第182話 外伝・ドラゴンスレイヤー・4

 出発準備が整い整列する護衛隊長は、カイトに呼ばれて暫く待機している様に言われる。

 王都出発前に国王陛下と宰相に呼ばれ、カイトとシャーラの指示には無条件で従えと厳命されている。

 それはヘラルス殿下の命令より優先する。

 カイトはと見れば、一度しまったキャンプハウスを再び取り出している。


 緊張気味のヘラルス殿下を連れてキャンプハウスに戻る俺、それに続くハマワール家の二人とシャーラ。

 キャンプハウスに入ったヘラルス殿下は、シャーラに腕を掴まれた瞬間姿が消えた。

 驚くヒャルとフィの二人は、グリンとピンクに連れられてシャーラの後を追う。

 さあ、お望みの野獣討伐だ、にんまりと笑って三人の後を追ってジャンプする。


 ヘラルスはシャーラに腕を掴まれたと思った瞬間、キャンプハウスの中に入った筈が草原に立っていた。

 驚いて周囲を見渡すとハマワール伯爵とフィエーン子爵が現れ、続けてカイトが姿を見せた。


 「此れが話に聞く転移魔法・・・ハマワール伯爵とフィエーン子爵も転移魔法が使えるのか?」


 「グリンとピンクに頼んで連れてきて貰ったんだ。余り大声を出さない様に、殿下」


 ヒャルとフィもキョロキョロ周囲を見渡し、グリンとピンクが側にいる事に驚きながらも、どうしてこうなったのか何となく理解した様だ。


 「行こうか」


 「何処へ」


 「ご希望の野獣討伐ですよ。この先にラッシュウルフ8頭の群れがいるので、殿下にはその討伐をお願いしますね」


 にっこり笑ってお願いすると、慌てている。


 「ちょっと待ってカイト・・・心の準備が」


 「何言ってるんですか殿下、冒険者は心の準備をする前に、成人したら野獣と対峙して闘っていますよ。ヒャルとシャーラに俺の護衛付き、こんな気楽な討伐任務は在りません。しかも万が一に備えて、フィって言う王家治癒魔法師が控えている贅沢極まりない討伐です。少々の怪我など一瞬で治してくれますから心置きなく闘って下さい」


 「ヒャル、笑ってないで何とか言ってよ」


 「カイト、あんまり虐めちゃ駄目よ」


 「仕方がないなー、じゃー静かについてきて。一人一頭で一斉攻撃して倒すからね」


 ラッシュウルフの群れは、レッドホーンディアを倒して食事中だったが二頭が見張りをしている。

 ヘラルス殿下に見張りの一頭を割り当て残りを四人で倒す事にする。

 俺達四人は無詠唱で魔法を撃てるが、ヘラルス殿下に合わせて攻撃する事にし殿下の攻撃を待つ。


 〈空に轟く雷鳴よ、我の指し示す物に、その雷お落とせ!〉

 〈パリパリパリドーン〉 見事に外れている。


 至近距離に落ちた落雷に痺れたのだろう、ラッシュウルフが倒れて痙攣している。


 「仕方がないなぁ、夫々一頭ね」


 フィのフレイムランスとヒャルのアイスランスが前後して飛び、二頭を串刺しにする。

 俺とシャーラのストーンランスがそれに続いて二頭に突き立つ。

 残りの三頭が逃げたのを確認して殿下に止めを刺す様に促す。


 〈空に轟く雷鳴よ、我の指し示す物を、撃ち抜け!〉

 〈パリパリパリドーン〉 今度は何とか命中してウルフは黒焦げになって絶命した。


 「こんな近くで、動いていないのに何で外すのさ。練習してる? 殿下」


 「なにか、もの凄く嫌味に聞こえるんだけど」


 「嫌味で言っているんですよ。エグドラに着くまで特訓だな」


 * * * * * * * *


 殿下達がキャンプハウスに入った後、暫くして雷鳴が2度聞こえた。

 晴天に雷鳴とは不吉なとの思いに、護衛隊長がそわそわしているとキャンプハウスから殿下達が出てきた。

 心なしかヘラルス殿下が赤い顔で俯き気味に馬車に向かい、ハマワール兄妹が苦笑いで続く。

 シャーラの横にヘラルス殿下が座り、何事もなかった様に馬車列が動き出した。


 「殿下、右上見えますか」


 「あっ・・・ああ見えるよ。あの鳥がどうしたの」


 「どうしたって、撃ち落として下さい」


 「あれを、飛んでるよ」


 「鳥だから飛びますよ。よく狙って撃てば当たります」


 〈空に轟く雷鳴よ、我の指し示す物を、撃ち抜け!〉


 〈パリパリパリドーン〉


 至近距離を雷撃が通過、大慌てで羽ばたく鳥を恨めしげに見る殿下。

 逃げる鳥をシャーラに落とさせるので、殿下に見ていてもらう。

 シャーラの撃ち出したストーンアローは、放物線を描きながら見事に命中する。

 まっシャーラの魔力高は90だから楽勝の距離だが、殿下は知らないので感心している。


 「以前も言いましたが、魔法を撃つなら的から目を離したら駄目です。乱戦じゃ無いんです、撃ち出した後まで見ていなさい」


 旅の途中見掛けた野獣は全てヘラルス殿下に攻撃させる。


 「カイトもう無理、魔力が持たない」


 「何発撃ったか数えてますか」


 「んー、多分13発」


 「多分ね・・・王都に引き返して一から練習をやり直しますか。全然練習してないし、自分の撃った数すら正確に覚えてない上に魔力も使いすぎ。残り3発しか撃てないって事は体力勝負になっても大して動けませんよ」


 「悪かった、以後真面目にやります」


 「エグドラに着くまで、徹底的に扱きますからね。今日からは魔力切れまで撃って貰います」


 「ヒャル、助けてよー」


 「殿下、諦めて下さい。魔法が使える様になってから、碌に練習してこなかったつけです」


 通りすがりの岩に魔力の残量を撃たせ、倒れた殿下を馬車に寝かせて旅を続ける。

 殿下の護衛も伯爵家の護衛も、次期国王を扱く俺を恐れて近寄らない。


 後数日でエグドラに到着する筈が、予定が変わった。

 先行していたピンクが、小さきもの達が蜥蜴がいると騒いでいると教えてくれた。

 即座に馬車を止め殿下と俺達4人が殿下の馬車に乗り、シャーラが確認の為にピンクの所にジャンプする。


 《カイト、シャーラが蜥蜴はアースドラゴンだって》


 グリンの声を聞いて、ヘラルス殿下を扱くよい機会だと嬉しくなる。


 「アースドラゴンだってさ。早いけど此処で野営の準備をして皆を待機させよう」


 「ドラゴン討伐に行くの」


 「シャーラからの連絡では、10メートル程度だそうですよ。10メートルと侮ったら死にますから気を抜かない様に」


 殿下のキャンプハウスを中心に夫々のキャンプハウスを設置すると、殿下の護衛隊長に暫く誰も近づかせるなと言って俺達のキャンプハウスに籠もる。

 俺が殿下とヒャルを連れてジャンプ、グリンにフィを連れてジャンプしてもらう。

 途中からピンクに案内されてシャーラの元に向かうと、アースドラゴンが前足を穴に落として暴れている。


 「ご苦労さん。お手頃サイズだね。シルバーフイッシュを捕る時の様な柵を作ろうか」


 シャーラと手分けして、アースドラゴンを中心に半径25メートル程の闘技場を造り足の固定を外す。

 自由になったアースドラゴンが怒り狂い、柵に突進して轟音を立てる。


 「ふわぁー、元気ですねぇー」


 のんびりとしたシャーラの感想に、フィとヒャルの顔が引き攣り気味だし、殿下は完全に顔色をなくしている。


 「殿下、ご希望のドラゴンスレイヤーになるチャンスですよ。柵の中のドラゴン退治なんて、滅多に出来る事じゃ有りませんので心置きなく闘って下さい」


 「あっあのカイト、此れ1人でやるの」


 「当然です。手伝ってくれる冒険者は居ませんが、代わりに柵で逃げられない様にしていますので魔力切れまでやって下さい。万が一怪我をしても、王家治癒魔法師のフィエーン・ハマワール子爵がいますからね。それとシャーラも治癒魔法が使えますから万全です」


 「でっでも柵から抜け出せそうなんだけど」


 「まあ頭くらいは抜けるかもね。あっ言ったおきますが、即死したら治癒魔法でも治せませんから注意して下さい」


 「えーーー、今それを言う」


 「さっさとやってくれないと帰れませんよ、皆待っているんですから。其れとも、まさか詠唱を忘れたなんて事はないでしょうね」


 軽く殺気を飛ばして詰め寄る。


 「殿下、腹に力をいれ覚悟を決めて下さい。殿下が望んだ野獣討伐は、王都でのお遊びとは違います。冒険者達は常に命を賭けて闘ってます」


 「殿下、お覚悟を・・・万が一の時は全力を尽くして治療致しますから」


 「やるよ、やりますよ! 応援してくれているのか脅しているのか、フィエーン子爵もいい性格だよね」


 漸く踏ん切りがついたのか、アースドラゴンに向かい詠唱を始めた。


〈空に轟く雷鳴よ、我の指し示す物に、その雷お落とせ!〉

〈パリパリパリドーン〉


 「何処狙って撃ってるの。的から目を離すなって言ってるでしょう。もう一度」


 肩に落ちた落雷に興奮して走り回るアースドラゴン、ヘラルス殿下が焦って連続攻撃を始める。


〈空に轟く雷鳴よ、我の指し示す物に、その雷お落とせ!〉

〈パリパリパリドーン〉

〈空に轟く雷鳴よ、我の指し示す物に、その雷お落とせ!〉

〈パリパリパリドーン〉

〈空に轟く雷鳴よ、我の指し示す物に、その雷お落とせ!〉

〈パリパリパリドーン〉


 「はい止めーーー。殿下深呼吸して落ち着きなさい」


 「カイト、殿下に動き回るドラゴン討伐はまだ無理よ」


 そりゃそうか、奥義と秘技は教えてないから当たらないか。

 それに野獣討伐を何度も経験している、ヒャルやフィほど肝も据わってないしな。


 「殿下、私とフィでドラゴンの足止めをしますので、止めをお願いします」


 「フィ前足を頼む、私は後ろ足を狙うから」


 ヒャルとフィはアースドラゴンが横を向いた時を狙い、アイスジャベリンとフレイムジャベリンを使って足止めした。

 流石に撃ち抜く事は出来なかったが、大きな傷を負わせ動きを鈍らせる。

 2人共訓練を怠っていない様で、以前より格段に威力が上がっている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る