第74話 エドラ
朝食を済ませるとシャーラはグリンと二人で、自然発酵した木の実を探してはマジックポーチに放り込んでいく。
空を飛ぶ者と森の一族たるシャーラにかかると、次々と見つけては収穫していく。
俺はヘトヘト、流石について行くのは無理なのでギブアップした。
《グリン待ったまった、もういいよ有り難うね》
「シャーラお願い待ってくれ、俺はただの人族だからついて行けんわ」
樹の根本に座り込み、お茶で喉を潤す。
シャーラも満足気に、ニコニコ顔でお茶を飲んでいる。
投げ出した足の上に居たグリンの姿が、フッと消える。
《誰か来るよ》
そう言われて、シャーラと顔を見合わす。
敵意は感じないが、人の気配が近付いて来るのが分かった。
複数人だが足音も立てずに近付いて来る、シャーラが腰を浮かし静かに下がる。
近付いて来た気配は遠巻きにして止まり、俺達の様子を窺っている様だ。
「何か用かな? 囲まれるのは好きじゃない、用があるのなら姿を見せて欲しいな」
右横の一人が動いて近付いて来る。
姿を現したのは壮年のエルフだ。
「済まない、敵対する気は無い。こんな森の奥に人の気配がするので確かめに来たのだ。もう一人居たと思ったが気のせいかな。それと精霊の気配が濃いのだが」
《グリン、少し離れていて貰える》
《ん》
目で何かを追っている、エルフって怖いね。
グリンの気配が遠ざかると改めて俺に向き直る。
「ヨルムの里のオーロンだ」
「エグドラの街のカイトだ、森の精霊とは?」
「ああ人族には伝わっていないのかな、精霊樹の子供達の事だよ」
足元に転がる木の実を見て微笑む。
「なるほどこれを知っているのなら、この地にいても不思議ではないな」
「エルフの里では、これを何と呼ぶのだ」
「森の恵だ、中々味わいのある酒でそうそう手にいらないからな。これだけ集めるとは腕がよいな。取り尽くさないで、我々の分は残しておいてくれると有り難い」
「判った、これ以上収穫するのは止めておくよ。ところでこの辺りに住むのなら、珍しい木の実を持っていないか。持っているなら俺の手持ちの物と交換したい」
「ふむ、何をお持ちかな」
「そうだなー、ホウホウ鳥とその卵にシルバーフイッシュ,レインボーシュリンプも・・・」
「駄目!」
飛び降りて来たシャーラに、ビックリしているオーロン、周辺に控えていた連中もビクッとして身構えている。
「驚いたな、完全に気配を消しているから、相当な手練れと思っていたが森の一族か」
「シャーラ、お前の食べる分までは渡さないから安心しろ」
「ホウホウ鳥は」
「これね、シャーラも忘れていただろう。俺も交換する物をと考えて思い出したんだ。2,3羽なら良いだろう」
「ホウホウ鳥にシルバーフイッシュとレインボーシュリンプなら嬉しいが、見合う物か。ヨルムの里に来て貰えないか、収納持ちが保管している物を出そう」
「シャーラ行こう。お魚とエビは奥に行ける様になったら捕りに行こう」
「よくシルバーフイッシュやレインボーシュリンプを採りに行くのか?」
「いや、2度程行っただけだよ」
オーロンと6人のエルフの先導でエルフの集落、ヨルムの里に向かう事になった。
《グリン気配を消せる?》
《ん、大丈夫何時もはカイトやシャーラに私の居場所が判る様にしていただけ。今は見えなくしてるから、カイトにも判らないでしょ》
《ああ判らないよ。返事をしてくれらから居るって判るだけだな。エルフの里に行くけどどうする》
《ん、カイトと行くよ。耳の大きい奴には見せないから》
《シャーラにも、見えなくても居るって教えてあげてね》
《判った》
オーロンが不思議そうに周りを見渡し首を捻る。
「どうした」
「いや、今日は何度も精霊の気配を感じた気がするのだが・・・」
《グリン、少し離れていた方が良さそうだ》
《このでか耳、鋭いね》
《前の方に大きな樹が見える》
《見えるよ》
《あの樹くらい離れてね》
シャーラがちらりと俺を見るので、オーロン達に気付かれない様に頷いておく。
200メートル以上離れている様に見えるが、あんな所から話せる何てグリンは凄いな。
王立図書館で読んだ本には確か〔精霊は精霊樹より生まれ2,3年で消える存在、妖精に昇華したものは精霊樹と共に永きに亘り存在する〕って書いてあった筈だ。
能力はエルフやドワーフ森の一族の本にも記載が無かった。
グリンは、俺とシャーラの魔力を浴びて成長しているので、能力は想像もつかない。
最も、本来の能力も知らないので、比べようもない。
夕暮れになりヨルムの里って未だ遠いのか尋ねたら、後一日の距離だとしれっと言われた。
オーロン達が野営の準備を始めたので、少し離れた所にキャンプハウスを出す。
オーロン達が、呆れた顔で俺達を見ている。
キャンプハウスの中に入るとグリンも帰って来て姿を現す。
シャーラと相談し、シルバーフイッシュとレインボーシュリンプは各10匹まで交換OK
ホウホウ鳥は3羽に卵も3個を交換材料に使い、果実の見極めはシャーラに任せる。
俺がみても分からないので、シャーラにお任せコースだ。
その夜はヨルムの里の事が楽しみで、シャーラと遅くまで話し込んだ。
何せエルフの里だ、ラノベの常連自然主義者で魔法が上手く弓の名手ときた。
家だって樹の家とか、ツリーハウスなんて見たことないからワクテカが止まらない。
早朝から何やら外が不穏な雰囲気だ、監視用の覗き穴から見るとオーロンとその仲間達に対峙する一団が居る。
シャーラに近くの樹の上に跳んでもらい援護するように頼む。
俺はキャンプハウスの出入口を中から塞ぐと、壁抜けの要領でオーロン達から見えない位置にジャンプする。
キャンプハウスの上から覗くと、どちらも武器に手をかけ一触即発って感じだ。
オーロンに向かい合う男の顔は見えないが仲間達と一方的に何かを要求している。
お知り合いの様だが、珍しい果実を譲って貰う約束なので揉め事は後にしてもらおう。
それに昨日の話し振りから礼儀正しい男の様だが、オーロンに向かい合う男とその連れ達には街の屑と同じ雰囲気が漂う。
取り合えず休戦して貰わねば、珍しい果実が手に入らないので小石を投げ込む。
背を向けた男の後ろに小石が落ちた瞬間、一斉に振り向いた男達は抜刀し弓を引き絞り槍を構えている。
ホッホウ、中々の反応ですね。
「誰だお前は」
「誰と言われても、オーロンとは先約が有るので揉め事は後にして貰えないかな」
「人族の小僧が、こんな所で何をしている」
「何って、オーロンと物々交換の約束でヨルムの里に向かっているだけだよ。それより弓を引いてる奴、下ろしてくれないかな死にたく無いだろう」
「死にたく無ければ、今すぐ此処から立ち去れ!」
「あれっ、死ぬのは俺なの?」
「やれ!」
そう聞こえた時には胸に〈ドン〉と衝撃を受けて吹き飛ばされていた。
俺が矢を受けて後ろに吹き飛んだ時、弓を射た男の頭上からストーンランスが撃ち込まれた。
二の矢を掴もうとした姿勢のまま、ストーンランスに撃ち抜かれ絶命する。
やれ、と命じた男の行動は早かったが仲間の男達は一瞬逃げ遅れた。
その彼等に頭上からストーンアローのショットガンが連続で撃ち込まれる。
逃げたのは3人、5人が死んでいる。
シャーラは危険が去ったとみて、俺の所に文字通り跳んできた。
「カイト様、大丈夫ですか」
「ああシャーラ、何とかね。魔法付与で魔法防御,打撃防御,防刃と付いているから助かったよ。矢に魔法を乗せてきやがったから胸の骨が折れたみたいだ。魔法,打撃,防刃の防御力は死なない程度にしか効かない様だな」
〈なーぉれっ〉小さくシャーラの声が聞こえて胸の痛みが引いた。
シャーラに礼を言って立ち上がり、オーロン達の所に行く。
「乱暴な人たちだな」
「それを君達が言うか」
「えっ、普通なら俺は死んでいるよ。防御魔法付与の服を着ていたから助かったんだ。攻撃されたら反撃するよ、エルフって攻撃されても反撃しないの。あんたと話していた男の、名前を教えて貰えないかな」
「聞いてどうする?」
「あんた達と知り合いの様だし、同じ里の奴なんだろう。殺せと命じた奴を見逃す気は無いよ」
「それなら教える訳にはいかない」
「そうか、なら取引は中止だ。俺は奴を追う、邪魔するなら殺すよ。シャーラ行くぞ」
「待て、里を敵に回す気か」
「お前達の里の事など知った事か! 俺を殺せと命じた奴を見逃す気は無いだけだ。お前が奴を仲間と庇うのなら此処でお前を殺すぞ」
「敵対はしない、あいつの名はエドラだ」
「里の方角は」
オーロンの指差す方向にシャーラと二人で向かう。
周囲に殺気が満ちあふれているが、俺達に向けられたものではないので無視する。
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