さい」
ライトで内部を照らして先に入り先導する。
と言っても、岩に似せた見張り場所から階段を降り、八畳程度に広げた一間にカプセルホテルみたいなベッドが二つだけである。
部屋の隣に高さ2メートル幅1.5メートルの細長い通路が有り、左右に二段ベッドが各10個造ってある。
その奥はL字に曲がって4ヶ所のトイレだ、換気口が計4ヶ所付けてある。
備品のランプに明かりを点すと、ほの暗いながら部屋の造りが見渡せる。
「お二人の荷物は?」
「ポーチに入れてるから荷物は無いよ」
「ポーチって?」
「マジックポーチだよ、君の空間収納を魔術師が再現した物だな」
「へぇー本当に有るんだ、といけない」
護衛の騎士達に夜営の準備はいらないと告げ、中に入って貰う。
通路の2段ベッドを見て、呆れている護衛の騎士達。
「オルランさん、馬の柵を造りますから来て下さい」
馬の居場所を決め以前の檻と同じ物を造ると伝え、鳥籠に似た檻を造る。
「馬車は襲われたら諦めて下さい」
宿泊場所の中に入り、出入口に閂を掛け下に下りる。
騎士達は順能力の高さを示し、自分達のベッド作りに余念が無い。
騎士達の食事をどうするか相談したら、マジックポーチに入れているから心配いらないと言われた。
此処でもマジックポーチかい!!!
ヒャルダとフィエーンにオルランさんを交え、何故あの時マジックポーチを出さなかったのか聞いてみた。
襲われた犠牲者の中に、マジックポーチを持った騎士が居たのだそうだ。
そう言って肩を竦めた、様になってるよオルランさん。
今日は俺が無理だから英気を養い、明日に備える事になった。
俺にヒャルダとフィエーンにオルランさんの四人で八畳間で遅い昼食だ。
マジックポーチからテーブルと椅子が出てくる。
料理の入った容器と食器が出てきたのを見た時に、笑いが止まらなくなった。
食事をしながら聞いてみる。
今では縦横高さ12メートル程度収納可能な、マジックポーチが作れるそうだ。
時間停止は無理で、生鮮食品や料理は約半年で駄目になるそうだ。
冷蔵庫より断然長持ちじゃないの、十分使い物になるレベルだぞ。
決めた、必ずマジックポーチを手に入れるぞ。
お値段を聞けば、最大の物で金貨1,500枚だってよ奥さん。
大まかな日本円換算で1億5千万か、縦横高さ12,11,10,9,8メートルと小さい程安いそうだ。
8メートルクラスだと技術も古く、お値段もお手頃価格だそうだ。
8メートルクラスで金貨700枚前後・・・お手頃価格じゃねぇぞ! 中古品で金貨500枚前後だと。
前世の日本でもこんな便利な物は無かったし、売り出されたらもっと高いだろう。
因みにもう少し小さい物で貴族や豪商達が子供に持たせる物なら、金貨300~500枚の物が有るそうだ。
街にもどったら、魔道具の店に連れて行ってくれると約束された。
俺の空間収納は表向きは冒険者の荷物程度と言ってあるし、現在成長して2.8メートルの球体程度だからマジックポーチは欲しい。
マジックポーチを持っていれば、収納魔法を隠さなくても済む。
食料品や貴重品は収納魔法に、それ以外はマジックポーチと使い分けが出来るのは魅力だ。
俄然街に帰るのが楽しみになった。
夢心地であれこれ考えていると、オルランさんの不粋な声に現実に引き戻される。
「これほどの物を造るとなると、大変だっただろう」
「五日以上、一日二回魔力切れを起こしましたからね。お陰で睡眠だけはたっぷり取れました。もっと快適な空間を提供したいのですが、俺の魔力ではこれが限度です」
ヒャルダとフィエーンが目を見交し薄ら笑い、黙ってろよ! と心の中で釘を刺す。
二人を連れて見張り場所に行き、隙間から的の説明をする。
右から左に90,80,70,60,50,40,30メートルの的だと伝えて、試しに撃たせてみる。
騎士達やオルランさんは2段ベッドで休憩中。
スピードは明日見せるので、今日は的に向かって慎重に撃てと言う。
夕食中に獣の気配を感じて静かに席を立つ、二人も付いて来て一緒に観察。
彼等なら問題ない距離だし、撃って見たいと言うのでやらせる事にした。
殺すって意気込みを無くし、只的に当てると意識させて撃たせた。
60メートル程の距離を二人同時に撃ち、2頭のファングボアが跳ね飛び痙攣している様だ。
興奮する二人を夕食の席に戻すのに苦労したが、俺の推論は正しいと思われてニンマリ。
朝食前に、獲物を見たいと駄々を捏る二人に引き摺られて、ファングボアを見に行く。
それぞれ何処を狙って撃ったのか尋ねると、頭を狙って腹に、心臓を狙って腰に当たっていると言う。
新鮮な空気と、身体を解す為に全員外に出る。
こんな気楽な夜営は初めてだと、皆さん肩の力が抜けている。
騎士の一人に命じて2頭のファングボアを仕舞わせると、ヒャルダがニコニコしている。
こんな様子のヒャルダは何か企んでいる時だが、素知らぬ振りをしておこう。
皆には地下に戻って貰い魔法の練習だ、ヒャルダに30メートルの的の陰に居て貰う。
40メートルの的を、俺とフィエーンが同時に撃つ。
俺は見易い様にバスケットボール大の石玉だ。
俺の石玉がヒャルダの居る的の横を通過し、一呼吸おいてファィアーボールが通過して的に着弾する。
三度繰り返してフィエーン交代し、俺とヒャルダが撃つが結果は同じだ。
「どうだった、スピード差と俺の玉の速さを記憶に留め、撃つときのイメージに使って」
「カイトの魔法のスピードが早いと思い、真似ていたんだ。然し、並んで撃つとカイトの半分にもならないスピードだったよ。こんなに差があるなんて」
「昨日の夜、ファングボアに当たったのはまぐれね。どうイメージしたらあんな速さになるの」
「まあ想像力か妄想力の差かな。投げた石が飛ぶのを見て、その石のイメージで魔法を撃てば石のスピードの魔法だよ。然し、魔法を撃つときに石を追い越すイメージで撃てば、石が飛ぶスピードより早くなるのは当然だろ」
「そりゃそうか、元の石より早いイメージだからな」
「40メートルの的の横で、30メートル以上離れて見ていてよ。今度は玉の固さを落として、標的に当てるから。的ではなく、俺の撃ち出す玉を目で追わずに、横切る速さを実感してみて」
五発だけ間隔を空けて撃つ。
的に当たり轟音を上げて砕ける石の玉に、フィエーンの腰が引け気味だったのはご愛敬。
ドームに戻り、今見た玉の速さをイメージして撃つ練習をさせた。
標的は60メートル、魔法を撃つときに的から目を離さない様に気を付けて撃つようにアドバイスをする。
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