第40話 急送品

 ギルドで薬草やラッシュウルフを換金する序でに、ヤーハンさんに乗馬と馬車の操作を教えてくれる所は無いか聞いてみた。

 ギルドでも金を払えば教えてくれると聞き、シャーラと二人で申し込んだ。

 

 結果から言いうと、馬車は何とか扱えるのだが乗馬は散々だった。

 お前は馬に舐められてると指導してくれた冒険者に笑われた、どうやっても馬が従わない者が時にいるって。

 俺がそれにあたるらしいのだ、別に蹴られたりする訳では無いが完全に無視をされて、馬が勝手気ままに行動する。

 

 何頭も馬を変えて試したが無駄だった。

 すっぱり諦めました、馬と馬車の扱いはシャーラに任せる事にした。

 腹が立つ事に、シャーラが俺の傍に居れば馬も素直に従うってところだ。

 シャーラは冒険者の基礎は出来ているので、後は慣れと経験だけだと言って指導は2日で終わった。

 

 ラッシュウルフ6頭分、金貨9枚と薬草代金の銀貨3枚銅貨7枚鉄貨2枚、計937,200ダーラ面倒だねぇ。

 重いのでシャーラのお財布ポーチに入れホテルに帰る。

 又々商業ギルドに出かけ、今度は馬車を買いたいのでと製造販売している業者を紹介してもらう。


 * * * * * * * *

 

 オール製作所の親父オールさんはドワーフ感たっぷりの親方で、二輪馬車が欲しいと伝えると、どんな馬車で何頭立てにするのかから始まり、事細かに聞いてくる。

 出来れば軍馬の一頭立て二頭立ても可、御者席に二人と後ろに二人、御者席の中央に人が立てる様にしたいと伝える。

 屋根はキャンバスで折り畳み可能にする、雨の日には濡れない様にしたいので伸ばせる様に。

 

 冒険者が乗るので、後席は後ろ向きで見張りがしやすい様にとお願いしておく。

 簡単な図面を書いてくれたが、席の前後の間に箱の様なものが有り、馬の飼料や水獲物等を置いておく場所らしい。

 座席は座面の三倍位の長く良くしなる木の間に、キャンバスを張った物で以外とクッションが効き、馬車を全力で走らせても何とか耐えられる造りだった。

 飼料や水などはマジックポーチに入れるので、全長を短くしてもらう。

 

 オール親方の紹介で借りた馬は、軍馬と言っても恥じない堂々たる体格の馬だが、シャーラの前では忠犬並の大人しさだった。

 オール親方曰く、シャーラの森の一族の臭いに馬も逆らわないらしい。

 俺はの問いに、ジロリと頭から爪先迄見て鼻で笑われた、傷つくよなー。

 

 馬車の轅(ナガエ)から馬を外し、シャーラに走らせると自由自在に操っていて少し羨ましい。

 馬車の車輪には、アーマーバッファローの皮をタイヤの様に貼付けているので、案外音は静かである。

 二輪馬車、見掛けは普通だが材料は厳選された豪華仕様で金貨85枚也。

 お馬さんリース、一日銀貨2枚保障金金貨8枚也。

 

 取り合えず金貨枚10枚を預けると、街の外に出て一日色々走らせ、馬車の性能試験と馬の能力を見てみる。

 侯爵邸に行き馬車の長距離性能試験を兼ねて、王都とエグドラを往復するからフィに用事は無いか尋ねる。

 王都に行くのなら、アーマーバッファローの肉の残り10塊を陛下に献上したいので、王城に届けてくれと言われ宰相宛の書簡を預かる。

 フィへの書簡も預かったが、小さな侯爵家の紋章を二つ馬車の前方左右に付けろと貰った。

 何かと問えば、侯爵家御用馬車の印で、貴族や代官達の難癖避けだと笑って言われた。

 

 一晩侯爵様の館に泊まり、出発の時には何故かヒャルが着いてくる。

 陛下への献上品を運ぶのに、冒険者に託しましたでは又ぞろ嘴を突っ込んできたら煩いからと苦笑い。。

 馬車旅は快調、エグドラと王都ヘリセン間を侯爵様の馬車で平均20日掛かるが、8日目の昼過ぎにはヘリセンに到着した。

 

 軍馬並の能力に特注の頑丈で軽い馬車なので、速歩並の馬速でも馬に大した負担は掛からず、他の馬車をすいすい追い越して行く。

 陽が昇ると走りだし、日暮れにキャンプハウス出し馬をシャーラのマジックポーチに納めていた厩に入れてお休みだか、ら走行距離が伸びる。

 

 ヒャルは冒険者の格好なので、通過する街の領主に対する挨拶をスルーしてニンマリしている。

 通過する街の門では、侯爵家御用の紋所と侯爵様発行の通行証・身分証が有るのでスルーパス

 ヘリセンに到着するとそのまま王城に直行し、ヒャルが宰相閣下に面談の申し込みをする。

 俺とシャーラは、馬車共々従者の待合室へ行き待機だ。

 

 王城に似つかわしくない二輪馬車に、子供二人がやって来たので周囲は不審者を見る目付きになる。

 俺は冒険者の格好だし、シャーラは作務衣紛いの服装で、胸にフィエーン・ハマワール子爵の縁の者を示す文様入りだ。

 馴れぬ場所に小さくなっている。

 

 「嬢ちゃん、誰のお供だね」

 

 慣れぬ場所で見栄えのよい服装の騎士から、いきなり話し掛けられへどもどしているシャーラ。

 

 「ヒャルダ・ハマワール子爵様のお供ですよ」

 

 「お前には聞いていない、冒険者風情が口を挟むな! そこの小娘に聞いているのだ、王城へ参上するのに事欠いて二輪馬車で来るか。成り上がりの田舎子爵は、礼儀も知らないらしいな」

 

 「そこまでにしな、お前が好き勝手を言うのは勝手だが、お前の主人が恥を掻くぞ」

 

 「ガキの冒険者風情が、一端の口を利くじゃねえか」

 

 又面倒な男だねぇ、主人の躾が為ってないな。

 

 「そこまで言うのなら、お前の主人の名前を聞いておこうか。俺も雇われとはいえ、子爵様の護衛で此処に来ているからな〔田舎子爵は礼儀も知らないらしい〕と侮辱されて笑って済ます訳にもいかなく為った」

 

 「何を騒いでいる! ん、お前は初めて見る顔だな何を騒いでいた」

 

 「ヒャルダ・ハマワール子爵様の護衛で、エグドラから王城に直行したのだが彼はそれが気に入らないらしい。済まないが彼の主人の名を聞きたい」

 

 「それを聞いてどうするのだ?」

 

 「雇われて護衛をしているとはいえ、子爵様を侮辱されて笑って済ませる訳にもいかなくなった。シャルダ・ハマワール侯爵閣下の名代として、急ぎエグドラより王家に献上する品を運んで来た子爵様を侮辱されたのだ。ヒャルダ・ハマワール子爵様を田舎子爵と侮辱する男を見逃せば、侯爵閣下の顔に泥を塗る男を見逃したと俺の信用も落ちる」

 

 意気がっていた男が、シャルダ・ハマワール侯爵と聞いて顔色を変えているが遅すぎる。

 止めろと言った時に黙ればそれで済んだのだが、彼はそれを鼻で笑った。

 

 咎めに来た兵士も下っ端の揉め事とはいえ、事が貴族の沽券に関わる事になっていては迂闊に口を挟めない。

 

 「お前は他家の当主を、万座の中で侮辱して素知らぬ顔で済ますつもりか」

 

 周囲も事が大きくなった為に静まり返っている。

 異様な雰囲気を察して兵士の上役がやって来たので、天下御免のお札を上役にチラ見せする。

 〈パシーン〉と踵を打ち鳴らし、直立不動の姿勢で敬礼したよ。

 威力有り過ぎだよこのカード。

 

 「済まないが、彼の主人の名を聞きたい」

 

 「はっ、確かエルーナ・カロサグ伯爵様と思います」

 

 「申し訳有りません!!!」

 

 いきなり土下座紛いに座り込んで謝罪してきた。

 

 「万座の中で他家の主人を侮辱し、事が大きくなってからお前に謝罪されても意味が無い。子供のやった事は親が、使用人のやった事は主人が謝罪しなければ事は収まらないんだよ。カロサグ伯爵が下がる時に此処へ呼んでくれ」

 

 「はっ!」

 

 子供の冒険者が伯爵を呼び付ける異常さに周囲が凍りつくが、兵士の上役は当たり前の様に返答している。

 

 やがてエルーナ・カロサグ伯爵が待ち受けていた上役に呼び止められ、王家の紋章入り身分証を持つ俺が呼んでいると告げられて、不審気な顔で現れた。

 

 「カイト様、私に何かご用でしょうか」

 

 「様は不要です、カロサグ伯爵様。お呼び立てして申し訳有りません。護衛の方の申し様が余りに酷く・・・」と事の一部始終を伝えた。


 先般のヘラルス殿下に対する不敬云々の騒動で、大量の貴族が処分されて間もない時に、部下の言動が余りに酷くては主人も処分されかねない。

 王家から咎めを受けなくても、侯爵家を敵に回す事になるのは避けられない。

 

 「何卒穏便に、事をおさめる事は出来ないでしょうか」

 

 「私もそう思って田舎子爵云々の発言に、そこで止める様に言いましたが彼はそれを鼻で笑いました。私は一介の冒険者に過ぎませんが、子爵様に護衛として雇われてこの場に居ます。無かった事にする訳にも、私の一存で事を収める事も出来ません。ヒャルダ・ハマワール子爵様が下がる時に、伯爵様から正式に謝罪を頂ければそれで収まると思います」

 

 「判りました、お取り次ぎ願えますか」

 

 「承知致しました」

 

 ヒャルが王城から下がる時に詳しく説明し、カロサグ伯爵の謝罪を、受け入れて事を収めた。


 然しきっちり釘は刺す事は忘れない。

 「御当家の家臣の方の言動を聞きますに、領地や館で他家のあれこれを揶揄する風潮が有るのではないでしょうか。御当主として、気をつけていなければ危険ですよ」と伝える。

 カロサグ伯爵は冷や汗を垂らしながら頷くしかなかった、お前達の日頃の言動は知っていると言われたも同然だから。

 陛下に知られて隠居や降格となれば、満天下に恥を晒す事になる。

 

 「イヤー、何であんなに面倒な事になると分かっていて、万座の中で他人を侮辱するのかね。自分の言動が、主人を窮地に陥れるとわ思わないのかな」

 

 「カロサグ家では、日頃からハマワール家は田舎貴族と馬鹿にしているので、部下の言動もそうなるのさ。さっき伯爵にそう告げたら、顔色がなかったからな」

 

 「最もこの実用一点張りの馬車を見れば、馬鹿にしたくなるのは解るけど普通は口に出さないよね」

 

 ヒャルが苦笑いをしている。

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