第90話 一難去って
侯爵邸を辞去する前に、天上の酒と名付けられた大振りの容器を2本、侯爵様に差し出した。
「お代官様の、お手を煩わせたお詫びの品です」
しれっと告げて、同時にアーマーバッファローとホーンボアのお肉を各3つばかり差し出す。
「何時の間に、アーマーバッファローを・・・」
「王都に着いてから、少し魔法の練習に外に出ていたのです。シャーラが大物の直ぐ側に転移して、頭にストーンランスを撃ち込む遊びをしていまして、気がついたらですよ。フィの所にも1個置いていきますが、後15個有りますので無くなったら言って下さい」
厨房に行き、アーマーバッファローとホーンボアのお肉を各3個置いていく。
フィの所に寄り、此処にもアーマーバッファローとホーンボアのお肉を各1個渡す。
* * * * * * *
天上の酒騒動も収まりのんびりしていると、ハマワール侯爵様から呼び出しがあった。
侯爵邸を訪れると、執務室に案内された。
ん・・・このパターンはとの不吉な予感は、見事に的中する。
ソファーに座る俺とシャーラの前に、金貨の袋が置かれる。
また王家の紋章入りで、2,000枚入りのマジックポーチの奴が2つ。
ソファーからずり落ちそうなシャーラ。
「又ですか侯爵様。俺達にとってもこれだけの価値が有るとは、思えないのですが」
「まぁ、カイトやシャーラにとってはそうだろうな。だがこれでも王家の返礼の半分だぞ。王家は献上品に対し、礼の一言で済ませば体面に関わる。どうでもよい物ならそれもよいが、貴重な物珍奇な物にはそれなりの返礼をする。これでも陛下から賜った半分だ、全部欲しいか?」
「いりません! これから森に行ってもお土産は無しですね。それか侯爵様達が消費する分だけにします。献上品はアガベ達から仕入れて下さい」
「まぁ本題はこれでは無いのだ、取り合えずそれは受け取ってくれ」
一つを脱力しているシャーラに持たせ、もう一つを収納に仕舞う。
「実はエグドラの冒険者ギルドから早馬が来たのだ。アガベ達はセーレン王国エラードの冒険者ギルドに属する者だ、と抗議がきているとな」
「またおかしないちゃもんですね。アガベ達からピンハネ出来なくなって、血迷ったのかな」
「問題はその後だ、エグドラに流れの冒険者達が増えている」
「エラードから?」
「多分な。普通に活動していて問題を起こす訳では無いが、彼等は腕に比べてランクが低すぎる。それと何かを探っているふしがある」
「まぁ勘繰れば、アガベ達から買い叩いた物を領主に高く売り付け、領主は国王に献上して覚えめでたく・・・って所かな。それを邪魔した奴を」
「その恐れが十分に有るし、アガベ達へ直接な行動に出るかも知れない」
「そいつは不味いですね。何も知らないアガベ達が、エグドラの街に近付いた所に奇襲をかけられたら」
「それはお前達にも言える事だ、先の騒動もシャーラが森の一族だというそれだけであの騒ぎだ。エグドラの冒険者ギルドで森の一族の事を探れば、お前達の事は直ぐに気付く。こんな事は言いたく無いが、お前が持ち込んだ森の恵と森の雫は王家献上分と合わせると、先のオークション価格から計算すると軽く金貨20,000枚を越える。まぁオークションの半値でも金貨10,000枚だ、血迷う奴に事欠かないだろう」
「セーレン王国が関わっているって事は?」
「強欲と名高い王家だからな、無いとは言い切れんが・・・」
「が、の後は何ですか」
「攻め込んで来るほど強くも無いが、その分裏で動く様だな」
「早急にアガベ達に、知らせる必要があるじゃないですか。森の一族と謂えども、対人戦での奇襲攻撃となれば分が悪すぎます」
「シャーラ、カイトを頼むぞ」
「はい、お任せ下さい」
げんなりしてきた。
* * * * * * *
2輪馬車を2頭立てにして、直ぐにエグドラに向かった。
グリンが上空から見張っていてくれるし、シャーラの生体レーダーのお陰で野獣は近寄る前に撃退する。
馬を追い立てる訳にもいかず、ジリジリとした7日間を過ごして俺の家に到着した。
身を隠して帰ってもよいが、俺達も標的になっているのか確かめる意味もあった。
エグドラの街に入る手前から嫌な視線を感じるので、多分数名で街の出入りを監視しているのだろう。
人の出入りを監視しているとなると、相当組織だっていて人数もそれなりに居るのだろう。
天上の酒が噂になり、森の一族がエグドラの冒険者ギルドに持ち込んだと噂になってから動いたとしても、この手の仕事に慣れているって事か。
それとも以前から潜入させていたのか、ナバルって情報収集と破壊工作の先例もある。
家に帰り馬車を預けると、その足で冒険者ギルドに向かう。
「ヤーハンさん久しぶり。ギルマスに会えるかな」
「おう、元気かちょっと待ってろ」
「シャーラ、何人居ると思う。俺が感じるのは2人だけの様だけど」
「私も2人だと思います」
「カイト上に行ってくれ。待ってると」
粘りつく様な視線を背中に感じながら、カウンターを通って中に入り階段を上がる。
ノックをすると「入れ!」と野太い声がする。
「早いな」
「まぁ話の内容が内容ですからね。で、どうですか」
「腕の立つ奴等なのは間違いない。持ってくる獲物はそんじょそこらの冒険者の比じゃない、綺麗に倒しているぞ」
「魔法使いは」
「居るだろうが、目立つ様な事はしていないな」
「アガベ達だけですか?」
「いんや、俺や侯爵殿にお前達もだろうな。手引きをしている奴が居る。そいつは以前から細々とやっていたが、生活には困ってなかったからな。裏が有るとは思っていたが、エラードの回し者だった様だ。しかし、森の一族がギルドをかえただけで、大袈裟過ぎないか」
王都での天上の酒騒動の顛末を話し、金貨5,000枚~10,000枚の稼ぎが消えたとお思えば、血眼になるだろうと伝えた。
「実際には精々、金貨2,000枚~3,000枚くらいの稼ぎでしょうけど」
「それでも大金だぞ」
「で、総数でどれくらいいます」
「街に入っているのが7~8人かな。森に潜んでいる奴等は判らないがそれなりの人数は居る様だ」
「どうして判ったんです」
「お前も冒険者だろう、森の中の足跡だよ、それが一カ所に長く居着いているので道が出来ている。他の冒険者達が気味悪がって近づか無いが、噂になっているのさ」
「俺達はちょっと森に行って来ます。アガベ達に知らせておかないとね」
「おいおい、話しを聞いてないのかよ」
* * * * * * *
お供を引きつれて早朝に門を出るが、何時もの様に貴族専用通路を歩いて通り抜ける。
お供達は慌てているが列に並ぶしかない。
森に向かうが慌てず騒がずのんびり歩き、上空ではグリンが見張っている。
遠くに必死で追って来る奴等を確認してから、森の中に入り手頃な木の枝にジャンプする。
シャーラは打ち合わせ通り、薬草を探している風を装う。
追いかけて来たのは6人、シャーラの姿を確認すると遠巻きに囲み包囲を縮めていく。
「誰?、何か用ですか」
シャーラに問われて姿を現すが、すでに剣を抜いている。
相手がその気なら、遠慮無くやらせてもらう事にした。
秘技遠隔魔法ポンとしてギュッ(ネーミングセンス ガ・・・)殺すのが目的じゃ無いので、取り敢えず身柄を確保だ。
全員穴の中に閉じ込めてから、シャーラの隣にジャンプして穴の中の彼等から話聞く事にする。
先ず一人目の方にご挨拶、ギルの時を教訓に、足を埋めて固定してから蓋を広げる。
「何故、後をつけて来たんだ」
「兄さん、これをやったのはお前か」
「聞いているのは俺なんだけど、何故後をつけてきた」
全員おとぼけで喋る気無し、シャーラの後をつけたりしていないって。
全員足を埋めたまま放置する事にした。
こんな所でのんびり尋問するより、アガベ達に一刻も早く伝える必要が有る。
生きていたら又会いましょうの挨拶をして、森の奥に向かう事にした。
手は動かせるし、生活魔法が使えれば何とかなるでしょう。
どうせ人事だもの、知ったこっちゃ無い。
森の奥15~20日程度の場所って広いけど、俺には会えると確信がある。
シャーラには、シルバーフィシュの湖に向かう様に指示した。
歩き続けて10日目からは、グリンにお願いして周辺を回りアガベ達を探してもらう。
集落の全員が移動していて、新たな集落を造るとなれば相当広範囲に気配が散っているはずだから。
グリンは小さきもの達も使ったようで、広範囲を飛んで森の一族の集団を見つけてくれた。
エグドラと湖の直線上から1日外れた場所だが、小高い丘の上に集落を建設中であった。
野獣を警戒していた者と出会い、アガベに会いに来たと伝えて無事に再会できた。
* * * * * * *
「すると何か、俺達がエラードの冒険者ギルドに断りもなく、他へ収穫物を売ったのが気に入らないと難癖をつけて来たのか」
「アガベがエラードの所属だからと、エグドラのギルマスに書面で伝えたそうだ。そんな寝言はどうでもよいが、問題は流れの冒険者がエグドラに多数来ていて、俺やギルマスにハマワール侯爵様の身辺を探っている事だ。勿論アガベ達の行方も探している。街の中だけでなく森にも潜んでいて、何かを企んでいるんだ。アガベ達が不用意にエグドラに近づいて、奇襲を受けたらと不味いと思って知らせに来たんだ」
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