第92話 落し前

 ドーゼンとその部下17名、冒険者8名+4名をどうするかだ。

 それに、街には未だ8人の冒険者が潜んでいる。

 アガベと相談して、街の出入り口を見張っている奴を先に捕まえる事にした。

 

 見張っている奴を捕まえた後は、一族の者達が逆に街の出入り口を監視し街から逃げ出した所を捕まえる事にした。

 捕まえた冒険者達に、仲間かどうか確認させれば逃がす恐れはなさそうだ。

 

 捕まえた奴等の監視に5人、街の出入り口の監視に5人づつ2組を配置する。

 アガベと残り15人に俺とシャーラが街に入り、冒険者ギルドに向かう事にする。

 

 先ず出入り口の衛兵隊長を呼び、警備隊の責任者に冒険者ギルドに来てくれるように頼む。

 冒険者ギルドに、ぞろぞろと森の一族を引き連れて俺が入っていくと大注目となる。

 

 「ヤーハンさん、ギルマスに至急会いたいと伝えてよ」

 

 「また何かやらかしたのか?」

 

 「やだなー、俺がやられてる方だよ」

 

 首を振りふりヤーハンさんがギルマスを呼びに行く。

 食堂を見ると見知らぬ冒険者が2人こちらを気にしている。

 

 「アガベ、あの2人が出て行くようなら引き止めて」

 

 「あいつ等もか」

 

 「多分ね、抵抗したり逃げ出したりしない限りは攻撃は駄目だよ」

 

 話しを聞いていた一族の者が、さりげなく出入り口の左右にもたれかかる。

 

 「おうカイト急用か、どうしたアガベ達も一緒なのか」

 

 森に潜んでいた奴等を一網打尽にしていて吐かせた事、標的はアガベ達と俺とシャーラだった事を伝える。

 街の警備隊責任者をギルドに来てもらう手筈だと告げ、詳しい話しをギルマスの部屋でするため2階に上がる。

 総勢29人を捕まえていて後8人程捕まえる予定と聞いてノーマンさんが絶句している。

 

 ヤーハンさんが警備隊の責任者が来たと、教えてくれたのでギルマスの部屋に来てもらう。

 29人を隔離しておく牢が無いので、警備隊宿舎の一部を使って閉じ込める事に決まった。

 引き渡しは、侯爵家の囚人護送用の馬車と冒険者ギルドの馬車を使って1日掛かりの仕事となった。

 全員土魔法で作った手枷足枷を付けて、馬車に乗せたり降ろしたりと面倒な事このうえない。

 

 詳しい内容を認めた書状が、王都のハマワール侯爵様宛てに早馬で送られる。

 最終的に、街の出入り口を外から監視していた2組4人とギルドに居た2人を捕まえて、合計35人を捕まえた事になる。

 

 * * * * * * * *

 

 俺とシャーラは、2輪馬車でセーレン王国エラードの街にのんびりと向かっている。

 アガベ達は、森を通ってエラードの手前まで行き、俺達を待つと言って消えた。

 夏が近い、22才の誕生日はセーレン王国で迎える事になってしまった。

 最もこの世界何月何日とは言わないんだよな、俺なら7月生まれで終わり。

 どうでもよいけどかったるい、頭の上でグリンが何やら楽しそうだが妖精の楽しみって何だろう。

 

 とりとめのない事を考えながら馬車に揺られていると、突然馬車が止まった。

 

 「何か用か」

 

 シャーラの警戒した声がする。

 

 冒険者、万年ブロンズ崩れと見えるむさい奴等が7人、道を塞ぐ様に叢から出てきた。

 

 「兄さん達、エラードの冒険者かい」

 

 「おおよく知ってるな。道案内してやるよ」

 「待たされてくたびれてたんだよ」

 

 蹴り飛ばされて〈余計な事を言うな〉って叱られてやんの。

 一人が馬の轡を取ろうとしたところを、頭にストーンバレットを喰らって倒れ込む。

 

 「触るなよ、お前達の馬じゃ無いんだから。オッサン今そいつが面白い事を言ったよな」

 

 あららら、いきなり戦闘モード突入したよ。

 

 「シャーラ、殺すなよ」

 

 「はーい」

 

 のんびりした返事とは裏腹に、お財布ポーチから訓練用木剣を取り出し速攻で蹴った奴を叩きのめす。

 ゴブリン相手と変わらない素早さで、6人を地べたに転がす。

 全員隣の奴と腕を組ませて手首を固定する。

 むさいオッサン7人が、横一列で腕を組んでいる光景ってちょっとおぞましい、マイムマイムでも踊らせてやろうかと思った。

 腕を組んで手首を固定していては無理だと気がつき、諦めた。

 

 馬車を仕舞い馬を引いて街道から外れた藪の陰に行き座らせる。

 

 「今日はのんびりする気は無いので、チャッチャッと喋ってもらうぞ。お前、さっきそいつを蹴った時に余計な事を言うなって言ったよな。訳を話せ!」

 

 「兄さん、いきなり酷いじゃないか。ちょっとした冗談に暴力を振るうなんて」

 

 腹に柔らかバレットを一発お見舞いして、お喋りを黙らせる。

 

 「お前の遊びに付き合う気は無いんだ。聞かれた事に素直に答えろ! もう2,3発打ち込んでやろうか」

 

 黙って睨み返して来るので、右足に足輪をプレゼントしてギリギリと締め上げてやる。

 悲鳴をあげる口の中に、テニスボール大のバレットを軽く打ち込んで黙らせる。

 

 「チャッチャッと喋れ! お前待ちくたびれたと言ったな。何の用事で待っていたんだ」

 

 口をバレットで塞がれて呻いている奴を気にしている。

 

 右足は締めすぎて変色し太さも半分くらいになっている。

 反対の足にも足輪を付けてやると、ギリギリに締め付けて放置。

 

 「そいつはもう冒険者は出来ないな、お前も同じ様になりたいか。お前が喋らなくても他にもいるから、嫌なら喋らなくてもよいぞ」

 

 ホッとした顔をしたので、そいつの右足にも足輪を付けやり締め上げる。

 〈ギャー〉って煩いんだよ! 

 即座に口にバレットを打ち込んで黙らせる。

 今日は機嫌が悪いんだよ! 隣の奴を見ると地面が濡れているではないか、気の早い奴だぜ。

 

 「喋る? ん」

 

 コクコクしている、良いオッサンだ。

 

 「何故待ちくたびれていたんだ」

 

 この街道を、猫人族が通ったら捕まえるか殺せって命令されたって、ホムスが言うんだ。


 「誰に命令されたって」

 

 「ギルマスの、ヘルザクに言われたってさ」

 

 ヘルザクの人相風体を聞き、用済みになったので全員首輪をプレゼントして、穴の中に入ってもらった。

 帰ってペラペラ喋られると不味いんだよね。

 街道から外れ、森の近くを街道に沿って歩く事にした。

 翌日にはエラードの街に近い森の外れ、木の上にアガベの仲間が居るのを見つけた。


 * * * * * * * *

 

 「アガベ、ギルマスのヘルザクから、猫人族を見つけたら捕まえるか殺せって触れが出ているぞ」

 

 「逃げた奴が知らせた様だな。カイトはどうする」

 

 「道を教えてくれたら、夜を待って街に入り。ギルマスを始末する」

 

 「えらく簡単に言うがヘルザクは相当な手練れだぞ」

 

 「アガベも見ているだろう。俺達2人は無詠唱で魔法が撃てる。近づく必要は無い。ヘルザクだと確認出来たらそれで終わる。アガベ達こそ大丈夫か」

 

 「教えられた通り全員同じ様な服装にして、頭巾をすっぽり被って顔を隠しているから大丈夫だろう」

 

 「この様子だと、準備を整え待ち受けているよ」

 

 「2人逃がしたのは痛かったが、奴等の護衛程度なら問題ない」

 

 陽が暮れて人々が眠りにつく頃、アガベに案内されて街の外壁を土魔法で穴を開けて侵入する。

 アガベ達は領主の館を強襲して領主の命を、無理なら館に火を放ち敵に回した事を後悔させてやると笑っていた。

 

 シャーラと俺はジャパニーズ忍者スタイルだが、くノ一の方が俺よりでかいのが気に食わない。

 俺達は、エラードの冒険者ギルドの横に潜み中の様子を伺う。

 捕らえた冒険者達から、ギルマスのヘルザクは3階で寝泊まりしていると聞いている。

 確かに3階には明かりが点いているが、人の気配が濃厚だ。

 複数の人間の気配がする、シャーラも同意見となると待ち伏せだろう。

 

 昨日会った奴等が帰っていないので、気づいても不思議ではない。

 風の流れを読みシャーラお手製の燻し玉に火をつける。

 今回は蜂ではなく人間相手に燻す事になる。

 小さな火が点き暫くすると濛々と煙りが上がり始める。

 シャーラが、風魔法で煙りを上に吹き飛ばしてくれるから助かるぜ。

 転移魔法で濛々と煙りを上げる燻し玉だけを、明かりの点いた室内に次々と放り込む。

 

 すぐさま建物から離れ、窓がよく見える位置につく。

 計4個の燻し玉は良い仕事をしてくれた。

 喚き咳込む声と共に窓が開けられ人の姿が現れた、4人だが1人は聞いていた人相と合致する。

 ショットガン大の5連射を2回撃ち込む、隣ではシャーラが同じ様にショットガンを撃ち込んでいる。

 窓を中心に広範囲に満遍なく穴があいている。


 間違いなく倒しただろうが、生死の確認はどうでも良いのでさっさとずらかる。

 崩した塀の穴に向かっていると遠くで騒ぎが起きている様だ。

 冒険者ギルドの方角からも火事だと騒ぐ声が聞こえる。

 お騒がせしている、シャーラ特製の燻し玉はそう簡単に燃え移らないないから安心して欲しいね。

 

 アガベの向かった方角の空が明るくなり、騒ぎが大きくなっていく。

 近くの建物の屋根にジャンプして見回す。

 鐘の乱打が聞こえ、警備の者が街角から鐘の音を目指して走っていくのが見える。

 

 ギルマスもそうだが、ホウゼン伯爵の館も迎え撃つ準備は出来ていたのだろう。

 心配しても始まらない、ホウゼン伯爵はアガベ達森の一族の獲物だ。

 頼まれれば手伝うが、何も言わずに向かったのだから任せるしかない。

 

 屋根の上から、燃え上がる炎で明るくなった方を見つめ、アガベ達を待つが時間がジリジリと過ぎる。

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