第60話 ぼったくり
ノーマンとザクセン二人のギルマスが、オークション準備の話し合いで展示する頭部と縦に並べる胴体を、10メートルの長さのままオークションに掛けるのは危険過ぎると意見が一致した。
ウォータードラゴンの二の舞は御免だ。
10メートルの胴体を、2,2,3,3メートルの4分割にしてオークションに出す事にした。
その際ノーマンは、参加資格として金貨3,000枚を即金で支払える事と、参加料金貨10枚が条件に決めた。
その代わりに、参加者にはフォレストスネイク(冒険者ギルド命名)のお肉を一口試食させる事にした。
カイトやハマワール侯爵達と試食して、余りの美味さに唸った。
参加者に一口食べさせれば、目の色を変えて価格を吊り上げると思いつき、ぼったくる気満々である。
ザクセンが一口試食して唸り声を上げ、たった一口かよ生殺しだと歎いたのを笑って見ていた。
一口食せば、是非にでも落札しようとするのは間違いない。
ザクセンの歎きを聞き、試食は成功すると確信した。
オークション開催当日、フォレストスネイクは特別展示され一般人にも公開された。
此処でも拝観料銀貨1枚のぼったくり価格だが、見物人が引きも切らず冒険者ギルドは荒稼ぎしていた。
通路は頭の正面から入り胴体の横を通って回り込み、入場口横から出る仕掛けだ。
物珍しさから来た人々はいきなり蛇の正面、恐ろしい顔と正対する事になり卒倒する者が続出する事と相成った。
フォレストスネイクの前座、森の果実ゴールド10個が手籠に盛られて4つ置かれる。
1個2個単位なら時に出回る事も有るが、10個単位で然も40個ものゴールドが出品されたものだから大騒ぎになった。
冒険者ギルドが買い取るのは、通常1個金貨5枚から6枚が相場だ。
いきなり金貨100枚の値が付いた。
その後ジリジリと値を上げ、最終的に手籠一つ金貨185枚でオークション参加者が残り4人となった時に、その価格を落札価格とした。
続く紅宝玉は見物だった。
80センチオーバーの房に、透き通った大粒の実が輝いている。
それを落札したい目の色を変えた人々に依って、1房金貨260枚と破格の値段となった。
幾ら大きいとは言え一房に100粒も実は付いていない精々80粒くらい〈一粒金貨3枚、30万ダーラかよ〉と言う声が会場から漏れる。
実際は40~50粒くらいしか実は無い、1粒金貨5枚50万ダーラだなとギルマス達は腹の中で笑っている。
ノーマンとザクセンはニンマリしている、ギルドの実入りが良ければ自分達の懐にもたっぷりと手当が入る。
お待ちかね、長さ2メートルの輪切りのフォレストスネイク2個、オークション開始価格は金貨3,000枚と宣言して会場が響めいた。
即座に3,100枚3,200枚と跳ね上がり、最終的に4,350枚で二人が残り決定した。
自動的に長さ3メートルの輪切りの開始価格は、金貨4,350枚となりオークションが始まった。
開始と同時に金貨6,500枚の声が掛かると〈ウォーォォォ〉と会場が異様な響めきに包まれる。
2メートルの輪切りで金貨4,350枚なら、3メートルの輪切りは金貨6,525枚が適性価格だ。
100枚単位の値上がりから10枚に変わり5枚になり、最後は1枚づつの上乗せ合戦になった。
金貨8,243枚此処でオークション運営のギルドが介入し、コイントスに決定4人のコイントスで2人に決まった。
後々まで伝説となる、フォレストスネイク初物のオークションは終わった。
「終わったな」
「ああ、心臓が破裂しそうだよ。初物は止めて欲しいよ」
「誰なんだ、持ち込んだ奴は?」
「言える訳無いだろう。お前もギルマスをしているのだから、聞くな!」
「これ程の凄腕は、俺の知るプラチナやゴールドランクにはいない」
「俺の一人言だ。ブロンズ辺りには自分の腕を隠し、目立たぬ様に生きている奴らがウヨウヨいる。そいつ等はランクを上げてやると言えば、さっさと余所のギルドに逃げる。遣りたい様に遣らせ自由にさせて遣れば、時に今回の様な物を持ち込んで来るのさ。ウォータードラゴンもそうだ」
「肝に銘じておくよ。然し、王家の支払いがとんでもない事になるな」
「ああ、陛下に恨まれそうだよ」
「アーマーバッファロー討伐の小僧を、何となく思い出すぜ」
「あいつか、惜しいことに魔力高40なんで、何度も魔力切れで昏倒しているからな。奴には無理だよ。それに、奴は今森の一族の子供と二人、のんびり仕事をしているよ。魔力切れで昏倒はするが、此処1番の防御力を買われてハマワール侯爵に可愛がられているよ」
カイトが聞けば、GJギルマスの掛け声が飛びそうな言葉だった。
「陛下フォレストスネイクと名付けられた例の蛇、オークション価格金貨25,186枚となりました。王家の支払いは10%上乗せの金貨27,704.6枚です」
「なんと噂に聞く初物相場か。冒険者ギルドに預けた頭部の切り取られた方から50センチづつ5つ皮付きで切り取り親密な王家に贈るぞ。ますます我がナガヤール王国の武威が上がるわ」
宰相は溜め息が出たが、その程度では国の財政に大した影響は無いので諦めた。
試食したフォレストスネイクの味を思い出し、思わず唾を飲み込んだのは内緒だ。
オークション2日後、侯爵邸を訪れたノーマンはハマワール侯爵とカイトとシャーラにオークションの結果を報告した。
ゴールド、金貨185枚×4=740枚
紅宝玉、金貨260枚×2=520枚
フォレストスネイク、2メートル物金貨4,350枚×2個=8,700枚
フォレストスネイク、3メートル物金貨8,243枚×2個=16,486枚
頭部の王家支払いが金貨25,186+10%=金貨27,704.6枚。
合計金54,150.6貨枚
カイト達の取り分は、金貨54,150.6枚からギルドの手数料20%を引いた金貨43,320.48枚となった。
聞いていて頭が痛くなって来た。
「なんでそんな金額になるのですか」
ノーマンさんが、得意そうにニヤリと笑って説明してくれた。
なんとオークションに掛ける方を2メートルの物2個、3メートル物2個の4つに切り割け、試食までさせてからオークションしたそうだ。
参加資格者は一口食べ、その味を求めて必死になっていたと笑っている。
狼人のギルマスが歯を剥き出し、チョイ悪親父風に笑っているのは迫力が有りすぎて怖いよ。
お前達のお陰でギルドは稼がせて貰ったと、改めて礼を言われた。
シャーラを見ると魂が抜けていた、俺も現実逃避したいよ。
後日侯爵邸に王都冒険者ギルドから、オークション代金が持ち込まれた。
シルバーランク以上の冒険者10名の護衛に侯爵家から10名が護衛に付いた。
侯爵様に呼ばれ騎士達が厳重に館を警戒する中を通り、執務室の隣の部屋に入る。
床に革袋がずらりと並ぶ。
「オークションと王家の支払い合わせて、金貨43,320枚と銅貨4枚鉄貨8枚だ確認してくれ」
100袋単位が4つ33袋が一つに、金貨20枚と銅貨鉄貨が置かれている。
ざっと数えて了承する。
帰るギルマスを呼び止め金貨一袋を口止め料だと言って渡すが、断られた。
それなら稼ぎの少ない冒険者に飯を食わせてやってくれ、と言って押し付けた。
げんなりしている俺とシャーラ、侯爵様に取り合えずそれを仕舞ってくれと言われる。
シャーラに半分の215袋をマジックポーチに入れさせ、俺も残りを黙々と入れる。
「シャーラ残りは家の管理費用に使うぞ」
「こちらもお願いします」
マジックポーチを差し出すが、足りなくなったら出して貰うと言って受け取らない。
侯爵様は金貨の袋が片付いたので、警護の騎士達を通常の警備に戻す。
「カイト、言いたくなければ言わなくても良いが、フルカン伯爵邸の崩壊現場から伯爵の遺体だけが見つからないんだが」
「あーあれね。フルカン伯爵様は勇敢な方で、夜の草原にて一人野獣との闘いに赴かれました」
ロングソード一本持たせず放り出した事は言わない。
多分気付いているのだろうが、侯爵様は頷いてその話しは終わり。
王都にも拠点の家を買う事にして、商業ギルドに向かう。
その際シャーラの口座を作るが、ハマワール侯爵様発行の身分証は良い仕事をしてくれた。
15才の子供が口座を作ると同時に、2,000枚の金貨を差し出したからな。
然も、マジックポーチには王家の紋章が付いているってねぇ。
俺も自分の口座に金貨2,000枚を追加し、家を買いたいと告げて不動産部門を紹介して貰った。
最初は二人とも冒険者スタイルだが、良い物を着ているから邪険にはされなかった。
シャーラが、ハマワール侯爵様発行の身分証と共に金貨2,000枚を入金したあたりから、態度が凄く丁寧になり笑いそうだった。
不動産担当の者との話し合いで、エグドラの家の事を伝え同様な家が欲しいと言って探して貰う。
連絡はジルベルホテルと教えて商業ギルドを後にする。
使用人は探すのが面倒なので、侯爵様にお願いする事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます