第108話 教祖か神か

 魔力譲渡の練習のために、2日程治療を中断した。

 グリンがシャーラに触れて身体に魔力を流し、その魔力をシャーラは受けとる事が出来る様になった。

 然し問題が一つ、魔力の譲渡中グリンの姿が見えてしまう事だ。

 思えばグリンが魔力を吸収しに現れた時は、常に姿が見えていたのを忘れていた。


 無理に姿を隠すと魔力の譲渡が安定しない、エレニャの治療はキャンプハウスの中で、俺とシャーラだけでする事にした。

 エレニャは横になった時に目を閉じてもらい、目の上には布を置いて心を落ち着かせてもらう。

 

 エレニャの治療再開のとき、キャンプハウスの中で余人を交えず集中したいからと、母親やアガベの立ち会いを断った。

 ベッドで横たわるエレニャに、シャーラが魔力を流し続ける。

 グリンが消費した魔力を供給をしているのを見て一つ閃いた。

 

 一発の魔法を使うのには、一定の魔力を込めれば魔法が発動する。

 それは必要最低の魔力で事足りるが、他の魔法使いは魔力を絞り出して魔法を使う。

 然し今シャーラは連続して魔法を使っているが、最低限発動するぎりぎりで使っている。

 連続して魔力切れの心配無しに魔法が使えるのなら、一定量の魔力を込めて魔法を使えば、魔法の質をあげられないかと思いついた。

 

 シャーラが休憩のために治療を中断した時に話してみた、上手く行けば一度で足を復元出来る。

 怪我の治療で重傷者と軽傷者を同じ数だけ治せる訳ではない。

 軽傷者50人治せても、重傷者なら5人10人が限界だ。

 魔法発動には一定量で良いが、怪我の軽重によって魔力の使用量が違うのなら、使用量を多く安定して流せばどうか。

 

 魔法の世界だ理屈ではない、やってみなけりゃ解らない。

 人事だが試す価値はあると思う。

 お茶を飲み終ってエレニャを再びベッドに寝かせると、シャーラが〈元の様になぁーれっ〉と言いながら魔力を流すが、段々魔力量が多くなっているのか額に汗が浮かぶ。

 同時にグリンがシャーラに流す魔力がキャンプハウスに溢れる。

 シャーラの掌が淡く光り、その明かりの中で足が再生されて行く、やっぱりな、言ってみるもんだ。

 

 然し小さな子供の足を再生するだけで、どれ程の魔力量を必要とするのか、考えると恐ろしい。

 シャーラ一人の時には僅かな再生にも魔力を使い切っていたからな。

 怪我や病気の治療と再生では根本的な魔力の使用量が違うのだろう。

 

 * * * * * * * *

 

 エレニャが泣いている。

 

 「足が有るのに歩けない。どうして?」

 

 「エレニャ足は治ったけど、出来たばかりの足では歩けないよ。赤ちゃんの足と同じで、歩く練習をしなくちゃ歩けないよ」

 

 ぽろぽろ泣きながら、シャーラに抱き付きお礼を言っている。

 エレニャが落ち着くのを待って母親の所に行く。

 シャーラに抱かれたエレニャを見て、母親が駆け寄って来る。

 

 「おい! さっきのあれは何だ!」

 

 「ん・・・何がだ」

 

 「物凄い精霊の気配が溢れていたぞ」

 

 「あんたは薄々感づいているんだろう。何も聞くなよ」

 

 アガベにマジマジと顔を見られて、恥ずかしいぜ。

 

 「まぁいいさ。だが気をつけろよ、あんな力は危険だぞ」

 

 「あれは俺達の力じゃない、気まぐれに手助けしてくれただけだ。あんた達が黙っていれば良いだけさ。だろう」

 

 「ああ、俺達が知らない事だな。カイト達には恩もあるしな」

 

 ホルム村は大騒ぎになったが、直ぐにエレニャの事を口にする者はいなくなった。

 代わりにシャーラが教祖様から神様扱いになって、悲鳴をあげている。

 さっさと逃げ出すべく、ナジルが帰って来たら又来るからと伝えてくれる様に頼み湖に向かった。

 

 * * * * * * * *

 

 シャーラが神様扱いになって、俺達にも少し変化が起きた。

 グリンと魔力の交換や循環を毎夜するようになった。

 元々グリンは魔力の塊みたいなものだが、俺の魔力にシャーラの魔力が入り、クインとダルクの魔力も持つ。

 そこへエレニャの一件以来シャーラと魔力循環を重ね、治癒魔法も習得しつつあるようだ。

 

 何か無敵の妖精になりそうな予感がするぞ。

 まっグリンは基本的に、人間には関わらないからよいけどね。

 グリンと魔力の循環は俺も毎日欠かさずやり、魔力の交換が出来るようになっていた。

 それで何か出来る訳ではない、魔力切れになりそうな時に、魔力の補給を受けられる事くらいだ。

 予備の燃料タンクとお友達って感じかな。

 

 ホルム村を出てから、一直線に湖を目指すシャーラの足取りは軽い。

 俺の体力を考えろ! 馬鹿猫!

 置いて行かれたら確実に迷子になるので必死で付いて来たが、グリンが居れば迷子の心配は無かった。

 

 「カイト様、柵、柵造りましょう」

 

 等と御機嫌なニャンコにお仕置きとして、シルバーフイッシュ漁は疲れたからと明日に持ち越しとする。

 

 * * * * * * * *

 

 〈キャッホー♪〉の掛け声と共に水面にダイブし、再び10メートルジャンプして落ちて来るニャンコ。

 転移魔法の使い方が間違っている気がするぞ。

 こいつはこれがやりたくて、俺の体力を無視して湖に急いだのか。

 

 以前の場所に柵を造り、シルバーフイッシュを追い込む準備をしているとき、ワクテカで柵を造っているからおかしいと思ったんだ。

 岩を落としてシルバーフイッシュを追い込むのかと思いきや、自分を岩代わりにしていやがる。

 ニャンコにかかると転移魔法も紐なしバンジージャンプか、追い込み漁の岩代わりにしかならないとはね。

 今日はしっかり箱詰をやらせるぞ、覚悟しろ!

 

 シルバーフイッシュ21匹いり20箱420匹と、レインボーシュリンプ50匹入り8箱400匹を、収納にに仕舞ってニコニコのニャンコ。

 俺は別にイクラを大振りな壺に10個確保してにんまり。

 騒ぎの最中に集まって来た野獣達は、シャーラがストーンバレットのお仕置きでお帰り願った。

 討伐しなくて済むのは楽だね。

 

 後はクインの所に報告がてら寄り、森の果実が有ると聞いたので美味しそうな物が有れば分けて貰うつもりだ。

 そう聞いたシャーラがニンマリしている、好物の房の実かゴールドの事でも考えているのだろう。

 

 御機嫌で俺達の前をグリンが飛び、その周囲を小さきもの達が時々キラリキラリと見え隠れしながら飛んでいる。

 

 * * * * * * * *

 

 《クイン久しぶりだね》

 

 《カイトとシャーラ良く来ました、種は無事に目覚めた様ですね》

 

 《ああ後は時々来て壁に魔力を流してくれと頼まれたよ》

 

 《それなら私の所もお願いするわ》

 

 〈フェッ〉ってシャーラの声が聞こえる。

 

 「シャーラ心配するな、魔力を込めるだけだからそんなに掛からないさ。それにグリンに魔力を分けてもらえば楽勝さ」

 

 「えーカイト様、それってグリンでも出来ますよね」

 

 《ん、カイトやシャーラと一緒ならいいよ》

 

 「と言うことは、シャーラがやらなきゃならないって事だな」

 

 クインの子達が果実の所に案内してくれると、シャーラの目が光る。

 

 《ねっクイン様、これ自由に取ってもいいの》

 

 《シャーラが欲しければ自由にしなさい》

 

 シャーラにせかされ収穫用の籠を渡すと、嬉々として駆け出した。

 先ず探したのはやっぱりゴールドだ、見つけたらニッコニッコで籠に詰め込む。

 黙って見ていたら5籠も収穫しても未だ籠を要求するのでやめさせた。

 食べる分とお土産分だけにさせる。

 まったく好きな物に目がないというか、空間収納に入れたら腐らないからって、倉庫代わりに使われてたまるか。

 でゴールドの次に探し始めたのはいうまでもない房の実だ、半径約1キロの円内は広い。

 

 「カイト様房の実が無いです」

 

 「クインに聞いてみたらどうだ」

 

 《クイン様、房の実が無いです》

 

 《房の実って何です》

 

 《あークイン房の実ってのは、蔓から小さな実が沢山ぶら下がっているんだ。蔓から下がっている実が見当たらないけど、有るのかな》

 

 《それなら刺の木に沢山蔓が付いてますよ。壁の中と外にもね》

 

 《行ってみます。有り難うクイン様》

 

 礼を言った瞬間にシャーラが消えた。

 

 《カイトは行かないのですか》

 

 《有り難いがこんなに沢山有ると知らない物も多くてね》

 

 《それなら子供達が知っていますよ。以前来ていた者に聞いているはずだから。人には食べられない物もありますから》

 

 《有り難う、俺も壁の方に行ってみるよ》

 

 シャーラと違って俺のお目当ては森の恵だけですよー♪ 果実はシャーラに任せ俺はおこぼれを頂く事にする。

 壁際の刺の木や高木から無数の蔦や蔓が垂れ下がっている。

 紅宝玉はけんーん、後でシャーラに教えてやるか。

 俺のお目当てが中々見つからないって思っていたら、グリンが教えてくれた。

 壁の外だってさ、見つからないはずだよ。

 

 早速壁に穴を開けて茨の森の中に入る。

 壁際5メートルくらいが上空まで見渡せるし、前後も見える範囲は素通しの様に刺の木が無い。

 以前はこんな事無かったのにと考えていて気づいた。

 

 《クインが刺の木を開けてくれたの》

 

 《そうしないと見えないでしょう》

 

 《有り難うクイン》

 

 グリンの案内で森の恵の実る下まで行ったが、俺には収穫する手立てがない。

 がっくりして、シャーラの手が空くのを待つことにした。

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