第130話 テイルドラゴン
カナヘビ・・・テイルドラゴンだっけ、悠然とお食事を始めた。
気に入らないが、顔見知りが食われるのを見ているのも寝覚めが悪いので助けるか。
シャーラには樹の上からの援護を頼み、倒れているオーロンの後ろ、樹の裏側にジャンプする。
「ようオーロン、元気そう・・・でもないか。死にそうじゃないか」
口から血を流し蒼白な顔色だ、胸が陥没しているので尻尾の一撃を喰らった様だ。
信じられないものを見る目って、これかと思わせる程に目を見開き俺を見ている。
「助けが居るか?」
目はカナヘビから離さず、オーロンに尋ねる。
カナヘビは倒れている男達を悠然と咥えては丸呑みしている。
見ているだけで4人を丸呑みにして未だ物足りなさそうに次の餌に向かう。
鎧も服も気にせずに丸呑みとは胃袋も頑丈な様だが、食欲の方も相当旺盛な様だ。
「たっ・・・頼む、助けて」
まぁーしゃーないね、やってみますか。
餌の側に立つ俺が気に入らないのか爬虫類特有の感情の無い目玉かギョロリと俺に向く。
ゾワリとした感覚に、思わず砦を造る。
〈ドゴン〉って音が響くが、間一髪間に合った。
《カイト大丈夫》
《あーグリン、大丈夫だけどオーロンが死にそうなんでシャーラに来る様に言ってよ》
《ん・・・》
覗き穴から外を見るとストーンジャベリンを脳天に撃ち込まれ、カナヘビちゃんが痙攣している。
シャーラが巨木からスルスルと降りてきて俺の所に来る。
「すまんが治してやってくれ」
「良いんですか、エルフ族ですよ」
「オーロンは一度も敵対してないからな。他の奴等は知らない」
「おい! 何故俺達の獲物を横取りした」
「はぁーあぁぁ」
間抜けな返事になってしまったが、呆れたね。
「お前たちの闘いを見物していたが、さっき一人が喰われた時点でお前達は完全に腰が引けて闘う気が無かっただろう。一人喰われる前から見ていたが、誰も闘ってなかったじゃないか。オーロンは顔見知りなので、助けがいるかと尋ねた。助けてくれと言ったから助けたんだが、不服か」
「これは俺達の獲物だ、犠牲を払って横取りされては我慢ならん」
「あっそう、んじゃそいつはお前にやるよ」
シャーラに治療してもらい、傷は癒えたが気管に詰まった血を吐きながら、オーロンが立ち上がる。
「ハマン、助けられて言う言葉ではないぞ」
「ドラゴンの一撃で倒された奴が、偉そうに言うな」
「内輪揉めは他所でやってくれ。そいつか欲しいんだろう、さっさと持って帰れ」
ハマンと呼ばれた男は、俺を睨むが攻撃してくる気配は無い。
他の男達も、明らかにホッとした表情でテイルドラゴンを見ている。
「ヨルムの里から遠い、こんな所にまで何をしに来たんだ」
「そいつの討伐命令が出たんだ。20人じゃ無理だって言ったが長老共の命令に従わざるを得なくてな」
「あれか、七つの里の長老会ってやつ」
「ああ、里長のヘンザには長老会から抜けろと言ったんだがな」
ハマン達が、テイルドラゴンを解体してマジックポーチに仕舞うと、さっさと引き揚げようとしていた。
「おいおい、仲間を捨てて行くのか」
「そんな弱い男はエルフの面汚しだ。お前と仲が良さそうだから、お前に任せるさ」
「はぁー相変わらずエルフって屑だな。腰抜けで屑って、救いようが無い男だなハマン」
「俺を侮辱する気か」
「する気じゃ無くて、侮辱しているんだよ。ハ・マ・ン」
ハマンの後に5人が控え、俺を睨んでいる。2人はハマン達から離れて敵対する気はなさそうだ
「テイルドラゴンを譲ってやったんだ、礼の一つでも言ってから帰れよ」
睨むだけ睨んで、一言も言わず去って行った。
残った2人がオーロンの所に来て、怪我の具合を確かめている。
「クイガだ、助けてもらったのに済まない」
「ナミルだ、もぅ死ぬかと思ったよ。後ろに居て偉そうに命令するだけで、攻撃は俺達にやらせるんだから阿呆らしくてな」
「それでよくこんな所まで来たな」
「オーロンも言っただろう、七つの里の長老会だよ。あんたがエガートやエドラを倒してくれて少しは良くなると思ったが、里長のヘンザが優柔不断でね」
「あんた達もヨルムの里の者か」
「あんたがエドラと揉めた時に、オーロンと一緒に居たんだ。オーロンの怪我を治してくれて感謝する」
「治したのはシャーラだ。それよりオーロンは大分血を流しているので、暫くは森を歩くのは止めといた方がよいぞ。と言うより無理だな」
顔を見合わす彼等に、10日程キャンプハウスを貸す事にした。
助けて直ぐに放り出せば、死ぬことになるのは確実だからだ。
死んでいる男達を埋め、オーロン達をキャンプハウスの中に入れると、呆れ顔で見回している。
「以前見て思ったが、森で一番危険な夜を安全快適に過ごせるなんて凄いな」
「俺はエルフ達より弱いからな、安全には気を使うさ」
呆れ顔の三人を無視して、空気穴を残して覗き穴を全て塞ぐ。
一晩一緒に過ごした後で、10日ほど戻らないのでキャンプハウスから出ない様に言い、戻ってきたらヨルムの里の近くまで送る事を伝える。
どうせエグドラに帰る序でだし。
クインの所に戻り森の恵の採取をシャーラに頼むと、3年物が7本も採れた。
1ヶ所から7本は採れ過ぎじゃねと思い、尋ねてみたら風雨に当たらぬ様に、木の葉を落とさず守ってくれた様だ。
天上の酒、所謂2年物を14個収穫しホクホクだよ、クインに感謝!
森の恵は20個収穫して止めた、自分の呑む分とヒャルと侯爵様に分ける分だけ有れば良い。
王家に贈る分はアガベから買い上げて貰うさ。
それに今回は、アガベがウオータードラゴンをギルドに渡すので、ノーマンさんも喜んでいるだろう。
薬草の採取は、クインの子達に薬草の図を見せて探してもらった。
1種類につき10本だけ採取したのは、若葉と花びらが10枚ずつなのでそれに合わせただけだ。
それに季節によって採取出来ない事がある筈なので、その時の為に収納に保管しておく。
今のところ王家に渡すつもりは無い。
依頼は受けたが期限は無いも同然なので、絶対に必要となったら渡すつもりだ。
蜥蜴は収納には収まらないし、マジックポーチに長期保存できないので当分の間は放置だ。
テイルドラゴンは惜しかったが、人を食っているドラゴンを取り合いをしても食えないので要らない。
目の前で仲間をパクパク食ったドラゴンだ、手足や首を落として持ち帰ったが仲間を弔うのかな。
ハマン達の様子から、エルフ達も未だ在庫が有りそうだ。
* * * * * * *
10日が過ぎて3人と合流して、ヨルムの里に向かう。
怪我が癒えたとはいえ、オーロンは相当体力をなくしていた。
帰って里長のヘンザと話し合い、七つの里の長老会から抜けないのなら、オーロン達は里を捨てる覚悟をしていた。
オーロン達なら冒険者としてもそれなりの能力があるので、食っていくには困らないだろうと思う。
それもまあ、オーロンやクイガとナミルの覚悟次第だろう。
* * * * * * *
ヨルムの里が近くなった時、3人が足を止めた。
顔を見合わせ、何やら意味ありげな様子。
「どうかしたのか」
「囲まれた様だ、だが里の者に囲まれる謂れが無い」
「囲まれていると何故解る」
「笛の音だ、鳥の声に似ている。それが先程我々の後ろから聞こえた。それに応える様に、左右からも聞こえた。笛の音は七つ」
「つまり後から聞こえた後で、左右からも聞こえたって事は・・・袋の中に居るのと同じ状態か」
真剣な顔で頷く3人は、緊張している。
自分達の里近くで囲まれるなんて在るはずもなく、仲間なら姿を現す筈だから。
《グリン、俺達を遠くから見ている奴が居るって、後ろと左右、何人居るか判るかな》
《ん、待ってて》
「敵なら戦うが、自分の身は自分で守れよ」
3人の顔が緊張で強ばっている。
「これは我々エルフが、敵対する者を包囲して攻撃か捕獲するときの方法だ。気配も探れぬ遠くから監視していて、笛の合図で位置を知らせる」
「笛だけで良く囲めるな」
「最初の笛の合図が後ろの奴だ、次に左右の笛の音が聞こえた」
「後ろに左右か、その中心に俺達が居るのか」
「そうだ、後は位置に着いた奴がその合図の笛を吹く。左右の笛の音が聞こえたら、もう逃げられない」
《カイト、沢山集まって来てるよ。周りにでか耳が一杯居るね》
シャーラがオーロン達の後ろに回り気配を消す、こりゃー不味ったかな。
「俺は姿を隠すが、どうする」
「相手はエルフだ大丈夫だろう。それに全員消えたとなると面倒そうだ、話し相手は必要と思うのでな」
俺は足下に穴を開けそのまま落下して蓋をする。
空気穴から覗くと、オーロン達が呆れ顔で俺の居た場所を見ている。
少し持ち上げて岩に見せかけて、周囲を観察出来る様にする。
オーロンがさり気なく俺の潜む石から離れて、見やすい様にしてくれた。
現れたエルフの数は少なく見積もっても30人以上居て、数が多いので重なっていて数えられない。
その中でオーロン達の正面に立ったのは、ハマンの後ろに控えていた奴の一人に違いない。
「フルーザか、大層なお迎えだと言いたいが、ヨルムの里でお前達の迎えを受けるとはな。ハマンはどうした」
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