第42話 実りの季節

 エグドラに帰ると侯爵様に報告を済ませ、報酬の金貨20枚を貰ったら久しくやってなかった魔力量測定に出向く。

 ひたすら魔力を消費して眠るだけの生活だから、シャーラは侯爵様の所でメイドの修業と思ったが、付いていくと言って聞かない。

 仕方がないので、魔法を授かった時の為にと思い、魔力消費と魔力量測定の方法を教えるために連れて行く事にした。

 

 転移魔法400メートル×27回、200メートル×52回、50メートル×208回(推定)

 ストーンランス40メートル140発、ストーンアロー200発(推定)

 ショットガン中130発ショットガン小160発推定、段々数えるのが嫌になったので、以後は400メートルの転移魔法とストーンランスだけを、魔力量の減り具合で推定する事にした。

 もう測定は年に一度くらいで良かろうと思う。

 別に戦闘を主体にする訳では無いし、逃げるのが俺の冒険者スタイルなのは変わりない。

 

 試しにストーンジャベリンを撃ってみたら、35発で魔力切れになった。

 ストーンジャベリンは、ストーンランス4発分の魔力を使っている計算になる。

 威力は絶大だが、威力が有りすぎて使っていて怖かった。

 ストーンジャベリンなんて、攻城戦でもなけりゃ必要なさそうだからお蔵入りだな。

 あれこれ考えながら試していたら10日以上居たので、一度街に帰ることにする。

 

 真夏の太陽の暑さも服に体温調整のための、外気温調整機能を魔法付与しているフードを被れば、さして疲れもしない。

 シャーラも同じ機能付きの服なので、フードを被ってご機嫌である。

 森の一族である猫人族にとって、直射日光に晒されて暑いのは苦手らしかった。


 * * * * * * * *

 

 街に帰って来た最大の理由である、美味しいエールを仕入れるために以前買った店に行き、エール10樽を仕入れて大満足。

 エール以外に旨い酒も仕入れたので、やっぱり美味いつまみが欲しいのは人情だ。

 市場を徘徊して、シャーラと二人で味見大会となった。

 シャーラには飲ませませんよ、大事な酒ですから。

 

 薬草採取に行くとシャーラがウズウズしている。

 訳を聞くとこれから森は実りの時を迎え、様々な果実が収穫出来るんだと懐かしそうに言う。

 村を追われて冒険者になった母親と、二人して森を彷徨っていた頃を思いだしているのだろ。

 シャーラの気配察知能力なら、森を歩いていても野獣の不意打ちに合う事も無いかも知れない。

 

 「シャーラ、森で野獣の不意打ちに合わない自信は有るか」


 「カイト様、森に行ってもいいのですか。絶対とは言いませんが、先に見つけて避けられます。ただ蛇は気配が薄いので自信が有りません」

 

 「蛇か、蛇っていきなり噛み付いたりしないよな」

 

 「最初は巻き付いてきます。絞め殺してから食べるのがスネイクの性質です」

 

 「少し近場の森で練習してみるか。シャーラ案内してくれるか」

 

 「はい、任せて下さい」

 

 一度街に戻ると馬を返し、馬車はシャーラのマジックポーチに入れて森へ行く事にした。

 ホテルで一泊し、下草を払ったり枝を避ける為の短槍を買って森に向かった。

 シャーラには、ゴブリンにも会わない様に案内を頼む。

 俺は薬草採取が基本だし、森に入るのは果物が欲しいからなので討伐は遣りたくない。

 

 今は金が有るので、稼ぐのが目的では無くなっている。

 シャーラが独り立ちする時の為にも、勘を鈍らせない様にしておく必要がある。

 俺もシャーラが居れば気配察知を磨く良い機会なので、慣れたら俺が前を歩いてみようと思っている。

 

 森に入ってから5日間、野獣に出会わない訳では無いが、避けられない時は自分の気配を消してやり過ごす。

 俺はその間砦を造って中から見ているだけだ、シャーラ曰く気配は消せるが臭いは消せないので、風上にはならない様に気をつけているそうだ。

 5日目からは俺が前を歩き、獣の接近を見逃せばシャーラに教えられて気配察知の訓練をする。

 

 時期が少し早いので収穫は無理だが、色々な果実の成る木を教えて貰った。

 森の一族と呼ばれるだけ在って、母親と森を彷徨っていたので様々な知識を受け継いでいて感心する。

 

 10日を過ぎたので一度街に戻り、果実の収穫に必要な籠や袋ロープ等を買いに行くことにした。

 シャーラが、マジックポーチが有れば生物が半年で腐るのなら、果物だともう少し長持ちするので沢山取って、フィエーン様にも食べさせたいって言っていたから。

 果物を収穫しても一纏めにしておかなければ、マジックポーチの中で迷子になって腐らせる事になる。

 ホテルに戻ると、ヒャルから連絡して欲しいと言付けが有ったと伝えられたので、侯爵様の館に出向く。

 

 「ヒャル、何か用事かな」

 

 「少し早いけど12月に王都に行くので、又護衛を頼みたいと思ってね。シャーラも連れて来て良いから頼むよ」

 

 「判りました、12月の始めに出発出来る様にします」

 

 「何処かに行くのかい?」

 

 「シャーラの案内で、森の奥へ果実を探しに行こうと思って、準備の為に帰って来た所なんだ。11月の終わり頃には帰って来るよ」

 

 「森の奥か、貴重な果実が多いので沢山収穫出来たら少し分けて貰えるかな」

 

 「収穫出来たらね」

 

 そう言ってシャーラと森の奥に向かった。

 

 * * * * * * * *

 

 シャーラの先導で森の奥に向かったが、森の奥の獣って街の近くで見る野獣とは一回りも二回りも大きくて迫力満点。

 然も、巨体に似合わず静かに接近して来るので厄介だが、シャーラは手の振りと指の動きでそれを教えてくれる。

 静かに森の奥へ奥へと向かって歩き、時にはシャーラが籠を背負って巨木に駆け上がる。

 文字通り軽く助走をつけて駆けより、幹を蹴り瘤や樹皮の割れ目に手足を掛け易々と登る。

 

 その下で俺は砦の中から、巨木の枝先を渡り果実を採取するシャーラを見ているだけだ。

 巨木の直径だけで軽く5~6メートル、樹高に至っては推定40~50メートルは有ると思われる木に、俺は登れる気がしない。

 その高い木の枝先に小さく見えるシャーラが、ひょいひょいと果実を収穫して籠に入れてはマジックポーチに仕舞い、新たな籠を取出しては収穫を続ける。

 

 降りて来たシャーラから籠を受け取り、収穫した実を手に取ってみる。

 ウールサの実は、梨肌にオレンジ色で林檎のフジより少し大きく、一籠に20個が精々だが4籠も有る。

 シャーラは収穫しながら周囲の木の実を探し、大きな房に実る実を見つけたと興奮している。

 房の実と呼ばれる果実は、食べ頃を収穫して一週間もすれば房から実が落ち腐ってしまうのだが、森の一族の大好物だと言った。

 人族の街や集落には持って行けないので、自分達で食べるだけだが、カイト様なら収納に入れてフィ様の所に持って行けるねと嬉しそうだ。

 

 房の実は蔓の先に実るので、シャーラが猿の如くすいすいと蔓から蔓へと渡り籠に入れる。

 それを痛まない様に、籠のまま俺の収納に仕舞う。

 味見をしたが、濃厚な甘味と言うより蜜と言った方が良いような旨さは、絶品の一言。

 結局10籠を収穫して諦めたのは、他にも収穫する果実が見つかった時の為だ。

 俺の収納の限界は、マジックポーチで言えばクラス4と同じなので無理は利かない。

 

 1メートル角の物を64個収納出来るのだが、それを多いとみるか少ないとみるかは人の主観による。

 然し、俺は果実だけで一杯にする気は無い。

 金貨の袋と備蓄食料だけで、10分の1くらいは塞がっているだろうから。

 他に万が一身ぐるみ剥がされても大丈夫な様に、着替えから武器や石ころ迄保険として収納に入れている。

 石ころってと思うだろうが、土魔法は土や石が無ければ使えない、原料は自前で持ち歩いているって事だ。

 

 その夜はキャンプハウスの中で、収穫した房の実とウールサの実を堪能した。

 シャーラは母親と森を彷徨っていた時には、ハンモックを吊して寝ていたそうだ。

 キャンプハウスで寝る様になって安心だと喜んでいる。

 高い木の枝先にハンモックを吊して寝ていても、油断は出来ないので熟睡は出来ないと話してくれた。

 特にグルーサモンキーの群れの身軽さは、モンキー類でも特に優れていて樹上でも地上でも厄介だそうだ。


 * * * * * * * *

 

 濃い紫色のパープル〔安直極まりない〕は、巨峰の一粒を大きくした様な果実だ。

 垂直に伸びる茎の先端に、一粒だけパイナップル大の実がついている。

 紫色に色づく迄は不味くて食べられないそうなので、沢山有るがそれ等は無視。

 パープルを30個ほど収穫して収納に入れる。

 さくらんぼに似たクルップ、大粒のさくらんぼの様な実が4~5本の茎の先にそれぞれ実がついている。

 プルサは、瓜に似た果実がアケビの様な蔓に大量に実っていたが、猿に食われて無残な姿になっていて諦める。

 ホグの実は団栗に似た拳大の木の実で、焼くと味も栗そっくりでほくほくして甘い。

 保存が効くので、マジックポーチに1日掛かりで収穫した。

 

 そろそろ果実の採取をしながらエグドラの街に向かおうとしたが、〈水の臭いがする〉シャーラがボソッと呟く。

 水? 小川や池には度々出くわしたが、シャーラはそんな事を言った事が無い。

 近いと言うので、方角を聞いて行って見ることにした。

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