第161話 嘘だけとね
「シャーラ、全員穴に落とせ」
目の前の男を穴に落としながら、シャーラに命令する。
シャーラも即座に遠い者から穴に落していく。
8人全員を穴に落してから車軸の折れた馬車を確認する。
どう見ても15才以下の子供達ばかり、全員が奴隷の首輪を付けて閉じ込められている。
俺やシャーラの顔を見ても、怖がってろくな返事も出来ない。
穴に落した奴を1人外に出して尋問するが、素直に答えないのは承知しているから先ず殴りつける。
シャーラの不似合いな木剣を見て笑っていたが素振りを見た瞬間に顔色が悪くなる。
「さて手首から破壊していくか」
俺の声を聞いたシャーラが、軽い素振りのまま引き出された賊の手首を殴りつける。
〈バシーン〉打撃音と同時に手首がくの字に折れる。
びっくりしている賊の男が〈エッ〉なんて可愛い声を出した時に、反対の手首も〈バシーン〉って音を立てて折れ曲がる。
「どうだ聞かれた事に。素直に返事をするかい。嫌なら次は両足首を骨折させてから草原に放置だ」
自分の砕けた両手首を見て呆けているが、そんな余裕は与えない。
「おらっ! 喋るか死ぬか好きな方を選べ!」
「喋ります、殺さないで下さい」
「お前達以外に仲間は何人いるんだ。今何処にいるんだ」
「馬車の車軸が折れたのでこの先のヘイゲの町まで代わりの馬車を調達に行ってます」
「調達に行ったのは何人だ」
「6人です」
「何時から此処にいるんだ」
「昼前からです。もう帰ってきてもいいはずなんですが」
「子供達は何処から集めた」
「街や旅の者から・・・俺はやってないです見張ってろと言われて・・・殺さないで下さいお願いします。何でも言いますから」
「何処に運んでいた」
「ボスが言うには、この先の町に伝手が在るからと言ってました」
この先の主要街道から少し外れた、フールの町の領主ニールサン男爵と話しがついているらしい。
馬車が壊れても代わりの馬車を簡単に調達出来るので、見張りだけ残して堂々と離れているのか。
それにしても夕暮れで夜も近い、野獣の天国になる前に迎えが来て町に行けるのかねぇ。
然し男爵とはいえ貴族が、成人前の子供を奴隷にしているのか売買しているのか知らないが良い度胸だ。
《カイト、人が沢山くるよ》
《野獣は追っ払ったけど、人も》
《駄目! ピンク人ってどれくらい居るのかな》
《さっき埋めた倍くらい、かな》
応援まで呼んできた様だ、仲間が1人も居ないとどうするか様子見だ。
俺達の馬車を叢に隠し、陰から様子を伺う。
〈おい誰も居ないぞ〉
〈ガキ共はどうした。逃しちゃいねぇよな〉
〈ボス、ガキ共は皆居ますぜ〉
〈おい、車軸を早く直せ! 見張りに残した奴等は何処だ〉
〈ギースどうしたんだ〉
〈男爵様、見張りに残した奴等がサボっているようで〉
〈お前は随分甘い様だな。部下には舐められない様にしっかり躾けておけ!〉
〈解ってまさぁ>
全員捕まえるのは問題ないが、男爵一人でどうこう出来る奴隷の数ではないし、今回限りでもなさそうだ。
シャーラと相談の結果全員の足を埋めて動けなくする。
〈なっなんだ〉
〈あっ足が〉
〈ウッワーたっ助けてくれ〉
〈クソッ、何だこれは〉
〈どうなっている! ギース何とかしろ!〉
全員の足を埋めたら次は腕を拘束する。
地面から伸びた土の棒が、背後から1人ひとり抱きしめていく。
〈止めてくれー〉
〈オイオイ誰だよこれは何だよ〉
〈クソッ抜けないぞ〉
「あーお静かに、騒ぐと野獣が集まってきますよ」
「誰だてめぇは」
「誰でも良いだろう。今から面白いものを見せてやるから」
両腕を骨折した男を穴から地上に戻すと、身動出来ない奴等の前に連れて行く。
全員によく見ている様に言ってから、男の首にリングを作り一気に締め上げる。
半分以下の直径になったリングが首にくい込み、窒息死した男を声も無く見ている。
「煩く騒ぐのならこの男と同じ様に始末してやる、死にたくなければ静かにしていろ」
如何にも貴族って服装の男爵様には、腹に一発柔らかバレットを打ち込んでからご挨拶。
「名前は?」
「お前、貴族の俺に良い度胸だな」
もう一発強めに腹に打ち込むと、ゲロを吐きながらしゃがみ込む。
「立てよ、貴族って顔かよ。名前を聞いているんだ、今のお前に何が出来るんだ」
何も言わず睨んで来るので両手を地面に固定し、ワンワンスタイルにする。
言わなきゃ言いたくしてやるよ。
何時もの鼻攻撃を開始、3発で喋り始めた。
ナマライ・ニールサン男爵、フールの町の領主、部下と言っている奴等は冒険者崩れ丸出しの男達。
確かに騎士の服装をしているが、雰囲気が万年ブロンズかやっとシルバーになれた様な腰付だ。
ボスと呼ばれていた男の前にいき、一応名前を尋ねる。
喋らないのは承知のうえ、埋めた足の幅を広げ片足の地面をストーブのイメージで魔力を注ぐ。
直ぐに藻掻き出したが、膝まで埋まり固定されているので逃げられない。
〈熱い!〉〈止めてくれー〉〈ウォー〉〈ギャー〉
「喋りたくなったら名前から言え」
埋められた足から煙が上がり出してから、漸く喋る気になった様だ。
「ギース,ギースだ! 熱い止めてくれ、頼む」
何時も焚き火をしていたが、この方が簡単で手っ取り早い。
後から気がつく俺って、つくづく間抜けだな。
「でギース残りの仲間は何人だ、何処に居る」
「6人だ、町外れの厩の二階に居る」
「町外れって男爵様の領地の町なのか」
「2つ離れた町だヴァンの町の外れだ」
「そこにも奴隷や拉致した者が未だ居るのか」
「後5人いる、それで全部だ」
此奴等全員殺して終りって訳にはいかないな。
ニールサンの館にも不法奴隷が居るかもしれない。
剣の鍔元を土魔法で固定し抜けなくすると全員の首にリングを嵌めていく。
シャーラにはギースの足を歩ける程度に治させ、ニールサンの鼻も治させる。
「今から足と腕の拘束を解いてやる。逃げる奴と刃向かって来る奴は、首のリングを締め上げゆっくりと殺してやる。剣が抜けないからと腰から外したら。死ぬことになるのを忘れるな」
そう告げて手足の拘束を解く。
速攻で逃げ出す奴が、数歩も歩く事なく喉を抑えて倒れる。
窒息寸前の状態に締まった、首のリングを掴みゼイゼイ言っている。
グリンとピンクにお願いしているから、逃げ出したり俺達を攻撃したら首のリングが閉まるんだよ。
姿も見えない空を飛ぶ妖精から逃げ出すなんて不可能だよ。
頭を蹴り上げてからリングを緩めてやる。
「ばーか、何の手立てもせずに拘束を外すと思ったのか。このリングは奴隷の首輪とよく似た構造になっている、逃げ出したり俺達を攻撃すればさっきの様に締まって死ぬことになる。黙って言われた通りに行動しろ」
奴隷の首輪に似ているなんて嘘もいいところだが、逃げ出した奴の首が閉まったのを見ているから信用している。
地面に埋めていた残りの7人も同じ様にして、ニールサン男爵の館に向かう事にした。
奴隷の首輪を嵌められた少年少女達には何も説明せず馬車を乗り換えさせフールの町に向かう。
先頭は男爵様と護衛達、その後ろを賊に囲まれた馬車が行き、最後尾をシャーラと俺が続く。
町の門衛は俺達を不思議そうに見ているが何も言わないし、ギース達にも何も言わない。
以前から領主公認で奴隷をこの町に連れて来ている様だ。
ニールサンの館は貴族とはいえ男爵なので部屋数も10数室といった小さなお屋敷といった物だった。
男爵には町に入ったら自分の館に直行して賊全員を一室に入れろと命じている。
ボスのギース以外を一室に入れると、窓や出入り口を封鎖する。
ギースは護衛の8人と共に男爵の執務室に入れ、その際家族と使用人全てをサロンに集めさせる。
ギースと護衛の足を拘束してから、ニールサンを連れてサロンに向かう。
サロンに入ると家族と思われる6人と壁際に使用人が8人立っている。
皆冒険者装束の俺達が、男爵であるニールサンにあれこれ命令しているのを不思議そうにみていた。
「さてとニールサン,シャーラの持っている物が何か知っているな」
ニールサンの顔こそ見ものだった。
思いもしない物を見せられて、漸く自分の失敗に気づいた様だ。
ただの冒険者相手だ、何とかなると思っていたのは見えみえだったからな。
「これが何か、家族や使用人に説明してやれ」
「王家の紋章入りの身分証、要請が有れば応じる必要が有る」
「いや、拒否出来るぞ。拒否した場合は王家に睨まれるけどな。ならこれも知っているよな」
金色に輝き真紅の線描で炎の輪の中に交差する剣と吠えるファングウルフ、王家の紋章を見せてやる。
ニールサン男爵が脂汗を垂らして跪いた、家族と使用人が呆気にとられて跪く男爵を見ている。
〈まさか・・・カイトとシャーラの2人〉
呟きを無視し、貴族以外には見せたくないが家族と使用人にも見せる。
「これが何を意味するか、男爵の態度で判るよな」
コクコクと頷く、男爵の家族と使用人達。
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