第37話 森の一族

 ハマワール侯爵様は、自称ナガール・ハイゼン伯爵とその護衛を連れて、ナガラン宰相の下へと報告に出掛けた。

 ヒャルと数名の騎士が、フィエーン・ハマワール邸の警備に当たっている。

 俺一人じゃ到底無理だからな。

 近日中にエグドラから呼び寄せたオルラン隊長以下30名の応援が来たら、彼等をフィエーン邸の警備に当たらせて、足りない人数は新たに雇う事になった。

 

 フィの紋章登録と、王城に与えられた治癒魔法師控えの間の確認に、フィのお供で王城に行く。

 子爵様の護衛が侯爵様縁の紋章付きの服装だから、知らぬ者は不思議そうな顔で俺を見ている。

 フィが紋章担当者に、ハマワール侯爵家の紋章に紅い二重丸だと説明して簡単に終わる。

 王家治癒魔法師の控えの間は王家の居住区に近いために、俺は入れないので護衛達の控室にて待機となる。

 

 まぁー屈強な男達の溜まり場でむさ苦しい事このうえなし、子供の俺が護衛で御座いますと紛れ込んだのでジロジロと見られる。

 自分で言うのも何だけど成長してないんだよな、子爵様(当時)に作って貰った服が小さくならないんだ。

 

 武器も持たず服装も戦闘向きでは無いし、胸にはハマワール侯爵様の紋章が縫い取られている。

 何か言いたそうな素振りの者が数名居るが無視する。

 

 「フィエーン・ハマワール子爵様の護衛、カイトは居るか」

 

 「私ですが」

 

 「魔法訓練場にて、陛下がお呼びだ」

 

 「私はフィエーン・ハマワール子爵様の護衛として来ています。陛下の呼び出しには応じられません」

 

 周囲がざわめき、煩い。

 

 「子爵様も同席しておる、早く来い!」

 

 面倒そうな奴だが、フィが居るのなら行くしかない。

 長い通路を進み、見覚えのある魔法訓練場に出た。

 フィも居るが、国王陛下に宰相とヘラルス殿下も居る、何をやらせる気だ面倒事は御免だぞ。

 

 「陛下連れて参りました」

 

 仕方がないので陛下に頭を下げで見舞いの礼を言っておく。

 

 「ハマワール子爵様、御用でしょうか」

 

 「貴様、陛下の御前である。分を弁えろ!」

 

 陛下が騒ぐ従者を押さえるが、気にいらない様で鋭い目付きで睨んでくる。

 

 「来て貰ったのは他でもない、魔法大会の時のものを見せて貰いたいとハマワール子爵に頼んだからだ」

 

 フィが、仕方がないって顔で頷いている。

 

 「陛下、私が冒険者である事はご存知ですよね。冒険者は必要な時以外には、他人に手のうちを晒したりしません。それを承知で見たいと仰せならば、実戦方式でお見せします」

 

 「ほう、実戦とな」

 

 「相手の方は、陛下の後ろに控える方々と彼で宜しければ」

 

 さっきから睨んでいる俺を呼びに来た男と、陛下の背後で睨んだり苦虫を噛み潰した様な顔の男達、総勢6名を指名した。

 

 「武器は御自由にどうぞ」

 

 誰から戦うか目線で会話する背後霊に、纏めて遣りたいと告げる。

 舐められたと思ったのか、雰囲気が変わり戦闘モード突入している、殺る気満々だね。

 子供の頃に作った泥団子程度の固さで手加減してやるよ、睨みつけてきたお礼にな。

 距離約25メートル騎士が抜刀し走り出したところをストーンバレットで先ず4人、詠唱している魔法使いの胸に一発入れる。

 最後に俺を呼びにきた男の、腹と顔面に3発程提供して終わり。

 撃ち込んだバレットは全て砕けているのを確認、よしよし。

 

 魔法師団の団長様がまた居たよ〈信じられん、まさか無詠唱なのか〉とか何とかブツブツ言っている。

 フィの実力を見せる事になったが、フィも全て見せる訳にはいかないと力の一端を見せるにとどまった。

 それでも35メートル程離れた的を一撃で打ち抜き、的を破壊した。

 流石にアーマーバッファローを倒した程度の力は見せないと、不味いからだ。

 

 陛下は満足そうに笑い、フィに王城内ならカイトを何処へでも連れて行く事を許すと告げる。

 俺には、誰何を受ければ渡した王家の紋章入りの身分証を見せれば良いと言われた。

 お城の中までフリーパスのカードかよ。

 

 用事が終わり、フィと二人従者の先導で帰るのだが、複雑な道筋に絶対に迷う自信があると思った。

 

 「カイト、道覚えられる」

 

 「無理! どだい覚える気も無いし」

 

 「そうよね、今度何時来るのか判らないのに、通路を覚えても仕方がないわね」

 

 前を歩くのは先ほど腹と顔に3発撃ち込んだ奴で、フィに治して貰ったとはいえ不機嫌丸出しだ。

 俺には良いが、フィエーン様は子爵だから気をつけろよ、無礼は許されんぞと忠告だけしてやる。

 今更気付いたのか顔色が一気に青くなってる、馬鹿だ。

 

 * * * * * * * *

 

 フィの館はオルラン隊長以下30名が警備にあたり、用無しになった俺はホテルでのんびりし、時々王都の街を散策している。

 やはり商家のボンボンスタイルが一番しっくりくる、このスタイルでお茶を楽しんだりお菓子を頬張ってるのが気楽で良い。

 

 そろそろ王都の外に出て、魔力の嵩上げをしたいので備蓄の食料確保に取り掛かる。

 此処で思い出したのは侯爵様の預かり品、アーマーバッファローのお肉が20塊と俺の分4塊残ってるんだった。

 侯爵様にお肉どうするのかと尋ねたら、フィの所に五個と侯爵様の所に五個出し、残りを預かっていてくれと言われた。

 

 フィの所に行く前に、ヒャルを掴まえて木桶一杯に氷を出して貰ってきたので、当分酒の氷に不自由しなくて済むがヒャルは呆れてた。

 フィの所で、侯爵様からと伝えてお肉を五個渡して帰るつもりが捕まり、皆でお肉三昧の夕食となってしまった。

 一塊の少ししか減らなかったが、仲の良いご婦人達の饗しに使うから当分楽しめると喜んでいた。

 食べきれないので三個は預かってと言われる。

 俺は、長期保存用の冷凍庫並の扱いだよ。

 フィに暫く王都の外に出て魔力の増強をすると言い、街の外迄送って貰った。

 

 街道の横は草原地帯で少し草丈が高いが、行動に支障は無いのでさくさく進む。

 途中でホーンラビット2匹仕留め、気配察知も鈍って無い様だ。

 街道から離れる経路を進んでいるのに、多数の人の気配がする。

 こういう時は近寄らないのが吉、その場に穴を掘り中で陽が落ちる迄寝て過ごす事にする。

 

 好奇心に負けました。

 薄暗くなった草原を、人の気配に向かって匍匐前進していると、ときにだみ声や酔っぱらった怒鳴り声が聞こえる。

 窪地の中にある岩の上に見張りが一人伏せている。

 岩は幾つかの岩がもたれ合った形で隙間の奥に多数の人がいる様だ。

 

 こんな所に潜んでいるのは碌な奴等ではないだろう、気は乗らないが調べることにした。

 5日間地下に潜って調べたがよく判らない、仲間内の話振りから衛兵らしき男達も混じっている。

 俺の手には負えないので、困った時の侯爵様と思い王都に帰る事にした。

 

 夜明けを待ち、街道を王都に向かっていると嫌な視線を感じるが人影は無し。

 立ち止まり、周囲の気配を探っていると出ましたよ。

 地面から湧き出る様に6人の男が現れたのだが、どう見てもまともじゃない家業の人達の様だ。

 地面に潜んでいたのなら、土魔法使いが一人は居るって事だろう。

 

 「荷物を持って無いって事は、マジックポーチ持ちだなポーチを出しな」

 

 「何処から出てきたんだ。それにマジックポーチを出せって盗賊か」

 

 「余計な事は言わずにマジックポーチを出せ! こんな朝早くに助けは来ないぞ」

 

 有罪確定、グダグダ脅し文句を吐いている奴の腹に、ストーンバレット一発撃ち込む。

 残りの奴等が腰の剣を抜いたが、全て腹にストーンバレットを射ち込んで終わり。縛り上げていると、別の所に潜んで居た一人が、必死で逃げて行く。

 馬鹿め奴の後ろにジャンプして、ストーンバレットを背中に撃ち込む。

 7人纏めて隠れていた穴に埋め空気穴だけを開けておく、この中に土魔法使いが居ても、縛っているから多分逃げられないだろうと思う。

 奴等の出てきた穴の中は食料や水などが有り、長期に渡って潜んでいた形跡があるが、元に戻して街に戻る。

 

 冒険者の服装で貴族街に入ろうとして止められたが、ハマワール侯爵様の身分証を示して無事に通過し侯爵邸に行く。

 侯爵様に盗賊の話とアジトらしきものを見つけたが、衛兵らしき人の出入りがあるので王都の警備隊には連絡できないと説明する。

 

 それからは早かった、即座に王城に行き宰相閣下に衛兵の仲間が居る恐れがあると説明し、捕獲には王都防衛軍を使う事を決定。

 翌日には300人の部隊を率いるダリアン隊長を案内し、夜明け前に問題の場所を包囲した。

 途中で埋めていた奴等を引きずり出して尋問を行い、盗賊団のアジトに間違いないと確認している。

 

 盗賊達は見張りの急報で逃げ出そうとしたが、寝起きで逃げるのに手間取り、包囲されて殆ど無抵抗で40人以上を捕縛した。

 アジト内に閉じ込められて居た男女や子供が救出されたが一人気になる者がいた、怪我をして高熱に苦しんでいる子供だ。

 

 ダリアン隊長に断り、高熱に魘れる子供を馬車に乗せて一足先に王都に帰り、フィの所に駆け込む。

 フィの〈なーぉれっ〉の一言で怪我は治り、熱も収まり静かな寝息を立てて寝ている。

 

 「どうしたのこの子」

 

 「盗賊団のアジトに捕われていたんだが、気になる事が在ってね」

 

 「奴隷の首輪を子供にするなんて、酷い事を」

 

 「良く知らないのだけど、子供は奴隷に出来なかったよな」

 

 「違法だしこの子は森の一族よ、この辺りに住まう者じゃないわ」

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