第137話 離反
改めて王城でアルマ達との話し合いに臨む。
「我々への攻撃は止めないと」
「攻撃じゃない反撃だよ、好き勝手な解釈で人を処分する命令を出しておいて、その言い草はなんだ」
「では命令を撤回し、謝罪すれば止めてもらえるのか」
「随分都合の良い話だな。オーロンの様に、お前達に都合が悪い者を殺しておいて無かったことにするつもりか。俺を詐欺師の人殺しと皆に刷り込んでおいて、自分達の命を守るのか。止めるには条件があるが、聞くか?」
頷くので条件を伝える。
長老会の解散、長老制度の廃止、現長老会に所属する者全員の死、の三つだ。
「我々に死ねと言うのか」
「話にならん」
「ナガラン宰相、国王陛下殿こんな無茶を通すつもりか」
「お前達がやった事は無茶じゃなかったのか。勝手な解釈で攻撃を命令し、返り討ちに合ってどれ程の仲間を死なせたか解っているのか。嫌なら帰って俺の攻撃に備えろ、お前達長老を鏖にするまでどれだけの仲間が巻き添えになるか見ながら死んで行け!」
「カイト止める気はないのか、犠牲が大き過ぎるが」
「駄目ですね。犠牲が大きいのはこいつ等が自分で戦わず、他人にやらせるからですよ」
「それはお前が無差別に殺すからだろう」
「当然だ。7つの里はお前達の支配下にあり、俺達を処分しろと命じた。里の者はその命に従う、つまり7つの里のエルフ全員が敵だ」
「ナガラン宰相殿止めて下さい。エルフを代表してお願いします」
「カイトは我々の臣下ではない、冒険者なのでどうにもなりません。この場に来てもらうにも、取引相手としての頼みで来てもらっている。国家間の戦いでも同じですよ。命令した者は、負ければ死が有るのみです」
「話し合いと聞いたが、お前達の都合の良いことだけを通そうとするなら無駄だ。条件を変えようか、フルマの里に生き残りの長老達を集めろ、そして好きなだけ兵を集めて俺と戦え。勇者ハマンも呼んでおけよ。俺たちは二人だけだ文句はあるまい」
「その辺が手の打ちどころですな。アルマ殿」
* * * * * * * *
「カイト、一つ聞いていいかな」
「何ですか陛下」
「建物一つ粉々にしたと聞いたがそんな事が可能なのか」
「出来ますよ、王城一つ潰せと言われたら多少準備が必要ですが、少々大きな家くらいなら簡単です」
「それは誰にでも可能なのか」
「可能か不可能かと問われるなら可能です。しかし原理を知らなければ無理です」
「その原理は誰も知らないと?」
「多分ですが」
水蒸気爆発なんて、この世界では誰も知らないだろう。
知っているとしたら、俺と同じ世界の転生者だろうと思う。
* * * * * * * *
侯爵邸から帰る前に、ヒャルと侯爵様に3年物ボトル1本,2年物天上の酒を大徳利で2本を渡す。
ヒャルなんて3年物を抱えて、これだけは友人達にも絶対に見せないと言って仕舞い込んでいた。
侯爵様も苦笑いで頷いている。
俺だっておいそれとは飲めない、秘蔵の酒だから気持ちは判る。
だが酒は呑むもの、飲まれるものなんだよヒャル。
春まで王都でのんびりし、侯爵様の護衛をしてエグドラに帰る。
食料の在庫はたっぷり有る、シャーラもお菓子を大量に買い込み、マジックポーチに溜め込んでいる。
気は乗らないが、エルフの長老達と決着をつけるべく森に向かう事にした。
* * * * * * * *
ヨルムを過ぎてから慎重にフルマに近付いたが見張りがいない。
前回サハバのときには、遙か手前に見張りが居たのにエムナの様に罠かな。
グリンに聞いても誰も居ないって、夜を待って入り口を守る門番を拉致することにした。
シャーラなら90メートル離れていても、秘技遠隔ジャンプで引き寄せられるので楽勝だ。
門の所に居た筈なのが、森の中なのでぽかんとしている。
シャーラにガッチリと掴まれ、首にナイフを当てられて声も出ない様だ。
「解っていると思うが、抵抗したり大声を出せば死ぬぞ」
物分かりの良い男でウンウン頷いて、手を広げて見せる。
よく見ると丸腰だ。
「お前武器はどうした」
「抵抗する気は無い。武器は門の所に立て掛けている」
「どうしてだ? 長老達から命令が出ている筈だが」
「聞いたが命令は拒否した、殆どの者は従わない」
「では長老達は此処フルマには居ないのか」
「居るさ、残りの長老達は集会場の地下に立て籠もっていて、奴等の手下達が守っている」
「えらくぞんざいだな」
「ヨルムの里が長老会から離れた。通告に来た里長のヘンザから色々聞いたよ。日頃威張っていた、ハマン達の腰抜け振りも聞いた。テイルドラゴンを討伐したのはあんた達なんだろう。あいつは自分達が討伐して、応援の連中は役立たずだ何だと吹いていたがな」
「では長老達も護衛の奴等も集会場に立て籠もっているのだな」
「いや違うな、護衛の半数は集会場の周りの建物に居る。あんた達が、エムナの集会場をバラバラにして吹き飛ばしたって、聞いて別れたのさ。長老達は地下室なら大丈夫だろうって潜ってしまったがね。集会場の周りの建物と、その周りの建物には住人は居ないから、好きにやってくれ」
なんとまあ、今になって漸く長老会から抜けたのか。
しかし分散しているのは面倒だな、門番の男に色々質問して大体の事は解った。
嘘で無いことを祈ろう、嘘でも構わないけどな。
集会場の周囲の屋根にジャンプしながら集会場のドアや窓を土魔法で固定していく。
俺達に気づいた集会場の中から、弓矢や魔法攻撃をしてくるが、ジャンプして頻繁に居場所を変える俺達には当たらない。
周囲の家に待機していた奴等が家から飛び出してくると、ショットガンを浴びせる。
シャーラに合図すると、シャーラ特性の毒草入り燻し玉を転移魔法で集会場の中に放り込む。
もうもうと煙を上げる集会場から一時避難し、風魔法で集会場を毒煙で包む。
2,3階から飛び降りて逃げる奴には、ショットガンをお見舞いして一人も逃さない。
5分もせずに集会場が静かになったので周囲の家を掃討していく、立て籠もる奴には風魔法で毒煙を操るシャーラに任せる。
つむじ風が精一杯だったシャーラの風魔法も、大したものだ。
抵抗の無くなった集会場と周囲の建物に火を放ち、誰も逃げ出さない事を確認してフルマの里を後にする。
* * * * * * * *
フルマを後にしたが、エグドラに帰るのも気が乗らないので何処に行こうかとシャーラに聞いた。
シャーラはきっちりお土産のリクエストを受けていた。
ヒャルの奴、フィを餌にドラゴンのお肉が食べたいとか吹き込んでいた。
ウォータードラゴンのお肉を食べさせたのに、贅沢な奴。
クイン様の所に寄り、そこでドラゴンを探しましょうと張り切っている。
ドラゴンねー、テイルドラゴンがエルフを食べるところを思い出して、食欲がわかないんだけどな。
クインの所で、のんびりするのは悪くないので行くことにする。
《クイン様、来ました》
《シャーラ、よく来ました》
《蜥蜴は来ますか、一匹欲しいです》
完全に食い気モードに突入しているニャンコに、呆れて脱力だ。
シルバーフィッシュやレインボーシュリンプじゃあるまいし、一匹欲しいですとはね。
シャーラを落ち着かせ、明日から周辺を探しに行くことにした。
クインの子達の情報では、以前大量の蜥蜴を捨てる時に見た谷、地面の亀裂の向こう側に時々来るとの事だ。
翌日からクインの子達も参加してアースドラゴン,コモドドラゴン探しが始まったが、探すと居ないんだよな。
それでも3日目に見つけたが、尻尾の先までだと15〜16メートルある。
ランク14のマジックポーチには収まらないおおきさだ。
あの尻尾の太さでは、ウォータードラゴンの様に尻尾を曲げる事も出来そうにない。
小さいのを探すのが面倒なので尻尾は切り落とす事にする。
半眼でのそりのそりと歩く前後の足を、落し穴に落して即座に固める。
後は顎の下の地面から土槍を突き上げて終わり。
ここまでは順調だったが、尻尾が固くて切れない。
特性のギロチンなのにと焦ったが、刃の部分に重りを付けて加速力と重力の合せ技で何とか切り落とした。
頭上に鋭い一本の角と上下一対の牙は、改めて見ると異様な迫力がある。
嫌だねぇ、魔法が使えないと会いたくない相手だよ。
クインに礼を言って帰ろうとしたら、薬草はいらないのかと問われた。
以前もらった若葉や花びらに、集めた薬草類も全て渡して持って無いけれど、又木の実が実る頃に来て採取させてもらうと告げてクインと別れた。
* * * * * * * *
侯爵様が呆れている、今度はアースドラゴンだってと。
ヒャるは嬉しそうだ、待望のアースドラゴンのお肉が食べられるのだから。
シャーラの頭を撫でなでしている。
そうなると侯爵様はエグドラでのんびりなどして居られない、早速王都に出発だ。
今回アースドラゴンは王家に渡すが、お肉の半分は俺達の物とナガラン宰相との約束だ。
王都に到着すると、侯爵様からナガラン宰相に連絡を入れてもらう。
アースドラゴンの引き渡しと解体、お肉の引き渡しの相談は侯爵様に丸投げする。
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