第38話 オダモッコ

 「森の一族?」

 

 「灰色の斑な毛色の猫人族は、森の奥に住まう一族よ。街に住む猫人族とは種族が違うわ」

 

 「悪いけど、この子を暫く此処に置いて貰えないかな、体力が回復したら親元に返す手立てをするから」


 アイサの指示でメイド達によって着替えを済ませ、俺が何時も泊まる部屋に寝かせた。

 夜中に腹の虫の鳴く音で目覚めたが、俺の腹の虫ではない。

 ベッドの上に座り込んだ子供が、お腹を抱えていた。

 収納から備蓄のスープを出して飲ませる。

 相当腹が減っていたのか、スープ二杯にステーキとパン二つを食べて落ち着いた様だが、満腹になると倒れる様に寝てしまった。

 

 「何だよお前、挨拶の一つも無しかよ」

 

 呆れるが怪我をして高熱を発していたのだから、相当体力を消耗しているので無理もない。

 俺も大怪我をした時は、体力回復に手間取ったからな。

 

 それから3回、腹の鳴く音で起こされて食事を提供し、出された物を無心に食べては倒れる様に寝むる子供を見ていた。

 5度目に起きた時に小さな声で〈お腹空いた〉と初めて喋り、世話係のハルーサが〈この子喋れるの〉とびっくりしていた。

 

 目覚めて話が出来る様になり、何故盗賊に捕まっていたのか尋ねると、名前はシャーラ母親と森で狩猟の練習中に冒険者達に襲われたと言った。

 二人で闘ったけれども相手は8人いて、母親は殺されたが自分は怪我をして捕まった。

 檻の中に4人の人達と入れられ、首輪をされて閉じ込められていた。

 怪我が治らず、途中からずっと寝ていたので後は判らないと言った。

 母親の死を思い出したのか、ぽろぽろと涙を零して止まらなくなったのか声を殺して泣き出した。

 

 泣きながら寝り、起きた時初めて此処は何処って聞き、貴族の館だと知って震え上がった。

 俺も平民の孤児同然の身だから、恐れる事は無いと宥める。

 フィを交えて話し合ったが、奴隷の首輪はそれを嵌めた時の呪文と合わなければ、外せない筈だと言われる。

 

 「シャーラ何時もそれを触っているけど」

 

 腰紐にぶら下がった花模様の彫り物を握っている。

 

 「母さんが作ってくれたの。もうこれしか母さんの物が無いの」

 

 母親を思い出し、泣き出したので泣き止むのを待って聞いてみる。

 

 「その模様が何か知っているかい」

 

 「母さんはオダモッコって教えてくれたけど良く知らない。でも遠い所の事で、神様だけが知っている事だからって」

 

 「おだもっこって何、その花びらの様な文様と関係有るの」

 

 「説明が難しいな、この子が言っている事を説明すれば頭が可笑しいと言われるよ」

 

 「母さんもそう言てたの、村を追い出されたから余り人には言わないって言ってた」

 

 溜め息が出るよ、ラノベの知識のお陰で転生者は俺以外にも居るだろうから、何時か出会う事もあるかと思っていたら殺されていたとはなぁ。

 有名な織田家の五木瓜紋の話などしたら、絶対に頭が可笑しくなったと思われてしまう。

 

 シャーラが元気になったので館の周囲を散歩して、体力の回復をはかるが俺の後追いが止まらない。

 姿が見えなくなると、泣きそうな顔で俺を探してウロウロしている。

 フィには、貴方が助けてずっと見守っていたから、貴方だけが頼りなんじゃないのと言われてしまった。

 

 奴隷の首輪だが、元の呪文が判らないのなら壊せばいいと思うのだが、下手に触ると首輪が絞まって死ぬことになるらしい。

 捕らえた盗賊の中に、首輪を嵌めた奴もいなかった。

 居ないなら壊してしまえと勝手に決め外す方法を考え、首輪が絞まるだけなら遣りようはあると結論づける。

 

 ヒャルに来て貰い先ず雷撃の練習から始める、シャーラの首周りを顎から肩まで土魔法で固め首輪が絞まるのを防ぐ。

 万が一に備えて、フィは部屋の外で待機だ。

 

 「カイト、本当に大丈夫なんだろうな」

 

 「首輪が絞まっても、シャーラの首は絞まらないから大丈夫。多分ね」

 

 「オイオイ、多分かよ」

 

 「いいから遠慮せずに遣って、手加減すると壊れないかも」

 

 シャーラの後ろから、首輪の上下を指で摘み首輪に雷撃を与える。

 〈バチン〉って音と共に、首輪から煙りが出ている。

 

 「痛ってぇー」

 

 「大丈夫、フィが治してくれるよ」

 

 首輪の赤く鈍い光が消えていて、持つと簡単に外れた。

 シャーラの首を保護していた、土魔法のガードを外してやる。

 フィを呼んでヒャルの手を治して貰っていると、シャーラが跪いて俺に頭を下げた。

 

 「シャーラ、礼ならいいよ立ちな」

 

 「カイト様、貴方の従者にして下さい」

 

 「シャーラ、別に恩に着る必要はない自由に生きればいい」

 

 「でも・・・」

 

 「カイト使ってやれ。大きくなって遣りたい事が出来たら、その時は好きにさせてやれば良かろう。それにな、その子は強くなるからお前の身辺警護や身の回りの世話係として置いて於けば、重宝するぞ」

 

 「そうそう、その子は貴方の後ばかり追いかけているし、放り出すのも可哀相でしょ。これから先、人手は必要になるのだから使ってあげなさい。この子の母親と、縁が在るようだし」

 

 皆好き勝手な事を言っているが、放り出すのも躊躇われるので成人して一人前に成るまでの間面倒を見る事になった。

 フィに頼んで、館で読み書きの教育とアイサがメイドの基本を教える事になり、オルランが暇な時に武術を教えて遣ると張りきっていたが、大して必要無かった。

 

 読み書きは既に教える事が無かったし、森の一族と言われるだけ在って闘いには独特のセンスが有り、基本的な事は母親から学んでいた。

 オルランも余り教える事が無いと言ってきた。

 俺は対人戦闘の経験が無いし、訓練する気も無いので良い護衛だとオルランが笑っている。

 闘うメイドさんか、少し萌えの要素が有るな。

 

 フィと同じ作務衣紛いの冒険者用の服を着せ、試しに草原に連れ出してみた。

 気配察知は俺より格段に上で、薬草の知識や採取の腕も良くて俺の遣ることが無かった。

 流石は、森の一族と言われるだけの事は在ると感心する。

 

 12月になり、シャーラが13才になったと聞いてビックリした、俺より少し小さいくらいなのにと言ったらフィに笑われた。

 森の一族は成長が早いし、多分オルランくらいの身長になるそうだ。

 俺は全然成長してないので、直ぐにシャーラの方が大きくなるから覚悟しておけとさ。

 身長は諦めているが、何時かフィよりは大きくなって遣る!

 

 春になり、侯爵様がエグドラに帰るので護衛として俺も帰る事になったが、シャーラが着いて行くと言って聞かない。

 フィやアイサは、メイド教育は未だまだだが慌てる事も無いので連れて行けと言うので、同行させる事になった。

 まさか侯爵様の馬車に同乗するとは思わなかった様で、緊張でカチコチになっている。

 

 大丈夫、咬み付いたりしないからって言ったら、侯爵様とヒャルに爆笑されてしまった。

 侯爵様,子爵様と馬車に同乗し緊張していても、森の一族としての能力に影響は無かった。

 

 6日目に〈オークが近付いて来る〉とボソリと呟くので、御者に伝えて注意しながら進むとオークの群れに出くわした。

 護衛の騎士達と冒険者が馬車の周囲を警戒するなか、ヒャルが御者台に立ちアイスランスであっさり倒し俺のマジックポーチの中に収まる。

 その後もウルフがいるとか、ゴブリンが逃げて行くとかボソリボソリ呟き、その方角を見ると必ずいるので、侯爵様もヒャルも感心していた。

 

 エグドラの街に着いたので、冒険者ギルドで降ろして貰いシャーラを連れてギルドに入る。

 買い取りのヤーハンさんと久しぶりの挨拶を交わし、途中でヒャルが仕留めたオーク8頭を護衛の冒険者達の分だと言って渡す。

 

 「カイト、フィエーン様も子爵になったってな」

 

 「はい年金貴族になり、おまけに王家治癒魔法師に任命されて御屋敷まで貰い、ハマワール一家全員貴族様になっちゃいましたよ」

 

 「凄えよなぁ、その貴族様の個人的な護衛のお前も大したもんだよ」

 

 「まぁ運が良かったんですよ。護衛と言っても馬車に乗ってるだけですから」

 

 「その子は?」

 

 「シャーラ、暫く俺が預かる事になっちゃって、宜しくね」

 

 シャーラを連れてナカサラの店に行きシャーラのナイフにショートソードや寝袋にマット等を買い込む。

 マジックポーチが欲しいのだが、ホーエン商会を侯爵様が接収したので買えるかどうか判らないが行ってみた。

 あの男が未だに店の用心棒として働いていて、俺の顔を見ると最敬礼で迎えてくれた。

 

 「元気そうだね」

 

 「はい有り難う御座います。カイト様が口添えして下さったお陰で、続けて働かせて貰って居ます」

 

 「シャーラだ、この子に6~8クラスのマジックポーチが欲しいのだが置いているかな」

 

 「御座います御案内致します」

 

 カウンターの者に俺の希望を伝えると、一礼して下がる。

 

 硬貨1,000枚が入るお財布ポーチに、クラス2とクラス8のポーチを買う。

 クラス8が金貨700枚クラス2とお財布ポーチはおまけしてくれた。

 ホーエンから貰った革袋を出すと微妙な顔をされたが、侯爵様もご存知だから気にするなと笑っておく。

 シャーラは、自分が持つには高価過ぎる物に不安そうだが、頭を撫で気にするな俺と居るなら必要だからと言っておく。

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