第115話 ダルクの森

 森から離れた所に厩を出し、馬を中に入れると6番目の岩まで歩く。

 5から1と岩の中にある座標を順番にジャンプして壁の側まで来た。

 

 《ダルク、聞こえる》

 

 《聞こえるよ。良くきたねカイト,シャーラ》

 

 《ダルクとはどれくらい離れていても話せるのかな》

 

 《あの子達と会った所ぐらいなら話せるよ》

 

 《じゃー、茨の森に近づかなくても大丈夫だな》

 

 《どうかしたのね》

 

 《この森にダルクの花や葉とその地に生えている草等を取ろうと、大勢のエルフ達がやってくるんだ。心配になってね》

 

 王城でエルフ達と話し合った事を教えた。

 ダルクが何処まで理解しているのか判らない。

 

 《それは、私から断りも無く取り上げようとする事だね》

 

 《えっ、お願いすれば渡すの》

 

 《駄目だね。カイトとシャーラは私をこの地に運び壁を築いてもらった。そのお礼にこの地の物を自由に持って行くことを許す。クインも蜥蜴を排除して貰い、壁の修理を願って叶えてもらった。だからクインの地に立ち入る事を許し自由にさせる。エルフとやらにその自由は与えていない。立ち入らせる気はない、来れば排除する》

 

 《解った、手伝うことがあるかな》

 

 《大丈夫、子供達を増やし森を少し広げるだけ》

 

 《それじゃー、俺達は少し壁に魔力を込めておくよ》

 

 《有り難う。カイト,シャーラ》

 

 壁を1メートル高くし、2度程お散歩して魔力を壁に込めておいた。

 後はエルフ達がどうやってこの茨の森に近付き、壁を越えるのか興味があったので見物する事にした。


 シャーラはダルクの妖精達と遊んでいるが、以前より明らかに数が増えている。

 子供達を増やすって言っていたが、早すぎだよ。

 

 俺は森の外に太さ3メートル高さ20メートルの、尖塔状の岩を建てる。

 頂上より少し下に空洞を造り、転移拠点として見物席にする。

 

 ダルクの森は茨の森とそれを隠す様に生える木以外は未だ細く、茨の森の外の木々も若木の雑木林といった感じだ。

 

 ダルクの子供達に、沢山の人族達がやって来ると教えられて、尖塔の見物席にジャンプする。

 

 「ほぇー沢山居ますね」

 

 「まぁな、エルフだけで200人くらいだと言ってたからな。王都守備軍の数が60~70人ってところかな」

 

 前の集団がエルフ達だろう、200~300メートル離れて守備軍が付いて来ている。

 夜営の時も離れている様なら、守備軍の指揮官に挨拶しておくか。

 何かあった時に駄々を捏られても困るので、根回しは大事だ。

 

 * * * * * * * *

 

 「見よサラヘン,カナル,ヒューテス,キリサス殿、冬も間近だと言うのに新緑に包まれた木々を」

 

 「確かにエドルナ殿の言うとおりですな。どうかなされたかキリサス殿」

 

 「感じませんか、無数の精霊の気配を感じます」

 

 「確かに、濃い気配ですな。精霊樹の森に違い在るまい」

 

 「カイトと申す小僧に、金貨5,000枚も支払ったのは痛かったが、精霊樹を見付ければ直ぐに回収出来るだろう」

 

 「見られよ、地面に枯れ葉が無い。代替わりして間が無いのであろう、木々も細く若い」

 

 「連れて来た連中も、何かを感じて居るのだろう。騒がしいわ」

 

 「カナル殿、無理も無い。我等エルフにとっても、伝説や御伽噺に近い精霊樹だぞ」

 

 「それが我々5人の手柄になる。次期長老代表はエドルナ殿で決まり。長老会の優柔不断な屑共を退け我等の一派で牛耳れば」

 

 「フォッホッホッホッ、気が早いのうヒューテス殿は」

 

 「長老様方、今宵のキャンプ地を森の側に定めたいのですが、宜しいでしょうか」

 

 「クラルスそんな些末な事を一々聞くな。まったく、キャンプ地も一人で定められんのか」

 

 〈おい精霊の気配が凄いな〉

 〈ああ精霊樹と聞いて半信半疑だったがまさかな〉

 〈そんなに感じるのか〉

 〈何だお前は感じ無いのか、情けない奴だな〉

 〈何を少しばかり感じるからとのぼせるな糞が!〉

 〈おい止めとけ!〉

 〈さっさとキャンプの準備をしろ!〉

 

 * * * * * * * *

 

 「行くか」

 

 「はーい」

 

 シャーラと二人地上に降り、歩いて王都守備軍のキャンプ地に向かう。

 土魔法使いも居るのだろう、夜営用のドームが複数円形に配置されている。

 

 「止まれ! 誰だ」

 

 シャーラが王家の身分証をかざす。

 

 「指揮官は誰だ? カイトとシャーラが来たと伝えろ」

 

 誰何した男に先導されてキャンプ地に入り、指揮官の下に向かう。

 

 「カイト様シャーラ様をお連れしました」

 

 俺の身分証も見せると〈パシーン〉と音のする様な見事な敬礼だ。

 

 「部隊指揮官のアダスルです」

 

 「楽にしてくれ。どんな様子だ」

 

 「はっ、我々には興味が無いようです。と謂うか人族に興味が無いのでしょう」

 

 「有り体に言えば見下している。ってところかな」

 

 「はい。そんな感じです」

 

 「明日から一騒動起きるが関わるな。何か言ってきても道案内と余計な事をしないか監視をするのが仕事。それ以外は一切関与するなとの命令です。と拒否しろ」

 

 「宜しいのですか?」

 

 「気にしなくても良いよ。明日の朝になったら1~2キロ下がった方がよいな。巻き添えを食いたくないだろう」

 

 「判りました。何時まで待機しますか」

 

 「精々1週間だな、そんなに堪えられるものでもないだろう。俺も近くで見物しているので、何かあれば知らせるよ」

 

 アダスルにお休みの挨拶をしてキャンプハウスに戻る。

 

 * * * * * * * *

 

 おー40人づつ5組に分けたのか、5人の長老達が各組の指揮官ね、全滅覚悟なのかな。

 隊列を組んで森に入って行くが、全員同じ道を通って行くつもりなのかね。

 

 俺達もエルフ達の後を追って森に入る。

 木が若いから雑木林の様で見通しが悪い、強い野獣はいないので分散する必要が無いのかも。

 彼等の後を、ダルクの子供達が梢の上から付いて行ってる。

 気配に敏感なエルフ達も流石に小さきもの達の気配が濃厚なので判らないのだろう。

 

 「なぁシャーラ、森の気配というか見掛けない木が増えてないか」

 

 「あれですね細い枝が上に向かって伸びていて草の様な」

 

 「そうだ、ダルクの所に行くときには、ジャンプで行くので余り見ていなかったが、10メートル以上の高さがあるぞ」

 

 《カイト大丈夫だよ。カイトやシャーラには何もしないから》

 

 《やっぱりあれも、刺の木と同じでダルクを守るものなんだ》

 

 《カイトの知らせを受けて植えたのさ、魔力を与えて成長させるのに時間が掛かったけど》

 

 《ダルクって、植物の帝王みたいだな》

 

 《あの子達だけじゃないよ、地面にも置いてるの》

 

 おいおい地雷まであるのかよ、マジでエルフ達全滅するぞ。

 

 《カイト、森で会ったでか耳が居るよ》

 

 森で会ったでか耳って・・・あいつ、オーロンだったかなヨルムの里のオーロン。

 

 《グリン、俺と同じ魔法が使えるって言ったよな》

 

 《ん、使えるけど一度に大きな魔力は使えないよ。シャーラに渡した魔力くらいを、ずっと使えるけど》

 

 《あー転移魔法だから、そんなに魔力は必要無いよ。首の後ろを掴んで、俺の所まで跳んで来れるかな》

 

 《やってみる》


 * * * * * * * *

 

 森に入ったエルフ達は、茨の森に到達していた。

 所々に生える刺の木を避けて進む、道が分かれ隊列も左右に別れる。

 右に左に曲がり進めば進む程に道は狭くなり枝分かれしていく。

 やがて道が消え引き返そうとしたとき、帰る道が無くなっていた。

 

 〈ウワーッ〉〈何だこれは〉〈ギャー〉

 周辺の姿の見えない仲間達が、悲鳴や戸惑いの声を上げるのが聞こえる。

 乱れた隊列と分散した仲間が、あちらこちらで声を荒げる。

 〈やめろ!〉〈糞、化け物が〉

 

 聞こえてくる声に戸惑っている男を激痛が襲い、太いナイフの様な刺が胸を貫いていて、声を上げる事も無く倒れる。

 隣の男は蔓に足を取られて逆さ吊りになり、もがいていたが血を吐きながら動かなくなる。

 

 周囲の者達の惨状に、これが伝説の茨の森かと戸惑っているオーロンは、突然自分の背後にはっきりと精霊の気配を感じた。

 驚きの余り振り返ろうとした瞬間、目の前の仲間の姿が消えた。


 気付けば、仲間の代わりに壁があった。

 

 「久しいなオーロン、ヨルムの里も7つの里の一つか?」

 

 呼び掛けられて振り向くと、カイトが立っていたが精霊の気配は無い。

 

 「此処は何処だ、何故カイトが居るのだ」

 

 「その壁の向こうがお前達の目的地だよ」

 

 「何故それを知っている。エルフしか知り得ないはずだぞ」

 

 「何故? エルフ以外の者が知っているのが不思議か、まあそんな面倒な話しはどうでもいいんだ。お前達は踏み込んではならない地に踏み込んだ。罰を受けてもらうよ」

 

 「何をする気だ」

 

 「この森が何と呼ばれているのか知らないのか」

 

 「茨の森だ」

 

 「そう茨の森は、精霊樹を守る森だと知っているよな。森に踏み込んでも、精霊樹に危害を及ぼさないと判断されれば、生きて帰る事も出来る。運が良ければね」

 

 オーロンの顔が引き攣り、唇が震えている。

 

 「この場所を、エドルナって爺さん達に教えたのは俺だよ。金儲けのために精霊樹を利用しようとしたからな。お前には生きて帰り、仲間達に語り継いでもらう。精霊や精霊樹はエルフの神ではないし、利用出来るものでもない。精霊樹の許し無く近づけば死ぬだけだと伝えろ」

 

 オーロンはカイトの話しが衝撃的過ぎ、思考停止状態。

 ついて来いと言われカイトに従う。

 カイトの向かう先には、刺の木の枝が垂れ先の見えない程に密集している。

 構わず歩くカイトの前で枝が左右に別れ、通路が出来る。

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