第110話 模擬戦
ギルマスのノーマンさんが、良いところに来てくれた。
「何だカイト来ていたのか」
「ヤーハンさんにも頼んだのだけど、ギルマスも真面目なパーティーで、仲間を募集しているところがあれば紹介してよ」
「お前が連れて来るなら間違い無いと思うが、腕の方はどうなんだ」
「さっき解体場に獲物を出しておいたよ」
ギルマスが解体場に向かうと、ゾロゾロと食堂に居た冒険者達も付いてくる。
〈おい見ろよ、一撃だぜ〉
〈はぁー・・・凄えなぁー〉
〈カイト達がやったに決まってるだろ。あんなど新人にやれるわきゃ無ぇさ〉
「大したものだな、ランクは?」
「今日登録したばかりだよ」
「ちょっとカードを出せ」
「ノーマンさん、いきなりシルバーは駄目だよ。ブロンズまでなら、まぁいいかな」
「何処で腕を磨いたんだ」
「アガベの所で、一緒に狩りをしていたんだ」
〈おい、森の一族と狩りだとよ〉
〈そりゃー腕が良いのも当たり前か〉
〈凄ぇなー、それじゃー俺達とは無理だな〉
〈あいつら化け物揃いだからな〉
〈まっ俺達はシャーラちゃん一人に勝てないもんな〉
「狩りの経験があっても、冒険者としての経験が無いからね。それなりのパーティーで経験を積ませたいんだ」
ノーマンさんカードを持って受付に行き、ブロンズのカードを返してくれた。
ブロンズの2級になっている、相変わらず好き勝手をしてるよ。
知らねえぞ、文句を言い出す輩が必ずいるからな。
「よおギルマス、そんなど新人がいきなりブロンズの2級かよ。あの獲物を、そいつが倒したって証拠も無いのに」
ほーら居た! 反応が早いねー。
「俺達なんてブロンズの2級になるのに5年かかったんだぜ」
「そりゃー、お前の腕が悪いからさ。酒ばかり飲んでないでしっかり訓練しろ。面白くなさそうだから模擬戦でもしてみるか、お前の腕がよく分かるぞ」
〈ウォー 模擬戦だー、どっちに賭ける>
〈俺は〔鉄壁の楯〕に賭けるぞ>
〈嫌々カイトがそんなに弱いのを連れて来るとは思えんから、俺は新人に銀貨1枚だ〉
〈祭だー、マスターエールだ♪〉
〈よーし、俺は新人だな〉
〈ギルマスの目を信じて、新人に賭けるぞ!〉
〈経験豊富な〔鉄壁の楯〕に賭けるぞ。負けたら闇討ちかけるから負けるなよ!〉
まったく直ぐにお祭り騒ぎに持ち込むんだから、ノーマンさん謀ったな。
「ナジル勝算は、まぁ剣の訓練は受けていると思うけど」
「ホーリー達と対人戦の訓練もしていますから、大丈夫だと思います」
「まっ怪我してもシャーラがいるから、後の事を気にせず思いっきりやりな」
訓練場では、酔っ払いの群れが自分が賭けた相手に声援を送っている。
「双方共殺すなよ。俺が止めろと言ったら即座に止めろ。さもないと俺が相手するからな」
ノーマンさん、始める前に脅してどうするの。
リーダー格の男が長い木剣を振り回しながら位置に付く、ナジルはロングソードの木剣を両手握りで構える。
始めの合図で、振り回した勢いのまま、上段から打ち込んで来る木剣を斜めに受け流し、そのまま振り上げて肩に叩き込む。
〈ウゲッ〉って声が聞こえたが、そのまま崩れ落ちて勝負あり。
「おらっ次は誰だ! お前、やれ!」
呆気なく勝負が決まってしまい、ノーマンさん消化不良なのか次の犠牲者を指名している。
指名された男は木剣を手にしているが、青い顔して首をプルプル震わせて拒否。
〈何だよー、意気がって出て来てあっさり終わりかよ〉
〈万年ブロンズの実力発揮だね。弱い弱い〉
〈俺はあの大口に銀貨1枚賭けたんだぞ、クソッ〉
〈新人強すぎー、私惚れたわ〉
〈諦めろ、男のお前を相手してくれそうも無いぞ〉
ノーマンさんが木剣を持って軽く素振りしている。
「ノーマンさん、何をする気ですか」
「ナジルとか言ったな、強そうだからちょっと俺と手合わせをしてくれ」
困った様に俺を見るナジル、肩を竦めて諦めろと伝える。
向かい合い一瞬の間を置いてナジルが打ち込む、袈裟切りの一撃を受け止めニヤリと笑うノーマンさん。
ちょっと悪寒がした、狼人のノーマンさんが牙を剥き出して笑うと怖い (八重歯と本人談)
受けたナジルの木剣を弾き飛ばすと同時に逆襲に出る、踏み込み横殴りに頭を狙っている。
軽く頭を下げて躱すと同時に、突きを入れるナジル
5,6合打ち合ってピタリと動きが止まった、ナジルの喉元にノーマンさんの木剣が突きつけられている。
怖い怖い、冷や汗が出るよ。
「中々良い腕だが、未だちょっと甘いかな。シャーラに鍛えてもらえ」
「はい、精進します」
〈イヤー凄いねー〉
〈ギルマスとやり合うかね〉
〈あっ俺は無理、勝てそうも無い〉
〈勝てそうもってのは、そこそこ使える奴の台詞だぞ。ゴブリン相手に苦戦している奴の台詞じゃねえな〉
〈ゴブリンに追い回されている、お前にだけは言われたく無いな〉
外野が煩い。
「止めて下さいね、ノーマンさん」
「ん、これでナジルにちょっかい出す奴は当分出ないぞ。でナジルは当分お前の家に居るんだな」
「所属するパーティーが決まるまでね」
「良いパーティーが見つかれば連絡するわ」
* * * * * * * *
ギルマスのノーマンさんから連絡をもらい、冒険者ギルドに向かう前にナジルに注意を伝える。
「他人に魔法を見せる時には無詠唱だと驚かれる。森の一族相手なら、俺やシャーラで知っているからそれで済むが、こちらでは不味い。魔法の腕前を見せる時には打つ前に口の中で(犬が走っていて転んだ)と言ってから打つ様に」
達磨さんが転んだなんて、教えられないからな。
「それと連射禁止、実戦では構わないが普段は隠す事を忘れるな。魔法を教えた時の注意を覚えているか、無詠唱なのか聞かれたら口の中で言っていると惚けるようにしな。冒険者カードには火魔法を記載してないのは、安定しないと装うためだから、その練習を思いだせよ」
真剣な顔で頷くナジル。
ちょっと入学式に向かう子供相手に、注意事項を教えている様で気恥ずかしい。
ギルドに到着すると、ギルマスの執務室の隣の部屋に通された。
中では4人の冒険者と、ギルマスのノーマンさんが待っていた。
冒険者達は男3人女1人の構成で、全員40前後って雰囲気だ。
「ノーマンさん後は宜しく、俺達は下で待ってますから」
10分程で降りて来ると訓練場に向かっているので、魔法の腕を試すのかな。
暫くすると帰ってきて俺達のテーブルの所にきた。
「〔血塗れの牙〕のリーダーをしています、オルドです。カイトさんナジルを暫くお借りします」
「森の一族と狩りをしていたから、討伐は大丈夫だろう。冒険者としては素人同然だから、宜しく頼むよ」
「任せて下さい。カイトさんの紹介なら間違いないでしょうし」
「何処かで会っているかな」
「ゴブリン討伐の時に同行させてもらいました。それとブラックウルフ討伐や、アーマーバッファロー討伐の話を聞いています。俺達は狩りが専門で、護衛任務はやらないんです」
都合の良いパーティーを紹介してくれたな、ノーマンさん。
3年物は出さないけど、新酒の森の恵を提供するよ。
「ではナジル取り合えず1年頑張ってな。何かあれば家に来なよ。じゃーな」
「有り難うカイト」
ナジルと別れて家に帰ると、ザルムから侯爵様より俺とシャーラに夕食の招待が来ていた。
まあ何か用事が在るのだろう、二人で侯爵邸に出向く。
エフォルに迎えられ、丁度よいので侯爵様に仕立ててもらった服を返しておく。
シャーラも俺も成長して小さくなったからね、勝手に処分して変な事に使われても困るし。
「侯爵様お久しぶりです。御招待有り難う御座います」
「ああ、久しく会ってなかったし街に居ると聞いたものでな。シャーラも大きくなったな」
「はい侯爵様、森の御土産沢山持って来ました」
苦笑い気味の侯爵様が、俺を見て首を傾げている。
「カイト少し背が伸びたのかな」
おっ流石は侯爵様よく見てるねー、3年物見せちゃおうかな・・・あげないけど。
俺を酒屋と勘違いしている、ギルマスのノーマンさんとは大違いだよ。
「はい、少しは成長しないと、シャーラの息子に見られますから」
「所で今シャーラが御土産と言ったが、森で何か見つけたかね」
シャーラが自慢気に出したのは、ゴールドにビッグビーンズの一回り小さい豆。
烏のえんどう豆の様な外観の中には、ぷっくりと膨らんだ豆が10~12粒並んでいる。
ソフトボール大の黄色い豆は瑞々しく、果肉はシャインマスカットの果肉に似てもう少し固い。
ゴールドに負けず劣らず中々の味わいだ。
鞘から豆を取り出すと、透明な皮に包まれた実が出てくる。
ナイフを当てると〈パン〉といった感じで皮が弾け、ゼリー状の中身が出てくる。
丸い水羊羹の、ゴムの皮を思い起こさせる。
シャーラは一口食べて即嵌まった。
ゴールドとどちらが美味いかと聞くと、二つ並べて唸っていたので甲乙付けがたいのだろう。
名前は無い、人目に晒された事が無いので、薬草香木図鑑、薬草全図、香辛料図鑑の三冊にも記載が無かった。
王立図書館で調べればわかるかも。
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