第41話 お約束

 フィの所に二日泊まり、フィから侯爵様宛の書簡を預かりエグドラに帰る事にした。

 帰りは馬の能力全てを使い、何日で帰れるか試す。

 最も、馬は時々休ませて水を与え飼料を食べさせてと世話が必要、自動車と違って面倒なことこの上ない。

 王都に向かった時にはシャーラと交代で御者席に座ったが、帰りはシャーラ一人で全てやることにした。

 

 途中雨に降られたりファングボアやゴブリンの群れと出会ったが、ファングボアはヒャルが一撃で倒し、ゴブリンはシャーラが馬車を群れに突っ込ませて蹴散らした。

 エグドラには7日で着いた、侯爵様の馬車の3分の1である。

 その分呑気にお喋りに興じたり景色を愛でる暇は無し、ひたすら前進有るのみとなる。

 

 ヒャルを侯爵邸で降ろし、俺達はホテルに戻ると馬の世話を頼み、馬車はシャーラのマジックポーチに仕舞って終わり。

 無理して7日で走るより、気楽に8日半で着くのならその方が気楽で良い。

 

 * * * * * * * *

 

 春も終わり、暑くなってきた6月の終わりに侯爵様からの依頼を受ける。

 懇意の貴族に孫が出来たので、祝いの品を届けて欲しいとの事だ。

 それと、アーマーバッファローの肉を持っているのなら、一塊を祝いの品と共に渡して欲しいと頼まれて了解する。


 片道30日の距離って事は、俺の馬車なら半分の日数で行けるって事だ。

 今回はもう一頭借りて二頭立てで行くことにしたが、シャーラは馬の扱いもすっかり慣れたものである。

 カンザー地方ナルハマ子爵の治める、ケールの街迄の道中は比較的平穏であった。

 

 比較的とは途中の街で、子供の操作する二輪馬車が貴族専用の通路に侵入した為、衛兵に怒鳴り付けられた。

 侯爵家御用の紋と天下無敵の身分証を示し、即座の謝罪と通行許可を貰い無事通過。

 出会う野獣もゴブリンの集団や、オーク,ブラックウルフ程度でホイホイ進む。

 オークは3頭だったが俺が2頭倒し、残り1頭をシャーラが腕試しに闘うと言ったので遣らせてみた。

 気負う風も無く向かい合い、難なく倒して森の一族の能力の高さを改めて知る。

 一度ハイオーク二頭に出くわしたが、ストーンランスで仕留めてマジックポーチに入れて先を急ぐ。

 

 旅の途中で18才に成ったが、何の感慨もなく身長も変わらず。

 ただ一つ、シャーラと目線が同じになってしまった悲しい出来事が、18才の誕生日の記憶となった。

 シャーラも成人したら、俺や母親に倣って冒険者になると言ってる。

 

 14日で無事ケールの街に到着し、衛兵にナルハマ子爵邸の場所を聞き直行。

 俺は貴族じゃないし、冒険者の格好だから先触れは必要ない。

 ナルハマ子爵邸通用門で、門衛にハマワール侯爵様から御当主ナルハマ子爵様への祝いの品を持って来たと伝える。

 

 通された控室で、執事にハマワール侯爵様の親書を渡し、祝いの品を預かっていると告げる。

 厨房から持って来て貰ったワゴンに、アーマーバッファローのお肉を一塊取り出す。

 

 「以上が、ハマワール侯爵様よりお預かりした物です。ご確認を」

 

 「暫し待て」

 

 執事が親書を持って奥に消える。

 

 執事が戻ってきてドアを支え、見るからに貴族って服装の美丈夫がやって来ると祝いの品とお肉を一瞥。


 「使いご苦労だった、確かに受け取った」

 

 「では失礼します」


 * * * * * * * *

 

 用事はすんだ、2~3日街を見物して帰るとするか。

 シャーラを連れてケールの街の冒険者ギルドに行き、オークとハイオークの買い取りを依頼する。

 

 「あーんオーク3頭にハイオーク2頭だと、小僧からかってんじゃないよな」

 

 面倒だけど、シルバー2級のカードを出して見せる。

 

 「何なら此処で出そうか」

 

 「判った、奥へ行くぞ」

 

 知らない街だと面倒だ、エグドラの街や王都なら黙って受けて貰えるのに。

 食堂で不味いエールを呑む気にもならず、シャーラと二人ミルクを頼む。

 夕暮れには少し早いが、一杯呑んで談笑している冒険者がちらほら見受けられる。

 

 不精髭のむさい野郎が5人、俺とシャーラを見下ろして下卑た笑いを浮かべている。

 何処にでも居るよな、この手の輩は。

 

 「おい! 此処は俺達の場所だ余所へ行け!」

 

 「シャーラ、席を替えるぞ」

 

 立ち上がると図に乗った男が立ち塞がり、俺達の席を占領しておいて挨拶も無しかと絡んでくる。

 

 「ケールの冒険者ギルドの食堂は、予約が必要な指定席なのか」

 

 「ほぅ洒落た事を抜かす小僧だな、エールの一杯も奢れば仲良くしてやろうと思っていたが」

 

 「はぁ~ん、子供だと思い絡んできて仲良くだと、集りの癖に寝言を抜かすな!」

 

 5人の雰囲気が変わったね。

 

 「お前達又やってるのか、いい加減にしないと痛いめを見るぞ」

 

 「爺は引っ込んでろ! 小僧大口を叩くなら逸れなりの覚悟は有るんだろうな。訓練場で方をつけようぜ」

 

 「いいぜ、この子は登録前の子供だから俺一人な」

 

 「舐めきってるな、良かろう叩きのめしてやるよ」

 

 訓練場に行くと食堂で呑んでいた奴等がエール片手にオッズを決めている。

 ギルドのサブマスが面倒そうに出てきて殺すなよ、と一言言って始まった。

 奴等の持っているのはロングソードより少し長めの太い棒だ、俺は短槍並の長さの太い棒にした。

 

 5人並んでニヤニヤ笑いながら近付いてくる。

 口でぶつぶつと念仏を唱え詠唱している風を装うと、魔法攻撃だと思って走り出した。

 挨拶がわりに、柔かバレットを顔面に撃ち込んで動きを止め、5人の足下に穴を開けて落ちたところを見計らって軽く埋める。

 

 慌てて抜けだそう藻掻いている奴等に近づき、棒を振りかぶり顔面目掛けて渾身の一撃をかます。

 〈ゴン〉〈ギャー〉〈卑怯だぞ〉〈ヤメッ〉色々と聞こえてくるが無視。

 疲れるので一人2発づつ殴ってから、ストーンバレット200キロコースをお見舞いする。

 膝まで埋まっているので避けられないし倒れられない、良い標的です事。

 一人5~6発撃ち込むと手を合わせて謝ってくるが、こんな奴等に情けは無用なので更に顔面目掛けて撃ち込む。

 

 「おい! そろそろ止めろ、殺す気か」

 

 「んじゃ勘弁してやるか」

 

 「お前も大概だな」

 

 「えっ、大人しそうな奴に絡んで食い物にしよって奴を放置しておいて、それは無いだろ。自分より強い奴はゴロゴロ居るって、身体に教えてやらなきゃあんな奴等は判らないんだから。ギルドはポーションを売り付けて儲かるんだから、文句はないっしょ」

 

 「あの怪我では、ギルドの安いポーションでは治らないな」

 

 サブマス、全然気にしてないなぁ。

 

 「終わったか兄ちゃん、ハイオーク2頭オーク3頭全て売るって事で良いな」

 

 買い取りのおっちゃんも、全然気にしていないので笑っちゃったよ。

 頷いて了承しハイオーク22万ダーラ×2で44万ダーラ、オーク6万ダーラ×3の18万ダーラの計62万ダーラだ。

 金貨6枚銀貨2枚を受け取ってギルドを後にする。


 * * * * * * * *

 

 カイト達が出て行った後で、ボロボロになった5人が引きずられてきて呻いていた。

 買い取りのおっちゃんが「だから止めとけ痛い目をみるぞ」って言ったのにと言えば、サブマスが「日頃の報いだ、怪我が治ったら今度は相手を見て絡めよ」と冷たい一言を投げかけてギルドから放り出した。


 * * * * * * * *

 

 知らない街に来たら市場を覗き、珍しい物や美味しいもの探すのが楽しみだ。

 シャーラと二人あれこれ味見して買い込んで行くが、どうもさっきからチラチラと俺達を見ている奴がいる。

 

 「カイト様、気づいてる?」

 

 「ああ、さっきの屑連中の仲間らしいな」

 

 「今度はあたしも闘うよ」

 

 「此処では襲って来ないだろう、街の外に出る迄は待ってくれるさ」

 

 「そぉ、でも街の外ならますますカイト様に勝てないと思うけどなぁ」

 

 「御期待に応えて街を出るか」

 

 「判った、馬車を曳いてくる」

 

 馬車屋に預けた馬に馬車を繋いでいると、慌てて散って行く奴がチラホラいる。

 素知らぬ顔で、シャーラとのんびりと話ながら街から出るために門に向かう。

 お~お、街の外へむさい奴等がゾロゾロ出ていくが、たったの9人か。

 街を出るとエグドラに向かう一本道しかない、反対の門から他の街に向かう気は無いので、俺達を待ち伏せするには良い立地になってる。

 

 「シャーラゆっくり行け、奴等の都合の良いところは俺達にとっても都合の良い所だからな」

 

 街も見えなくなり往来に人影も無し、奴等にとって絶好のシチュエーションで笑いそうになるが、馬車を草原に乗り入れさせる。

 阿呆共が慌てて追って来る。

 シャーラは馬車を街道から外れた見えない場所に止めると、さっと姿を隠した。

 

 息を切らして追いかけて来たが、汗だくだよ。

 ゼイゼイ言いながら取り囲んで来るが、シャーラが居ないのに気付かない。

 一斉にロングソードを抜き、悠然と近付いてくる。

 

 「この辺に獲物はいない様だけど、もしかして俺に用事かな」

 

 「なるほど舐めたガキだな」

 

 「汗だくのオッサンを舐める趣味は無いよ。つゆだくは好きだけど汗だくは嫌いだ」

 

 「何を訳の判らん事をほざいている。仲間の怪我の治療費を貰いに来た、ハイオークとオークを売って稼いだだろう。マジックポーチごと寄越せ」

 

 「何とまぁ、欲の深い奴だな。それより、何故わざわざお前達の都合の良い場所へ来たと思わないんだ」

 

 「おい! そいつを押さえていろ」

 

 意気がる阿呆の腹にストーンアローを一発撃ち込むと、奴等の気配が一気に変わった。

 俺を囲んでいた奴等が一斉に駆け寄って来るが〈ウワーッ〉〈何だ?〉〈糞ッ誰か居るぞ〉シャーラに後ろから斬り付けられて慌てているが、俺を忘れてるぞ!

 残りの奴等にストーンアローを撃ち込んで簡単に終わる。

 

 倒れて居る奴等を埋めていくと、息の有る奴が何をしているのか気付いて命乞いをしてくるが、俺を殺す気で襲って来た奴に掛ける情けは無い。

 安らかにお眠り下さいってね。

 証拠を隠滅したら長居は無用だ、馬車を街道に戻してさようなら。

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