第24話 ハイオーク

 粗方片付いた様なので負傷者を集め、ポーションを配っているが、冒険者達には初級ポーションと中級ポーションが数える程しか無かった。

 俺のポーションも提供するが結構怪我人がいる、重傷者には上級ポーションを飲ませるが重傷が治る訳では無い少し良くなるだけ。

 中級上級ポーションは怪我の程度の酷い者に飲ませたが、とてもポーションだけでは帰るのに難儀しそうだった。

 

 ヒャルダが皆を集める。

 

 「あーこれから見る事は森を出たら喋らないで欲しい。出来れば忘れて欲しいがそうもいかないだろうから、ペラペラ吹聴しないでくれ」

 

 そう皆に告げて、フィエーンに頷く。

 フィエーンが怪我人に近付き手を当て、小さな声で〈綺麗になーぉれっ〉っと呟いている。

 怪我人は〈ヘッ〉て不思議そうな顔をしていたが、フィエーンは怪我の状態を見て次の怪我人の所に行く。

 重傷者,中傷者18人を治したところで魔力切れになり、倒れてしまったので今夜はゴブリン集落で野営することになった。

 翌日はそれ程酷い怪我人はいないので、1時間程で治療を済ませて帰路に着いた。

 

 帰りは侯爵令嬢に対する態度から、聖女様か教祖様に対する様な態度に変わったのは見ていておかしかった。

 

 斥候,前衛に俺やヒャルダ,フィエーンと続き、周囲を冒険者や侯爵軍と冒険者の編成で帰っていたが、途中で気配が変わった。

 斥候は前方と左右を見ているが、後方は俺達がいて気配察知は無理だ。

 背中がゾワリとする感触に、慌ててヒャルダの袖を引いて止める。

 

 「ヒャルダ、少し後ろ左側に注意して」

 

 「左側斜め後ろに注意しろ! 何か来るぞ」

 

 ヒャルダの声に皆が抜剣し槍を構えると、一瞬の静寂の中に何かが近付いて来る音が聞こえる。

 森の中、疎らとはいえ木々の間で戦うのは不利だが、遣らねば死ぬだけだ。

 近付く音を包囲するように陣形を取る。

 

 ハイオークだ、それも次々と6頭もいる。

 ヒャルダが現場に向けて駆け出すとフィエーンがそれに続き、仕方が無いので俺も走る。

 乱戦になっている所へヒャルダがアイスランスを撃ち込む、確認もせずに次のハイオークに向けてアイスランスを撃つ。


 周囲を冒険者や軍の兵士が取り囲んでいるが、ハイオークの大きさが幸した。

 皆の頭越しに撃たれたアイスランスは、ハイオークの胸や肩に当たり動きを鈍らせる。

 そこに冒険者や兵士が槍や剣で突き掛かる。

 少し離れた所では、ファイアーランスがハイオークに撃ち込まれている。

 致命傷には程遠い手負いのハイオークに、冒険者や兵士が雄叫びをあげて斬り込み突き掛かる。

 

 対応が早かったので骨が折れた者5名と、後は軽傷者多数で怪我人が皆フィエーンの前に集まって来る。

 ポーションは使い切って無いので仕方が無いが、苦笑混じりで〈なーぉれっ〉って呟いている。


 倒したハイオークは、どれもアイスランスやファイアーランスの傷痕が複数有るが致命傷は無し。

 これほどの乱戦で味方が多数なら仕方が無い、バレットは使えないのでこんなものだろう。

 ヒャルダとフィエーンも、落ち着いてからハイオークを見て顔をしかめている。

 

 ハイオークって、話には聞いていたがでかい。

 4メートルを越える体躯にゴリラに似た体型で、焦げ茶色の剛毛に包まれている。

 腕なんて俺の胴体より太いかも、嫌だねーこんなのと戦う冒険者にはなりたくない。

 

 「皆落ち着いて良くやった。帰ったらハイオーク2頭の肉でパーティーだ、残りは全て冒険者達で山分けしてくれ」

 

 冒険者も兵士も〈ウオー食い放題だー〉〈太っ腹ー〉〈食うぞー〉とか好き勝手を叫んで喜んでいる。

 6頭のハイオークをヒャルダのマジックポーチに入れ、意気揚々の凱旋となった。


 * * * * * * * *

 

 ギルドの前で冒険者や兵士達を集め、焼肉パーティーの前にヒャルダが皆に告げる。

 

 「ギルドに有る酒は飲み干しても良いぞ、足らなければ幾らでも用意する。ご苦労だった」

 「ゴブリン討伐に参加した者は、討伐参加費とハイオークの金は酔いが醒めたら取りに来い。肉も酒も要らない奴は、直ぐに金を渡してやるので取りに来い」

 

 続いたギルマス声に皆爆笑して、焼き肉会場の訓練場に向かう。

 勿論誰一人、ギルマスの所へ金を受け取りに行く者はいなかった。

 

 俺、俺はホテルに帰って静かに夕食をと思ったが、何故かヒャルダとフィエーンがホテルに付いて来て、同じテーブルで食前酒を呑んでいる。

 隣のフィエーンの酒を取り上げて味見、ほぅ中々どうして美味い酒がこの世界にも有るんだなと感心した。

 

 「ヒャルダ氷を出してよ、これくらいのを一つ」

 

 指で輪を作り氷をリクエストし、グラスに受け味見した酒を注いで軽く振る。

 円やかな口当たりに氷の冷たさが加わり、いっそう呑みやすくなり口角があがる。

 それを見たヒャルダも真似て氷を入れ、一口含んでニンマリと笑っている。

 フィエーンに取り返されたので新たなグラスを貰い、ヒャルダに氷を入れて貰って三人でグラスを合わせ、改めて無事を祝う、。

 

 「カイト有り難う。特にハイオークの襲撃に気付かなかったら、酷い事になっていたと思う」

 

 「そうね、やっぱり護衛はカイトに限るわね」

 

 「でもフィエーンの治癒魔法が知れ渡ったね」

 

 「まぁ、冒険者達が吹聴しない事を期待するしか無いね。でも完璧に使えていたから、後は魔力を節約するためにイメージを強め魔力をそっと軽く流すと良いよ」

 

 「自分自身も治せるとは、思いもしなかったわ。やっぱりカイトね、陛下に知られたら聞かれなかったと惚けるわ」

 

 護衛料金貨20枚を置き、ほろ酔いで二人は帰って行った。

 良い酒を見つけたので支配人に仕入先を尋ね、5本程取り寄せて貰うことにした。

 16才、大人の階段に足を掛けるってのは良い事だ。

 

 ポーションが無くなったので薬師ギルドに出向き、初級ポーション10本,中級ポーション10本,上級ポーション5本を買って金貨20枚を支払う。

 商業ギルドに行くと、以前鼻で笑った受付カウンターのおっさんがドアボーイ?をしていて、俺の顔を見るなり目を逸らされた。

 今日は其なりの格好をしているので空いているカウンターに行き、上等な酒を扱っている店を紹介して貰った。

 

 俺が酒と言うと、チラリと服装を見て何も言わずに丁寧に教えてくれた。

 外見は大事だねー。

 

 中々立派な店構えで、上等な酒を各種2本づつ5種類を買って金貨26枚。

 程度の良いエールを数種類味見させて貰い、気に入ったエールの樽2つ買って銀貨6枚。

 満足してほろ酔いでホテルに帰り、パタンキューで朝になった。

 

 冒険者の衣服を身に纏いホテルを出る、嫌なゴブリン討伐の事を忘れ魔力量の測定をするつもりだ。

 嫌な気配は避けて通り、何時ものキャンプ地とは別の場所にキャンプハウスを取り出して休憩。

 何時もの様に的は作らず、ひたすら魔力を消費する為に遠隔魔法で穴を開けては埋める。

 魔力が尽きれば、そのままマットに倒れ込み寝る。

 

 魔力切れから回復し、目が覚める迄の時間は3時間程になっている。

 時たま空間収納を調べる為に球体を作り、入れてみるが3.8メートルになっている。

 3.8メートルの正方形の枠を作り収納する、3.9メートルでは無理。

 これが予想通り4メートルで一杯になったら、それ以上魔力量が増えるかどうかが気になる。

 転移魔法は400メートル跳べるしストーンランスも40メートル迄撃てる。

 空間収納が4メートルで限界になったらどうなるのか、興味が有る。

 

 日々魔力を振り絞っては倒れて眠る生活が20日過ぎた頃、空間収納が4メートルになった。

 直径4メートルと4メートルの正方形の枠、どちらも収納出来るがそれ以上の物は無理だった。

 ストーンランスを使い、現在の魔力量がどれ程なのか確かめる。

 40メートルの的に向かってストーンランスを撃ち込んでいく。

 ストーンランス49発で魔力切れ、魔力高40の魔力量の限界は何処に在るのか、これからが本当の調査になる。

 

 20日も同じ事の繰り返しで飽きたので、暫く薬草採取に励む。

 時にのんびりとお茶を飲み、雲の流れを見つめて前世に思いを馳せるが、本当に前世で日本と言う国に居たのかも確信が持てない。

 然しラノベなる本の知識が在るし、魔法の使い方もこの世界では知られていない事ばかりだ。

 考えても今の生活が変わる訳でもないので、考えるのを止めた。

 

 又10日間の魔力切れの日々を過ごす。

 土魔法って便利だよな、マットの上から40メートル先に穴を開けては埋める事ができ、魔力を消費するのに何の不都合もない。

 目覚めて食事を取りお茶飲み又穴を掘る、考えてみれば阿呆な事をしているな。

 完璧な食っちゃ寝食っちゃ寝の引き篭り生活だが、金は有るし食事は収納にたっぷりと保存していて何の不都合も無い。

 

 取り合えず魔法を極めますか。

 40メートルの的に向かってストーンランスを撃ち込んでいく、53発と魔力高の限界に達しても魔力量は増える事を確認した。

 もっと魔力量を増やせば、魔力切れで死ぬ危険もぐっと減るってもんだ。

 日々精進して、魔力量の限界を確かめるのも一興かな。

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