第44話 驚愕の事実
何となく見覚えがある場所に出ると、もう少しでエグドラの街ですよと言われた。
シャーラの方向感覚も帰巣本能も半端ねぇ、流石は森の一族だと感心する。
3日後の11月23日にエグドラの門を潜り、ホテルに到着して支配人に侯爵様へ帰ったと報告をしてもらった。
折り返しの返事は、25日に王都に向けて出発したいので、明日には侯爵邸に来られたしと、ギリ間に合ったって事か。
翌日ホテルの馬車で侯爵邸に送って貰う。
「侯爵様、遅くなって申し訳ありません」
「いや少し早めに出発しようと思ってな、収穫は有ったか」
「そうですね、夕食を楽しみにしていて下さい」
アイサにお願いして厨房に案内して貰い、川エビを10匹料理長に渡して焼くように指示する。
「カイト様、これは?」
「料理長さん、様は不要です。私はただの冒険者ですから。これは川エビで、焼くと綺麗な虹色になりますが無害です。焼き上がったら頭を取り、それでスープを作って下さい。6匹は皆さんで召し上がって下さいね。デザート用にと言って、ウールサの実を5個渡しておく」
「カイト様、虹色になるエビだとレインボーシュリンプと呼ばれているはずですよ。私も初めて見るので、絶対にそうだとは言えませんが」
夕食の席には、侯爵様とヒャルに俺とシャーラが同席した。
料理長自ら焼いた川エビの切り身を俺に見せる。
半分に切り皿に載せて各自に配膳するように伝える、付け合わせは無し。
「豪快だな、これは何かな」
「川エビです。料理長によるとレインボーシュリンプって呼ばれているそうですが、先ずスープを召し上がって下さい」
侯爵様とヒャルがフリーズしている。
〈これがレインボーシュリンプ〉侯爵様の呟きが聞こえるが、そんなに御大層な物なのかねぇ。
旨いのは、シャーラと俺の保証付きだけど。
シャーラは早く食べたいのだが、侯爵様やヒャルが手をつけないのでお預けになり、涎を垂らしそうな顔で二人を見ている。
スープを口に含み、又もやフリーズし二人して唸っている。
「身の方もどうぞ、絶品ですよ」
ちょっと放心気味にナイフで切り分けて口入れ、一口噛んで又もやフリーズ。
シャーラは二人が食べ始めたので、嬉しそうにスープを口に含み満足気な表情でエビを切り分けてぱくつきだす。
侯爵様とヒャルは、フリーズが解けると猛然と切り分けては口に運ぶ。
俺が初めてレインボーシュリンプを食べた時と、同じ状態になっていて笑いそうだった。
二人とも半ば放心気味で、食事を終えた。
食後のデザートはウールサの実だが、それを見て一度王城の晩餐会で食した事が有るが極めて珍しい果実だと言っていた。
サロンに移動して三人で酒を酌み交わし話し込むが、シャーラが隣で手持ちぶさたなので房の実を出してやる。
嬉しそうに頬張るシャーラを見て、ヒャルが一粒貰って口に放り込む。
「酒のつまみには合わないが、濃厚な甘さは女性に喜ばれるな」
「フィ様にあげるの、沢山採って来たよ」
「見たことのない物だな」
「私達は房の実って呼んでます。直ぐに腐るので森の住人しか知りません」
「カイトあのエビが沢山あるのなら、少し譲って欲しいのだが」
「大丈夫です。そう言われると思い、沢山捕って来ましたから。俺も、最初の味見は夢中で食べちゃいましたからね」
「数にして、どれくらい持っている」
「多分500から600匹くらいは有ると思いますよ。半分譲ってもシャーラと二人で食べる分は、シルバーフィッシュと合わせて一年は持つ様に取りましたから」
「シルバーフィッシュも持ってるのか!」
「はいシャーラの大好物で、油がのっていて美味いと聞き見逃す手はないと捕りました」
「済まないが、王都に着いたら館に来てくれ。そこで物を見て買いたい」
「宜しいですよ。良いよな、シャーラ」
「んー半分は残してね」
好物を取られそうな顔でそう言うので、笑ってしまったが侯爵様も苦笑いだ。
翌日アイサ以下メイドや従者達に、ニコニコ顔でエビとウールサの礼を言われた。
* * * * * * * *
出発は何時も通り、侯爵様の馬車にヒャルと俺とシャーラの四人が乗り、後続に道中のお世話係のメイドや従者の馬車が続く。
護衛の騎士20名と冒険者20名がそれぞれの位置に付き、粛々と馬車が動き出す。
旅は平穏無事の一言、これだけの人数で移動すれば普通は野獣も近づいて来ないのが当たり前だ。
アーマーバッファローなんてのが、突っ込んで来る方がおかしいんだよ。
シャーラは相変わらず生体レーダーの能力発揮して、ヒャルの的を見付けては教えている。
ヒャルの今回の成果は、ファングボア2頭とオーク3頭のみだ。
護衛の騎士や冒険者達も慣れたもので、馬車が止まりヒャルが御者台に立つと馬から降りもせずに見物している。
今回はシャーラが回収係で、馬車から降りて駆けて行くが足の速さに冒険者達も感心している。
旅は各地の領主も暮れの王城晩餐会の為に出掛けていて居ないので、挨拶をせずに済むので予定通り20日で王都に到着した。
冒険者ギルドで、護衛の冒険者達に獲物を渡すと直ぐに侯爵邸に向かう。
今回ホテルはパスして侯爵様の館へ直行となり、フィリーン奥様にご挨拶してから執務室に行く。
見せるのは生物等も有るので、厨房横でシルバーフィッシュとレインボーシュリンプを出し見てもらう。
「見事なシルバーフィッシュだな。料理された物しか見たこと無かったが綺麗な魚だ」
「フィ様、これお土産」
「なーにシャーラ、私に?」
「そっ、甘くて美味しいよ」
「食べて御覧よ。濃厚な甘味と言うより蜜と言った方が良いし、旨さは絶品だよ。まっ女性向きの果実だね。直ぐ痛むらしいので、ヒャルに氷を出して貰って氷漬けにすれば、冷たくて食べやすいと思うし傷みも遅らせる事ができるよ」
フィが一粒食べて満面の笑みになり、フィリーン様に差し出すとフィリーン様も一粒口に含んで頬っぺを押さえている。
「凄く美味しいわ、カイトが絶品って言うのも頷けるわ。有り難うシャーラ」
「へへ、もう一つ有るんだ」
そう言って芳香華の壺を差し出し、フィが受け取ってシャーラを見る。
「きっと気に入って貰えると思うの、開けてみて」
フィが蓋を取ると、ふわりと芳しい香りが広がる。
「これって、芳香華じゃないの?」
フィが慌てて壺の中から花を取り出す。
フィリーン様は目を丸くして見ているし、侯爵様も覗き込んで驚いていた。
「芳香華なんて、オークションに持ち込まれたのは何時だったか知らないが、よく見つけたな」
「見つけたのはシャーラの鼻ね、僅かな香りを辿って突き進むから付いて行くのに難儀したよ。フィに持って帰ると言って、枯れない様に丁寧に仕舞っていたからな」
「おいシャーラ、それ一本だけか?」
「侯爵様も欲しいですか?」
「いっいや、もしもっと持っているのなら、王家に献上するシルバーフィッシュやレインボーシュリンプ等食べ物だけでなく、花が有れば王妃様も喜ばれるかと思ってな」
「カイト様、いいですか」
「その花はシャーラの物だから、好きにしな」
シャーラが残り9個の壺を出して、もう1本をフィに差し出し2本をフィリーン様に渡す。
俺に1本を差し出しもう1本をマジックポーチに仕舞うと、残り4本を侯爵様に差し出した。
「済まないシャーラ、このお礼は必ずするからな」
「いえ侯爵様やフィリーン様フィ様ヒャル様に助けて貰って感謝してます。お礼はいりません」
思わず頭を撫でてしまったが、何か違和感が〈ん?〉何かな。
「まぁシャーラ、カイトより背が高くなってるわ」
〈えーーーっ〉俺の悲痛な叫びが侯爵邸に響き渡ったのは仕方がない。
お陰で、侯爵家の皆に笑われてしまった。
落ち込んでしまったが、夕食はレインボーシュリンプを焼いた物と頭はスープにしてもらう。
侯爵様とヒャルは二度目なので、目を細めてスープにとりかかる。
フィとフィリーン様は、スープを一口含んでフリーズしました。
「なんて言えば・・・」
後は無言でスープを口にする。
侯爵様とヒャルがニヤニヤしながら、フィリーン様とフィが焼かれた身を口に運ぶのを見ている。
二人の2度目のフリーズを嬉しそうに見て、満足して自分のエビを口にして満面の笑みを浮かべる。
夕食後はサロンで森の話に花が咲き、シルバーフィッシュ漁の話でシャーラが興奮しすぎて、ゴールデンベアが現れた時の話になり思い出した。
「そうだ! ゴールデンベアとウォータードラゴンが有るのを忘れてた」
「「ウォータードラゴンだって!!」」
「あーうん、シルバーフィッシュを箱詰めしている時に襲って来たから、討ち取ったんだよ。明日にでも冒険者ギルドに持って行って、査定して貰うよ」
「まっまて、待てカイト! 冒険者ギルドに見せるのは待ってくれ!」
「どうしたんですか侯爵様」
「カイト、森の奥で捕ったゴールデンベアとウォータードラゴンだろう」
「そうだけど何か問題でも?」
「明日、ゴールデンベアとウォータードラゴンを見せて貰えるかな」
見せるのは別に構わないので了承すると、侯爵様が疲れたと言ってげんなりしているのでお開きとなった。
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