第23話 ゴブリン集落
帰りの馬車の中で、練習は威力を落として遣れば気付かれない。
今なら威力を落として魔法を発現させるのも、難しく無いはずだと伝える。
二人は俺が秘技だと言った意味を理解してから、言葉少なに考えこんでいた。
魔力高70なら70メートル圏内に相手が居れば、自分が攻撃した事すら知られず攻撃出来る。
「確かにね。この方法が知れ渡れば暗殺なんてやりたい放題になって、危険極まりないな。生死が掛かった時にしか遣わないよ。他人に見られて、どうやったかと思われるだけでも危険だ」
冒険者ギルドで降ろして貰うと、またもや二人が付いて来る。
「ヤーハンさん、ホーンラビットが大量に有るけど大丈夫かな」
「どの位だ、子爵さま達と一緒なら魔法の練習がてらに捕ってきたのか」
「多分50匹以上だね、三人でホーンラビットを捕ってたら増えちゃって」
奥の解体場で延々とホーンラビットを並べると、61匹も狩っていた。
ヤーハンさんは呆れているし、ヒャルダとフィエーンは苦笑いをしている。
買い取り代金、銀貨18枚と銅貨3枚を貰いホテルまで送って貰う。
* * * * * * * *
平穏な日々が続き秋になったある日、薬草採取から帰って来るとギルドが騒がしい。
薬草やファングボア、ビッグエルクを買い取って貰い、清算しているとヒャルダに出会った。
「よかった、カイト待ってたんだよ」
「どうしたの、ギルドに何の用なの」
「森の奥、2日程へ行った所でゴブリンの大集落が見つかったんだ」
「あっ、俺は討伐は受けないからね。さようなら」
背を向けたのに、襟首を掴んで離さない奴がいる。
振り向けば、ギルマスが歯を剥き出して笑っている。
狼人のギルマスが歯を剥いて笑うと、洒落にならない恐さがある。
タマタマがキューッてなって、ちびったよ。
「なぁカイト、お前護衛は受けていたよな」
「あれは馬車に乗って鼻歌歌っていれば良いお仕事でして、どちらかと言えば話し相手のお仕事です(キリッ)」
「そんな顔をするな、子爵様とお嬢様の護衛だよ」
襟首掴まれた猫の子状態でヒャルダを見る。
「私とフィエーンの護衛依頼だよ。頼めるかな」
「それなら受けても良い・・・かな」
「よし決まったな。これで安心だ」
「なんでギルマスが安心なんです」
「おう森の奥で見つかったゴブリンの集落な、200匹近い数らしい。でギルドと領主様の軍との共同作戦となったが、領主様の御兄妹二人の護衛に騎士では森の中は不向きだからな」
ギルマスの腕にぶら下げられたまま自分を指差すと、満面の笑みで頷かれた。
「謀ったな!」
「カイトは、私とフィエーンを守る事に専念して呉れれば良いよ。危なくなったら例の土魔法で宜しく。攻撃は私とフィエーンが担当するから」
「頼むぞ」
そう言われて、ヒャルダの前に下ろされた。
ゴブリン集落の討伐隊は、冒険者ギルドからブロンズ,シルバー,ゴールド合わせて54名。
侯爵軍120名、戦力外1名の大部隊で出発したのは二日後の朝であった。
冒険者は森の事を良く知っていて静かに森を歩くが、侯爵様の軍は対人戦特化型だから森に慣れてない。
二日目の朝冒険者達にきつく言われ、音のしない様にロングソードや鎧に布を巻き冒険者一人に軍人2~3人の編成に変える。
昼過ぎに全軍待機し、斥候がゴブリン集落の偵察に行くが、報告では200以上いそうだとの事。
ゴブリンキング1,ゴブリンロード2,ゴブリンジェネラル1,ゴブリンアーチャー2しか確認出来ず。
大きな洞窟を巣にしていて表には掘っ立て小屋が少数あるだけだと。
巣は大きいが秋の実りで餌が豊富なため、直ぐに移動はなさそうとの結論になった。
侯爵軍の指揮官ヒャルダが俺を見る、こっち見んな!
「カイト、頼みがあるんだ」
「俺は無いね」
「洞窟が巣の主体なら、洞窟の出入口を塞げば討伐の被害が少なくて済むんだよ」
「うん、頑張ってね」
「で冒険者との話し合いで、早朝に出入口を急襲して内部に魔法を撃ち込み有利に戦おうってね」
「おー、流石は御領主様の御兄妹様ですねー」
「カイト助けてよ。洞窟の出入口は解っているのが3ヶ所だ、正面の大きいのは無理でも小さい出入口は塞ぎたいんだ。お願いだ、私とフィエーンが守るから塞いでよ」
〈ハァー〉こうなるんじゃないかと思っていたんだよね。
夜明け前に小さい出入口を塞ぎに三人で出かける、二人は作務衣紛いのお気に入りを着て後ろから俺を援護。
俺は勿論冒険者スタイルにフードを被り、薄明かりの中出入り口を確認出来る所まで近付き、秘技遠隔魔法(俺命名)で格子状に塞ぐ。
見張りはヒャルダの氷魔法で凍らせているから静かだ。
2ヶ所を塞ぎ終わると、正面の大きな入口に忍び寄る。
迷彩柄の本領を発揮して、ぎりぎりまで近付くと地面に大きな刺を生やしていく。
ゴブリンが外に出て来るときに、足を怪我をしていれば冒険者が戦い易くなるので小細工は怠らない。
洞窟の奥が騒がしく為ったので出入口を塞いだのがばれたようだ。
それを合図に、表の掘っ立て小屋に冒険者と侯爵軍が殺到して潰していく。
フィエーンが、洞窟の奥に向かってファイアーボールを撃ち込む。
冒険者の魔法使いも洞窟に向かって攻撃しているが、威力が全然違う
周囲を見張っていた冒険者からの合図で、新たな出入口が見つかった。
そこからゴブリンが出て来ているようだが、正面出入口が主戦場なのは変わらない、ヒャルダとフィエーンの前に土の盾を造り身を守らせる。
いきなりフィエーンの盾が、炎で弾ける。
「ヒャルダ洞窟の右上だ! フィエーン大丈夫?」
洞窟の上の奴はアイスランスで撃ち倒され、転がり落ちている。
フィエーンは少し髪が焦げてるが、大した怪我で無い様で攻撃を続行している。
洞窟の上??? 何処か洞窟の上に出る穴が他にも有る事になる。
いま上から攻撃されたら不味い、まる見えだから極めて危険な事になる。
「ヒャルダ、洞窟の上から攻撃されたら不味いので、ちょっと上を見てくる」
「私も行くよ、フィエーンが危うくやられる所だったし」
「えー私も行くわ、カイト一人じゃ心配だし」
「どっちが護衛なんだか、さっき俺が洞窟の横に潜んだ場所から上に行くよ」
「あんな所登れないでしょう」
「俺が土魔法使いなのを忘れたの、手摺りを作って安全に登るよ」
肩を竦めるヒャルダの前を通り、洞窟の横に取り付くとコの字型の手摺り兼足場を作って岩壁を登り様子を伺う。
三匹も潜んでいやがるのでショットガンで片付けたが、倒れているゴブリンの傍らにギリギリ通れる穴が空いている。
「塞ぐ?」
穴を見て考えているとフィエーンに聞かれて良いことを思いついた。
洞窟だと聞いていたので、出来るなら燻して薫製にしてやろうと思い、此処まで来る途中薪になりそうな木を集めていたのだ。
「ヒャルダ、周りを見張っていて」
マジックポーチから穴の中へ、適当に拾った薪や小さな倒木をどんどん放り込んでいく。
マジックポーチ様々だわ、気にせず拾っていたから相当在ったが全部放り込んだ。
「フィエーン火を付けて、下からの攻撃に気を付けてね」
ファイアーボールを撃ち込むので止めさせ、破壊せず薪が燃え上がるイメージで火を付けろと指示する。
穴の周囲を盛り上げて煙突状にし、良く燃える様に細工をすると後は見物だな。
暫くすると、炎に追われて洞窟から逃げ出して来るゴブリン達、洞窟の上からヒャルダが狙い撃ちでどんどん倒して行く。
すり抜けて逃げる奴は冒険者達が片っ端から切り倒す。
どうやら一段落したのでフィエーンを見ると顔が火傷をしている。
「フィエーン、痛く無いの」
「痛いけど、どうしたら良いのかわからない」
涙目で言われて笑いそうになったが、笑ったら後が怖いので我慢。
「フィエーンは治癒魔法使えるだろう、自分で治せよ」
「えっ自分も治せるの」
「何時も言ってるだろう。魔法はイメージだって、自分が綺麗に治るイメージで魔力を纏えばいけると思うよ」
フィエーンが深呼吸をして、真剣な顔でポソッと呟いた。
「綺麗になーぉれっ♪・・・痛みが無くなったわ、ねぇ治っている」
「大丈夫治っているよ。ただ焦げた髪は無理だね」
〈グギャーャッッ〉って雄叫びが聞こえ、振り返ると体が焦げたゴブリンキングが冒険者に襲い掛かっていた。
4人掛かりで苦戦しているので援護にストーンアローを後ろから撃ち込む。
動きの鈍くなったゴブリンキングに、冒険者が四人がかりで逆襲して斬り倒した。
それが最後の組織立った抵抗のようで、後は残党狩りになり冒険者達は魔石を取り出すのに忙しそうだ。
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